エイトの2日間の休暇を利用し、サザンビーク近くの不思議な遺跡の祭壇から、竜神族が住むという竜神の里にたどり着いたオレたち。
エイトの話じゃ、下界より時の進みかたが遅いというこの世界。もうすぐ第1日目が終わろうというところだ。
オレたちは長老の一人であるグルーノというじいさんと村中をまわったんだが、話をしたそのほとんどのヤツから「人間は帰れ」と罵られた。
長老会議を無理やり見学させられ、いや、ありがたく拝聴させていただき、現在の竜神族の里に起きていることを知らされた。
あげく「竜神王から村人を救ってくれ」と頼まれるなんて。
オレたちは今、グルーノじいさんの家に来ている。宿代わりに使ってくれと。なかなかいいじいさんだ。今は使用人と一緒にメシの支度をしてくれている。オレたちは二階でエイトを囲んで4人で話し合っている所だ。
「どうするんだよ、エイト……」
「うん……」
「なんか、すごい話になっちゃったわね」
「うん……」
「兄貴、兄貴なら大丈夫でがすよ」
「うん……」
「兄貴ならって、ヤンガス? あたしたちだって行くのよ。ところで、ここの竜神族の人たちは人間を嫌ってるわよね?」
「まあ、じいさんたちの話ではそうだったな」
長老会議のじいさんばあさんたちは、村のヤツらほどでもなかったが、特別歓迎しているようでもなかった。竜神王と戦えるような強い勇者なら誰でもいいようなこと言ってたじいさんもいたが、どっちかっつったら、嫌いな方だろう。
「だが、オレたちがレティスに認められたって言ったら、態度が豹変したよな。……なぜグルーノじいさんはそんなことを……」
「……」
エイトはさっきから一言も発せず、難しい顔をしている。
「レティスって有名なんだな」
「そうね、レティスならここへも来られそうだし。それにしても、長老さんたち、ラプソーンのことも良く知っているみたいね」
「いや、ゼシカ、それよりなんでグルーノじいさんはレティスやラプソーンのことを詳しく知ってるのか謎じゃねえか?」
オレたちの話を聞き、うーん…と、また考えこむエイト。
「待てよ、ククール。当面の問題は、グルーノじいさんじゃねえ。混乱しちまった竜神王に会ってくることだろ?」
そうなんだが。気になっちまったもんはしょうがねえ。まあいい。これはオレの胸にとどめておこう。エイトだってもしかして、オレと同じことを考えているのかもしれない。だが今はとりあえず、竜神王だ。
竜神の里、いや、竜神族を守る存在である竜神王は、10年以上前、人の姿を封じる儀式を行うことを決め、自らの身で封印の儀式を行うべく天の祭壇へ行った。そして儀式は完成し、竜神王は完全なる竜になったかに思えた。だが、どうやらそれは失敗に終わってしまった。そのせいで混乱しているらしいのだ。
人の姿と竜の姿の両方をとることができる竜神族。だが、竜の姿を保持し続けることは並大抵なことではないそうだ。ずっと竜の姿になっている竜神王は、竜神族の人々の体力を吸いとっているという。みんな疲れて見えたのはこのせいだったんだな。
儀式の失敗に気づいた長老会議は、竜神王に封印を解いてもらおうと竜神王にお願いしに天の祭壇に行ったが、竜神王は正気を失っており、凶暴な魔獣となっていたという。これではお願いすることもできず、攻撃されて逃げ帰ったそうだ。まあ、あんなじいさんばあさんたちじゃ逃げ帰るのが精いっぱいだったろうよ。無事でよかったな。
ただ、この状態が続けば、竜神の里は確実に滅ぶ。全滅だ。
だから、竜神王を正気に戻すため、戦えと。
体力を吸い取られているこの竜神族のヤツらじゃ無理だから……。
オレたちが……。
「強いわよね、きっと」
「だろうな……」
オレたちは揃ってため息をつく。
明日は朝早くから起こされそうだぜ……。
グルーノじいさん宅に泊まった翌朝、案の定、竜神王へ会いに行けと早速追い出された。長老会議の行われていた家へ行き、そこから、天の祭壇に向かう。
「もう、なにこれ! 詐欺じゃないの? 次から次から! 道が狭いから魔物をよけることもできないわ」
「仕方ないぜ、ゼシカ。オレたちは竜神族じゃねえんだから……」
