やっと西の大陸に渡ったオレたち。少し迷ったが、一応砂漠の教会に顔を出した。これから夜までに出来るだけの訪問しようと話をしていたのだが、エイトが急に竜骨の迷宮に行くと言い出した。
「いや、今さらレベルアップしなくてもいいんじゃねえでがすか? 兄貴もずいぶんお強くなりやしたし。もう暗黒神はいないんでげすから……」
「そうよ、それに、竜骨の迷宮ったって、メタキンに会えるかわかんないのよ?」
「うん、でもさ、スライム山に行っちゃったら、僕きっと止まんなくなっちゃうから、ここで手を打っておこうかと……」
なんなんだ、一体。
エイトはみんなから視線を外して竜骨の迷宮方面を見やる。
その割に、行こうとしない。
「ねえ、ヤンは行きたくないの?」
「行きたくねえことはありやせんが……」
珍しくヤンガスが「エイトの兄貴」に従わない。
エイトはうーん、と言って今度は下を向く。
「どうしたのよ、エイト。お礼参り、まだまだたくさんあるのよ?」
「そうだぞ、こんなところで寄り道してるわけにはいかねえだろ」
ゼシカもオレも苦言を呈す。
だが、エイトはうつむいたままだ。
「……ねえ、エイト、竜骨の迷宮に行った後はどうするの? 今日中にどこまで回る? そのくらい計画しておかないと、後半は駆け足になるわよ?」
「うん、そうなんだけど……」
ゼシカにそう言われ、仕方なくオレたちの方を向く。
「ええと、サザンビーク城でしょ、ベルガラック、ラパンさんのところ、不思議な泉、海辺の教会、かな。他にある?」
ゼシカが指を折って数える。
「そんなところだな」
「そうだね」
どうしようか、とオレを見つめるエイト。
「エイトが決めてよ。あたしは何でもいいわよ」
「あっしもでがす」
「オレもだ」
エイトはうん、とまたオレを見つめる。決められねえのか?
「どうした、リーダー?」
エイトは困った顔になり、うつむく。なんなんだ一体。仕方がねえからオレが順番を決めてやると口を開きかけたとき、場を和ませようとしたのか、ゼシカがこんなことを言い出した。
「ねえ、レティシアって、いつ行けばいいのかしら。あそこは船でも行かれるわよね」
「そうか、レティシアか。じゃ、今行こう。レティシアに!」
エイトは急に元気になり、オレたちの返事も聞かずさっき船を降りた場所へずんずん進んでいく。
「ちょっと、何よエイトったら急に!」
「うん、ごめんね、レティシアのことちょっと忘れてたよ。レティスってまだいるのかなあ」
「トロデーンに下ろしてもらったとき、いろんな世界に行ったことがあるって言ってたから、他の世界でまた何かゴタゴタに巻き込まれてるんじゃねえでがすか?」
「そうかもしれないね」
そんなおしゃべりをしながら、再び古代船に乗り込む。
ゼシカに舵を任せ、レティシアを目指した。オレはエイトの船酔いが気になったが、ウキウキした表情でヤンガスと喋っているから大丈夫だな。
すぐにレティシアに到着。レティシアは、温かくオレたちを迎えてくれた。
「……勇者殿、やりましたね!」
村人が集まってくる。長老も出てきて歓迎してくれた。
昼時だったため、長老の家でごちそうになりながら、暗黒神討伐の話を、レティスが主役のようにして話してやった。
まあ、村人の喜ぶこと喜ぶこと。
「なんか、ちょっと盛ってない?」
話が途切れた所で、ゼシカが小声で言う。
「いいじゃねえか。どうせここの人はオレたちの世界に来ることはないんだから」
「え? そうか、じゃ、いいか」
ヤンガスが同意し、さらに話を大きくする。
適当に面白おかしく話してやった後、オレたちはレティスの止まり木へ行った。レティスの姿はない。
「やっぱりどっかに行っちまったんでげすかねえ」
「怖い鳥だったけど、いなきゃいないでさみしいね」
村人も、レティスのことは最近見ていないと言っていた。伝説のレティスが一つのところに居続けることは少ないとも。
まあ、伝説なんだから、そうちょくちょく姿を見せてたらありがたみにも欠けるしな。
「とりあえず、戻るべ」
そう言ったのはオレ。だが、エイトはふうっとため息をついた。
「……どうしたのよ、エイト。行きましょ」
「うん。……ねえ、今ここで、これから行くところの順番決めていい?」
「え? ええ。別にいいけど。いいわよね? ククールもヤンガスも」
妙なことを言いだすエイト。ここで順番決めなくてもいいだろうが、特に反対する理由もねえ。オレもヤンガスも承知する。
「じゃあ、ベルガラックとサザンビーク、ラパンハウス、不思議な泉……」
「けっこう距離ありやすから、無駄に歩かねえでいいようにしやしょうよ」
ヤンガスのクセにいいこと言うな。いや、ヤンガスじゃなくても言うな。
「サザンビーク行って、不思議な泉行って、北へ上がってベルガラック、ラパンハウス、海辺の教会だな。今日の午後だけじゃ無理だろ」
「そうね、今ククールが言った順番が効率よさそうよね」
ゼシカがオレに同意する。だが、エイトは首を縦に振らない。
何なんだ。エイトのヤツめ。さっき砂漠の教会で見せていた時のカオと一緒だ。順番なんてそんなに重要か?
