※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

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エイトさんが牢を訪れます。この章はマルチェロの語りです。


エイトさんとマルチェロ

「こうなることを予想していました……」

「……?」

「……勝手に死なないでくださいよ、マルチェロさん。すぐに元気にさせますから……」

 

エイトか。

 

私は死にたかった。力を使い果たし、餓死しようと思っていたのに。私の衰弱を聞きつけ、やって来たのだな。彼が私を回復させるのか……。

 

エイトは呪文を唱える。エイトと私は薄い膜のようなものに覆われた気がした。

そういえば、彼の回復魔力は並外れて強いものだった……。まるで……。

 

「竜神……」

「えっ? 何ですか?」

 

「竜神、と言ったのだ。竜神の王は、自分を祀る民を大切に思うあまり、身を滅ぼしてしまったという伝説がある」

「竜神王は元気ですよ。長生きだから、時々とぼけて暴れるだけです」

 

エイトは私に回復術を施す。

身体の内側がゆっくり温かくなる。

 

「抵抗できぬのか……」

「勝手に死なないでくださいって言いましたよね。マルチェロさんがいくら断食したって、舌を噛んだってダメですよ」

 

「勝手に……か。ならば、きみが殺せ」

「なに言ってるんですか!」

 

「体力回復したら、きみの首を絞めるぞ。きみは返り討ちにするのだ」

「ちょっと、バカなこと言わないでください……ほら、手を放してください。ホイミがかけられない……」

 

「ならば殺せ! 今すぐ殺せ!」

「もうっ! 暴れないでください!」

回復術をかける彼の腕を押さえつけた拍子に、壁を思いきり蹴ってしまった。

 

「おいっ兵士長、どうした?」

牢の入り口の方から、誰かの声が聞こえる。

 

エイトは「静かにしてください」と私の口を押さえた。そして妙な仕草をして牢の外に声をかける。

 

「何でもありません。大丈夫です!」

「了解した」

 

「……もう。勝手に死なないでくださいよ。本当に」

私の方へ向き直ったエイトが困った顔をする。

 

彼を困らせても仕方がないか。

近くで見る彼はまだ幼さの残る青年だ。だが、黒い瞳は輝いている。竜神の里に来た時の悲壮感は消えているようだ。

 

「……忙しいのだろう? 申し訳なかった」

「いいんですよ。ただ、僕もこういう魔法は久しぶりなので、ちょっと時間がかかっちゃいます。しばらく我慢してくださいね。痛いとかはないですから」

真面目な顔をしてそんなことを言うエイト。温かく、優しい性格なのだろう。こちらも気が休まる。

 

「……ところで、牢内は不思議な力で魔力が封じこめられていると思うのだが。なぜきみは回復術を使える?」

「結界内の結界です。……お察しのとおり、ここは魔力が封じられています。魔力の有る者が入ると、魔力に比例して歪みが生じます。こんな閉ざされた空間で歪みが発生することは危険ですから、その人の魔力を抑えることで均衡を保つのです。僕は今、全身を滑らかな膜で覆われている状態です。僕があなたに触れたので、あなたも同じ膜に覆われました。その中では魔力が使えます」

 

「結界内結界か。トロデ王は凄腕の結界師なのだな」

「牢の結界は、古くから張られていて、王でも破ることはなりません。ですから怪我をしたり病気になると、ここから別の牢に移さなければなりませんでした。……今のあなたのように、わざと身体をこわし、移送のスキに逃げる囚人が出てから、結界内結界が作られました」

 

「私は逃げるつもりはない」

「わかってますよ」

 

「私の弟は、見つかったかね? あれに私を討たせるのだろう?」

「……」

 

エイトは返事をせず、治療を続けた。

じわじわと体力が戻り、身体の痛みが取れ、血行、全神経までが健康に動き出した。

 

「疲れるであろう。このような治療は」

 

エイトは時々大きく息をつき、強く集中しながら治療を施す。

 

「……ええ。魔力を一度この指先に集中させ、ほんの少しずつの力に分散し、治癒呪文を放出していくんです」

 

魔力の分散。それはかなりの高等技術だ。まず自分の持つ魔力を一ヶ所に集めるのだ。集めて放出するだけなら簡単。全身から例えば手のひらに集中させ、それを炎や氷、いかずちなどに変えて一気に飛ばす。または、剣などの武器に移し、使うだけだ。

 

だが、分散はある程度の時間を持続させ、その間、均一に魔力を放出させる。主に、深い傷などの治癒魔法に使われる技術だ。

 

エイトは、途絶えることなく魔力を放出し続ける。

 