まだ夜明け前。道のりはキツく、魔物もハンパねえ強さだ。魔物たちは竜神族は襲わないようにしているそうだが、オレたちは人間。まったく容赦ない。竜神王のいる天の祭壇まではかなりの道のりがあるという。
「竜神王に会う前に死んじゃうわよ!」
「わかったわかった、ハニーはスクルトかかるまでは必ず防御な。スクルトかかったらリーダーにバイキルトかけてくれ。回復はオレがする」
魔物はなぜかゼシカを狙う。挑発的な神秘のビスチェのせいだろうか。魔物はとんでもなく強いが、今のオレたちならどうにかしのいで行かれそうだ。が……一つ、大きな問題があった。
「ねえ、エイト大丈夫?」
「えっ……うん……いや……」
エイトだ。さっきから様子がおかしい。
「ワオ! また宝箱!」
離れた所でヤンガスが叫んでいる。
「兄貴! こっちこっち! 宝箱が……兄貴?」
「ごめん……」
エイトはその場にへたりこんでしまった。
仕方がねえ。天の祭壇は、里の外、その名の通り天を目指して宙に浮いたような岩の道を登って行かなければならないのだ。
オレだって足元がふわふわするし、先もよく見えねえ。真っ青な空の中で丸腰だ。
前から思っていたが、やっぱりエイトは高所恐怖症で決まりだろう。今も肩で大きく息をして、目をぎゅっと閉じている。
これじゃ、この先は行かれねえ。オレはこほんと咳払いをし、左手をうやうやしく差し出した。
「背負ってやるぜ? 我がリーダーさま?」
「え? あっうん……ククール、ごめん……」
エイトは恥ずかしそうにゆっくり目を開けた。そんなエイトを、ヤンガスもゼシカも微笑ましく見ている。心配すんな、みんなもうよーく知っている。お前の渦巻き酔いは。特に高低差があるとそれはそれはひどくなるってことも。
「ヤンはゼシカの援護をお願いね」
「合点でぃ!」
ヤンガスにゼシカを頼み、エイトはオレの背中に乗る。ヤンガスが先頭、その後ろをゼシカ、最後がオレたちだ。ライドンの塔、リーザス塔、レティスの巣を思い出すぜ。
背負ってやった後のエイトは、瞳をキラキラさせて剣をふるう。ったく、世話がやけるんだか、頼もしいんだか……。そのおかげで、エイトの剣が魔物たちをやっつけまくり、オレたちはすいすいと祭壇を目指した。お宝ももれなくゲットして。
「何でがしょう、兄貴。またなんだか頑丈そうな扉がありやす」
もうかれこれ1時間くらい経っただろう、魔物と戦うのも飽きていた時だった。先頭のヤンガスが赤っぽい扉を指差している。
ヤンガスの言う通り、随分と頑丈そうな扉だ。雨風に耐えられるようになっているんだろうが、誰がこんなものを……。
「ほんとね。この先に竜神王がいるんじゃないかしら?」
「うん。きっとそうだね」
オレもそう思う。あたりの空気も少し変わった気がする。あの扉の先は何か、神聖な領域なんだろう。エイトはオレの背から降り、扉に手をかけた。
ギイと、重そうな音。扉の先、また岩の道があるが、その奥に階段がある。そして階段の上に……。
「あっ! みんな! 見て、あれ……あの竜!」
「あれが竜神王?」
「あれが……」
どうやらオレたちは、竜神王のいる天の祭壇へ到着したようだ。透明の板でできた階段の先に宙に浮いたような岩場があり、そこにちらちらと見えている竜の姿。今までに見たことがない姿の竜だ。
エイトはじっと竜の姿を見据える。そしてオレにちらりと視線を向けた後、オレの腕につかまりながら階段をゆっくり上りはじめた。ヤンガスとゼシカも後に続く。
「でかいでがすね……」
ヤンガスの言う通り、近づくにつれ竜の大きさがわかってくる。だが、その大きさより、圧倒的なプレッシャー。炎を吐かれたら一瞬で燃えカスになりそうだぜ。
オレたちは巨大な竜の前に立った。竜は、赤い目をこちらに向ける。しばらく睨み合っていたが、竜はその身体をゆらりと動かし、雄叫びをあげた。
「……グルオオオオ……人間が何故……ここに現れる? ……そうか、我がニエとなることを望むのだな? ……ならば、望みどおりにしてくれよう!」
「は……初めまして……エイトと言います。あの……」
