※この作品はR-18です。

転生者は平穏を望む ~ルートPINK~   作:白山葵

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青森編 第3.4話~残雪~…のIF話。
今回本編とのリンク話。

大した誤差はないと思いますが、どちらか読むかで印象が変わると思ったので、同時掲載。



※ルート IF※ ルート・ノンナ

 

 

 

 ――胡散臭い。

 

 

 

 

 最初…それが、彼への印象でした。

 それは、そうでしょう?

 

 初めて彼に会った日。

 この男は一体、カチューシャに何をしたのだろうか?

 

 少し離れてしまった。

 それだけだというのに、その間に出会った男に対し、あのカチューシャが、字名を付けて呼んでいたのですから。

 

 初めは、知り合いなのだろうか? と、すぐに思いましたが、話を聞く限り初対面。

 その時の、カチューシャと彼との会話内容までは、私には教えて貰えなかった。

 その為すぐに…『思慮深いカチューシャが、こうも簡単に騙された…』と…今では失礼な話ですが、その考えしか浮かびませんでしたね。

 

 私と別れ、あの様な人が行き交う場所で、たった一人でいた…不安気な彼女に対して誑し込んだ男。

 …弱った少女に、漬け込んだ詐欺師。

 確信地味た…そんな失礼極まりない考えを信じて疑わなかった。

 敵意を持って応えていましたね…。

 

「…………」

 

 …うっ。

 

 初対面の彼に対し、一挙一動に目を配り…警戒をし過ぎた為に、逆にあの時の、彼との会話がよく思い出せない…。

 

 すぐに別れる。もう会う事はないだろう。と…警戒心と共に、安堵にも似た気持ちもあった。

 そして…さっさと、彼女をこの詐欺師から離す事しか、頭になかったからでしょうか?

 会話は覚えていないのですが、あの時に警戒して、彼を見ることだけに集中していたからでしょうか?

 

 その時の彼の顔は強く記憶に残っています。

 

 少し、拗ねた様な顔。

 

 …初めは、カチューシャをどうにかしようとしていた所、私に邪魔されたからか。…と、思っていたのですが…まぁ…はい。

 出会い頭、いきなり蹴飛ばしてしまいましたからね…当然ですよね…。

 全体重を乗せて、思いっきり殺す気で蹴りましたからねぇ…はぁ……。

 

 

「カチューシャ」

 

 

 しかし…後日。

 

 カチューシャが、あの店へ…彼に会いに行くと言った時は驚きました…。

 

 

「なによ。黙って歩きなさいよ」

 

 

 何故でしょう…そんな古い事が、私の頭の中で、浮かんでは消え、浮かんでは消え…を、繰り返しています。

 古い…ですか…。

 出会って、まだ一年も経っていないというのに…。

 

 明かりの少ない、夜の道…。

 普通なら、そんな場所、足元の地面が暗く、見え辛いというのに、妙にはっきりと…鮮明に見えます。

 自分の思った…出会いという言葉に、対し足が止まってしまった。

 先程から、ジャリッ…っと、石を踏む音が、妙に耳に残る。

 

 

「…もう、泣かないのですね?」

 

 

 出会い…ですか。

 

 その日から…全てが変わっていった。

 そうですね…人との繋がりが、一番でしょうか?

 

 えぇ…特に、港町の方達との関係が、大きく変わりました。

 

 

 私達、プラウダ高校の拠点…青森港。

 

 拠点だというのに居心地が悪く、余り長居をしていなかった、場所。

 学園艦が港へ着港する度に、戦車の移動や何やらで、漁や市場の運営の邪魔をしてしまう等、疎まれているはずの私達。

 …その仕事の邪魔をしてしまっている筈の、私達…戦車道の試合を、港町の方達が応援をしに来てくれる程に。

 初めての時は、その応援団に戸惑いました。

 

 なぜ? とも思いました。

 先導する彼が見えた。

 

 …この頃は、特に気にもしていなかったのに、その姿を見た時に…変に納得をしてしまったのを覚えています。

 大漁旗やら、何やら…大凡、その場に似合わない物を携えてましたね。

 

 

「さっきから泣いてないわよ!」

 

 

