※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

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最終話です。マルチェロの脱獄とエイトさんとミーティア姫の結婚式の日の話です。ゼシカの語りです。ちょっとだけイシュマウリも語ります。第3章最終話「サヴェッラ移送の日」の、エイトさん側の様子です。


婚礼の日

「……ったく、どうなってんだか」

「そうよ、結局サヴェッラ送り?」

「あの状況じゃ、それ以外無理だった」

「……最悪にはならなかったんだから、もうそれで」

 

ヤンガスからマルチェロの処分について話を聞いた。サヴェッラの立場、トロデーンの立場、勇者の立場、そして世論。いろんなことをひっくるめて交渉しての結論。それがサヴェッラへの移送。

 

 

そうそう、あたしたちは今、イシュマウリさんのところにいる。

実はあたしたち4人は、エイトと姫さまの結婚式の朝に抜け出してきているの。

 

「いよいよなのだな」

「はい」

イシュマウリさんは竪琴を弾き、あたしたちはその音色を聴いている。

 

……いよいよマルチェロがサヴェッラへ。

 

「恩赦は全然のぞめなかった」

エイトが悲しそうにつぶやいた。

 

「仕方ねえべ。おっさんだって立場があるんだろ」

ククールが優しく微笑む。

 

マルチェロの恩赦の見込みがたたなくて、エイトはずっと焦っていた。それで万が一のために、って、マルチェロを脱獄させるための準備を、イシュマウリさんの月の世界でしていた。あたしとエイトはイシュマウリさんに魔法をならって、仕掛けをたくさん作った。移送の今日までに間に合ってよかったわ。

 

「うまくいけばいいね」

「そうだな」

「トゲトゲは大丈夫なのか?」

「まかせろ」

 

今回はヤンガスも一緒。4人でここへ来るなんて本当に久しぶり。

あたしたちは最終チェックをしながら、なんとなくのんびしりた時間を過ごしている。この月の世界って時間の経過がないから、麻痺しちゃう。まあ、これから脱獄なんて大それたことが控えてる張りつめた緊張感を隠すためなのかもしれないわね。

 

「……囚人一人と勇者4人の命を天秤にかけるなんて、誰も思いつかなかったでしょうね」

ホント、エイトったらヤンガスに無茶なこと言わせたわよね。

 

「ああ、みんなびっくりしてたぜ。サヴェッラと、特にトロデーン担当の奴は」

ヤンガスがちょっと得意そうに言った。

 

「だけどよ、お前の立場が悪くならねえ?」

ククールは作業の手を止めて……ほとんど作業してなかったけれど……エイトを見る。

 

「……立場。僕の立場ってなんだろう?」

エイトはため息まじりにそう言う。

 

「そりゃ、エイトの兄貴は世界を救った勇者であり、サザンビーク王室の王子であり、トロデーンの王でがすよ」

「ちょっとちょっと、エイトは王さまになるの?」

そんなことは、聞いてない。

 

「ならないよ。王さまなんて……」

エイトはふうっと大きく息を吐く。

 

「つまんないよ、王さまなんて。僕は……なんなんだろう……」

「エイト……」

 

なんかしーんとしちゃって。こんなブルーな花婿さんていないでしょうね。

 

「……マルチェロさんの恩赦はなくなったけど、サヴェッラへ移送されたら、確実に煉獄島行きだ。あそこから脱獄するなんてもうありえないよ」

「だから今、なんでがすね」

うん、と力なく答えるエイト。

 

「……あっしは、前にも言いやしたが、ククールの兄さんはもう放っておいていいと思うんでがすよ。あの人に暗黒神の全責任をおしつけてるみてえで、納得いきやせん。死罪なんざもってのほかでがす」

「まあ、そこがあたしたち一般人の結論よね。でも、サヴェッラや王室はそうはいかない」

エイトは黙っている。ククールも。

 

「……時が解決するのを待つしかないようだ。……さあ、お前たち、時は満ちている。行くがいい」

イシュマウリさんは竪琴を奏で始めた。

あたしたちは顔を見合わせる。

 

「……じゃあ、ここを出たら……ゼシカはゲストルームだね」

「ええ。それでそのまま同行すればいいのよね」

ここを出たらあたしは出発直前のゲストルームへ戻る。

 

