「……兄貴、もう一回言って?」
「だから、マイエラかオークニスへ行こうと思う。お前の傷は薬でないと治らない。医者に見せる気がないのなら、私が治してやる」
「ダメ。外へ出ちゃいけない」
「ならばお前がもらってこい」
「いらねえよ。薬なんて」
「そうはいかない。傷がどんどん悪くなっているんだぞ」
ある日のこと。私たちは、朝からずっと同じ問答を繰り返していた。
弟の怪我は相変わらず酷く、私の回復呪文だけでは間に合わなくなっていた。このままでは、取り返しのつかないことにもなりかねない。
「大丈夫だって。心配するな」
「私はお前に養ってもらっている身だ。お前にもしものことがあったら、餓死してしまう」
「……何だよ兄貴。かわいいこと言ってくれるんだな……」
「おい、よせ! そういう意味では……」
下手に出たのが間違いだった。私が困るから薬が必要だと言ったことが、ククールを喜ばせてしまった。
せっかくの休みだったのに、私を相手に日中ずっと性欲を吐き出させてしまったのだ。日が落ちた今、ククールはぐっすりと眠っている。
「バカな奴だ」
私は髪を整えてやり、上掛けをかけてやる。
頬の肉は落ち、薄暗がりで見るククールの顔は、角度によっては骸骨のようだった。
このままでは、近いうちに倒れてしまう。しかし、ククールも回復呪文が使えるため、きっとギリギリまで持ちこたえてしまうだろう。倒れるときは、かなりの重体になっているはずだ。
私は夕食のスープを作り、こっそりと家を出た。
* * * * *
ここへ来て5ヶ月。私は初めて外出をした。
薬が必要だ。ククールを治すための薬が。マイエラへ行くかオークニスへ行くか。本当はマイエラへ行きたい。薬に詳しいあの騎士団員ならば。ゴルドから無事に帰っていればよいが。あの者なら話を聞いてもらえるだろう。
だが、私は教会と無関係になった。私がマイエラを訪れることでククールに迷惑がかかりはしないだろうか。
私は、オークニスに行くことに決めた。商人のテントまで歩き、キメラのつばさを購入した。
* * * * *
吹雪の国、オークニス。王室の支配のない国。この国の民は、自分の身を自分で守ることを知っている。
確か、グラッドという名だったか、賢者メディの血をひく男。
特徴的なオークニスの街へ入る。雪や寒さから遮断された街の中は、回廊造りになっていた。グラッドの診療所は無人であった。教会で尋ねると、グラッドは自宅に帰っているという。
私は吹雪の中をグラッドの家へ向かった。
オークニスでは、一連の騒動について語る者もなく、元お尋ね者マルチェロにも全く無関心であった。私が私であるかどうかなど、確かめようともしない。名乗ったところで、「だから?」とでも返されそうな雰囲気であった。
少し気持ちが軽くなったのを自覚する。と同時に、無意識に自分の身を案じていたことを突きつけられ、少なからず衝撃を受けた。私は、そんなに強い人間ではなかったのかもしれない。
グラッドは、私に会うだろうか。関係ない、と言って門前払いをするかもしれない。だがその時はその時だ。
グラッドの家が見えてきた。あかりが灯っている。私は扉の前で小さく深呼吸をした。
「どなたです?」
ノックのあと、すぐに返事があった。
「マルチェロと言う者です。グラッド殿に薬の相談をしに参り……」
挨拶の途中で扉が開く。
「!」
私の姿を見ると、グラッドは目を丸くした。
「突然訪ねてきて申し訳ない……」
「ククールさんのお兄さんですね。さあどうぞ、お入り下さい」
「お一人で?」
「はい……っ…それにしても辛いですな……」
温かい部屋に通され、オークニス名物のヌーク草茶を振る舞われた。ひどく辛いが、身体がすぐに温まる。
私はククールと暮らしていることを話し、魔物の切り傷に効く薬を処方してもらった。