 次第に、港付近を歩くだけで、無視をされていた頃と違い、声を掛けられ……笑いかけられ…。

 戸惑いはしましたが、居心地の良さを感じ始めてた頃…それもまた、彼の行動による事だと分かると、また印象が変わっていった。

 その頃には、カチューシャは彼にべったりでした。

 青森港へと着港すれば、すぐさま彼の元へと赴き、慕う。

 

 そして、気づいた。

 

 そんなカチューシャを見て、気がついてしまった。

 

 自身の恐怖心に。

 

 疑い…考え、彼を探る。

 探れば、探る程…その行動に疑問を持ち、胡散臭い印象が、薄気味悪い…と、変わり…。

 

 やがて最後には、彼が怖くなった。

 

 調べれば、調べる程…彼への恐怖心が高まった。

 

 

「泣かなくて、良いのですね?」

 

 

 そして…

 

 ――思い出す。

 

「…っ!」

 

 思い出してしまった。

 

 初めて、彼に詰め寄った…感情的になってしまった、あの時を。

 

 思い出す。

 

 …思い出す。

 

 ……思い出す。

 

 先行して歩く、小さな背中を見ると、更に思い出してしまう。

 

 

「さっきから泣いてないわよ!」

 

 

 止まらない。

 

 吹き出し……溢れる。

 

 今までの事が、それこそ走馬灯の様に駆け巡る。

 

 彼がしてくれた事…与えて、築いてくれた事……。

 

 大事な事。

 

 嬉しかった事。

 

 感謝したい事。

 

 山の様にある…。

 

 

「…ちょっと黙ってなさい。今、何も話したくない」

 

 

 しかし、あの時の…。

 

 …彼に詰め寄った時を、思い出してしまったら…思い出の全てが、違う色に塗り替えられた。

 あの時、あの場所で。

 あぁ…胸ぐらを掴んでしまった…。

 嫉妬なんかで、身元を調べ…挙句、ヒステリーまで起こし、強く…詰め寄り…困らせた…。

 

 最初で、最後でした。

 あの…時の様な、顔をさせてしまったのは…。

 

 困った顔をして笑っていた。

 

 そんな私に。

 

 それなのに私に。

 

 …こんな、背が高いだけの無粋な女に。

 

 

「カチューシャ」

 

 

 貴方は『 可愛い 』と、言ってくれた。

 

 毎回、着港する度に、出迎えてくれた。

 毎朝早いというの…無理をして、会いに来てくれた時もあった。

 

 あの日も…

 

 あの時も…

 

 

「…なによ」

 

 

 お茶会。

 

 あの最低な…お茶会。

 

 

 …好きだと言ってくれた。

 

 

「私は…ちょっと…ダメかもしれません…」

 

 

 食いしばる歯。

 盛り上がる頬の上を、熱い線が引かれていく。

 

 

 

 ―考えてしまった。

 

 

 いない。

 

 もう…いない。

 

 帰る度に出迎えてくれた、あの場所に。

 

 …ここから学園艦へと戻れば…。

 

 もう…彼は、いない。

 

 だから……ダメかもしれない…ではなく…。

 

 

「何が…」

 

 

 ダメだった…。

 

 

 どうしようもない。

 

 顔が熱く、鼻が熱く…目が熱い…。

 頭の中が真っ白で…何がなんだか、分からない。

 

 グチャグチャになる程に渦巻く感情…。

 

 私の中が、どうしようもなく、此処まで、おかしくなるとは思わなかった。

 多分…色々な思いが、湧き上がってしまっているのだろう。

 …が、それが上手く、判別ができない。

 

 怒り…悲しみ。

 

 寂しさ…。

 

 何をどう制御したらいいか、分からない。

 こんな気持ちは、生まれて初めてだった。

 体の一部が、無くなったような…胸の奥の大事な部分が、砕け散って無くなった…そんな…。

 

 …喪失感。

 

 頭の中が、沸騰しそう。

 その反面…胸の中は…痛く…穴が空いたかの様に…軽く…。

 

 何もない。

 

 何も感じない…。

 

 空虚。

 

 その…一言。

 

 

 段々と、身体にも熱が入っていく。

 手を握り締め…肩が上がり……。

 

 ただ…彼女には、こんな私の姿を見せたくない。

 せめて顔を見せまいと、強引に下を向く事くらいしかできない…。

 …前を歩いている、カチューシャに対して…。

 

 

「………ま、たまには、いいんじゃない?」

 

 

 たまには…?

