竜神王を倒したオレたち。まあ、エイト以外は瀕死だったから、やっつけた後、エイトと竜神王が話していたことは知らないが。竜神王の力で復活し、グルーノじいさんの家で休んでいたが、とりあえず、長老会議に報告しに行った。
「……お前さんは救世主じゃ。見事、竜神王を正気に戻してくれた。わしらはお前さんたちを友人として、これからもこの里を訪ねてくれることを望もう」
里の長老はオレたちをそんな風に称えた。
「いつか竜神族の人たちと、自由に行き来できるといいわね」
「まったく、嬢ちゃんの言う通りだ。種族が違ったって、この世に生きる者同士、仲良くして行けるさ」
オレたちは、グルーノじいさんの家にもう少し厄介になることにした。まだ竜神の里2日目の夜だ。
里の人間は皆、なんとなく顔色が良くなっている。
だが、反対に、エイトの顔色が冴えない。
ゼシカとヤンガスは気づいてないが、明らかにエイトの様子がおかしい。
エイトとこの竜神族の間には、何かつながりがある。
ウィニアとか言った……竜神王の住まいに行く道の途中で見かけた墓。そしてこの里へ来る途中にあったエルトリオの墓。長老たちの態度。グルーノじいさんの不審な言動……。
……まさかな。
考えが、思いもつかなかった方向へどんどん進む。
エイトが竜の祭壇のある不思議な遺跡にずっと惹かれていたこと。エイトが近づくことで竜神の里への道が開かれたこと……。
「どうしたのククール。考えこんじゃって」
「あ……ああ、ゼシカか。何でもねえよ。なんか疲れたよな」
「そうだな。俺も腹減った」
ああ、この二人は全然気づいてないんだな。このまま黙っているほうがいいか……。
グルーノじいさんの家で晩飯が振る舞われた。
「これ、みんなじいさんが作ったのか?」
「すごいわね……」
見たこともない料理が山と積まれている。ただ、チーズが異様に多い。そういや、最初の晩からずっと、メシといえばチーズ料理だ。
「ささ、遠慮せんと、たくさん食べなさい。酒もあるぞ」
「おっ! 酒か!」
ヤンガスの目が輝く。
オレたちは、竜神王復活祝いと称し、じいさんと飲んだくれた。なんかオレの周りは飲んべえが多いな。
料理も酒も美味くて、「ククール、珍しいわね」とゼシカに言われるほど、オレは料理に手をつけていた。
そして、オレは言い様のない不安を抱えたまま、2日目の床についた。
3日目の朝。
ちょっと胃がもたれている。だが、その満腹のおかげだろうか、いつになく熟睡できた気がする。
ゼシカとヤンガスはまだ眠っている。エイトの姿はない。
階下へ降りれば、エイトはグルーノじいさんと朝飯の用意をしていた。
なんだかな。じいさんとエイト、仲がいいな。
「あつ、ククール、おはよう」
「おっ……おお。早いな、お前」
「飯ができるから、あとの奴らも起こしてくるがいい」
グルーノじいさんに言われ、オレはまた階段を上がる。
胸騒ぎがする。胃のもたれとか胸焼けじゃねえ。強烈な胸騒ぎ。
帰りたい……。ここから逃げ出したい。知りたくない……。
「お前さんの感じた通り、下界とここでは時の進みかたが違う」
メシの後、じいさんはオレたちをある部屋へ連れていった。そこはでかい宝箱がある部屋だ。
「……だから、竜神族はお前たち人間の5倍長生きするように見える。じゃが、わしらが下界に行けばお前たちと一緒じゃ」
「じゃあ、下界の2日は、こちらの10日になるってことですか?」
「そうじゃ」
10日かよ。今はまだ3日目だろ?
