不思議な遺跡。竜を祀ったような祭壇に生まれた光の前に、オレたち4人は立った。
「なんだか、緊張するでげすよ、兄貴」
「うん。だいじょうぶだよ。痛いとかしびれるとかはないから」
いや、ヤンガスはそいういうことを心配してるんじゃねえだろう。
「そうよ、大臣のおうちの鏡の世界だって、なんともなかったじゃない」
おい、ゼシカまで。どんだけトボけてるんだ? だが、ヤンガスはプルプルと震えている。
「いや、なんだ、俺は『不思議な……』とか『謎の……』とか、苦手で……」
「わかってるわよ、ヤンガス。あたしが守ってあげるわよ、ゲルダさんの代わりに」
ふふん、とゼシカは笑ってグリンガムのムチをヒュンとやった。
「……じゃあ、行こうか」
祭壇の光に包まれ、オレたちは異世界に飛び込んだ。
「洞窟でがすね? 兄貴」
「うん。山なんだと思う」
「すげえ……」
なんだ、ここは……。
岩山の中に道が続いている。
そして今まで見たこともない魔物がうじゃうじゃと。これがまた強いこと強いこと。
オレたちは慎重に戦いながら先へ進んだ。
少し開けた所で休憩する。
「エイト、一人でよく来てたわね、こんな怖いところ」
「うん。すごく怖かったよ」
おい、他人事みたいに言ってんな。
「……ヤン、傷はどう?」
「っ……、すいやせん、ちょっと油断しやした」
倒せたとはいえ、魔物からの攻撃をまともにくらったヤンガスがうずくまっている。
「ゼシカのメラゾーマが効いたよね。危なかった」
「ええ、タイミング良かったわ……それよりエイト、ものすごく強くなってない?」
ゼシカの言う通り、エイトの力はハンパねえ。剣の腕前が格段に上がっている。
「ああ、剣ばっかり使ってるからだよ。ヤリやブーメランは使う機会なくなっちゃってね」
そうだとしても強すぎだろ。
「……俺たちもかなり強くなりそうでがすよ……」
ヤンガスがふらふらと立ち上がった。
「うん……防御体勢整えてから攻撃に転じたほうがいい。ククールはみんなにスクルトかけて、ゼシカはヤンと僕にバイキルトかけて。でも危ないと思ったら防御してね。ククールと二人で回復お願い」
「わかったわ。あたしの魔力より、エイトの剣の技のほうが効くみたいだものね。ムチじゃなくて杖のほうがいいわね」
ゼシカはグリンガムのムチをしまい、代わりに杖を取り出した。
ゼシカの言う通り、エイトは本当に強くなってる。背中がたくましく見える。
オレは……。
「ちょっと、待って……あたし……」
山道の途中、ゼシカの呼吸が荒くなって、歩く速度が落ちてきた。
少しの休憩後、再び出発したオレたちだったが、この山に住んでいる魔物も強いし、おまけに道がどんどん険しくなっている。
オレはゼシカを支えて歩いていたが、先頭のエイトと随分離れてしまった。声が届くギリギリだ。この状態で攻撃されたらオレとゼシカは確実にアウトだ。オレはエイトに聞こえるように大声を出す。
「おい、リーダー! レディにはキツい山道だ。ちょっと休憩取れよ」
「え? ごめんごめん!」
エイトはあわてて走って来る。
「ちっとはゼシカのこと考えろよ」
「ごめん……」
近くに小さな草地を見つけ、ゼシカを真ん中にして二度目の休憩を取った。
「お水だよ……。ごめんね、ゼシカ」
「うん、大丈夫よ、ありがとう。あたしこの1ヶ月間、村の中の忙しさにかまけて全然武器もってなかったの。体力も少し落ちてるかも。ごめんなさい、足手まといになって……」
「足手まといはオレかもな。オレもヘトヘトだ」
「いや、ククールは嬢ちゃん支えて歩いてるし、戦いの最中だってみんなの体力に気を使ってるから疲れるだろうよ」
はは、珍しくヤンガスにかばわれてるぜ、オレ。
「ねえエイト、エイトは一人でどこまで来たの? この場所は知ってた?」
「まさか。分かれ道も多いし、魔物も強いじゃない。入り口からいくらも進めないうちに、瀕死になって……いちいち教会に行かなきゃならなかったんだよ。だから、今日はすごいんだ、こんなに進めて。……僕のわがままに付き合ってくれてごめんね。……なんかおなかすいちゃった。ゼシカ、フィナンシェ食べていい?」
「ええ。たくさん持ってきたから、みんなで食べましょう」
休憩ついでに栄養を摂ることに。ゼシカがフィナンシェを配った。早速ヤンガスが食らいつく。
「美味い! さすが嬢ちゃんの母ちゃんだ」
「ゲルダさんだって上手になったでしょう?」
「あ? ああ……」