 何を…言って…?

 

 言われた瞬間、込み上げるモノを、無意識に押さえ込む。

 口端を釣り上げ、食いしばる歯に更に、力を入れる。

 

「っっ!」

 

 瓦解する。

 …無理です。

 その言葉は…無理…。

 

 声が出そうになる口を、手で押さえつける。

 

 …喉が、熱く動く。

 

 肺から空気が出てくる。

 

 私の意志じゃない…。

 

 

「うっ! …っぅぅ…」

 

 唸るような…音が、喉から漏れる。

 

 …体上から、抑えられつけられたかの様な重圧を感じた。

 

 全身の力が抜け落ちたような感覚。

 

 膝が冷たく…痛い。

 

 小石が、肌を刺す。

 

 目に映る地面が、妙に近い。

 

 …暗くとも、はっきりと分かる地肌。

 

「……」

 

 カチューシャの顔が、私の顔の横にあった。

 

 今更、近づかれた事に気が付くなんて…。

 

 首の周り感じる、カチューシャの腕………頬…。

 

 暖かい…暖かい……。

 

「…………」

 

 耳元から、小さく聴き慣れた声が響く。

 

「…馬鹿よね…タカー…隆史」

 

「……」

 

 

 …。

 

 ……。

 

 頭が、真っ白になった…。

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 …時間の感覚なんてない。

 

 どれくらい経ったのだろうか? …とも、思わない。

 

 ただ、思い出す。

 

 繰り返し…繰り返し…何度も。

 

 思い出す。

 

 ……。

 

 忘れないように…忘れないように。

 

 そして、結局は最後にたどり着くのは、あの「最低なお茶会」。

 

 …。

 

 人生で…初…の。

 

 

 ……。

 

 喉が熱く、口が熱い。

 

 熱く…熱く…。

 

「…………」

 

 無意識に、唇を指でなぞってしまうと…ひどく濡れていた。

 拭う様に、更になぞる。

 

 

 そうだ。

 今更、誤魔化しても仕方がない。

 

 私は、彼に惹かれていた。

 

 ……。

 

 これも誤魔化している。

 

 

 …言い変えよう。

 

 

 私は…彼が…好きだ。

 

 

 えぇ…好きです。

 

 どこがと聞かれれば…正直、言葉に詰まってしまうと思う。

 

 しかし…仕方がない。

 

 理屈では、ないのだから…。

 

 …こんな気持ちは、初めてだった。

 

 初恋…なのだろう。

 

 …。

 

 その人が、いなくなる。いなくってしまう。

 

 彼は年下だ…。

 私の方が、先にいなくなる筈だったのに…。

 それでも。

 それでもと、後一年は、猶予があるとどこかで安心していたのだろう。

 

 私達…私は、3年へと上がり、卒業してしまうまでの最後の1年で…と、思っていたのに。

 

 ……。

 

 思い出した。

 

 また、思い出した。

 

 ヘリを貸してほしいと…突然、土下座までした彼を。

 地面に頭を打ち付けて、大声で…切羽詰まったかの様な、余裕のない姿。

 

 しかし、その姿を、情けなくなんて思わなかった。

 また、誰かの為に、頭を下げている彼を情けないとは、思わない。

 

 …自分のプライドも、何もかも捨てて…。

 

 ……。

 

 この人は、私の為だとしても、ここまでしてくれるだろうか?

 …多分、彼の事だ。…してくれるだろう。

 

 してくれたら、嬉しい…。

 

 しかし、それは憶測の話。

 そう…憶測。

 

 そんな彼を見て、引っ掛かった。

 

 引っ掛かってしまった…。

 

 これは、誰の為?

 

 今彼に、ここまでさせているのは、誰の為なのだろう? …と。

 すぐに思いついた。

 出会った時から、毎回毎回……毎回毎回…学園艦が戻る度に聞かれる人物。

 結果は少し違いましたが…誤差の範囲だろう。

 

 ……。

 

 即座に、浮かんだ。

 

 …誰の為?

