竜神の里へ来て3日目が過ぎようとしていた。
エイトがサザンビークのエルトリオ王子と竜神族のウィニアの間に産まれたと言う衝撃的な事実に、エイト本人をはじめ、オレもゼシカもヤンガスもしばし呆然とするしかなかった。
「エイト、またどこか行ったの?」
「ああ、散歩に出なさったぜ」
ったく……。
自分の秘密を知ってからのエイトは、グルーノじいさんの家を出たり入ったり。
「落ち着かねえんだろ」
「そりゃそうよ。あんな事実」
だからといって、オレには関係ねえ話だ。生まれなんてやつはどうすることもできない。
大事なのは、その生き方だろ。
「話さなければよかったのかのう……」
グルーノじいさんは、自分から暴露しておいて、すっかり意気消沈している。
「じいさんが言わなくたって、いずれは分かったことだと思うぜ」
「そうかの……」
「ああ。あいつ、不思議な遺跡でまるで何かに導かれでもしているようだった。竜神族の里へ行くことは運命だったんだろ……それともじいさんが誘導してたのか?」
「しておらんよ。……ウィニアが導いたのか、あのアルゴンハートが導いたのか……」
アルゴンハート。あの宝石を持つアルゴリザードは、竜神の守り手だと言われている。竜神の伝説の残るサザンビーク。……まさか竜神族がいるなんてな。
オレは、里のまわりを歩き回っているエイトのことを考えた。あいつの出生は、オレとは比べものにならないほど、複雑だ。オレもまあわりとフツーじゃねえが、あいつほどじゃねえな。両親人間だし、種族のために追放されたわけじゃねえし。追放か……。いやな言葉だ。オレは、いろいろ思い出しかけたのをぐっと抑えた。
「……これからどうするのじゃ? この竜神の里は、エイトの生まれ故郷だから、エイトだけでなくお前たちにも自由に出入りして欲しいがのう。……わし以外は、やはり人間を好いておらん。竜神王をおさめはしたが、実際、エイトを認めない者もおる」
ウィニア嬢は、竜神王のお気に入りだったらしいからな。竜神王はエルトリオもエイトも認めたのに、村の奴らがかたくなに人間を拒否する。
「そのうち、竜の試練でも受けに来るさ」
「なにっ?」
じいさんが身を乗り出す。
「なんだよ、じいさん、びっくりするじゃねえか」
「すまんすまん……。いや、それより、竜神王が竜の試練を行うと言ったのか?」
あまりのじいさんの勢いに、オレたちはたじたじだ。
「言ったのか? 本当か?」
じいさんはヤンガスの胸ぐらをつかんで揺する。
「痛てて……痛えよじいさん……本当の話だって……是非来いって嬉しそうに言ってたんだって兄貴が……。勝ったら褒美をくれるとさ」
「何とっ! それは一大事じゃ! わしゃちょっと行ってくる! エイトはどこじゃ! エイトーッ!」
じいさんは転びそうになりながら、あわてて家を出て行った。
「なんなんだ、じいさんは。あわてちまって」
ヤンガスがやれやれといった表情を浮かべる。
竜の試練か。竜神王と戦ったあと、エイトと竜神王がそんなことを話していたらしい。エイトによると「竜の試練への挑戦を許す」とか言ったとか。竜神族にとっては一大事なんだな。オレには、ただの竜神王の暇潰しとしか思えねえが。
オレはごろりと横になった。
昼間はわりと暖かいが、夜は冷え込む。床は暖かさを保つ工夫がしてあるのか、ぽかぽかとまではいかないが、じんわりしてくる。
「ククールったら、ずっとお休みモードね。……ね、痩せたんじゃない? 顔色悪いし」
「そうか?」
やべえやべえ。ゼシカにまで不摂生がばれちまう。つーか、誰もオレが健康的な暮らしをしているとは思ってねえか。
「ここの飯は美味いから、たっぷり栄養つけて帰るさ。まだ3日だろ?」
そんなことを言い、ついでにあーあとあくびをして、オレは目を閉じた。
「おい! お前たち!」
グルーノじいさんだ。
「なんだよ、飯か?」
「あたし、手伝います!」
「ええい! 違う違う! 飯どころではないわい!」
