「ようこそ、ゼシカさん!」
「姫さま、お久しぶりです」
トロデーン城に着くと、姫さまが迎えてくださった。
「お元気そうですわね。良かった。急にお呼びしてごめんなさいね」
「姫さまこそ、お忙しくていらっしゃるのでしょう?」
ミーティア姫さまは大丈夫よ、とおっしゃってかわいらしく笑った。
「お城の工事は順調のようですね」
「ええ、皆が精いっぱい仕事をしてくれています」
姫さまと一緒にお城の中を見て回る。
荒れ果てたトロデーン城しか見ていなかったから、どんどん綺麗になっているお城を見るのはあたしも嬉しかった。
「おう、ゼシカ! 久しぶりじゃのう!」
「王さま!?」
ちょうど厨房を通りがかったときだった。トロデ王さまの姿が。
「お父様。ゼシカさんが来てくださいましたわ」
「王さま、おじゃましてます」
「ゼシカ、元気そうじゃな、ゆっくり遊んで行くがよい。じゃっ!」
トロデ王さまは最後に会った時と同じように、いえ、一緒に旅をしていた時と同じように、気さくに声をかけてくださり、いつものように「じゃっ!」と言ってお付きの兵士とどこかへ行ってしまった。
「王さま、お忙しいのですね」
「仕方ないですわ。でも、ああして働いているお父様の姿を見るのは、わたくしにとっても嬉しいことです。ミーティアも寂しがってばかりはいられません。……もう、ミーティアだって大人ですから」
そうよね。もう姫さまもあたしたちと旅していた頃の姫さまじゃない。婚礼だって控えている……。正式に発表されていないけれど、お日にちも決まったって言うし。
「ゼシカさん、ゆっくりしていって下さいね。たくさん、お話したいことがあるの!」
姫さまは楽しそうにお笑いになった。
お城を一回りして、ダイニングルームへ案内された。そこで昼食をごちそうになることに。
「ごめんなさい、ざわざわしてて」
ミーティア姫さまに続いて入ったダイニングルームは、たくさんの人でごった返していた。
「どうなってるの???」
兵士も、職人さんも、メイドさんもお役人も混ざり合ってもりもりごはんを食べている。
「お父様がね、復興の間は、兵士も大臣もコックも掃除係もみんな一緒にご飯を食べなさいって。だから、朝から晩までずっとこのダイニングはレストランなんですわ」
ミーティア姫様は、空いている席を探し、にこにこ笑ってあたしを呼ぶ。
「さ、ゼシカさん、こちらへ」
さすがに姫さまにはすぐに使用人が飛んでくる。
「こちらのゼシカさんにも運んで頂戴ね。忙しいのにお世話かけますわ」
「かしこまりました。姫さま」
ミーティア姫さまは、給仕の使用人にも笑顔を向ける。ねぎらいの言葉も忘れない。……なんて人格者なのかしら。一国の姫君であるのに。
あたしはちょっと恥ずかしかった。小さな村の地主の娘であるあたし……メイドたちに冷たくしていたこともあったわね……反省しなきゃ。
「……カ、ゼシカ!?」
「えっ?」
聞き覚えのある声が近づいてくる。
「ゼシカ! やっぱり。来てくれたんだね、久しぶり!」
「エイト!」
エイトが笑顔でやってくる。
「まあ、エイト。ちょうどよいタイミングですわね、ごいっしょにお昼にしましょう」
ミーティア姫さまも嬉しそう。
「はい、では、ちょっともらってきます……」
エイトはそう言って厨房へ向かう。
エイトは自分でお昼をもらいに行かなきゃならない。だって兵士だから。
あたしたちの食事が届けられるのと同じくらいに、エイトも自分のトレーを持って戻ってきた。あたしの隣に座る。さすがに姫さまの両隣は空席。
「あら、エイトのとちょっと違うの?」
「そりゃそうさ。姫とそのお客様だもの。僕らとは違うよ」
なんとなくのぞいたエイトのトレー。同じ食事だけれど、エイトのはパンもおかずも山盛り。あたしとミーティア姫さまの食事は常識的な一人前と小さなスイーツがついていた。