「あっしは、牢へ行ってあやかし玉を牢のはしっこから順に転がす仕掛けをすればいいんでがすね」

「うん。闇の衣にしっかり潜っておいてね。たぶん、マルチェロさんの移送の準備で兵士がいるから気をつけて」

「合点でがす!」

ヤンガスは、牢の通路にあやかし玉を仕掛ける係。

 

「ククールは、とにかくいつものようにうろうろして女性に話しかけててくれればいいよ」

「なんだよ、いつものようにって……」

そんなこと言いながら、二人は笑い合う。

 

「……僕は、城を出発するまではみんなと接触しないつもりだ。僕は騎馬で、姫と王は馬車に乗るはず。ヤンも今回は先入りできないよ。例のあの監視の兵士は僕にべったりつくだろうから、みんなはなるべくいつも通りにしてね。サヴェッラへ着いても、ゼシカはなるべく姫の近くにいて、ヤンはサヴェッラの騎士団とかに挨拶して、ククールは……」

「わかってるよ、女性と親交を深めときゃいいんだろ?」

「うん。で、僕は多分みんなと別の控室に入る。そしたらヤンは僕を訪ねてきてね。そしたら僕とヤンは、またこの月の世界へ来る。ククールも同じタイミングで来てね」

作戦実行はそのタイミング。月の世界は時がないから、何かトラブルがあったとしても、このタイミングでリカバリーできる。そしてあたし以外の三人はトロデーン城に行き、脱獄を決行する。

あたしはとにかく知らんふりしていればいい。

 

「僕とククールで牢の壁を壊す。それまでヤンは牢内で頑張ってね。マルチェロさんを助け出すのに時間はかけられない。とにかく、僕たちは牢内に入ったら、ククールはマルチェロさんを確保して、僕はヤンと一緒に脱出する。もし、万が一失敗したらまたイシュマウリさんのところへ来て。ゼシカはそのままサヴェッラにいてね」

「わかったわ。とにかく、エイトはヤンガスと一緒、ククールはマルチェロと一緒ね」

「そう。ククールは、マルチェロさんと逃げるんだ。マルチェロさんをどこかに隠したら、すぐに結婚式に来て。もし脱獄の話が入ったら、式は混乱するかもしれないから、その前に姫と王に姿を見せるんだ」

アリバイってことね。

 

「わかった。……みんな、すまねえな。あいつのために」

ククールが頭を下げる。

 

「無事でいてね」

「ありがとな、ゼシカ」

 

「まあ、なんだ、困ったことがあったら俺を探してくれ」

「おう、頼りにしてるぜ」

 

「じゃあ、行こう。……イシュマウリさん、また後で来ます」

「うむ。気をつけるのだぞ」

 

イシュマウリさんにお礼を言い、エイトの合図で、あたしたちはそれぞれの持ち場に移動した。

 

* * * * *

 

身支度をして姫さまの所へ行く。姫さまはもう準備ができていて、少し緊張されているご様子。それでもしっかりと笑顔を見せて。

 

「いよいよですね」

「ええ。少し緊張していますわ」

 

メイドが朝食を運んで来る。ワゴンには少しの果物とお茶、小さな焼き菓子。

 

「ごめんなさいね、ゼシカさん。今朝は食欲がないのでこれだけなんです」

「いえ、お気になさらないでください。……あたし、失礼した方がいいでしょうか。姫さまは……」

姫さまの思いがけず力のない言葉に、あたしは退室を申し出た。

 

「お城を出るまで一緒にいてください。ゆうべから……お母様がいらしたら、と思ったら不安で仕方がありません。ごめんなさいね、ゼシカさんといるととても心強くいられるんですわ」

「まあ、姫さま……。もちろん、ご一緒におりますよ」

あたしじゃお母さんがわりなんてならないけれど、少しでも役に立つのならよかったわ。

 

 

──トントン

 

「どうぞ」

もう出発かしら。姫さまがお返事されながら立ち上がる。

 

メイドが出発を知らせにきた。

 

「エイトはどうしました?」

「兵士長はもう準備を終えて外へ出られております」

「そう。ありがとう。……では、ゼシカさん、参りましょう。私はお父様と馬車ですが、ゼシカさんたちはまた歩いていただかなければなりません。申し訳ありません」

姫さまはそうおっしゃってあたしを見る。

 

