「もうへとへと……」
「腹減った……」
「もう魔力尽きたぜ……」
竜神王の足元で、オレとゼシカとヤンガスは身を横たえていた。
竜神の里へ来て8日目のことだ。
「よく耐えたな。我が試練、この短期間で乗り越えた者は今までおらなんだ」
「でも僕たち4人ですし……歴代のかたたちは皆さんお一人だったって聞いています」
「なんのなんの。4人分の力を発揮させてもらった。全く、お前たちには驚かせてもらった。真に強い。……また来るがよい。我も更に精進しようではないか……」
エイトと竜神王がなんだか楽しそうに話している。みんなはへとへとで地面に横たわっているというのに、エイトだけはしゃっきりと立って歓談しているのだ。竜神王め、力を小出しにしやがって、だんだんと強い竜に変身し、襲い掛かってきた。オレたちは全滅しかけたりと何度もピンチをくぐり抜け、どうにかこうにか竜の試練を勝ち進むことができた。それなのに竜神王、精進するだと? いいよもう、精進しないでくれ。オレたちもしないから……。
ご褒美ももういりません。メシ食って寝ます。もう勘弁してください……って、何度エイトに言ったことか! 何日も何日も! 連続攻撃のこんな強い竜は反則だろ!
「一回か、せいぜい三回までだと思ったのよ……」
ゼシカが横になったまま言った。
「俺もだ。オノにひびが入った気がしたのに、一戦終わったら、ごていねいに直してくれるなんて」
ヤンガスもまだ起き上がれない。
竜神王は、次々と姿を変え、オレたちに襲い掛かってきたのだが、一体倒すごとに竜神の里に帰され、一休み。グルーノじいさんに「早く次の試練へ!」と急かされ、メシを食わされ寝かされ、起こされ追い出され……。竜神王は、オレたちの武器や防具が壊れると、なんとその不思議な力で元通り直してくれるのだ。オレたちはボロボロなのに、所持品だけが無傷で再び使われるのを待っていた。
「……あたし、痩せたかも。ヤンガスは?」
「俺も多分。体重が半分になってると思う」
おいおい、そりゃ大げさだろ。
「起きられねえ……」
オレがそう言うと、竜神王がまた不思議な力で無理矢理オレを立ち上がらせる。もう死にそう。棺おけのなかでちょっと寝たいくらいだぜ。ゼシカもヤンガスも無理やり立たせられる。
「またバシルーラで帰されるのね」
「どっか、三角谷とか行きてえよ……」
「ああ、もうりゅーじんおう様の顔はしばらく見たくねえ。ドラゴン系の魔物のいないところに飛ばしてくれ」
オレたちのそんな泣き言を、エイトと竜神王は笑って聞いている。なんなんだ、こいつらは。バケモノだな、種族差別的発言じゃねえ、強すぎる。バケモノだ!
一戦ごとにもらえるご褒美。結局まんじゅうでも酒でもなく、竜神の防具セットだった。もちろん、竜神族の血を引くエイトの装備品。
「ねえ、エイト、せっかく揃ったんだから装備してみてよ」
ゼシカの提案に、エイトも「それじゃあ」なんてまんざらでもない様子だ。竜神王も見守る中、竜神王がくれた竜神王のかぶと、よろい、つるぎを装備するエイト。
「兄貴、よくお似合いでげす!」
「ホントね、まるでエイトのためにあつらえたみたいだわ」
鈍い赤を基調にした竜神の装備品は、エイトによく似合った。
竜神王もなぜか嬉しそうだ。跡取りを見つけた親父のよう。
オレたちは、「また来い」という竜神王にあいまいに返事をし、またバシルーラで竜神族の里へ飛ばされた。
「もう、帰るのか……寂しいのう……」
8日目の夜、竜の試練をなんとか勝ち抜いたオレたちは、じいさん宅で宴会をしていた。
「明後日に帰ろうと思ったんですが、ギリギリになっても困りますので、明日中においとまします」
「疲れたろう、竜の試練をたった5日で果たしてくるとは……」
「みんな強いですからね」
エイトはオレたちを見る。
ゼシカは真っ赤になり、ヤンガスはポリポリとトゲトゲメットを掻く。オレは、じっとエイトを見つめてやった。
エイトはふっと瞳の力を弱め、またじいさんの方を見る。
