※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

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トロデーン城でエイトさんに雇われるようになっているヤンガスの話です。今の自分の状況を話します。


舎弟のお仕事

エイトの兄貴のご計画は、順調に進んでらっしゃるようだ。

なにしろ、暗黒神を倒し、竜神族の里で兄貴の出生の真実を知ってからというもの、毎日が忙しくてかなわねえ。

 

ククールの兄さんがトロデーンに捕まったと知ったのは、兄貴が俺に会いにゲルダんちにいらっしゃった時だった。いや、もう少し前から話そう。

 

暗黒神を倒し、お礼参りに各地を回った後、俺は仕方がねえからゲルダんちにいた。パルミドの情報屋や闇商人から仕事を請け負ったりしていたんだが、ある日ゲルダんちに兄貴がいらっしゃった。そして人手が足りないから、俺を私設警護人として雇いたいと。俺は言った。兄貴の警護をするのは構わねえ。というより、願ってもねえ事だ。だが、給金を頂くなんぞ、そんなもったいないことできるはずがねえと。だが、兄貴は、「そうじゃない、僕が自由に使える予算があるんだ。あちこち仕事で行くことがあるんだけど、いちいち宿泊費とか交通費とか、いろんな雑費を財務経由で清算する手間と時間がもったいないからって」とおっしゃった。俺は、絶大な信頼があるからこそ、トロデのおっさんはそういう予算を兄貴にお渡しになったと理解した。それならってんで、俺は兄貴の手足となり、働くことに。

 

兄貴は一つだけ強く約束をとりつけなさった。それは、「理由を聞いてはいけない」ってことだ。実際、そんな強い約束でもなかったんだが、俺はよく「なぜです? 兄貴」と、聞いちまうことがある。それは、俺の頭が悪いから、世の中のことで理解に苦しむことがあまりに多くて、昔からのクセなんだ。俺は兄貴に謝った。毎度毎度、兄貴に説明を求めて申し訳ないと。だが、兄貴は「ううん、違うんだよ、ヤン」と優しくおっしゃった。「ヤンには、僕がしてほしいことをお願いする。でもヤンが、おかしいな、やりたくないな、と思ったら、やらないでいいんだ。どうしてやらなきゃいけないのか僕に聞かなくちゃいけないような気持ちになるのなら、それはやっちゃいけないことなんだよ。そういう意味で、僕に理由を聞かないで。でも……例えば、やり方とか、手段とか、そういうことはどんどん聞いてね。目的は、聞かないでほしいんだ。僕が必要だと思うことだけを、ヤンに伝えるから」とおっしゃった。

 

そんなこんなで、兄貴は時々ゲルダんちへ来なさって、用事をおっしゃる。記念すべき初仕事は、ククールの居場所の把握だった。居場所の把握と言っても、ドニに滞在しているかどうかだけ。ククールの野郎に連絡を取り付けたい場合は、ドニの酒場のおばちゃんを通す。用事がない場合でも、2、3日にいっぺんはドニに所在を確かめに行く──。

 

兄貴はサザンビーク大臣の行方不明事件の時、真っ先に俺に連絡を下さった。俺は兄貴の言いつけどおりククールを迎えにドニに行き、一緒にサザンビークへ行った。その流れで竜神の里へ行き、兄貴の出生の真実を知ることになるが、また下界に戻ってからは、ゼシカの嬢ちゃんとゲルダを仲良くさせておけとおっしゃった。ゲルダんちに嬢ちゃんが遊びに来ても、なるべくククールの居場所を把握しておくためにドニへは行っておけと。

 

なぜか。俺は聞かなかった。だが、情報屋のところに通っていればなんとなく状況は分かる。ククールの兄さんが手配されているからだ。兄貴はそのことについて何もおっしゃらなかったから、俺も尋ねちゃいない。また、俺も誰にそんなことを話すわけでもねえ。ククールがドニにいるかどうかだけは分かっていたが。実際ククールは、ドニにいたりいなかったりしていた。サザンビーク大臣の件まではドニに入り浸っていたんだが、竜神族の里から帰ってからは、ちょくちょくドニから消えている。まあ、あいつはルーラができるから仕方がねえ。俺もいちいち追いかけることはしない。兄貴もそれでいいとおっしゃっていなさった。ただ、夜になるとときどきはドニに戻ってきていた。

 