「……ところで、お前たちをここへ連れて来たのは……」
グルーノじいさんは、そう言って宝箱を開けた。
「今から紙芝居を読んでやる。わしが作ったんじゃ。心して聞くように」
じいさんはオレたちを座らせ、やにわに紙芝居を読みだす。なんで紙芝居……。
「わしの娘、ウィニアは、持ち前の好奇心から人間界を訪れ、そこで偶然エルトリオ王子と出会った。……やがて二人は互いを深く愛し合うようになる。……それを引き裂いたのは、他でもない、このわしなのじゃ。……その時はそれが正しいと思っておった。人間と竜神族とでは幸せになれるはずがないと。……だが、結局わしの決断は自分の娘を不幸にしただけじゃった。……ウィニアを連れ戻してからほどなくして竜神族の里のそばで人間のなきがらが発見された。……それはエルトリオじゃった。ウィニアを追ってこの里を目指した彼は、いま少しの所で力尽きたのだ。……そのことを知った娘はは深く深く悲しみ、悲嘆のあまり徐々に身体を弱らせていった。……そしてその時すでにウィニアはエルトリオの子……エイト、お前を身ごもっておったのじゃ。……そのことに気づいたウィニアは、周囲の反対を押し切って産むことを決めた。……だが、衰弱していた娘の身体が出産に耐えられるはずもなく、お前を産んだウィニアは、そのまま……。こうして産まれてきた人間と竜神族の血を引くエイトを、どうすべきかが長老会議で話し合われた。何年にもわたる長い議論の末決められたのは、まだ幼いお前の記憶を封じ、この里から追放することだった。……無論、わしは必死に反対したよ。だが、一度くだった決定がくつがえることはなかった。……この時ばかりはわしも自らの無力さを呪ったものじゃよ。……やがて、会議で決められた通り、お前は竜神王様の手によって記憶を封じられ、里を追放された。……だが、かわいい孫を……ウィニアの忘れ形見を見捨てることなどわしにはとてもできなかった。……わしは竜神王様に願い出て、人間界へ追放されたお前を追いかける許しをいただいたのじゃ。……そのための条件は、姿をネズミに変え、決してエイトと話してはならぬという厳しいものじゃった。……だが、本当なら人間界で両親と幸せに暮らすはずだったお前に背負わせた苦労を思えば……。……そうすることがお前に対するつぐないになるとは思わんが、わしは迷わずネズミとなってお前を追いかけたのじゃ……」
「唐突な話で悪かった。じゃが、これが真実なのじゃ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……すまなかった。結果的には騙しておったんじゃ……ふがいないこの老人を許してくれ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「城で僕だけが無傷だった。……暗黒神のイバラの呪いがかからなかったのは、竜神王の術のせいだったんですか……記憶を封じるっていう……」
「エイト!」
エイトがふらふらと立ち上がる。咄嗟にゼシカが声をかけるが、エイトはじいさんの家から外へ出た。
「じいさん、エイト可愛さにネズミにまでなって……」
「はは、そのようだな。ネズミの時の記憶は、細々したところまでは覚えていないんじゃが」
エイトを守るため。
人間の子を宿した、可愛い娘のため。
エイトが竜神族と人間の間に産まれた子だったなんて。エイトの母は竜神族のウィニア。グルーノじいさんの一人娘。そして、父親は……。
「あの……もし、エイトがエルトリオ王子の忘れ形見だってことが世間に……特にサザンビークに知れたら、どうなるかしら」
ゼシカ……。
「何も変わらないじゃろう」
本当か?
「証拠はない……」
本当なのか?
残念な気持ちと、安心が、ぐるぐるとオレの頭の中をかきまぜる。
「いや! ある!」
じいさんはぴょこりと飛び上がり、宝箱の中をガサガサ探ると小さな袋を見つけ出した。
「それは?」
「証拠といえるものかわからないが……エルトリオがウィニアに贈ったものじゃ。下界の物だ……エイトを呼んできてくれないか?」
オレは立ち上がった。
小さな村だ。近くにいるだろう。オレは見晴らしの良さそうな場所を探した。
今までずっと謎だった、自分の出生の秘密が分かったんだ。一人で考えたいだろう……。
早目に見つけて、少しそっとしておいてやろう。
エイトの姿は、すぐに見つかった。切り立った岩場から谷底を眺めていた。
小柄なエイト。華奢な肩は相変わらずで、不安定な気持ちが伝わってくる。……そのまま飛んで行っちまいそうだ。
オレは少し離れたところに立ち、エイトの気持ちが落ち着くのを待つつもりだった。だが、ふと振り返ったエイトに見つかってしまう。
「ククール……? 迎えに来てくれたの?」
「……ああ」
エイトはゆっくりこちらに向かってきた。
「……ごめん、なんかびっくりしてさ……。僕って、普通の人間じゃなかったんだ。半分は竜神族なんだね。チャゴス王子と従兄弟なんてね……」
オレたちは無言でグルーノじいさんの家に戻った。
じいさんは、エイトの父、エルトリオが王の儀式で得たアルゴンハートで作ったアルゴンリングを見せた。
「ものすごく大きなアルゴンハートですね……」
「王の儀式とか言っておったな……あの時は価値がわからなんだ。チャゴスの件でなんとなく想像がついたのじゃが、改めて見ると、見事なものじゃのう」
深い赤。多面にカットされたアルゴンハートは、光を取り込みキラキラとあらゆる方向に反射させる。
「……エイト、これはお前の物じゃ。ウィニアがもらったものなら、それはお前の物だ。好きにするが良い」
じいさんはそう言うと、アルゴンリングをエイトの手に乗せた。
エイトさんの出生の秘密がわかりました。次は竜神王についてみんなであれこれおしゃべりします。