ヤンガスは手にしたフィナンシェを見つめたまま、ふうとため息をついた。
「……あいつ、なんというか、チャレンジャーというか……いろんなもの入れたがって……この前なんて腸詰めの切ったのが入ってて……」
「ええっ? それはちょっと……」
フィナンシェに腸詰めか……。オレも遠慮したいところだ。
「イモなんかまだいいが、塩豆とか、煮込んだ肉とか……」
「……」
手元のフィナンシェは普通でよかったぜ。クルミが香ばしい。
「ね、わかったわ。またあたしをゲルダさんのところへ連れてって」
「へっ?」
「ゲルダさんにもっといいもの教えるわ。ゲルダさん、料理上手なのよね?」
「あ、まあな。コッテリ料理だ」
「任せて」
そんな料理の話をしばらくしてるうちに、疲れもとれてきた。
さて出発しよう、と立ち上がった時だった。
「あっ……ここ……」
「ん?」
ゼシカが草むらの奥を指差す。
「墓……か」
忘れ去られたような小さな墓。墓石には『わが最愛の人エルトリオ ここに眠る』と刻まれていた。
「エルトリオ、っていう人がここで亡くなったのね……」
ゼシカがひざまづく。エイトとヤンガスも頭を下げる。
オレは弔いの詩編を紡いだ。
墓を後にし、再び先へ進む。
山の中の洞窟を抜けると、山肌に沿って道が続いている。空が高い。空気が澄んでいる。空気の濃度も薄いのだろう、呼吸が苦しい。脳に酸素が足りなくなると判断力が鈍る。なるべく魔物に会わないように注意してそっと歩き続ける。
エイトもヤンガスも苦しいのだろう、少し歩くのも遅くなっている。ゼシカにはちょうどいい。そのゼシカが足を止めた。
「どうした、ハニー?」
「あれ……何かしら」
ゼシカの指さす方を見ると、門がある。墓のあったところからそんなに離れていない。あの先に、何がある?
「せ、世界の果てでがすか? あの先はまさか……黄泉のくに?」
「やだ、ヤンガス……怖いこと言わないでよ……」
「しかし、こんなところにも別世界があるとすると、住んでる奴はフツーじゃなさそうだぞ」
「やだ、ククールまで変なこと言わないでよ」
「開かないなあ」
ヤンガスとゼシカが怖がるのも気にせず、なんとエイトは扉に手をかけていた。
「ちょっと待ってよ、ノックくらいしたら?」
おいおいゼシカ、トラペッタの門を叩いたことはないだろう?
しかし、トラペッタとは違い、扉は開かない。押しても引いてもだ。まさかねと言いながら、エイトは下から持ち上げてみようとしたが、それも駄目。リーザス塔方式でもないようだ。
「こいつぁ、実になんとも頑丈そうな門でがすなあ。黄泉の国でないとすると、一体この先に何があるってんだか……」
「開かねえんじゃしょうがなくねえか?」
「せっかく怖い思いしてここまできたのに……引き返す?」
この扉の奥は、人の入場を拒否しているように思える。遺跡の祭壇で感じたものの正体は、ここにあるんじゃねえだろうか。
オレは入ってはいけない気がしているが、エイトは行かなければいけない。拒否されても、エイトは行かなければならない。
そんな気持ちに押し潰されそうだ。ひどい緊張感。
「あっ、トーポ!」
突然、ネズミのトーポがエイトのポケットから飛び出し、扉に走っていく。するとカッと光が生まれ、扉が開いた。
なんで?
「扉の下にスイッチでもあったのかなあ」
そうなのか?
「やっぱり、ただのネズミじゃねえな。バケモノか……」
「まあ、チーズ食って火ぃ吹く時点で化物だろ」
「ちょっと、いくらなんでも怖がりすぎよ……でもトーポって一体なんなの?」
オレたちの疑問をよそに、エイトはトーポを探して扉の先へ向かう。オレたちも後へ続く。扉の先にはまた山道が続いていた。
「ねえ、この先にもなんか入り口があるよ……わっ!」
「痛てっ!」
エイトが急に止まるもんだから、ヤンガス、ゼシカ、オレと順番に追突だ。
「どうしたのよ、エイト」
「……」
見ると、しなびたじいさんが立っていた。
「手、手品でげすか? 急に出現しやした」
ヤンガスはしりもちをついている。
目の前のじいさんは、しなびてはいるが、頭がモヒカンだ。なかなかのおしゃれじいさんのようだ。
「あの……?」
エイトがおそるおそる声をかける。じいさんは、なぜかうんうんとうなずき、自信満々に口を開いた。
「よく来なさった。ここは人と竜……二つの姿を持つ種族、竜神族の住む里じゃ。わしは竜神族の長老がひとり、グルーノと申す者じゃ」
じいさん、言葉は通じるぞ。フツーの人間なのか?