聖堂騎士団や軍隊やらがパルミドもドニも、リーザスにも出張っていたが、兄貴はそれについて何もおっしゃっていなかった。俺は、ククールの兄さんを捕まえるためだと察していた。で、ある日のこと、兄貴がゲルダんちへいらした時、ククールの兄さんのことを聞いた。ちょうどゲルダが馬小屋でなにやらしていた時で、俺と兄貴はゲルダのこしらえた、こってりしたミートパイを食っていた。

 

「ククールのお兄さんが、トロデーン軍に捕まったんだよ」

「えっ?」

どこで、とは聞けなかった。聞いちゃいけねえような気がしていたから。だが、兄貴はおっしゃった。

 

「竜神族の里でね。ククール、最近ドニにいた?」

「あ、いや、夜はちょくちょく戻ってきやしたが、日中はほとんど見かけませんでした」

「そっか」

「ククールに、奴の兄さんが捕まったことを伝えますか?」

エイトの兄貴はフォークとナイフを皿に置きなさった。

 

「いや、いい。きっと噂が流れるよ。あの人が捕まったことはサヴェッラに報告しなきゃならないし、サヴェッラからサザンビークとアスカンタにも伝わる。そのあと各教会にも連絡が行くからさ。公にはしないはずだから、あれこれといろんな噂が広まるはずだ」

「わかりやした」

 

その後、ククールはゲルダんちに来ることはあったが、俺と必ず会うってわけでもなかった。ゲルダに伝言残したり、俺のいない時にゼシカの嬢ちゃんに会ったりはしていたようだが。

おかしなことに、ククールの兄さんが捕まった後も、ゲルダのアジトには監視の兵士がいなくならなかった。一体誰を見張っていたのか。俺か?

 

俺は兄貴の命令でトロデーン城へ行くようになっていた。俺はほとんど食堂にいて、兄貴からの指示を待っていた。兄貴が外出されるときの用心棒として同行することが多かった。兄貴と二人きり、とはいかなかったが、他の同行する兵士なんかよりもずっとお側に侍った。そして、行く先々で、お城の正式じゃない挨拶はほとんど俺が行った。裏の仕事ってことだ。トロデ王の名代として綺麗な仕事は兄貴が行い、そうでない、公にできないような、主にククールの兄さんのことや、ゴールドがらみのことは俺が担当した。おかげでサザンビークやアスカンタ、サヴェッラにまで顔がきくようになった。

 

兄貴がこんなことを俺にやらせなさるとは夢にも思わなかった。だが、山賊時代の知り合いや、もちろんゲルダがらみの奴が城や教会の関係者になっていることが分かり、なるほどと言わざるを得なかった。

どんな組織でも、裏の仕事は存在する。一般人には絶対に知られないことだ。それを俺のように裏稼業上がりで、それも幹部をつとめていたような大物が担当している。裏の仕事人として、絶対に仁義を通す奴らが集まっていることがよくわかった。兄貴は、トロデーンの裏の仕事人として俺を雇ってくださったんだ。なんて、なんてお優しくも頼もしいおかただ……。いつもの俺ならひとしきり涙にくれるところだが、もうそんな場合じゃねえ。俺は名実ともに兄貴の舎弟になれたことを実感し、そのことを天国の親分に心の中で報告した。

 

ああ、話が飛んじまったな。まあ、いつものことだが。それでだ、いよいよサザンビークへ婚礼の断りと、エイトの兄貴の認知に出かけることが決まったのに、ククールの奴がいねえから探せと兄貴からの指示があった。ったく、トロデーンの兵士はククール一人探すのに何日もかかりやがって。……なんてな。実はそうするようにと、エイトの兄貴からの指示があったから、こっそりククールに知らせておいたって裏話さ。で、そんなことを知らねえトロデのおっさんは、ククールがなかなか見つからねえことにイライラし始めた。ったく思い通りにならないと切れやがるところはちっとも変ってねえようだ。で、俺は兄貴から直々にククールの捜索を依頼されたってわけだ。

俺は早速ドニに行き、酒場のおばちゃんの所でビールを飲まず、なんて名前だか忘れたが、目印にしている酒を飲んだ。それを飲むと、ククールは姿を現す仕掛けになっている。俺はおばちゃんに伝言を残し、トロデーンで奴の到着を待った。

 

それからサザンビークへ婚礼の断りに行き、その日のうちにククールの奴はトンズラした。そういう計画だったからな。その後はククールがいねえいねえって城中大騒ぎ。なんでかって? 知らねえな。いねえから探せって、また兵士が探しまくっている。俺は探さなくていいのか、兄貴には聞いちゃいない。なぜなら、聞いてはいけないからだ。兄貴は俺に、「ククールのことを探すな」っておっしゃった。ただ、ドニの酒場にはできるだけ顔を出せって。