「そういえば……三角谷っていつ行くの? やっぱり最後?」
ゼシカが言う。
「ああ、三角谷は飛ばなきゃ行かれねえでげす。いつ行きやしょうか、やっぱり最後でげすか?」
「そっか、三角谷もあったね! じゃあ、今行こう」
また元気になるエイト。スキップしそうな勢いだ。
「そうだ、このまま三角谷へ行って、それでそのまま泊まろうよ。明日の朝はまた早く起きて続きを訪問しよう」
エイトはそう言いながら、神鳥のたましいを用意する。
また急に元気になり、オレたちを急かす。そして上機嫌ですいすいと空を飛んだ。
三角谷に到着。すぐにバーに向かった。村の入り口にいたドラキーがラジュちゃんに知らせてくれて、ラジュちゃんやマスター、村人たちに暗黒神討伐の話をした。しこたま飲んでそのまま宿に泊まった。
翌朝。お礼参り三日目だ。
「まだ暗いじゃない……」
ゼシカが眠そうだ。
「ふあーーーーあ」
ヤンガスも大あくび。
オレも少し眠いぜ。エイトはとてつもなく暗い表情でぼんやり立っている。
「んじゃ、どこへ飛びますか? リーダー。サザンビークでいいか?」
オレはそう言ってすぐにルーラをしようとした。
しかし、エイトがため息をついて言う。
「……一度レティシアに行かないと」
「なんでまた?」
なんでそんなところに戻らなきゃならねえ?
エイトはもう一度、今度はふうっと深いため息をついた。
「……王が……」
んだよ、またか。
「またトロデのおっさんの縛りでげすね? なんなんです、今度は」
「うん。飛ばなきゃ行けないところは飛んでもいいけど、絶対に飛んだところへ戻って旅を続けろって」
なんだそりゃ。
「それなら、レティシアからはどうするの?」
「うん、西の大陸の出発地である砂漠に……」
「砂漠? またでげすか?」
船でもっと北に行きゃ早いだろ。わざわざ砂漠から歩けってのか。
「ルーラがつかえないからって、飛んでずるしちゃうとでも思ってるのかしら」
「信用ねえな、オレたち」
「いや、そういうわけじゃないよ」
妙な縛りに振り回されてるな。オレら。
「砂漠の教会から……例えば次に行くのがサザンビークだとすると、そこまでの行程をすっとばしちゃいけないってことでけすか」
「うん。そうみたい」
めんどくせえなあ、全く。
「そんなのわかりゃしねえじゃん」
「まあね。でもさ、ごめんね。一応そういう決まりなんだよ」
しょうがねえなあ。砂漠から歩いてサザンビークに行くヤツなんてそうはいねえだろ。すれ違う旅人にもいちいち自己紹介しろってか?
