※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

7 / 78
お礼参り二日目、アスカンタ城を訪れました。ヤンガスの語りです。


食いしん坊ヤンガス

アスカンタ城では、俺たちの来訪を喜んでくれた。特にパヴァン王はにこやかに迎えてくれている。キラちゃんも一緒だ。

 

「トロデ王からの書簡、確かに賜りました」

エイトの兄貴からトロデのおっさんの手紙を受け取ると、さっと中身を確認し、キラちゃんにあずける。キラちゃんはそれを控えの兵士に渡す……キラちゃんはすげえな。王の側近なのか。

 

「まことに、皆さんにはお世話になりました。私が再び王として国を守ることができているのも、皆さんのおかげなのです。暗黒神を倒した勇者殿でいらっしゃいますが、私にとっては本当に恩人です。いくら感謝してもし足りないくらいです」

パヴァン王はそう言って、ずっとエイトの兄貴の手を握っている。……握手にしちゃ長いんだよ、早く放しやがれ……。

 

「ちょっとヤンガス! 何を怖い顔してるのよ……って普段とあんまり変わらないけど……。もう少しにこやかにできないの? 王さまがあたしたちの訪問をあんなに喜んでくださってるのに……」

ゼシカの嬢ちゃんに小声でたしなめられ、はっと我に返る。

 

そうだ。この王さまは悪い人じゃねえ。それに女好きの顔だ。兄貴をどうこう、というわけじゃなさそうだから握手も多めにみてやるか。それにしても挨拶がなげえなあ。

まあ、へちまうりの力とはいえ、長い喪を明けさせたのは俺たちのおかげだしな。

 

「……ミーティア姫は、サザンビークのチャゴス殿下とご婚約中でしたね」

パヴァン王は、ちょっとしたお茶会を開いてくれ、上品にカップを持ち上げるとそう言った。

 

……さすが、城、出される茶菓子も高級だ。俺はバタくさくなさそうなフルーツ系の菓子に手を伸ばす。まずは綺麗な色の寒天みたいな奴からだ。

 

「はい。まだトロデーンが落ち着きませんので、婚儀がいつになるか決まっておりませんが」

「ええと、君たちはサザンビークへはまだ行ってないのでしょう? アスカンタが先でよかったのかい?」

パヴァン王は、トロデーン兵士であるエイトの兄貴の立場を心配してくれる。うん、いい王さまだ。

 

……この寒天みてえのは、あんまり甘くなくて良かった。だが、腹にはたまらねえな。ここで茶菓子を御馳走になるってことは、エイトの兄貴は昼食の時間はお取りなさらないはずだ。昼飯にはまだ早いが、ここで少し食っとかねえと、晩までもたねえ。まあ、昼飯食っても、いつも晩までもたねえが。俺は砂糖のかかっていない地味な菓子に手を伸ばした。しまった、軽い!

 

「……旅の途中、お世話になったかたがたへのお礼は、旅で訪れた順番どおりにしようと思いまして……。サヴェッラだけは、一番に報告に参りましたが」

「そうか。サヴェッラにはもう行ったんだね。……まあ、君はトロデ王の名代だからね。きっちり挨拶を入れていけばいいよ。……それにしても、いろいろと、本当にお世話になった。今回の暗黒神の討伐はもちろんだが、何より、シセルを亡くした悲しみの淵から私を救ってくれたのは君たちだ。……改めて礼を言わせてくれ。ありがとう。さあ、どうぞ遠慮なく召し上がってください」

ヘタレなんて言って悪かったな。ちゃんと礼節わきまえてやがる……って、王なんだから当たり前か。

 

……さっきから遠慮なく召し上がっている俺。地味な菓子は軽かったが、皮の内側には酒のきいたやらかいクリームがたっぷり入っていやがった。これがうまいのなんの。もう一ついただいたんだが、今度そっちは違う酒のきいたクリームが入っていて、また、うまいのなんの。

 

「ちょっと、ヤンガスったら、クリームが顔についてるわよ」

嬢ちゃんに小声でたしなめられる。それを見ていらしたエイトの兄貴に紙の布巾を手渡される。

 

「す、すいやせん、兄貴」

「良かったね、ヤン。おいしい?」

「ええ、そりゃあもう。このかさかさした中に入ったクリームがうまくて……」

俺は腹にたまらないと言っていたかさかさした菓子を結局5個も食っていた。

 