「量が違うだけで、同じ料理だよ。スイーツは女性にサービス。ほら、見てごらん」
エイトに言われて見てみると、ちょっと離れた所で食事をしているメイドのトレーにも同じスイーツが載っていた。
「わたくしだけ特別なわけではないのですよ」
「うん、そうなんだ。王だって同じのを食べるんだよ」
にこにこと話す二人。王さまも同じ食事なんてすごいわ。
「お父様もここでいただくのよ」
「そうなんですか? みんなと一緒に?」
「そうなんだよ。でも、王は甘い物好きだから特別にスイーツ付きでね」
「へえ! 王さまらしいわ!」
エイトにお城の復興の様子なんかを聞きながらあたしたちは3人で楽しくランチをとった。
「ゼシカ、ゆっくりしていくでしょ? 夕食も僕はここでとるけど……」
「お夕食は是非、わたくしの部屋で。いいでしょう? ゼシカさん。泊まって行ってくださいね。リーザスのお母様にはエイト、連絡してください」
「もちろんです。……久しぶりだから、夕食の後、僕も話したいな。夜、時間取れますか?」
「ええ。そういたしましょう。楽しみですね」
「……じゃあ、姫、ゼシカ、また後でね」
そう言ってエイトはまた仕事に戻って行った。
エイトは食事の間ずっと笑顔で楽しそうだった。あたしも久しぶりのエイトの笑顔に癒された。でも……なんだろう。あの張り付いたような笑顔、営業スマイルって言うのかしら。あまりにも自然すぎて余計に不自然にも感じる笑顔。……ミーティア姫さまも。
「……姫さま、あたし泊めていただくわけには……。着替えもないし」
そうよ。急に泊まっていってなんて。
暗黒神を倒した日は勢いで泊まらせてもらったけど、それでちょっと実家によってまたすぐお礼参りの旅に出て……。
「着替えなら、ミーティアの服をお貸ししますわ。お洗濯もすぐにできますし、ほら、すぐに乾く魔法を使える使用人もおりますから……」
うーん、なんかちょっと強引に泊まることになってしまいそう……。まあいいか。お母さんには連絡してくれるみたいだし、エイトもいるし。
お昼ご飯の後は、姫さまのお部屋で過ごすことに。案内のメイドさんがお茶も運んでくれる。
暗黒神を倒した後、もとの姿にもどった姫様と、この部屋で過ごした。あたしたちは泣きながら、手を繋いで寝た。お姉さんがいたらこんな感覚なんだろうな、って思いながら。
「……リーザスはどうですか?」
「ええ、サーベルト兄さんがいないからなんとなく村の警備も危うかったけれど、トロデーンの兵士の皆さんも来て下さるし、村の若い衆もだんだん警備方面に力を入れてくれるようになってきたからなんとか軌道に乗りつつあります……」
なんて、最初はトロデーンやリーザスのことなんかを話していたんだけれど。
「……ゼシカさんには婚約者のかたがいらしたんですよね?」
「ええ。親が決めたことですけど。……もうポシャっちゃいました」
「ポシャ……??」
「ああ、あの、なんていうか、破談……かしら」
「まあ」
そういえばいたのよね、名前は確かラグサット。サザンビークの大臣の息子。あたしがドルマゲス討伐隊に入ってから、人生を見直す旅に出たらしいけど。リブルアーチでニアミスしてたってヤンガスが言ってたけどね。真相はどうだったのかしら。……まあ、どうでもいいわ。
「……それからは?」
「えっ?」
それからって、それからはエイトたちの仲間に入れてもらって、いろいろ終わったわけだけど……。エイトを好きになった気がして、でもククールに本気になっちゃって、結果ハートブレイクだったけど……。
「ゼシカさん、恋ってなんなのかしらね」
「……?」
ミーティア姫さまはふうっとため息をつかれ、お茶のカップを持った。
ゼシカはしばらくトロデーン城に滞在します。