「竜神族?」
マジか? サザンビーク地方の伝説に、竜神族ってのがいてその民を守る竜神王がいるというのがある。竜神王は時々人間の世界に降りてくるから、その姿を見たものがしばしば現れるのだが。
まあ、オレは見たことがないから何とも言えないが、こうして目の前に「竜神族の里じゃ」なんて軽く言われる日がくるとは思わなかった。落ち着いて観察すると、じいさんの耳の形が確かに人間の耳とは形が違っている。とがったウロコのようになっている。じゃあ、やっぱり伝説は本当だったんだな。
「すみません、僕のペットのネズミがこの奥に……」
「ネズミ? そんなものはおらん」
エイトはトーポの心配をする。そういや、あいつ、どこ行っちまった?
グルーノと名乗ったじいさんは、何だか張り切って話を続ける。
「ささ、わしが村を案内してしんぜよう。何せ、この里を人間が訪れるのは何百年ぶりのことじゃてのう……。われらの中にも人間を見て驚く者がいるじゃろう。じゃが、わしが付き添うておれば大丈夫じゃ。きゅうくつかもしれないが、我慢してくだされよ」
断るのも何だし、結局オレたちはグルーノじいさんと一緒に村の探索をすることになった。
しかし、案内すると言いながら、グルーノじいさんは、「なんだってまた、こんなに荒れ果てて……」とかぶつくさ言っている。ここの住人じゃねえのか?
とりあえず、一軒一軒お邪魔してみる。この世界でも旅人には記念品をくれるようだ。ツボや箪笥からいろいろ頂戴する。
「なんか様子が変ね……」
ゼシカが眉をひそめる。
確かに、ゼシカの言う通りだ。村人はみな一様に疲れた顔をしており、寝こんでしまったじいさんまでいる。話を聞くと、竜神王に力を吸い取られているとかなんとか。
「おい、どうした?」
寝込んでいるじいさんにグルーノじいさんが声をかける。
「竜神王が……」
「竜神王さまがどうした?」
「……あんたはグルーノ、裏切り者め……お前が人間をこの里に招き入れたんだな。そんなだからお前の娘も過ちを……」
おい、なんだって?
「過ちか……。さあエイト、こんな石頭のことはほっといて他をあたるぞ」
人間嫌いで寝込んでいるじいさんを放っておけと言い、グルーノじいさんは別の家に向かう。
別の家では、この里に来る途中で見つけた墓のことを聞かされる。あれは竜神族の者ではなく、人間の墓。この竜神の里へくる途中で命を落としたようだ。
外では村の中心で座り込んでいる男に話を聞いた。この男は顔色も悪く、オレたちが人間だと知っても「もうどうでもいいことだ、われわれは滅びる……」などと言ってうつむく始末。
「おぬし、どうしたのじゃ? いったいこの里に何が起こったというのじゃ」
「あなたはグルーノ老! 戻って来られたのすね……しかしこんな時に帰ってくるとはあなたも運がない……竜神族の最期を見届けることになるのだから……」
竜神族の最期だと? ただことじゃねえな。
グルーノじいさんは、だんだん足取りが重くなっている様子だ。歩き疲れという訳じゃねえな。
この世界にも道具やがあるが、人間には売れないと言う。どんだけ人間を嫌ってんだか。長老会議の許可が下りれば売れるとは言うが。
誰に話しかけても竜神族と人間の関わり合いを良いと思っている者はいない。
「歓迎されてないようでげすね、兄貴。ちょっと悲しいでげすよ」
「うん。でも、みんなの元気がないのはなんでだろうね……」
村人から嫌な顔をされ続け、オレたちは立ち止まってしまった。グルーノじいさんもため息をつく。
「仕方がない……。これは他の長老たちに話を聞かねばなるまい」
じいさんは、高台にある建物にオレたちを案内した。
建物の入り口には見張り役の男がいた。グルーノじいさんを「グルーノ老」などと呼び、ていねいな言葉で喋っていることからして、グルーノじいさんは本当にこの竜神の里の長老なんだな。古いしきたりの残る種族では、功績を積んだお年寄りが村のおきてを作り、守っている。城で各方面の大臣が集まってなんだかんだ決めているのと同じだ。
見張りの男はオレたち人間の入室を拒否した。だが、グルーノじいさんが「わしが責任をとる」と言うものだから、しぶしぶ入室を許可する。
「ねえ、そんなに嫌がられるなら外で待っていたほうがよくない?」
ゼシカが心配する。
「うん、グルーノさん、僕たち待ってますから……」
エイトまで気を遣ってそんなことを言う。もちろん、オレだって面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだ。入口でぐずぐずしてみたが、グルーノじいさんは「お前さんたちも来るのじゃ!」と強い口調でオレたちを促した。
おそるおそる入室する。
かなり広い部屋があり、中央にこれまたデカいテーブルがあった。ご長老の方々がそのテーブルについていて、厳しい表情でなにやら喋っている。
集まっていた全員にじろりと睨まれた……グルーノじいさんが……。
またとんでもない話になる予感がしているのは、オレだけじゃねえだろう。
竜神族の里へやってきました。エルトリオの墓は、実況を確認したところ、ゲームではとてもわかりやすい場所にあったようです。記憶では、草むらの奥だったような気がしたので、ちょっと違いますがこのままいきました。