 

 それは、他の女の為。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 他の女…。

 

 その一言を思い浮かべれば……思考が、一気にクリアになった。

 

 切り替わる…音を立てて…一気に…。

 それと同時に、腹の底から湧き上がる…熱。

 

 物凄い…熱量。

 

 気持ちが一瞬で、切り替わった気がする…。

 

「カチューシャ」

 

「…なに?」

 

 黙って、抱きしめてくれていたカチューシャへと、ここで漸く声を掛けられた。

 少し、気持ちが落ち着いた…ともいうのも、あるだろう。

 いや? この変わった気持ちの為だろうか?

 

 悲しみ。

 

 喪失感。

 

 そして……。

 

 明らかに…別の感情が、湧き上がってきているのを感じる。

 …いえ、感じますね。

 

 えぇ、頭の中が、妙にスッキリとしてきました。

 

「…何故でしょう?」

 

「…?」

 

 そうですね。はっきりとわかります。

 

 これは…。

 

 この感情は…。

 

「私…物凄く……腹が立ってきました」

 

「はっ!?」

 

 

 …怒りです。

 

 

「…ムカムカしますね。なんでしょうか? 過去…ここまでの怒りを、感じた事がありません」

 

「…えっと…え? ノンナ? え?」

 

「あぁ、後…ありがとうございました。カチューシャのおかげで…大分、落ちつきました」

 

「あ…はい。いやいやっ!? なんで、ノンナ笑ってるの?」

 

 えぇ、自然に頬が引き吊ってますね。

 えぇ、仕方がないと思うのです。

 

「カチューシャ」

 

「なに…よ」

 

「すでに、我が校のヘリは、目前ですね?」

 

「そ…そうね」

 

 待機させていたヘリの影が見えています。

 一気に現実へと、引き戻された気分ですね。

 何故かカチカチとした音が、私の中より鳴り響いている気がします。

 

 総合的に、思い出す。

 言いえて、妙ですが…全体を鑑みれば、しっくりきますよね?

 ですから、はっきりと…確認をする意味を込めて、引っかかった部分を口に出しましょう。

 

「その我が校のヘリを借りて? …あの男は、態々? 他県にまで他の女に会いに行った…と、そういう事ですよね?」

 

「なによ、いきなり…。それに女って…。あの時タカーシャ…誰とは別に、言ってなかったじゃない…」

 

 そうですね。言っていませんでした。

 

 大切な家族? そう言ってましたね。

 

 はっ! どうせ、西住姉妹のどちらか…なのでしょう? 

 

 そこで…その赴いた先で、何かあったのでしょう?

 

 試合で何度も、あの姉妹は見た事はありますが…。

 姉……妹…その両方?

 隆史さんが、あそこまでして動いた…動かせた。

 

 

 そして繋がる、今回の転校……。

 

 

 躊躇せず頭を下げ……体を張ってまで…現在の生活…を…捨てて…。

 

 ……捨て…。

 

 そこが……その部分が、途轍もなく…。

 

 ……。

 

「あの…男…人の唇…奪っておいて…」

 

「ノンナっっ!?」

 

「カチューシャ。隆史さんはプラウダの学園艦が、次回着港する前に、転校すると言っていましたね?」

 

「え…えぇ。そうね…」

 

 …詳しくは、後で聞きましょう。

 連絡はしてくれると、言ってくれてはいましたが…転校先とかは、教えて貰えませんでしたし…。

 それはつまり、事後報告で済まそうという腹積もりなのでしょうか?

 

 …私の初めて奪っておいて、そこら辺は誤魔化すとか……。

 

 ……。

 

 少なくとも、あの前後で、私…の気持ちも多少は汲んでくれていると思っていたのに…。

 ここまで…こんな感情にまでさせておいて…。

 

 あっさりと、どこか行くとか…。

 

 しかも、電話だけで、済まそうとするとか……。

 

 

 ……。

 

 

「あぁ…腹立たしい…」

 

「ノ…ノンナ……?」

 

 …湧き上がる、もう二つの感情。

 

 一つ目は、不安感。

 

 焦り…が、私を突き動かそうとしています。

 学園艦で移動を繰り返しているとはいえ…連絡は頂けるとはいえ…。

 他県への引越し…転校。

 

 簡単に会う事なんて…それどころか…最悪…もう…。

 

 アエナイ。

 

「……」

 

 いえ…。

 最悪、またヘリでも学園艦でも動かせば、それはいいです。

 

 それ以上に…あの姉妹。

 

 西住 まほ、みほ。

 

 火を見るより明らか…ですね。

 前から、彼の話を聞く限り…あの朴念仁は、気が付いていないでしょうがっ…!!