……エイトの兄貴は木の実の乗った茶色い菓子を食ってらした。固そうなひも状のクリームがぐるぐると渦を巻いている。ありゃ、バタくさそうだな。やめておこう。

ククールの野郎は、茶だけだし……嬢ちゃんは、イチゴとクリームとクラッカーみたいのが交互に重なったのをものすごい技術で食っている。ナイフとフォークを巧みに……巧みにとしか表現できねえ技術で、ひとかけらのクラッカー片もこぼさず、もちろんクリームもこぼさず、イチゴの果汁もしたたらせず、だ。技術というより奇術と言った方がいいほどだ。

 

「どうしたの? ヤンガスったら……」

「すげーな、嬢ちゃん、その食い方」

嬢ちゃんは、まあね、と言って食い進める。

 

「ヤン、これなら食べやすいよ」

エイトの兄貴が入れ物にはいった菓子を取って下さった。ぷるりとした黄色っぽい表面。ちょっと焦げ目がついている。苦いのか?

 

「なんです?」

「プディングだよ」

俺はバタくさいもんは嫌いだ。基本的に乳製品は好まない。乳くさいのが嫌なんだな。だが、さっきのクリームみたいに他の味がついていると食ってしまう。兄貴が取ってくださったこれも乳製品ぽいが……。他になにかひっついてるわけでもない、この固めたクリームみたいのだけでできている。俺はさりげなく匂いをかいだ。……乳くさくはない。かといって酒の匂いもしてこない。兄貴が取ってくださらなかったら、俺は一生口にしなさそうな食い物だ。危険すぎる……。

 

だが、エイトの兄貴がにこにこして俺を見ていなさる。これは、なんとしても食わねば……。

おそるおそる匙で掬う。思ったよりは弾力がある。ふわりと酒の匂い。よかった、乳以外のものも入っている。この香りはラムか?

 

「うまい!」

「ヤン、よかった」

「ええ、兄貴、あっしは、こんなうまいと思いませんでげした。ああ、こりゃうまい」

底の方にはほろ苦い蜜のようなものものと、ラム酒に漬かった干しブドウも入っていた。もちろん、おかわりし、結局3つ食った。

 

俺がうまい茶と茶菓子を食っている間、俺以外は元ヘタレ王とずっと喋っていた。

 

兄貴が俺のほうをちらっと見てから「じゃあ、そろそろ」なんておっしゃったので、あわてて口をさっきの紙の布巾で拭いて立ち上がった。

 

 

 

「あー、うまかったっすねー兄貴?」

「そうだね。僕たち、アスカンタには好かれてるね」

「そうね。パヴァン王、いい人だわ」

「ヘタレっぷりもましになったよなあ」

そんなことをおしゃべりしながら、パルミド方面へ向かう。

 

「なあ、パルミドは誰に挨拶入れんだ? 情報屋か? まさかサウナの奴らじゃねえだろ?」

ククールがそんなことを言う。そういやそうだ。パルミド行ったって、俺たちが頭下げて挨拶入れるような輩はいねえだろ。サウナの奴なんて暗黒神討伐のこの旅になーんの関係もねえだろう。兄貴の話じゃ、素人相手に悪さしてるっていうし。ロクな奴らじゃねえな。おとなしくサウナ経営してりゃあいいんだ。

 

「そうだね……。闇商人のおじさんのところで取り替えてもらうものもないし。……酒場のご主人も微妙だよね」

「じゃあパスしませんかい? パルミドの連中は、暗黒神のことなんて、これっぽっちも気にしてねえでがすよ」

 

まったく、パルミドは昔から流れ者と盗人ばかり。まあ、中にはまともなやつもいるにはいるが、いずれにしろ世の中を小さくしか見てねえ奴らばかりだ。酒場の主と情報屋くらいしかまともに話は通じねえ。

俺は早く西の大陸へ渡りたかった。

 

「そうだわ、ヤンガスったら大切な人のところへ早く行きたいのね」

大切な? ベルガラックの兄ちゃんたちは別に……。

 

「おう、そうだな。急ぐぜ」

ククールが早足になる。

 

エイトの兄貴までクスクス笑いながらククールの後を急ぎなさる。

 

なんだってんです?

 

みんな南へ向かう。途中の教会で小休止し、また南へ。

 

「あっ、兄貴? どこから西へ渡るんでがすか? 他に行くところでも?」

毒沼なんかが見えはじめる。どこへ行こうってんですか。わざわざこんな南側から行かなくても、西の大陸には渡れますぜ?

 

「何とぼけてるのよ、ヤンガスったら」

とぼけてねえよ。

 

「ゼシカ、とぼけてるんじゃねえ、照れてんだろ」

何にも照れてねえ、って、うるせーぞ、ククールめ。

 

「ふふふっ、そうだね」

えっ? なんです? 兄貴まで……。

 

三人はにやにや笑っている。

 

 

「ヤン、そんなにそわそわしなくていいよ。でも残念だけど、今日中に西に渡るからね。ごめんね」

ごめんね?

