「あれ? もう朝?」
暗黒神退治のお礼参り二日目。ポルトリンクの宿で朝を迎えた。
「……僕……?」
エイトは、ぱっと起き上がってキョロキョロする。
昨日は、まずサヴェッラを訪れ、あたしの実家、リーザスに行った。サーベルト兄さんが討たれたリーザス塔をお参りし、お世話になったトラペッタのルイネロさんを訪ねた。
「おはよ……ゼシカ」
「おはよう、エイト」
エイトは癖のある茶色の髪を、くしゃくしゃにしたまま、シャワー室に消えた。
トラペッタの後、ポルトリンクに来て泊まった。浜辺でおしゃべりしていたら、エイトが一人、眠ってしまったのよね。
ククールが背負って宿屋にきたけど、二人部屋が2つしか空いてなかった。ヤンガスがエイトと同室になりたがったけれど、ククールとあたしじゃ、あたしが危ないってヤンガスが言って。ククールはエイト一すじだから、あたしは全然危なくないんだけど、まさかそれをヤンガスに言うわけにもいかないし。ヤンガスはエイトとククールの同部屋は絶対ダメだって言い張って、あたしとエイトが同じ部屋に泊まることで落ち着いた。
あたしは、ヤンガスとククールが同部屋なんて、また酒盛りが始まると困るって言ったんだけどね。
野郎三人とあたしが一人ってククールが言ったけど、それじゃあきっとエイトがゆっくりできないってあたしが言って。じゃあ、エイトが一人で、残りがもう一部屋っていうのは、ククールとヤンガスが、お互いにエイトの部屋へ夜這いにいくんじゃないかって勘ぐって。
で、仕方ないから、この部屋割りになった。ついでに、旅の間はメンバーだけで飲んだくれるのはやめようって決まりを作った。さっきのルイネロさんとか、これからの……多分、ベルガラックのフォーグとユッケとか、第三者がいる所だけにしようって。ククールが、「誰がどこで見ているかわからない、勇者はロクなヤツじゃない」なんて噂になったら困るからって。いろいろ体面も気にしなきゃいけないのね、あたしたち。
で、夜のことだけれど、当のエイトは死んだように眠り続け、あたしを襲うんじゃないかっていう、ヤンガスの甘~い疑惑もあっさり裏切った。まあ、ヤンガスの本心としては、あたしがエイトを襲うんじゃないかってほうだったみたいだけど。
夕べは、ククールもヤンガスもなかなかこの部屋から出て行きたがらなくて。二人してエイトの枕元に陣取って、長いこと寝顔を眺めてたわ。……いいえ、眺めるなんて穏やかなものじゃなかった。すきあらば襲いかかろうとする野獣のようだった。
あたしは、天使みたいな寝顔で無防備に眠るエイトを守るために、わざわざ着替えを始めかけたけど、二人とも、全く興味ない感じで。ヤンガスなんてまるで子どもの着替えを見るような目をしていた。ククールは「ゼシカ、ストリップならホールでやってくれ。君ならかなり稼いでこられるぜ。ぱふぱふはやめておけよ」なんて。捨て身の攻撃も敢えなく撃沈。だから、ムチをふるってやった。「早く出ていかないと、エイトに双竜打ちをするわよ」って脅して。
二人は、すみません、すみませんて、揃って土下座。ほっんとーに、エイトが大好きなんだから。うちのパーティー。
もちろん、あたしだってエイトが大好きよ。守ってあげたくなる。あたしのほうが年下なのにね。おかしいわよね。
でも……エイト、あなた、これから……。
「あー、さっぱりした。やっぱり、潮風ってベタベタするね。……? ゼシカ、どうしたの? まさか、僕……ゼシカになにかひどいことを……」
シャワーを浴びてさっぱりした表情のエイト。髪をぐしゃぐしゃと拭きながら部屋に入ってきて言った。やあね、エイトったら。そんなわけないじゃない。
「何もないわよ」
「でも……じゃあ、どうして……」
エイトが心配そうにあたしを見る。
やだ、あたしったら、何泣いてんのよ! ちょっと今後のことが気になったからって……。トロデーンを出た時から、エイトとククールのことが気になって……。昨日ルイネロさんちでのククールの目に悲しげな光を見ちゃったからって……。あたしにはどうにもできないし……。そんなこと思ったら……。涙が出ちゃったんだわ……。
──コンコン。
タイミング悪く、エイト親衛隊の二人が入ってきた。
「兄貴、おはようございます」
「おーっす、邪魔するぜ、ゼシカ。起きたのか? お寝坊リーダー様は?」
キョロキョロと部屋を見回す二人。あたしがまだ身支度終わってないのなんて気にしないのね。
「なっ? 嬢ちゃん……どうして?」
「ゼシカ……、何があった!」
二人は、あたしが泣いてるに気づいてうろたえた。ククールなんか真っ青になって……。
「兄貴、まさか……」
「え? そうなの?」