「干からびる寸前ですよ」

「ははは。まるでミイラだな」

 

「もう、無茶しないでくださいよ」

「ああ。約束しよう。きみにこんなことをさせるわけにはいかないからな」

 

「こんなことをなんて……こんなこと、全然大変なんかじゃないですよ。あなたを失いたくないんです」

「……」

 

「あなたを必要としている人がいます。僕は絶対にあなたを殺させやしない」

ふと、目が合う。黒い瞳は強い生命の光を宿していた。

 

生きろというのか。

 

「私を必要としているのは、トロデーンなのではないか。弟に私を討たせ……」

「だから、そんなことには絶対させない!」

 

「どうしたというのだ? それが最も平和な案ではないか。弟が私を討ち、勇者の完全勝利だ。姫君が女王となったあかつきには、きみは勇者としてトロデーンの王配となろう。トロデーンは安泰だ。諸外国もトロデーンに攻めいるカードはなくなる」

 

「マルチェロさん、そこまで……」

「サヴェッラも、厄介者がいなくなってほっとするだろう。きみたちと一緒にニノ様を煉獄島へ送った前科もあるしな」

 

エイトは悲しそうな目を向け、そのまま口を閉ざした。死にたがっている者に、かける言葉などないだろう。また困らせてしまったな。私も目を閉じ、おとなしくエイトの回復術に身を任せた。

 

 

 

「……食事だ。起きてくれ」

エイトではない。聞き慣れない声がした。

 

ゆっくり身体を起こすと、食事が差し出される。

 

「あんたが食い終わらないと俺は帰れねえ」

口の悪い男だ。兵士ではないのだろう。暗がりでどんな姿かわからない。

 

それにしても、いつの間に眠っていたのか。

いや、エイトは睡眠の術をかけていったのだ。……昔、満身創痍の私に、高度な回復術をかけてくれた騎士団員がいたが。あの者の回復術は、エイトとは比べ物にならないほどの力だった……。あの者によく睡眠術をかけてもらった。あの者はゴルドから無事に脱出できているのだろうか。そんなことを思い出しながら、食事の皿を受け取る。

 

「……すまない。すぐに頂こう。待たれよ……」

食事は、野菜が多く入ったスープだった。高たんぱく、低脂肪という、マイエラの食事によく似ている。

 

「残したりこぼしたりしねえでくれよ」

「承知している」

 

そういえば、食物を粗末にするなど私はしたことがない。生まれのいやしさなのか。与えられるものの少なさから、施しの有り難さはわかっているつもりだ。

 

私が祈りを捧げ、皿を渡すと、係りの男は、乱暴にそれを受け取り、水差しを私に押し付けた。

 

「水なら……」

「それを飲ませろと言われて持たされた。文句はなしだ」

男はドスドスと音をたて、去って行った。

 

水は数日に一度、大きな水瓶に入れて運ばれる。その水で身の回りの清拭を行う。無論、飲み水でもある。それなのに別の水を与えられるとは。

 

まあ、飲めと言うなら……。

 

?

 

水差しの底に、紙が張り付いていた。

 

『栄養のある水です。E』

 

エイトか。

 

思わず笑みがこぼれる。あの青年は、なぜここまで私を心配するのだろう。

 

!

 

紙が、水分でとろとろと溶けていく。これは……。

 

それから毎朝、水差しが渡される。運んでくるのは同じあの口の悪い男だ。

 

「残さねえように」

「わかっている」

私の食事が終わるまで、男は監視をする。

 

食事は野菜スープばかりだから早く食べられる。だが、常に具材や味が違い、毎回美味であった。

 

「トロデーンの厨房は腕のいいコックがいるのだな」

「てやんでい。あんたのために……」

私のため?

 

男はそれ以上は言わず、水差しを渡すと、ドスドスと去って行った。

 

水に溶ける手紙は毎日ついてくる。具合はどうかとか、今日は雨が降ったとか、他愛ないものだった。5通目くらいから「E」が書かれなくなったが、差出人はエイトだ。隠密に行っていることなのだろう。

 

今日は何が書いてあるか、手紙を開くのがいつの間にか楽しみになっていた。

 

 

 

ある日のことだ。

 

「水だ」

口の悪い男から水差しを受けとる。

 

今日はどんな内容か……。これではまるで恋文を待ちわびているようではないか……。

 

そんな馬鹿なことを考えながら、破れぬよう慎重に手紙を開く。

 

『居どころがわかりました。絶対に阻止します。』

 

これは……。

 




ククールが見つかりました。新しい食事係は、最近出番の少ないヤンガスです。次も牢屋でのお話です。
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