※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

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ククールに変化が表れました。


回復の兆し

「マルチェロさん!」

エイトが駆け寄ってくる。

 

「良かった……無事で……」

エイトは黒い瞳を潤ませ、笑顔を見せた。

 

「久方ぶりだ、エイト。いろいろ……すまなかった。君の力を借りたい」

「もちろんです。ククールは三角谷ですって?」

 

「ああ、そうだ。あ、いやそれより、姫君と結婚されたのであろう、気安く話してよいものか……」

 

「あ、いいのいいの。気にしないで、って、あたしが言うことでもないんだけど……」

「ゼシカの言う通りです。そんな大層な役どころじゃないですし」

 

「いや、しかし、正式にトロデーンの……」

「ね、マルチェロ、今はククールのことを……」

 

ゼシカに止められ、王室に入られたエイトにきちんと挨拶できぬまま、私たちは三角谷に飛ぶこととなった。

 

* * * * *

 

「久しぶり! みんなっ!」

三角谷、村の入り口で陽気な魔物が声をかけてくる。

 

「皆さん!」

ニンフのラジュも嬉しそうだ。

 

彼らがどれほど、世界中の人たちに愛されているか、よくわかる。

 

「ククールの具合はどうなんですか?」

「ええ。簡単な受け答えはできますが、はっきりしているとは言えません」

 

ラジュを先頭に、ギガンテスのところへ急ぐ。

 

「あ、みんな来た! おーい、ククール!」

ドラキーがうれしそうに飛び回った。ククールはギガンテスに寄りかかって眠っている。

 

「ククール……」

ゼシカ、エイト、ヤンガスが心配そうに近づく。

 

「あたしよ……。来たわ。エイトもヤンガスもいるわよ。心配しないでいいのよ……。みんないるわ」

「一体どうしちまったんだ? 元気になって早く飲もうぜ」

「ククール……、そうだよ、みんな待ってるよ……」

 

ククールは声がかけられたことに反応し、目を開けたが、うなずくような仕草をしたあと、再び目を閉じた。

 

「うーん。今は起きられないみたいだね」

ドラキーがそう言ってククールの顔をのぞきこむ。

 

3人は、ククールの頬を撫でたり、手を握ったりしながら、声をかけ続けた。

 

 

勇者たち。この若者4人が暗黒の神を倒した。その道のりは険しく、単なる武勇伝では語れない。

 

私は場を離れ、散歩に出た。

 

 

1年にわたる戦いの日々。常に死と隣り合わせの旅。迷いや不安もあっただろうに。

 

何が、彼らを進ませていたのか。

 

……正義か。

 

 

穏やかな風が、木の葉を揺らす。踊るように軽やかな日差しが、森を照らす。

 

「仲間……か」

思わず呟く。

 

私になくて、彼らにあったもの。

 

うらやましい、というのとは違う。それが普通だ。

 

私は仲間を求めなかった。騎士団は組織であり、仲間と言っても間違いではないが、彼らの「仲間」とは違う。

 

騎士団……。我々は、帰る場所は同じでも、神に仕えるという生活は同じでも、心はそれぞればらばらで自由だ。だが、それで良いのだ。

 

彼らは違う。離ればなれになっていても、心が繋がっている。

 

ククールは、その繋がりを切ろうとしているのだろうか。私のために。

 

マダム・アルバートが言っていた、私の一人行動は、トロデーンに報告すると。

 

ククールと別れても、誰かが常に監視をするしくみか。

 

それではククールがまた気を使うな。

 

どうすればいい?

 

いや、まずはククールが元通りになることを祈ろう。

 

彼らが側で話をしてくれれば、ひょっとしてククールの心も目覚めるのではないだろうか。

 

そう期待するよりほか、手立てはない。彼らの固い絆を信じるしか……………。

 

 

「マルチェロ?」

呼ばれて振り返ると、ゼシカが来ていた。

 

「あの、お昼にしましょうって。ラジュさんが……」

「ああ、すまない。探させてしまったようだな」

 

並んで村へ向かう。

 

不思議だ。この娘も、エイトやヤンガスのように、私の心に寄り添ってくる。

暗黒の杖に呪われたこのゼシカは、仲間に助けられた。

ゴルドで負けた後、共に戦えば良かったのだろうか。

今さら何を考えても意味はないが。

 

 

 

バーカウンターに軽食が用意されていた。ヤンガスが飲み水を配っている。

「エイトがいないようだが?」

「エイトの兄貴はククールについてらっしゃるぜ」

 

昼食を3人でとる。

 

「ずいぶん食べるのが早いのだな」

「ああ、俺か? またすぐトロデーンへもどらなきゃならねえんだ。あんまり時間がない」

ヤンガスは、数種類の野菜料理をまとめて口へ放り込み、水で流し込んでいる。

 

「トロデーン復興に忙しいのだな」

「まあな」

パンを一つポケットに入れ、もう一つをもぐもぐやりながら、ヤンガスは「じゃあな」と言って席を立った。

 

「忙しい奴だ」

「エイトもよ」

 

「?」

「エイトもヤンガスと一緒に戻るの」

 

「そうか。忙しいのはわかっていたのだが、君たちに力を借りるより他はないのだ」

「……良かったわ」

 