「おい、会話がかみあってないぞ? ……ゼシカ、おい、ゼシカ!」
あたしはあまりにも面白い展開に、今度は違う種類の涙が出てきた。
「えっ? えっ? ゼシカ、僕……ごめん……? なのかな……?」
「兄貴、ああ、兄貴? あっ、いや、別にいけないことじゃねえし、そりゃあ、その、互いが同意の上でならって言いますか……」
ヤンガスがオタオタと何か言い出した。
何言ってるかわからないけど、言いたいことはよくわかるわ。
「……違うの、あのね……」
「違うって、嬢ちゃん、まさか無理やりっ?」
「おい、エイトっ! そうなのか?」
あらあら、ククールったら相当あわててるわ。「エイト」とか呼んじゃって。
ククールは、他の人の前では絶対に「エイト」って呼ばない。二人でラブラブしてるときの特別な呼び方だもの。
ククールは、シャワー浴びたてのエイトの前に立ち、何とも悲しそうな表情を作る。
「……僕、その……」
エイトの目が泳ぐ。
「ちょっと、聞いてよ。違うのよ」
あたしは可笑しくて可笑しくて、上手く言葉が出ない。
その上、ヤンガスがなんだかこの場を適当に納めようとごちゃごちゃ言うし、エイトは「ごめん?」を繰り返す。ククールは、「いや、オレは……別に……」とか言いながら絶望の深い淵に沈んじゃってるし。
「ゼシカ……」
エイトが腰にタオルを巻いただけの半裸のままであたしの前に来る。
あーあ。ホントかわいいわ。ククールが襲うのも……。なんて、やだ! あたしったら、恥ずかしい妄想を……。
「嬢ちゃん、何を照れて……」
「えっ?」
恥ずかしくて、あたしったら赤くなってる? いえ、にやついてくるのを我慢してるだけよ? ダメダメ、妄想は本人のいないところでしなきゃ。
「本当だ、やっぱりゼシカ……エイトに……。でも、それは、オレが……。うん、別に……」
ククールが消え入るような声でぼそぼそつぶやく。
「うそ? 本当に? ゼシカ、僕は何を……お嫁にいけなくなっちゃうようなコトを……?」
残念! 何もないわよ。
全くもって何もなし。
でも3人揃ってカモミールみたいに震えている。
「ぶっ……」
「嬢ちゃん?」
「ゼシカ?」
「……ぷぷっ……ふ、あはははは!」
こらえきれなくなって、吹き出した。
「あはっ……あはははは……くくくっ……」
ああ、苦しい。
「どうしたんだ、ゼシカ。ひいひい言って……」
「あ、兄貴、笑ってるでがす」
「……そうだね……」
「あは、あは、はーっ! あーおかしい! ごめんなさい、でもおかしくて……っふふふ……くっくっく……」
3人は、なにがなんだかわからないという顔をしながら、互いの表情を読みとっている。
「……ごめんなさい、本当、ごめんなさい。……何もないわよ。本当よ。残念ながら……ね」
苦しい、本当、苦しい。
涙が流れ続ける。
「えっ……じゃあ、僕は何か笑われるようなことでも?」
あーおかしい。なんで次はそうなるのよ。
「いいえ、何もないわ。エイトったら、石みたいに全く動かずに寝てたわ」
「そう? じゃあ、いいか……あっ、ごめん、僕、はしたないね、こんな格好。すぐ服着るから……」
エイトはパッと身体を隠し、再びシャワー室に消えた。
「なんだったんだ、今の展開はいったい……」
「ああ、まあ、なんつーか、リーダーとゼシカの間には、なんの間違いもなかったっつーことだな、うん」
「当たり前じゃないの」
「やっぱり、この組み合わせしかなかったな。ハニーの身が一番安全だった」
「そう? あたしはヤンガスと二人だって安全よ」
まったく、あたしは誰と一緒だって安全よ。でもヤンガスが勢いよく否定する。
「おい、嬢ちゃん! そりゃ駄目だぜ」
「おっ? ゲルダ姐さんに言い付けちまうぞ?」
ククールが大げさに言い返して。
「いえ、違うわ。ヤンガスは、エイトが危ないって言いたいのよ」
危ないっていうか、あたしはごめんだわ。同じ屋根の下で、彼らがいちゃついてるなんて。気になって眠れない。
ああ、嫌だ。ククールったら、一瞬にやりとするし。でもあたしもなんかムラムラする……?
「ごめんね、お待たせ」
やけにさっぱりしたエイトが戻ってきた。渦中の人の登場で、あたしたち3人の妄想タイムはおしまい。
あたしは男三人を部屋から追い出し、やっと自分の身支度を始める。まったく、このパーティーにはゼシカさん、ていう超スーパーナイスバディのレディがいるっていうのに、あたしが女の子だってこと、時々忘れてるんじゃないかしら。
宿屋で簡単なモーニングを済ませ、これから南の大陸に渡る。次はマイエラへ。修道院はまともに戻ったのか心配ね。
朝の様子で一話使ってしまいました。次こそマイエラへ行きます。