「あの薬、販売禁止になっちゃった」
「当たり前だ」
数日前、妙な媚薬を手に入れてきたククール。翌日の仕事がなかったからよかったが、その次の日は午後の仕事をキャンセルしていた。
「あの時の兄貴、凄かった……エロかった」
「うっとりするな。薬のせいだ」
ククールはいたずらっ子のようにぺろりと舌を出す。
「死人がでたんだって」
「何?」
あの薬はそんなに強いものだったのか。
「危なかったよ。オレ、一回で使っちゃったけど、本当は十回分なんだって」
なんということだ。十回分を一度に……。それもそのはず、あれほどの効果は、私の祈祷体験の中でもなかった。祈祷先の相手が、常識はずれでなくてよかった。
「オレたちは、並みの体力じゃないからね。ちゃんと放出して耐えられたんだよ」
「喜んでいる場合ではないだろう。死人が出たのだろう?」
「うん。まあ、オレたち無事だったから言うけど、あの薬剤、マイエラでは禁止になってたんだって」
「マイエラでは?」
「うん。マイエラやアスカンタ辺りに生えてる草から取れる薬なんだって。で、どっかの誰かさんが、薬物はいかん、て言って。だけど高い滋養効果があるから、医薬品として許可制にしたんだってさ。マイエラ修道院で管理してる」
「……………」
「西の大陸には生えてないから、規制もなくて、誰かがこっそり密輸してたみたい」
「よく見つけたな」
「オレは、客からもらったんだけど、そいつは商人のテント裏で買ったって言ってた。どうやら味をしめた密売人が、サザンビーク城のバザーでこっそり売ったらしいんだ。で、死人が出て大騒ぎになって、すぐお縄になったんだってさ」
「お粗末な奴だ。死人はどうしたのだ?」
「なんか、薬物中毒気味の人だったらしいよ」
「気の毒なことだ」
「じゃあ行ってきます。いい子にしててね」
私は相変わらず手足を縛られ、たらいに尻を入れられている。
ククールの好きなようにさせているのだが、果たしてこれが奴のためになっているんだろうか。
そういえば、弟の口からマイエラやサザンビークなどの言葉を聞くのは久しぶりだった。あの薬物をマイエラで禁止し、修道院で管理するようにしたのは私だ。
私は目を閉じる。することはない。だから考える。
ククールの身体のことだ。どれだけ気をつけていても、魔物から攻撃を受けないではいられないはずなのだ。だがククールには目に見える傷がそう増えていない。自分で薬を見つけたのか、支給されているのか。
このままでよいはずもないのだが、何か言えばまた怒り出すし、私も痛い目に会うのはごめんだった。
「ただいま。午後キャンセルになっちゃった」
昼過ぎにククールが帰ってきた。
「その代わり、明日からしばらく休みなしなんだ」
今日はずいぶんと機嫌が良い。
これならば、少しなら意見しても大丈夫だろう。
すぐに酒に手を出すククールを咎めれば、「はあい」と素直になる。少し手の込んだ料理を作ると言っても、文句を言わずに手伝いを始めた。
「料理の腕が上がったよね」
「そうか? 通常のまかない料理ではないか。……ドニやマイエラの料理だ」
「まあね」
ドニ、マイエラ、という言葉を出しても、特に動揺することはなかった。いや、ククールが動揺するはずもない。動揺するとすれば、私のほうだ。
粉を、ぶどうの酵母と少しの塩と油脂で練り上げ、布にくるむ。
「オレ、パン好きだな。木の実のペースト塗ったり、オリーブの油や香草のせたりしてさ」
「木の実か。お前は木の実が好きだな。クルミか?」
「うん。クルミが一番好きかな」
「……この西の大陸ではどんな木の実があるのだ?」
「そんなに変わらないよ」
「お前は世界中を旅したのだろう? なにか珍しい物など……」
「……………」
こぼした粉を片付けていた手が止まる。……地雷を踏んだか。
「何なの?」
「何がだ」
「何を言わせようとしてるんだよ!」
「他意はない」
「誤魔化すなよ。オレがどんな旅したのかなんて、兄貴には関係ねえだろ!」
「ないな。すまなかっ……」
洗っていた布を取り上げられる。
「何で謝るんだよ。何で兄貴が謝るんだよ!」
「お前が怒るからだ。私が気に入らない質問をしたからだろう? 言いたくないこともあるだろう。だから……っ! よせ、落ち着け!」
