竜神の里9日目の朝。竜の試練の疲れがまだ身体にしっかり残っている。だが、いつまでもここにいるわけにもいかない。グルーノじいさんに別れを告げ、下界へ。するとじいさんはネズミのトーポに変身し、またエイトに着いて行くという。
「うん、別に困ることもないから、行きましょう」
「すまんな、エイト。だが、これからは、下界だけではなく、竜神の里とちょくちょく行き来しようと思う」
じいさんの勝手な言い分にも、エイトは「はい、わかりました」なんて可愛く言いやがって、じいさんを喜ばせた。
「まず、リーザスに行ってくれる?」
竜神の里を出たオレたち。
ゼシカの頼みでリーザスへ。
下界は、エイトの休暇2日目の夕方になっていた。
「明日、ゲルダさんのところに行きたいの。ヤンガス、リーザスに泊まってよ。あともしククールも暇なら」
「嬢ちゃん、なんだってゲルダのところなんかに?」
そういや、竜神の里を目指してフィナンシェ休憩とってた時も言ってたな。
「ヤンガスが帰ってきたら、こってり料理が出てくるわよね?」
「ああ。まあ、あいつはいつもこってり料理だからな」
ゼシカはふふんと得意気に笑った。
「キッシュよ。パイとか」
「は?」
なんのことだ?
オレとヤンガスが?マークに包まれていると、エイトがそうか、と言って手を叩いた。
「分かったよゼシカ。キッシュにパイとかだね。型とかの準備が必要だもんね」
「さすがエイト!」
何の話かわからないまま、みんなでアルバート家までゼシカを送る。話がまた長くなりそうなので、マダムには会わずにおこう。
「じゃあね。エイト。……いろいろあったけど……。また誘ってね」
「うん。近いうちにまた来るよ。マダムに用事もあるし」
「ヤンガスは明日宿屋に迎えに行くわ。ゆっくりしてていいけど、飲み過ぎないでよ」
「おお。分かってるよ。じゃあな」
「じゃ、ククールも、暇なら一緒に行きましょうね。お休みなさい」
ゼシカはそう言って帰って行った。
「おい、なんか面倒なことになってねえ?」
「まあ、嬢ちゃんがゲルダに会いたいってんならしょうがねうよ。……おめえこそ、どうするんだ? 荷物運びついでに来るか?」
オレだけ用事がねえからな。どうするかな……。
「ところで、エイトの兄貴、兄貴は今日中に城へお戻りですかい?」
「うん。夜ご飯をどっかで食べて帰るよ。リーザスでいいか。ヤン、一緒にいい? ククールも食べて行けば?」
「そうするかな」
腹なんて減っちゃいないが、またしばらくみんなに会えそうにねえからな。
時間的にまだ早かったが、酒を飲みながら、男三人で話をすることになった。
「じゃあ、城の修理は順調なんでがすね?」
「うん。完全に分担して作業してるから、どんどん進んでるよ。ありがたいことに、職人さんたちが喜んで仕事してくれてさ。休んでって言っても、職人魂がどうとか言って、みんな張り切っててね」
それは良かった。
「兵士長におなりになった兄貴は、何をされてるんでがすか?」
「僕は主に外交関係だよ。王の用事であちこち」
「忙しいんだな」
「うん」
しっかり仕事してんだな。
「サヴェッラが多くて……」
「うわー! あのあいつでがすか。法皇の……ニノ?」
ああ、そんなのいたよな。
「いや、法皇にはあんまり。なんか書類多くてさ。王は忙しいから、僕が代わりに」
エイトはため息まじりにそう言うと、マッシュポテトをつつく。
「……ククールは」
「ん?」
「ううん……おかわり頼もうか……」
エイトは何か言いかけたが、飲み物のおかわりを頼むのにウェイターを呼ぶ。
「兄貴はもうお飲みにならねえんですか?」
ミネラルウォーターを注文したエイト。ヤンガスはビールだ。
「うん。この後ルーラするし、酔ったら大変」
「そうでがすね。さすが兄貴、仕事をしっかりやりなさる」
ヤンガスがうっとりとした目をエイトに向ける。エイトは、えへへと照れくさそうだ。
「ククールは何を飲む?」
「オレは……オレもミネラルウォーターで」
「えっ? 具合悪いの?」
「お前がもう飲まないなんて珍しいな」
ったく、オレは基本的には深酒しないっての。
「夕べもしこたま飲んだろうが。トゲトゲは飲み過ぎなんだよ」
「うるせー」
他愛ない話で笑い合い、思い出を語り合い、時間はあっという間に過ぎる。
「……兄貴、竜神王のせいで疲れがまだとれやせん。そろそろ寝ます」
珍しくヤンガスが自分からお開きを申し出た。
「そう? じゃあまた……近いうちにまたゲルダさんちに寄るよ。今回のことはありがとね」
ヤンガスを見送り、オレも席を立つ。
「お前、もう帰るだろ?」
「うん。ククールは?」
「……オレはいいよ。さ、見送ってやるぜ?」
オレたちはリーザス村から出た。
風車をくぐり、少し歩く。
まだ宵の口。昼間の埃っぽさが、空気に残っている。
「ククールはどうするの?」
先ほどと同じことを聞かれ、オレはため息をついた。
「オレはいいよ。気にしないでくれ」
「……」
「?」
エイトは黙ってオレを見る。
黒い瞳はキラキラと瞬く。
「言ってくれないの?」
「何を?」
「これから、君がどうするかを」
「……言えねえよ。決まってないし」
エイトめ、何を言えってんだ?