ヤンガスとゼシカが言うのを乱暴に遮り、じいさんはまた転びそうになりながら部屋へ入って来た。エイトも一緒だった。
「みんな、聞いてくれる?」
エイトの話はこうだ。
竜の試練とは、竜神王と戦い、その戦いぶりに応じて竜神王がさまざまな褒美をくれるというもの。竜神族の歴史の中でもこの挑戦に成功したものは誰一人いないそうだ。
竜神王が試練を受けることを許可するのは、その力を認めた者のみ。これまで試練を受けた者は数えるほどしかいないそうだ。いずれも竜神族の猛者であった。たとえ竜神王に勝たなくとも、試練を受ける許可がおりただけでも名誉なことであるという。候補者は長老会議によって選ばれ、選ばれた者は、竜神王に供物などを届ける命を受け、巫女を伴って1ヶ月に一度、竜神王の元へ行く。竜神王の許可はそれからだ。
何百年もの間、候補者に試練の許可がおりていなかった。竜神王も、何年も試練をやらないと体に毒がたまり、具合が悪くなるという。今回、竜神王が完全な竜になりたがったのは、長い間試練をやっていなかったせいだとも考えられる。
竜神王は、巫女であったウィニア嬢に、「人間でもよいから強い者がいたら連れてきてくれ」と言っていたらしい。代々の巫女は、試練を受ける人物の候補を探しに人間界にも降りていたのだ。ウィニア嬢は強い人を探して、王家の谷で王の儀式を行うエルトリオを見つけたんだろう。
「毒がたまるというのは、竜神王にしかわからないことじゃが、定期的に発散するには、強い相手が必要じゃ。自らが力を発するだけでなく、他から力を受けることも重要なのじゃ」
まあ、わからなくもねえな。ヨッキューフマンでやつだろ。相手がいりゃあ、それだけ発散できる。オレは、お礼参りの旅の途中、ガキみたいにメタキン狩りをしたのを思い出した。竜神王をスライム山に連れて行ってやりてえな。
「お前たちにはピンとこない話じゃろうが。……ウィニアは竜神王のために、エルトリオを連れて来ようとしたのじゃろう。わしが悪かったのじゃ。村の者が皆、人間がウィニアをたぶらかしたと噂しおってな。下界に降りることを禁止したばかりに、エルトリオは単身でこの里へ来ようとした。竜神族……ウィニアが一緒ならば魔物も襲わぬが、エルトリオは一人で……」
グルーノじいさんは、おいおいと泣き出した。
「頼む、勝たずともよい。竜の試練を受けてくれ……」
じいさんは泣きながら言う。
しかしオレたちには、それほどの物と思えない。なぜならあの美しい竜神王は、毒に困っているように見えなかったから。
じいさんの泣く声だけがしばらく続き、オレたち4人はただ黙っていた。
「寝たのか?」
「うん」
エイトがじいさんを寝かしつけ、オレたち4人の部屋へ戻ってきた。
「なんかめんどくさいことになっちゃったね」
「やだ、エイトったら……めんどくさいなんて」
オレたちは声を潜めて笑った。
「あれ、絶対暇潰しでがすよ」
「そうだね。ちょっと面白がってたもん」
「欲求不満でイライラが毒になってんだろ?」
「かもね」
竜神王の強さはハンパねえ。倒す、と言うレベルじゃねえ。試合みたいなもんだな。
「勝ったら何をくれるんでがすかねえ」
「竜神まんじゅうとか嫌だぜ?」
「そんなことはないよ」
「竜神印の酒とかがいいでがす」
「えー? だったらあたし、おまんじゅうのほうがいいわ」
「お酒でもないと思うよ」
オレたちは、そんな冗談を言いながら、眠りについた。
翌朝、村の連中がこぞってじいさん宅の前にやって来た。
「どうしたのかしら? こんなに朝早く」
「さあな」
オレはあくびをしながら外の様子を眺めた。
じいさんとエイトが村人と話している。長老会議のメンツも来てるぜ。
エイトが戻ってきた。
「早く試練を受けろって……」
「なにっ?」
ったく、どんだけせっかちなんだ? 竜神族ってのは!
竜の試練のために巫女さんがいて、人間界から強い人を連れてくるとかいう話は勝手な設定です。次は竜の試練です。いつものことですが、戦いの描写はありません。