強いのはお前だ、エイト。
自信に満ちあふれ、向かうところ敵無しだ。
「竜神王は何と?」
「またいつでも来なさいと。強くなって待ってるって言ってました」
じいさんはそれを聞くと、大喜びして酒を飲み干した。
じいさんはそれからも、竜の試練が行われることがどんなに一大事かを話し、オレたちの戦いの内容を聞きたがった。
エイトは面倒がらずに、丁寧に話してやっていた。
そのうちヤンガスはおおいびきをかきはじめ、ゼシカも壁にもたれてうとうと。じいさんのろれつが回らなくなってきたところで、お開きになった。
じいさんを寝かしつけ、ゼシカをベッドに運ぶ。ヤンガスはその場に転がしておき、オレとエイトで後片付けをした。
「明日の朝はゆっくり寝ていられそうだね」
グルーノじいさんの様子を見てきたエイトが言った。
「そうだな。明日は、なにがなんでも起きねえからな。起こすなよ」
「わかってるよ。僕だって起きられないよ。なんかあちこち痛いし……」
オレたちはなんとなく外へ出た。
月が明るい。下界より大きく見える。
「同じ月だよね」
エイトが月を見上げ、呟く。
「異世界って言ったって、あの遺跡と繋がってんなら、同じ月だろ」
「そうだよね」
ゆっくりと歩く。
村人の気配も、他の生き物の気配もない。風の音だけが、オレたちを包む。
「いろいろ、わかってよかった」
「?」
「わからなければわからなくてもよかったけど」
「生まれのことか?」
エイトは月に目をやったまま、静かにうなずいた。
「……両親が誰だかわからなくてもよかったんだ。でも、いい人たちでよかった。一生懸命生きた人たちだったから。僕、嬉しかった。それに……僕、親に捨てられたんじゃなかった」
「そうだな」
愛されてたんだぜ、ずっと。
「それから、ウィニア……母のお墓は、父エルトリオの墓と同じところに移されたでしょ? あれも、嬉しかった」
「そうだな」
墓は、グルーノじいさんたち長老会議が移動したらしい。
「また、来るよ。もういつでも来られる」
「ああ。良かったな、生まれ故郷が見つかって」
冷たい風が、エイトの髪を揺らす。
冷たい風が、エイトの頬を冷やす。
冷たい風が……。
暗黒神を倒し、パーティーを解散してからのオレたちは、互いの生活に関わることはなかった。
何より、トロデーンの復興が急がれた。エイトは休む暇もない。サザンビーク大臣の行方不明事件がなければ、この休みはなかったんだ。
「お前、休めてるか?」
「うん。大丈夫だよ」
オレの言葉に答えるエイトの穏やかな笑顔は、長い旅の間に見せていたものと同じだった。
「なんか、とてつもなく疲れる休暇になっちまったな」
「あはは、そうかもね……でもさ」
ん?
「みんなに会えて、楽しかったよ……」
エイト……。
ふと黒い瞳とぶつかる。
オレは、乱暴にエイトを抱きしめ、奪うように唇を重ねた。
とっさのことにエイトは身を固くしたが、オレは構わず深く口づけた。
「……月が……見てる」
オレから離れたエイトは、力なくそう言って、グルーノじいさんの家に歩いて行ってしまった。
オレは……。
エイトを束縛してはいけない。
あいつ……あいつは……。
決定的な証拠を突きつけられ、あとはどんな風に物語が進むか、そんなこと明白じゃねえか。
オレは、月を睨んだ。
何もかも、お見通しだと言わんばかりの、青みがかった白い月。
バカ野郎。
きれいさっぱり別れて、それぞれに生きるつもりだったじゃねえか。
お礼参りの最終日、二人だけで迎えた朝、エイトは何も言わなかった。オレだって何も言わなかった。
いちいち言わなきゃわからねえオレたちじゃねえよ。
もう、終わりにしなきゃならなかったんだ。エイトは、オレより覚悟ができている。
未練たらたらなのはオレだけだ……。
オレは夜明け近くまで月を睨み続け、早起きな村人が起き出す頃にじいさんの家に戻って横になった。
エイトさんの気持ちは、推し量ることしかできません。ちょっと辛くなってるククールでした。次は下界に降ります。