 完全にッ!! …友人以上の感情を、彼に抱いているでしょう。

 

 信じられませんが、あの鉄の女とまで揶揄されている…西住 まほ…さんですら…。

 

「それに今回は!? 県を跨いでまで!? 会いに行っていたらしいですし!!??」 

 

「えっ!? なにッ!? 今度はなにっ!?」

 

「言いませんでしたけどね!?」 

 

「いきなり叫ばないでっ!!」

 

 憶測ですよ憶測!!

 

「まあぁぁ……そうに…決まっているでしょうけど……ぉっ!」

 

「…ノンナのこんな顔、初めて見るわ」

 

 …なにぃが、大切な…かぞ…っっっ!!!

 腹の底から、声を出した気がします。

 

 そんな彼が…姉妹、どちらかの為に…。

 

 自分の為だけに、そこまでした彼が、目の前に現れたとしたら…。

 

「……ッ」

 

「ノンナ…? 今度は急に、ブツブツ…言いだした……」

 

 …加えて、私は手が出せない。

 このまま、ただ…何もしないで行かせてしまえば…。

 

 …。

 

 この考えは、脳内が揺さぶられる感覚…に陥りますね…これは…。

 

「……」

 

 …さて。

 

 切り替えましょう。

 今は、現状を…どうするか…。

 

「……」

 

 決まっている。

 もう、恥ずかしがっている場合では、ありません。

 こちらも捨て身にならなければ、全てが終わってしまう。

 

 …捨て身…。

 

「…っ!」

 

 顔が、一瞬にして先程と似た熱で覆い尽くされました。

 目の周りが、熱くて仕方がないですね…ぅぅ…。

 しかし、拱いていても仕方がありません…。

 

 出来ることは…行動です。

 えぇ、この怒りは、彼にとっては理不尽かもしれません。

 理不尽かもしれませんが、あの朴念仁に責任が、一切ない訳ではありませんね!、

 が…何も、行動を起こしてくれなかった彼に対して、私も行動をしませんでした。

 

 だから…行動。

 

「カチューシャ。私は、一度…彼に、もう一度、会ってきます」

 

「は…?」

 

 そうです…行動です。全ては、動かなければ、始まりませんし…終わりもしません。

 時間がない…。

 

「…拉致行為の一つでも、してみましょうか?」

 

「えっと…え? ノンナ? なにを言ってるの?」

 

 …残された、時間を取り敢えず聞いて…明日は、土曜日…。

 

 まずは…いえ、取り敢えず、場所の確保…。

 

「それで…ですね? カチューシャに一つ、言っておく事があります」

 

「…聞いて? ねぇ、聞いて? 私の話を聞きなさいよ!」

 

「ふふっ…言い方が、隆史さんみたいですよ?」

 

「なにを、和んでいるのよッ!!」

 

 さて…このカチューシャも、可愛らしくて良いのですが…本当に、時間がありません。

 あの店にまだいると思いますが…時間が時間ですので、彼が寝てしまう可能性があります。

 一応、腕時計で時間を確認すると…24時を回った頃ですね。

 早寝、早起きの彼ならば、ヘタをすれば、もうすでに…。

 

 

 ・・・・・。

 

 ま、問題ありません。

 

 

 叩き起こしましょう。

 

 

 そして、湧き上がった最後の感情。

 

 …いえ? 最初の感情とでも言うのでしょうか?