 

ククールの兄さんの食事を運んだ時もあった。エイトの兄貴が魔法の水だとおっしゃって、底に栄養分の書かれた紙を張り付けて運ぶ。なんで栄養分の書いた紙を張り付けるのかはわからねえ。「この水を飲むように言い、食事を残さず、全部食べ終わるまで見張れ」とおっしゃるから、その通りにした。俺は、これまで兄貴の指示に背いたことはない。どれもこれも、おかしなことだと思わなかったからだ。

 

 

それから日にちが過ぎて行くなか、エイトの兄貴と馬いや、姫さんの結婚式はいつになるのか話が上がってきた。ククールの捜索も引き続き行われている。……そんなある日のこと。

 

「サヴェッラへ一緒に行ってほしいんだ」

「兄貴、もちろんでげす」

久しぶりの外回り。それもエイトの兄貴と同行できる。

 

俺は小躍りした。もちろん、心の中でだ。嬉しそうにしちゃなんねえ。なぜなら、兄貴がお寂しそうだから。今日も背中がやけにお小さく見える。……姫さんとのご結婚は、まあ、俺にとっちゃどうでもいいことだった。俺は、生涯、兄貴のお側で、いや、お近くにいられればそれでいい。兄貴の用心棒として……。

 

「あれ、兄貴、船で行くんじゃねえんですか?」

城の後ろっ側に歩いて行きなさる兄貴に声をかけた。

 

「ああ、今日はね、ちょっと……」

兄貴が一緒に行く兵士にも目くばせする。この兵士は、いつも兄貴にへばりついていて目障りだ。どこへ行くにも一緒だった。

 

「ヤンガス殿、お声を小さくお願いします」

「す、すまねえ」

兄貴と兵士、俺は城の死角になる場所から兄貴のルーラでサヴェッラへ飛んだ。

 

「ヤン、ごめんね、詳しい話ができなくて……」

サヴェッラの兵士詰所に寄った俺たち。一緒に来た兵士がなにやらサヴェッラの騎士団員と話している時、エイトの兄貴がそうおっしゃった。

 

「いえ、何にも言わねえで下せえ。あっしは大丈夫でがす。……今回のオツトメ、あっしはなにをすりゃいいんでがすか?」

「うん、僕とあの兵士は、ニノ法皇と、あと他の偉い何人かの人に用事がある。ヤンは、裏の人と話してきてほしい。書簡はこれ……」

兄貴は小さな紙を取り出す。

 

「わかりやした」

「仕事がすんだらまたここへ来てね。僕の方もそんなに時間かからないと思うから」

まあ、いつもこんな感じで俺は裏の人間と話をする。ただ、今回は人数が多い気がする。見たことねえ奴もいて、ちょっと気合が入った。

 

「ヤンガス殿は、あちらのかたと……」

戻ってきた兵士は、俺にある人物を示し、自分はエイトの兄貴と一緒に詰め所を出た。

 

「ヤンガスか……」

「ああ……!?」

「久しぶりだな。……こっちだ。案内する」

俺は他の何人かと一緒に詰め所を出て、ちょっとうまく言えないが、詰所の近くの扉からまた別の通路を通ってある部屋に入った。

 

「……書簡を……」

部屋に入ると、サヴェッラの見慣れない騎士団員が書簡を集め、何人かで中身の確認を始める。

 

「おい、ヤンガスよ」

「……お元気でやしたんですね」

さっきの男だ。

実はこの人は、俺が世話になっていた親分のとこで一緒だった、いわば兄弟子だった。

 

「こんなところで会えるなんてな。ヤンガス、おめえも足洗ったんだな。一緒にいたのは渦中のトロデーン兵士長か」

「へい、兄さんは今どちらで?」

「ああ、俺はアスカンタに拾われた。……今回は大変なようだぞ?」

「そうなんすか?」

 

「おいおい、トロデーンとサヴェッラの対決だろ? のんきなヤツだな」

別の奴が寄ってくる。というより、ここにいる全ての目が俺を見ていた。

 

「……まさか、ヤンガス、何も聞いてねえのか?」

「ああ、なんにも」

俺がそう答えると、おいおい、と皆が失笑する。

 

「まあ、なんだ、おめえに余計なことさせないためだろ」

兄弟子はそう言って笑う。

 

なんでいなんでい、また俺だけがわかってねえんじゃねえか。まあいい。どうせこのあと話があるんだ。それでわかるだろう──。

 




交渉事には裏があります。ヤンガスはその担当です。次話へ続きます。
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