エイトの間抜けな挨拶など、竜神王は聞いていない。すぐに竜神王は牙を剥いた。
* * * * *
「……」
「……」
「……」
『……竜神王……ですね……』
『いかにも。……我は何をやっていた? 人の姿を封じる儀式からずっと……まるで長い悪夢を見ていたようだ。……人間? 人間が何故ここにいる? いや、覚えているぞ。そうだ。お前たちが正気を失った我を救ったのか』
『あなたは、人間がお嫌いなんですか?』
『いや、そんなことはない』
『でも、人の姿を封じるなんて……』
『竜神族はあまりに自分たちの種族を大切にしすぎる。こんな天空に暮らしているせいか、竜神族こそが最高位の種族であると思い込んでいる。竜神族としての誇りを持つことは良い、だが、他を見下げるような心は、誇り高き竜神族の持つものではない。だが実際、竜神族のなかには人間とのかかわりを忌み嫌う者が多い。もしかしたら、人間と関わらない方が竜神族は幸せなのではないかと考えることもある。我らと人間では、違いがありすぎる……』
『僕……僕は、そんなこと思いません。竜神族か人間かなんて、関係ありません』
『!!!』
『関係ない……と?』
『はい』
『僕は……』
『いや、……勇敢なる人間たちよ、礼を言おう。お前たちが止めてくれなければ我は我が一族を滅ぼすところであった。我もまた、人間の姿を捨てようとしたことは事実。だが、人間に助けられるとは……。我が行いは誤りであったということなのだろう。……お前は……!? お前はもしかしてあの時の……』
『……』
『……』
* * * * *
「……?」
「気がついた? ククール」
ん? エイトか?
「あれ?」
「ヤンも目が覚めたね」
「えっ?」
「ゼシカ、大丈夫?」
なんだ?
記憶が途切れ途切れだぞ?
「なあ、ここはどこだ?」
オレは起き上がった。ベッドに寝ていたらしい。頭がクラクラする。
ゼシカもヤンガスもいる。二人とも狐につままれたような顔をしている。
「あたし、夢見てたのかしら。……大きな竜と戦って……」
「夢じゃねえだろう、嬢ちゃん。ここは多分、あの世だ」
んな訳ねえ。だが……。
エイトだけがにこにこしてオレたちを見ている。
「あー、エイトくんエイトくん。……もしやオレたちは竜神族の王と戦い、瀕死でころがってました?」
「うん、当たり。竜神王と戦って……最後は僕だけがかろうじて残ったんだ。竜神王、悪かったって言ってた。自分では制御できなかったんだって」
「……」
「……」
「……」
……そうだ。竜神王と戦って……。オレは遠のく意識の片隅で、ヤツとエイトが何やら話しているのを聞いた気がした……。竜神王は、人の姿に戻り、妙に納得してオレたちを解放したんだっけ。
「あたしたち、竜神王に殺られちゃったの?」
「違うよ、竜神王が助けてくれたんだよ」
「なら良かったでがす。あっしたちは、まだこの世にいるってことでがすよね?」
「そうだよ。みんなちゃんと生きてるよ」
「で……? オレたちはこれからどうなる?」
たしか本来の目的は、竜神王の混乱をとき、村を助けるってことだろう?
「うん、竜神王、なんかわからないけど、下界からはるばる来て、竜神族のみんなを助けるために一肌脱いだっていうのを喜んで、いつでもいらっしゃいってさ。勝負しようって」
「何だそりゃ。胡散臭えな」
「そうでがすよ、そんなこと言って、俺たちを食うつもりですよ」
「そんな、ひどい!」
「大丈夫だよ。話をよく聞いたら、竜神王は力をもて余してたらしくて、竜になっていれば蓄積した力を解放できるんだけど、そうしていると竜神族のみんなが弱く見えてきて、自分がもっともっと強くならなきゃって思うようになっちゃって、これはいっそ人の姿を封じてしまおうと考えたみたいなんだ」
「なんだそれ? 平和ボケかよっ!」
「そんなとこみたいだね」
ったく、迷惑な話だぜ。
ゲームでは、竜神王に会う前、エイトさんと竜神族のかかわりについて里の人からいろいろな話が聞けますが、聞かなかったことにしています。次で謎が解けます。竜神王の平和ボケは勝手な設定です。