「いえ、大丈夫です。歩きは慣れていますから。あいにくのお天気ですけれど、雨降って地固まる……と言いますし……」

「ゼシカさん……ええ、ありがとうございます」

姫さまの控えめな笑顔に、あたしは「おめでとうございます」と言った。

 

 

姫さまと一緒にお城を出る。隊列は既に組まれていて、馬車の前では王さまが待っていた。

王さまとも少し話し、二人は馬車へ。馬に乗ったエイトがその横についた。

 

今日もひどい天気。雨はそれほどでもないけれど、風が強い。また竜巻でも起こりそうに地面から吹き上がってくる。馬車をひく馬もエイトの馬も少し興奮気味。

 

「んじゃ、出発だな?」

ククールがどこかから現れ、あたしの横に立つ。エイトは返事はせずに頷いて、前を向いた。ヤンガスがエイトの監視係と何やら話しながら、あたしとククールの前へ。王さまの合図で隊列は進み始めた。

 

今日はマルチェロに関することは禁句。マルチェロだけじゃない、「罪」に関することは話題にしてはいけない日。あたしたちが少し元気がなくたって大丈夫。心のどこかに「恩赦が認められなくて残念」っていう気持ちがあってもオーケー。口にしなければいいの。だからなのか、儀礼的なお話が多く、くだらないおしゃべりもない。

 

古代船に乗ってサヴェッラへ向かう。エイトと姫さまと王さまは船室へ降りて行った。ひどい時化だけれど、エイトは酔い止め薬のんだかしら……。

雨は止んでいたから、あたしとククール、ヤンガスは三人で固まったりせず、なんとなくばらばらで外の景色を見ていた。エイトの監視係はちょっと困った様子。それでもククールから目を離さない。やっぱり一番ククールを警戒しているのね。当のククールは、口説くメイドさんもいないから、しばらくうろうろしたあと、あたしの所へ来た。特に話すこともないし、適当にリーザスのことなんかを話していたら、サヴェッラへ到着した。

 

 

またひどく雨が降り出した。風も相変わらず。古代船、壊れちゃわないかしら。

サヴェッラ大聖堂へは階段を上っていく。濡れているから滑らないようにしなきゃね。二人の兵士に続いてエイトと王さまが、その後ろにヤンガス。その後ろにあたしとククールと監視係。その後ろはまた兵士。最後尾を姫さまが上ってくる。姫さまは数人の兵士に囲まれている。お身体が濡れないように守られているけれど、この嵐じゃ無理ね。あたしも後で乾かさなきゃ。

 

「姫さんじゃこの階段キツイだろうな」

「そうね。だからあとからゆっくり来るのね。滑ったりしたら大変だもの」

どうせいろいろな手続きとか準備ですぐに式は始まらないから、その間、姫さまには休んでいただける。

 

 

「では、エイト兵士長はあちらへ」

大聖堂の入り口で監視係がエイトを連れて行く。

 

姫さまと王さま、あたしと兵士数人は別の部屋へ。乾かす魔法で服や髪をさっさと乾かす。サヴェッラの騎士団員もやって来た。

 

案内された部屋の奥にもう一つ扉があった。姫さまはお化粧直しとか諸注意があるとかで前入りしていたメイドとその扉の向こうへ。あたしと王さまとククールはソファでくつろぐ。

 

「おっさんのおめかしはいいのか?」

「何を言うか、ククールよ。わしは準備万端じゃ。いつでもオッケーじゃ!」

軽口をたたく二人。その胸の内は知らないけど……とにかく、結婚式なんだから……。なんか、あたしすぐ焦っちゃう……だから脱獄の実行メンバーに入ってないのね。

 

「おう、ここにいたか」

ヤンガスがやって来る。

 

「おっさんよ、打ち合わせしてきたぜ。エイトの兄貴が先に大聖堂へお入りになる。その後でおっさんと姫さんが入場。おれたちゲストはもう間もなく呼ばれるってよ」

「そうか、ご苦労じゃった」

「んじゃ、エイトの兄貴に知らせてこねえとな」

ヤンガスが部屋を出る。

 