「振り出しに戻る、って感じね……」
「そうだね。みんな昨日はよく眠れた? 今日はいっぱい歩かなきゃね」
睡眠はたくさんとれたが、まだ薄暗い早朝だ。眠くないといえばうそになる。ヤンガスの欠伸はさっきからひっきりなしだ。
静かな空気の中、オレたちはレティシアへ飛び、再び船で砂漠に向かった。
砂漠の教会ヘはもう寄らず、そのまま北を目指す。そのくらいは誤差ってことでかまわねえだろう。
砂漠というのは朝晩の寒暖差が激しい。足元から冷気が上がってくる。それなのに、登ってくる太陽の日差しは澄んだ空気を通過してじりじりと熱い。
眠さと変な暑さ、それに若干の二日酔いのせいでみな無口だ。そういえば朝飯も食わずに出発している。早く水分取らなきゃ脱水症状おこしそうだ。
ようやく商人のテントが見えてきた。右へ行けばサザンビーク。左へ行けば不思議な泉だ。陽はもう高く上り、さすがに歩き疲れたので、商人のテントで小休止することに。
お礼参りの旅ももう三日目だ。今日こそさっさと回らねえと、七日では終わんねえぞ。西の大陸は訪問先がたくさんある。レティシアと三角谷に寄ったから、ちょっと思考がのんびりしちまってるのかも知れねえな。中だるみ気味だ。
それでも、商人のテントに訪れている旅人などと暗黒神の話なんてしているから、トロデのおっさんの言うことにさからっちゃいない。
一渡り喋ってから、テントから少し離れた木陰に移動した。
ゼシカが自分のふくらはぎをさすっている。ちょっとマッサージでもしねえとこの後つらいだろうな。マッサージしながらゼシカが言う。
「……リブルアーチへ行くまでに、回るところがたくさんあるわよね。ユッケたち、ラパンさん、不思議な泉のおじいさん、サザンビークのクラビウス王、あとは海辺の教会……あと、ぱふぱふ屋さん?」
ぱふぱふ屋だって?
「え? 嬢ちゃんはぱふぱふ不要じゃねえのか? あ、自分じゃできねえのか……」
おいおい、そういう話なのか?
「こらっ! 違うわよ。ぱふぱふ屋さんに寄りたいのはエイトよ」
えっ? エイトめ、そんないかがわしいところへ?
いや、エイトの女装には、あのぱふぱふスライムは必須だ。パルミドのチンピラをこらしめるのを依頼してきたあのおネエにも一度会っておいたほうがいいか……。
「……俺的には、サザンビークの王さまが最初がいいな。嫌なことは先に済ませてえし」
ヤンガスが屈伸運動をしながら言う。
まあ、それが妥当だな。本来なら、ベルガラックのギャリングのところへ行くべきだが、この際、権力至上主義を通すべきだ。サザンビークはサヴェッラのの次に行っておいても良かったくらいだ。
エイトは兵士なんだから。
これがオレだったら、各教会を回ってから、城だな。
正反対だ。全く。平和を願う心に変わりねえのにな。
「……サザンビークか。嫌だけどしょうがないわね。エイトはあのムッツリ王さまとバカ王子に頭下げるの嫌じゃないかしら……もちろん、あたしも嫌だけど……」
まあ、できれば会いたくねえな。
「だよな。あのバカ王子にはさんざん面倒掛けられたしなあ……」
「そうよね。でもあたしたちも頭下げるのよね……」
「ああ。嬢ちゃんなんかセクハラまがいのこと言われたし、嫌だろう? ……だが不思議だよな。法皇さんには素直に頭下げたのに」
「ねー。ホントよ。王さまだからかしら?」
「ちがうな」
ヤンガスとゼシカの話を聞いて、どうも黙っていられなくなった。
二人とも不思議そうにオレを見る。
「どうちがうのよ?」
「そうだぜ、ククール。何が違うってんだよ。王さまだって、同じ人間だ」
「法皇さまだって人間じゃない」
そらそうだ。だが。
「法皇ってのは、女神の代理人だ。人間であっても、普通の人間じゃねえ。女神に忠誠を誓い、人間的な営みは法皇にとっては生きるためだけの最低のもの。群れのリーダーとして何かするわけではないんだ。すべて女神の思し召しに従い、平和を維持するためにいる存在だ」
「なんかわかんな~い」
ゼシカはそう言いながら立ち上がって、屈伸運動を始める。