 

「さて、カチューシャ。貴女は、御存知ないかもしれませんが…」

 

「さっきから、なにを…言ってるの? ノンナ…一体、どうしちゃったのよ…」

 

 先程から私を見上げている…で、あろうカチューシャ。

 申し訳ありませんが、すでに私の目には、これから戻る、暗い夜道しか見えません。

 

 湧き上がる、この想い…情念…。

 

 どうにも…普段の私を知っている方からすると、私は感情の起伏が乏しいとか、思われているようですが…。

 先程から渦巻いている感情からして…そんな事は、決してありません。

 

 えぇ…そうですね。

 

 過去に一度、ありました。

 

 ここまでの私を、引きずり出したのです。

 

 そうです。ま(・)た(・)…引きずり出されました。

 

「私は…ですね? カチューシャ」

 

 はい。覚悟が決まりました。

 えぇ…すでに、行動を決めてしまったので、必然的に必要になります。

 ただの思い出……になんて、されたくありません。

 

 …ここが、ある意味での、勝負所だと判断しました。

 

 だから、頑張ります。

 

 怒りを込めて、頑張ります。

 

 はい……これから私は…人生で一番…と、断言していい程に…頑張りますから…。

 ですから…彼には、それも含め、全責任を取ってもらいましょう。

 それに? 貴方はすでに? この私をご存知の筈ですから? 大丈夫でしょう?

 

 …ですから、覚悟を決めて言葉にします。

 

 私の本質を…。

 

 始まりの彼女に。

 

 

 

 

「途轍もなく、嫉妬………深いのです」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「タァァカッ!! ぼォォォォぉ!!」

 

「あぁっ!! もう鬱陶しいっっ!! 酒臭いおっさん達に、抱きつかれても嬉しくないっ!!」

 

 その、開かれた入口から、店内の光が溢れる店先。

 店前で、酔っ払い達の抱擁。

 俺の送迎会とやらが、お開きになりそうで…店にいた全員が、店前に集まっている。

 おやっさんと、女将さん。常連客達、数人だけの…送別会。

 

 大人連中だけだけど、顔には出さなかったが…正直、泣きそうだった。

 友人…とは言えないだろうが、こんな事をしてくれる人達は、今までの…あぁ、死ぬ前にもいなかったから。

 

 …年度初め。

 街中が大学生や、社会人の歓送迎会をする連中で、溢れる中。

 …ただ、お前ら騒ぎたいだけだろ? と、鼻で馬鹿にしていたのだが…それは、やはり人によるのだろう。

 実際に、今回…おやっさん達は、非常に俺との別れを惜しみ…それでも送ってくれる。

 この店で使っていた包丁まで、しっかり研いだ状態で餞別にくれたしな…。

 

 こんなにも…嬉しいものだとは、思わなかった…。

 

 いかん…相変わらず、自覚する程に俺は、情に弱い。

 目頭が反応する前に、なんとかせねば。

 

「はぁ…これで、タカ坊ともお別れか…」

「ノンナちゃん、来なくなっちゃうかなぁ…」

「カッチュンも、来なくなりそうだよなぁ…どうしよう、新たにファンクラブ設立を目指していたのに…」

 

 …おい。

 

「あの、歩く度に上下する、神々しさすら放つモノを拝めなくなるのかぁ…」

「オレンジペコちゃん達もいなくなったし…随分と、寂しくなるなぁ…」

「また、女っ気がない場所になるよなぁ…カッチュンが、漁へ出る前の活力になっていたのになぁ…」

 

 ……。

 

「待て。取り敢えず、カッチュンって誰だ。ファンクラブ設立って何だ」

 

「あーぁ…結局、このヘタレ小僧…誰ともくっつかないし…ペッ」

「儂、ダーちゃんに賭けていたのに…あの、パツキンのどこが不満だっ! タカ坊っ!!」

「お前は、俺と同じ匂いを感じていたのに…カッチュンの癒しがなぜわからんっ!! あぁ…結局、お流れか…」

「あ、俺はオレンジペコちゃんな? あえて一番レートが低い、安全パイを取っていたのになぁ…」

 

「聞け…俺の話を聞け…どういう事だ、酔っ払い共」

 

 賭け…とか抜かしやがったか?