「あーあ、サヴェッラじゃ楽しそうなお姉さんもいねえしなあ。ちょっくら大聖堂の様子でも見に行って来るか。ゼシカも行くか?」

「いやね、ククールったら。またナンパ? 濡れるの嫌だし行かないわよ。あたしは姫さまのお側にいるわ」

ククールはにやにやして出て行った。

 

……これであたし以外の3人は、一旦イシュマウリさんの世界へ行く。

 

脱獄にかける時間は5分以内。あたしはこの控室でトロデ王に姿を見せながらお茶を飲んでいればよかった。王さまはそわそわしてて、あたしの様子なんか見ちゃいない。上手く行くといいけれど……。

 

 

 

* * * * *

 

「いよいよだね」

「へい」

「おう」

エイトの他二名も再び私の元を訪れる。

 

「じゃあ、イシュマウリさん、お願いします」

「わかった」

 

私は私の力を使い、エイトと銀髪の男をトロデーン牢の上へ、棘ヘルメットの男を牢内へ送った。ヘルメットの男は仕掛けておいたなんとかいう球体を牢の通路に転がし、闇の衣に隠れる。エイトと銀髪の男は、牢内のざわめきを探りながらじっと時を待ち、閃光が現れた後、破壊の呪文を使って天井に穴をあけた。

 

「あそこ!」

「よし!」

エイトがマルチェロを見つけ、銀髪の男が飛び降りる。

エイトは場所を移動し、もう一つ穴をあける。

 

『逃げたぞ!』

兵士の声の後、マルチェロと銀髪の男は消え去った。

 

ざわめきの中、エイトが牢へ飛び降り、ヘルメットの男と共に再びサヴェッラ大聖堂へ瞬間移動する。

 

銀髪の男は、自分で用意しておいた隠れ家にマルチェロを隠し、サヴェッラへ瞬間移動した。

 

万事、上手く行ったのだろう。エイトの望みは叶ったのだろう……。

 

* * * * *

 

 

 

そろそろ5分経つわね。ククールとヤンガスがこっちに姿を現す頃だわ。エイトは自分の控室に戻れたかしら……。

 

「おっ、うまそうな菓子が……」

ヤンガス!

 

この控室は扉がずっと開け放たれている。ヤンガスが自然に入ってきた。

 

「ヤンガス殿、あまり大きな声を出さないでください」

「す、すまねえ」

メイドに注意されるヤンガス。謝りながら、あたしの方を見る。笑顔だわ。脱獄成功ね?

 

「ヤンガスか、ククールはどうした?」

王さま、さっそくククールの所在を確認してくる。

 

「あれ? さっきバニーガールを口説いてて、モリーに怒られてたぜ」

「モリーさん来てるの?」

思わず聞くあたし。

 

「ああ、今大聖堂の中をのぞいてきたんだが、ルイネロのおっさんもいたぜ」

「へえ! ユリマちゃんは?」

「占い嬢ちゃんはいなかったなあ、なにしろ、入ろうとしたら聖堂騎士団の奴に怪訝な目で見られて、すぐに追い出されちまったから」

婚礼の参列者なのに、見た目が怪しいからこんなことに。

 

「やだ、ヤンガスったら……」

なんて話をしていると、ククールがやって来る。

 

「なあ聞いてくれよ、ゼシカ。モリーのおっさんとルイネロのおっさんが……」

「今聞いたわ。モリーさんとこのお姉さん口説いて叱られたんですって?」

「あはは、まあな。あれ、姫さんはまだなのか?」

「あたしたち、控室にいるけど、姫さまには会えないわよ。あたしたちはこのあと先に大聖堂に移動するんだから」

「そうだったそうだった」

ククールはそう言いながらソファに座る。自然体で。王さまは怪しんでいないわね。

 

あたしたちは参列者として姫さまと王さまより先に大聖堂に行かなくてはならないんだから、ククールが消えるのはそのタイミングしかない。大聖堂に入っちゃったら出られないし。

脱獄の知らせはまだきていない。

 

マルチェロをどこへ連れて行ったのか知らないけれど、時間がかかり過ぎるのは危険よね。二人がここに現れてからもう5分は過ぎてる。ククール、もう行ったほうが……。

あたしったら、そんな心配が顔に出ちゃったみたいで、ククールに『ダメダメ』って顔をされた。あわてて目をこすってごまかした。するとサヴェッラの騎士団員がやって来る。ああよかった。

 