「じゃあ、なんで俺や嬢ちゃんは、法皇には頭下げるの平気なのに、クラビウスのオヤジには……」
「ちょっと待て。オレたちアスカンタ行ったよな。思い出してみろよ、帰るとき、みんなでパヴァン王に挨拶したよな」
そうねえ、とゼシカがあごに人差し指をつける。
「そういや、普通に頭下げたな。いろいろお世話さまってさ」
「でも、パヴァン王は、あたしたちをすごく歓迎してくれたわ。恥ずかしいくらい褒め称えられちゃって、それに、シセル王妃の件や、泥棒モグラの件まで引っ張り出してきて王さまのほうがお世話になったって感謝してくれて……」
そう言うゼシカにヤンガスもうんうんとうなずく。オレは説明を続けた。
「だからさ、ゼシカやトゲトゲが言うのは法皇か王かじゃないんだよ。人柄だろ? オレはニノのじじいは好きじゃねえ。権力が好きで、いろいろ黒い噂もあった。だが、法皇たるものは、浮き世ときっちり線引きしてオツトメするもんなんだ。ニノは嫌なヤツだが、法皇ニノはどうでもいいヤツだ。オレは、誰が法皇でも、『法皇』に頭下げたんであってニノ本人にしたんじゃねえ」
「なるほど」
「だからさ、法皇は、『法皇』だから自然に頭が下がった。パヴァン王は、王でもあるけれど、あの人がいい人だから頭を下げた。だから、クラビウス王には、一国の王だから、その権威に対して尊敬の念を持って頭を下げんだよ」
「へー、そうか。それならいいかも。人にっていうんじゃなく、簡単に言えば肩書きに、ってことね」
「おお、そうか。それならわかるぜ。ああ、納得納得」
ふう、どうにか二人は納得したようだ。
どの世界でも権力至上主義なんだから、仕方がねえよ。ただ、権力は「はいどうぞ」って渡されたからって誰にでもうまく使いこなせるわけはない。権力はそれ相応の人物でなきゃ持ち続けることはできねえやっかいなシロモノだ。強すぎる武器を持たされるのと同じだ。
「お待たせ。お昼ご飯だよ。ちょっとお昼には早いけど、朝ごはん抜きだったから、おなかすいたでしょ。ここで食べていこうね」
食料を調達しに行っていたエイトが戻ってきた。
「ただ……サンドイッチとお茶しかなかった。これ……。だから今日はさ、ベルガラックに泊まりたくない?」
紙包みを申し訳なさそうに開くエイトが言った。サンドイッチはでかいが、具材はとても少ない。
「……兄ちゃんたち、ここのサンドイッチは世界一固いから少しずつ噛めよ。早くベルガラックへ行くことだな。サザンビークもろくな食い物ないからな」
エイトが持ってきたカッチリしたサンドイッチをのぞきこんだ旅人が言った。
「あはは……そうですね」
エイトも苦笑いだ。
田舎風の固いパンは食べ慣れているが、水分がないとキツい。申し訳程度に入っているチーズもカチンコチンだった。オレたちはなんとかお茶で流し込む。
「アゴ痛いわね」
「……そうだね。……まずサザンビーク行って、不思議な泉。夜はベルガラックがいいよね? ラパンさんちに寄ったら泊まってけって言われそうだけど、あそこに泊まるのもねえ。王もいないし」
そうだな。今日頑張らないと、後半つらいぜ。なにせ、雪のオークニスが控えている。歩けってんだから、時間がかかることはわかっている。本当の所、早めに終わらせて、一日くらいのんびりしたいぜ。
「じゃあ、とっとと行きやしょう」
「ああっ! ヤンガスったらズルいわ! ゲルダさんのフィナンシェ2つも食べて」
見ると、ヤンガスがあわあわしながらフィナンシェを頬張っていた。
「まあいいじゃねえか、非常食だろ? 今は、非常時だ。嬢ちゃんも食えよ」
「え、じゃあ……」
ヤンガスに差し出されたフィナンシェを、ゼシカも口にする。
「なんか、楽しいね」
二人を見ながら、エイトがそう言った。
「ああ」
オレは穏やかな笑顔をみせるエイトを見つめた。
エイト……。
休まず行こう。余計なことは考えずに。
オレたち4人だけの、最初で最後の旅だ。
やっと商人のテントまで来ました。次はサザンビーク城へ行きます。トロルの迷宮のイベントは後でやります。