 

「なんで兄貴が謝るんでがすか?」

 

みんな笑いながら前を向く。俺もつられる。

 

この道は……。

俺は……悪寒が走った。

 

ゲルダんちじゃねえか!

 

 

 

あいにく、ゲルダのやつはいやがった。

 

「また来たのかい? このうすらとんかち!」

痛え。刺されてもないのに、心臓が痛え。

 

「お忙しいところすみません、ゲルダさん。長い旅も終わり、僕たちは本懐を遂げることができました。ヤンのおかげなんです……」

兄貴は、さりげなく、赤い宝石をいくつか渡しなさった。ルビーにサンゴだな。それからキメラのつばさ。

 

そんなにやらなくたっていいでがすよ。

 

「……暗黒神ってのが消えたって? 勇気あるものたちが倒したって、みんな話していたが、あたしには関係ないね」

だろ? だから、兄貴、そんなに丁寧に挨拶入れなくていいんでがすよ。

 

「はい。ヤンの強さがあってこその勝利でした」

照れるぜ……。

 

「そうかい。それで?」

ゲルダが俺をじろりと睨む。

 

「僕たち、お世話になったかたがたへ挨拶して回っているんです。まだもう少し、ヤンをお借りします。今日はとりあえずご挨拶をかねてご報告に……」

「ああ、そういうことかい。でもそれもあたしには関係ないね。そんなどてかぼちゃ、好きにしたらいいさ。ただ、せっかくだから、あんたからの贈り物はもらっておくよ。……そうだ、ゼシカ、これ味見してくれないか? まだ上手くできないんだけど……」

ゲルダはそういうと、なにやら台所でごそごそ始めた。

 

「これ……ゲルダさんが?」

「ああ。ほら、早く」

ゲルダが嬢ちゃんに差し出したものは、俺の大好物、フィナンシェだ。

 

嬢ちゃんは不恰好なそれを一つ受け取り、口に運ぶ。

 

「……美味しい!」

「本当かい? お世辞言ってるなら勘弁しないよ」

 

「僕もいいですか?」

兄貴も手を出す。

 

「オレも頂きたいです」

ククールまで!

 

三人は、もぐもぐしながら揃って「美味しい」を連発する。

 

「ゲルダさん、バターが違うわ……美味しい」

「ああ、発酵バターってのしか手に入らないんだ。あんたのうちのとは味が違っちまうが」

 

「クルミの存在感がいいですね」

確かに、クルミが見える。

 

嬢ちゃんちのは細かくしたものが混ざって入っているが、ゲルダのはでかいまま豪快に上に乗っているのだ。

 

「へえ……プルーンも合うわ」

「こっちは酒がすげえ」

「ああ、プルーンはこっちの名産だからね。……酒はちょっと手がすべって……」

「あはは!」

俺以外のみんなは、フィナンシェを囲んで談笑している。

 

じゃあ俺も、と手を出しかけたらぴしゃりとやられた。

 

「これは味見だ。お前にやるのはない」

ひでえ!

 

「まだ格好よくできないし、材料が手に入りにくいから、小麦粉足したり、そのかわりアーモンドの粉を焼いてみたり、いろいろやってるんだ。……美味いって言ってくれて嬉しかった……」

 

ゲルダは、嬢ちゃんに「非常食だ」と言って山盛りのフィナンシェを寄越した。

 

「いいの? ゲルダさん。うれしい! ありがとうございます」

「わあ、ありがとうございます。大切にいただきます」

「ぜいたくな非常食だ!」

 

俺以外の3人に感謝され、ゲルダは居心地悪そうにもじもじとしていた。

 

 

 

俺たちは、ゲルダのアジト近くの海岸から古代船に乗り込み、西の大陸へ向かった。

その船の上で、なんだってまあ、こんなことに……。

 

「ってやんでい……ゲルダのやつ……」

 

「ちょっとヤンガス? いい加減機嫌なおしてよ……」

「ちょっとした遊び心だろ?」

 

「だからって……ざけんな、ったく……」

 

「アスカンタで食いすぎた罰だろ」

うるせえ。

 

 

ゲルダの寄越したフィナンシェの袋の中に、わざわざヤンガス用と書いたものが別に一つ入っていた。

 

「まさか、唐辛子入りとはね……」

 

辛いっ!

俺は西へ向かう船の上で泣いた。

 




ゲルダ姐さんのところに寄ったら長くなっちゃいました。次は西の大陸へ渡ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。