「参列者のかたがたは移動をしてください」

サヴェッラの騎士団員が言った。この人の後をついていくみたい。

 

ああ、脱獄の知らせは……? ククール、どうするかしら。とりあえず、控室を出る。兵士もいるけれど、そんなに人数多くない。てゆーか、この兵士は監視よね。大聖堂には入らないはず……。控室から大聖堂まではあまり距離はない……一旦外へ出る。すごい風が吹き付けてくる。

 

大聖堂の正面に回り込む。あたしは特に話もせず、ヤンガスとククールと並ぶ。ククールは、ちらちらと辺りに目を配っている。今回の婚礼は招待客の他、ゴールドでも積んだのかしら、一般のお金持ちそうな人たちもたくさん大聖堂に入っていく。人が増えてざわついている。チャンスね。

 

「じゃあな……」

耳元で小さくそう言ったククール。あたしはククールの方を見ずに、頷いた。ヤンガスも。

 

ククールは人ごみに紛れ、すごく狭い通路から大聖堂の裏手に回り込んで行ったようだった。周りの人は誰も気づいていない。あたしもヤンガスも歩みのテンポを変えず、まっすぐ前を向いて進んで行く。ああ、でもなんだか汗が……。

 

大聖堂の扉はもうすぐ。今は開け放たれている。一般の参列者もぞろぞろ入って行くわ。これだけ騒がしければ大丈夫よね。あたしとヤンガスは普通に入っていき、なんとなく別の列に座る。あたしの隣はモリーさん。ヤンガスの座った列はマッチョやらあらくれやらお坊さんとかがいる。ククール、もうルーラしたかしら。この嵐だから姿は見られずに済むだろうけど……。

 

一度、扉が閉じられる。ニノ……現在の法皇であるニノが登場した。場が静粛になる。あたしの胸の鼓動はひどい。こんなにドキドキしたことはない。何しろ、早くお式が始まってほしい。

 

扉が開く。一同扉へ目をやる。徐々に開いていく隙間から、赤い鎧を身につけたエイトの姿が見えた。完全に開くと、エイトが一人でバージンロードを歩いてくる。ちょっと緊張した感じね。あたしやヤンガスの姿を探すことはしない。まっすぐにニノ法皇の前へ。エイトはニノ法皇と何か話している。何の話かとひやひやしたけれど、ニノ法皇はにこやかに受け答えしているから脱獄の話じゃないわね……。エイトったら「本日はよろしくお願いします」とか言ってるのかしら……。

 

再び扉が閉じられる。

 

「トロデ王とミーティア姫をお迎えします」

閉じられた扉の前で係の騎士団員がそう言った。参列者はみんな扉に注目する。騎士団員はゆっくりと扉を開く……。

 

荘厳なパイプオルガンの演奏がはじまり、真っ白な花嫁衣装に身を包んだミーティア姫さまが、トロデ王にエスコートされて入ってくる。「お美しい」とか「すばらしい」とか、あちこちで感嘆の声がおこる。そんななか、

 

「むっ?」

隣でモリーさんが変な声を上げた。

あたしはそれは気にしないようにして姫さまたちの姿を見守る。

 

「どうしたの、モリーちゃん?」

マリーさんが小声で尋ねた。

 

「いや、プリンセスの表情が……」

「えっ? どうかした?」

「気のせいか、少しこわばっておられる」

「そうかしら……。緊張してらっしゃるのよ、きっと」

「そうだとよいのだが」

モリーさんとマリーさんの声は、オルガンの音の中でほとんど聞き取れない。

 

あたしにもわかるわ。姫さまは緊張なんかじゃない、荒ぶる感情を押さえてらっしゃる。パッと見は緊張されているように見えるけれど……。姫さまたちの耳に入ったのね。脱獄のことが!

 

パイプオルガンの響きはますます大きくなり、儀式の緊張感が最大になっていることがわかる。ニノ法皇は何も知らない顔で花嫁と王さまを迎える。

 

この状況で脱獄がどうのとか言ってる場合じゃない。式を行わなければならない。この時間にククールはマルチェロをどこか安全な場所に移しているに違いない。どうかお式が長引いて、ククールたちの捜索が遅れますように……。

 




第5章終わりです。第6章はマルチェロ視点です。時系列的には第4章の続きになります。
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