「突然なのにかたじけない。大変助かりました」
「いえ。それより、ククールさんの具合が気になります。魔物の傷は、刀傷等と違い、種類によっては毒性があります。菌も入りやすい。実際にお会いしたいところですが、患者をかかえておりましてそちらに伺うわけにも参りませんし……」
クラッドは、すまなそうな顔をする。迷惑をかけているのはこちらであるのに。
「わかります。ご足労願うわけには参りません」
「では、是非こちらにおいで下さい。ククールさんもお忙しいとは思いますが。……オークニスには、あたたがたをどうこう言う者はおりません。……ご存知ないと思いますが、あなたの評判は悪くないのですよ」
なぐさめの言葉なのだろうか。そんなことを言われ、私は返事ができなかった。
グラッドに見送られ、私は砂漠の家へ戻った。
* * * * *
ククールはずっと眠っていたようだ。作っておいたスープも食した様子がない。
私は、グラッドにもらった薬を早速ククールの身体に塗った。微妙にヌーク草の匂いがする。
「……?」
すぐにククールは目を覚ました。ひんやりした感触で気づいたのだろう。
「兄貴? 何やってんの?」
「何って、薬を塗っている」
「……薬?」
ククールは眉をひそめる。
「この匂い……」
「塗り続ければ、5日で……何をする!」
ククールは、私の手から薬の瓶を叩き落とした。
「ふざけんなよ兄貴! 何しに行ってんだ! 外へ行くなっつったろ!」
私は肩を強く掴まれる。
「……すまん。だがお前の傷が……」
「オレが寝てたから出かけたのか? もしかしてオレが竜骨の迷宮行ってるときも出かけてんのか?」
ククールはサファイアの瞳をまっすぐ向けてくる。
「お前の留守に出かけたことなどない。本当だ。初めて外出したのだ。どうしても薬が……」
「薬なんていらねえんだよ! 兄貴は外へ出るな!」
ククールの剣幕に、返事ができないでいると、ククールは私を寝台に押し倒した。
「どこへも……なあ、どこへも行くな。兄貴、行かないでくれよ……」
ククールは乱暴に私の物にむしゃぶりつく。
ぐっ、ぐっ、と、音をたてながら喉奥までくわえこむ。
「兄貴、兄貴……」
「……よせククール……」
「なんで? 気持ちよくないの? ねえ、オレばっかイッてるから怒ったの?」
「そんなことはない」
「兄貴、なかなかイカないじゃんか……オレが下手なのか……?」
ククールは、舌を使って私を煽る。
「……そうではない……っ」
「ああ……おっきくなった……ねえ、出してよ……オレ、飲むよ、兄貴の……」
「やめ……」
身体を放そうとしても、がっしりと押さえつけられてままならない。その間にも、ククールの激しい愛撫が続く。
「あっ……」
「いいよ……ねえ、出して……。よくなってよ……」
ククールは、後ろの孔に指を当ててくる。
「うっ……やめろ」
「だめ……欲しがってる。ほら……イッていいよ……そしたらこっちも可愛がってあげるから」
「やめろ……っ………!」
私はククールの口に射精してしまった。
ククールは人差し指と中指を自分の口に入れ、私が放出した精液をからめとり、私の後孔に挿しこんだ。
「うっ……」
思わずうめいた私の顔の正面で、ククールはごくりと喉をならして口の中のものを飲み込んだ。
「ああ……兄貴、オレのものだ……」
舌なめずりをしながらのぞきこんでくる美しい獣。本性をむき出し、私に襲いかかってきた………。
「勝手に外へ行くなよ」
ククールに初めて犯された翌朝、ククールはいつものように竜骨の迷宮へ仕事に出かけた。
私は、全裸で床に寝かされ、両腕は寝台の足に縛り付けられていた。足は膝から下をぐるぐる巻きにされた。そして、この状態で排泄もしろと、たらいに尻を入れられた。
ククールは精神的に追い込まれています。マルチェロはしばらくやられっぱなしです。