またやってしまった。
謝れば、余計怒らせてしまう。
「わかったよ……兄貴。知りたいことをなんだって教えてやるよ」
ククールの青い視線が迫ってきて、唇を塞がれる。
「その代わり、知りたくないこともしゃべってやる……」
私は寝台に押し倒される。
しばらく乱暴な口づけを与えられ、私が抵抗しないとわかると、ククールはゆっくりと顔を上げた。
「木の実っていえば、ドラゴンの大好物でジョロの実ってのがある。人の頭よかでかい実なんだぜ……」
「そうか……知らなかった……っ!」
私は右足に鈍痛を感じた。弟が、思い切り体重を載せてきたのだ。大腿の真ん中に思い切り乗られ、恐ろしく痛い。
「オレ、兄貴の足が好きだ」
「……そうか」
「斬っていいか?」
「!!!!!」
ククールの青い瞳は、狂気じみてはいなかった。
真面目に言っているのだ。
「斬ってどうする」
「抱きしめて、べろんべろんに舐めまくって、股に挟んで擦る。それから皮を剥ぎ取って、オレの足に被せる。血は全部飲み干して、肉も食ってやるさ。残った骨は、綺麗に洗って乾かして、それから……」
「それから……?」
「とりあえず、飾るさ」
ククールは、口の端を少しあげ、寝台の横の壁を指指した。
私の足の骨を、あそこに飾るというのか……。
「お前がそんなスプラッター好きとは知らなかった」
想像するのはいささか気持ちが悪いが、ただの世迷い言だろう。
「本気にしてないだろ。このへんから斬るんだぜ」
「!!!!!」
ククールは、右足の付け根に剣を突き立てた。
「これはなあ、ライトシャムシールっつって、使うとき長くなる剣さ。どこで買ったっけなあ」
ブスッという音と同時に、血が吹き上がる。
「ううっ……」
思わずうめき声を上げた。
この血の吹き出し方……動脈をやられている。
「骨を斬るなんて、オレにとっちゃカンタンだ」
「そ……そうだろうな」
「そうだ、木の実の話だったよな。そうそう、この右足を西の大陸だとすると、右肩のあたりはオークニスだな。オークニスには、ヌーク草っつって、クソまずいお茶になる辛い草があるんだぜ。木の実は寒すぎてあんまり採れねえらしいが、兄貴の血みたいに赤い赤い、酸っぱい木の実があるらしいぜ……」
「うっ……」
ククールは、レイピアを私の右腕の付け根に突き立てた。どくどくと血が流れる。
「あんたの右腕には、数えきれないほど世話になったな。あんたがさんざん振り回してたレイピアに腕が斬られるって、どうよ?」
「あまり……見たくはないな」
「だろ? 右腕は、レイピアで付きまくってあげたいところだけど、オレのあそこをしごくのに使わせてもらうよ。気持ちいいだろうな。ゾクゾクする」
ククールは、うっとりとそう言い、手の甲を撫でた。そして左腕に目を移す。
「……そうだ、リーザスの話もしなきゃね。リーザスは、大した食べ物はないけど、オレの大好きなクルミがたくさん取れる。兄貴にも食べさせてあげたいな。オレが口移しで食べさせてあげるから、この左腕もいらないよ」
「!!!!!」
左腕の付け根には、見慣れない剣を突き立てられた。
「じごくのサーベルっていうんだ。この剣。いい色だろ? 兄貴の血と同じ色」
「……さあ、兄貴には左足しか残ってないよ。ねえ、逃げる? オレから逃げる?」
「……逃げるわけなかろう。……私はお前と生きると決めたのだ」
「可愛いこと言ってくれるね……」
ククールは、私の左足に跨がり、股間を擦り付ける。
「あっ……あっ……」
私を見つめて腰を振る。
右足と両腕の付け根に3本の剣を刺され、私は出血のために意識が遠のいていた。
「あっ……あっ……あっあっ……」
ククールは限界に達してきたのか、息づかいが荒くなる。
「挿れたい……挿れたい……。あっ……あっあっ……!」
私は死ぬのか。
うすぼんやりした視界には、ゆらゆらと揺れるククールの白っぽい身体。鮮やかな、サファイアの瞳……。
「あっ……あっあっあっ! 挿れるよっ!」
激しく腰を振るククールは、一言「邪魔!」と言って残った左足の付け根に自分のレイピアを突き刺すと、疾風のごとく、4本の剣で私の手足を斬り落とした。
出血多量で生きちゃいないでしょうね。でもこれはファンタジーですのでご了承ください。