「それで君はいいの?」
「どういうことだ?」
昨日はうっかりキスしちまったが、もう、そんなことはしねえよ。
「僕……サヴェッラによく行くって言ったでしょ?」
「ああ……」
「探してるよ……教会が。躍起になってさ。大っぴらにはしてないけどね」
「……」
「でも本当に怖いのは教会じゃない。王家だよ」
「王家が?」
「……彼は、教会の弱みになる……。みんな身柄を欲しがってる。早く見つけてあげて。そしてどこかにかくまって。城には近づかないで。特に……トロデーンとサザンビークには……」
意味がわからねえ。
放っておきゃいいさ。
「早く……」
「わかったよ」
「僕を見て、ククール。僕の目を見て……あの人を探しに行くって言ってよ」
なんでそんなこと……。
「ねえ!」
「ちぇっ……わかったよ。探すよ」
「ククール!」
エイトに胸ぐらをつかまれる。
なんて力だ。
「あれからマイエラに行った?」
「ちょっとな」
敷地には入らないが、一度だけ外から様子をうかがったさ。
「サヴェッラが入ってきてるよ。知らなかった?」
「本当か?」
なんだってサヴェッラが……。
「マイエラだけじゃない、主要な教会はサヴェッラが入っている。おそらく小さな教会だって、話は行ってるはずだ」
「……」
「……村はその領地の城の人間が入って探している。オークニスとリブルアーチはサザンビークだ。周辺地区の警備だといって、海上はトロデーンが……。だから見つけたら、できれば三角谷か……竜神の里に行ったほうがいい。竜神の里のほうが安全だ。王も知らないから」
「お前なしで竜神の里なんて行かれねえよ。別に三角谷まで行かなくたって、パルミドあたりで隠れてりゃ……」
「何言ってるんだよ、それじゃダメなんだよ」
「何怒ってんだよ!」
「いい、よく聞いて。僕たち、一週間かけてお礼参りしたよね」
「したな」
「……暗黒神を倒した勇者だって、今まで興味なかった人たちも僕らを見たよね」
「見たな」
「……僕たちが、誰かと一緒にいれば、『勇者と一緒にいた』って言うよね」
「言うな」
「君は、長身で長い銀髪、赤い騎士服で目立つよね?」
「ああ?」
何だよ、まどろっこしい奴だな。
「誰かがあの人を探していて、もし……」
「オレと一緒だったら、見つけやすい?」
「そう。僕たち3人にも話は来る」
「まさか……」
「そんなこと考えるのは……」
「なぜ?」
「ごめん、ククール。もう構わないで……僕のこと……。わかってるでしょ?」
「待てよ!」
「ダメだよ。あの人を……探して……何年か……隠して。サザンビークとトロデーンの関係が落ち着けば、もう大丈夫だと思うんだ……じゃあ……姫の婚礼に来てもらえないと困るから、必ず来てよ。ドニの酒場のおばちゃんに伝言するから。絶対だよ……」
そう言うとエイトは、ルーラでオレの前から消えた。
竜神の里のイベントが終わりました。またみんなそれぞれの生活にもどります。マルチェロはお尋ね者になっていました。