「何がかね?」

「マルチェロ、あなたがあたしたちを頼ってくれたこと」

 

「他に誰に頼れというのか。ククールのことで、最も信頼できるのは、君たち勇者諸君ではないか。たとえどんな謗りを受けようと、弟だけは助けて欲しい。……勝手なことを言ってすまない……」

 

 

 

ゼシカとヤンガスはほぼ毎日、エイトは5日に一度、弟に会いに三角谷を訪れてくれた。

 

「歩いたりはするんですよね?」

食事を運んできてくれたラジュに、ゼシカが尋ねた。

 

「はい。ときどきバーの方へもいらしてますよ」

「まさか、お酒飲んだり?」

ラジュは、ええ、もちろん、と言い、笑う。

 

「やあねえククールったら。お酒の味だけは忘れてないっていうのかしら」

ラジュとゼシカが声を上げて笑うと、ククールが目を開けた。

 

なるべく自然体でいたほうがいいということで、ククールが目覚めても、あれこれ確かめたり聞き出したりしないようにしている。

 

「ククール、お昼ご飯よ。あたしも一緒にいい?」

「ああ、もちろんさ、美しいお嬢さん」

「俺もいるけどな」

「ああ、いいぜ」

さりげなく声をかけると、ククールも自然に答える。

簡単な会話をするようになっている。だが、ゼシカやヤンガスを認識していない。

 

誰ともわからぬ人たちと食事をしている気持ちなのだろう、ククールは終始行儀よく、ときおり笑顔を見せて食事を進める。

 

私とラジュが食事の片付けをしていると、ククールはごちそうさまでした、と言う。私たちを従業員か何かのように思っているのだろう。

 

後片付けのためにラジュとバーへ行き、再びククールのところへ戻ると、ククールはギガンテスに寄りかかっていた。

 

「また眠っているのか」

そう言って顔をのぞくと、目は開いている。

 

「さっきまでおしゃべりしていたんだけど、急にこうなっちゃって……」

ゼシカがお手上げのポーズをする。

 

「あんま変わりねえなあ」

「ただ話してるだけじゃダメなのかしら」

 

良くなっている、と言えなくもないが、他の誰のこともわからないのが気になる。それでも皆、根気よくククールに声をかけてくれた。

 

 

 

そんなある日、待ち望んだ目に見える変化が現れた。

 

「散歩に行くか?」

まだ勇者たちは来ず、何気なく声をかけた時だった。

 

「うん、いいね」

ククールは、ギガンテスの膝から立ち上がり、自然に歩き始めた。珍しいことだった。村のバーへ行くときがあるが、それは天気が悪いときだけ。森にいたがるククールをどうにか説得し、連れて行く。ときには村の入り口までギガンテスに抱かれてくる時もあった。

 

それが、今日は自分で立ち上がり、どっちへ行くのか私に尋ねるような仕草をして歩き出したのだ。

 

「調子はどうだ?」

「ああ、まあまあかな」

歩みは遅い。少しふらついてもいる。

 

ククールが、間違いなく自分の意思で歩いている。バーへ行く、ギガンテスの所へ行く、という目的のあるものではない。散歩だ。

 

話している相手が、私だとわかっているだろうか。

興奮を抑え、ゆっくり尋ねる。

 

「私が誰だかわかるか?」

「んー?」

やはりまだわからぬか。

あわてても仕方がない。

 

「まあいい。……疲れたら言えよ」

「りょーかい」

「りょーかい」か。騎士団時代のククールの言い方だ。

 

私は、ククールを支えながらゆっくりと森を進んだ。

 

 

午前中の日差しはまだ弱く、木々の間から差し込んで葉を白く照らしている。光の反射があちこちに広がり、視界の隅でキラキラと瞬く。木の根に足をとられないよう、狭い歩幅で慎重に進む。

 

穏やかな朝の風が、私たちの間を通り過ぎる。小動物が葉を揺らす音に、別の生き物が驚いて逃げて行くのがわかる。

 

そっと顔を見る。歩きはじめにはぼんやりしていた表情も、なんとなくしまってきて、瞳に輝きが戻っているように見えた。

 

最初は足元が気になったのか、うつむき加減だった。が、歩きはじめて身体があたたまるうちに姿勢も良くなり、しっかりと顔をあげた。そしてふらつくこともなく、力強く歩き出した。

 

歩く速度があがり、汗がにじんでくる。

 

耳に入る二人分の足音は、騎士団の行進のリズムを奏でていた。

 

「大丈夫か? 速くはないか?」

「別に、平気です」

 

このペースで森中をぐるぐると歩くうち、私はあることを思いついた。

 

村の入り口へ来たとき、ククールの前に立ち、言った。

 

 

「……見回り、ご苦労だった。休んでいいぞ」

「りょーかいしました。団長どの!」

 

ククールは、はっきりそう言って、ギガンテスのところへ向かった。

 

 

やはりだ。今、ククールは騎士団にいるときの状態に戻っている─────。

 

治る方へ向かっているかはわからないが、大きな変化が現れたのだ。

 

早く彼らに報告したい。

 

私はエイトたちが来るのを、村の入り口で待ちわびた。

 




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