 

「あぁ~…ぅ…。タカ坊ぉ」

 

 あ、酔っ払い代表が、手を挙げてた。

 女将さんが、大きくため息をつきながら、その地べたに転がった、酔っぱらいの腕を引き上げましたね。

 

「お前が、誰とくっつくかぁ……とかぁ? いつの間にか、賭けになってたんだよぉ?」

 

「…………」

 

「あ、金銭じゃないから…な? この店…で、勝った奴が負けた奴に一杯奢る…程度の賭けだぞ?」

 

 ま…もう、いい。

 色々と思う所が、それこそ山の様にあるが…今更、怒ってもしょうがない…。

 

「あ、ちなみに俺は、ノンナちゃんな? このスケベ」

 

「何も言ってないだろっ!? 今の言い方、大分端折っただろ!!」

 

「隠すな、隠すな。お前の…むっつりは、すでに有名だから」

 

「…このオヤジ…! って、抱きつくな!!」

 

 へらへらしながら、やっと離れたと思ったのに、全員がまた抱きついてきた。

 うん…酒臭ぇ…。

 俺がいなくなる=女っ気がなくなる…事に対して、随分と残念がりやがって…。

 

 ……。

 

「…アンタら、ただ飲んで、騒ぐ理由が欲しかっただけじゃないのかい?」

 

 俺を抱きしめる酔っ払い共に、女将さんがジト目で、冷たい一言…。

 今度はおやっさんの襟首を掴み、俺からベリッと、引き剥がしてくれた。

 

 あぁ…もう…。

 

 普段…一応、店がある為、ここまで泥酔するほど飲まないのになぁ…。

 真っ赤に目と顔を染め上げて、力なく首を釣らされている、おやっさん。

 

「はぁ…まったく、情けない…」

 

 そんな酔っ払いを、少し優しい目で見下ろす女将さん。

 …。

 まぁ、中学の時の皿洗いから数えれば…2年位、働いただけなのになぁ…。

 

 ………。

 

「タカ坊、あんたにも言ってんだよ?」

 

 !?

 

 顎を上げ、俺を心底情けない男…と、言った様に見下げてくる。

 女将さん。背…俺より大分低いのに…なぜか毎回、見下げられる…。

 

「な…何がっすか?」

 

 手に持っていたおやっさんを放り捨てる様に………いや、マジで捨てたな…今。

 そのまま、手を腰に置き…あ、説教モードに入った。

 

「…店休ませて、合宿とかやらにも、行かせてやったのに…」

 

「…え? は?」

 

「…一人も選ばないとか…。馬鹿かいアンタはっ!! 金玉ついてんだろっ!?」

 

「っ!?」

 

「あ~あ。可哀想に…」

 

 な…何が言いたいか分からない…。

 可哀想ッ!? 何が!?

 合宿って、アレだろ? プラウダと聖グロと…アンツィオの…。

 

「特に聖グロの子達が、可哀想だよねぇ? いや? オレンジペコちゃんか…」

 

「っ!?」

 

「それに…さっき態々、カチューシャちゃんと、ノンナちゃんが来たんだろ!?」

 

「や…え……っと、はい」

 

「…それでも、分かんないのかい?」

 

 えっと…。

 

 女将さんが、具体的に言ってくれないので、なにを言いたいか分からない。

 その俺の態度見て…女将さんの言葉を、黙って聞いていた他の酔っ払い共が…硬直した。

 いや? 違うな。俺の先…後ろを見て固まっている。

 

「…おや」

 

 女将さんもそうだ。

 

 俺と向き合っているのだけど、顔だけずらし、俺の後ろを見ていた。

 硬直した酔っ払い共の顔も、一定の方向を向いている。

 

 …なんだ?

 

 釣られ、俺もそちらの方向に振り向くと…真っ暗い港が見える。

 

 そこの端に設置されている街灯。

 

 その街灯の下に、見慣れたシルエットが見えた。

 

 ……。

 

 えっと…ノンナさん?

 

「……」

 

 街灯の下に、顔を隠すほどの長い髪の女性が、風に髪をなびかせていた…。

 

「……タカ坊。ついに刺されるのか」

 

 怖い事、呟くなよッ!!

 

 ……が。

 

 その言葉を呟かせる程に、彼女の雰囲気が違っていた。

 

 遠目にも分かるほど…肩で息をしながら、その体が揺れている。

 髪が乱れ…前に掛かり…こちらからは、片目しか確認が取れない。

 

 街灯の光の下な為に、その光で濃いシルエットを作り出し…その唯一確認が取れる片目が…。

 

 はっきりと分かる程…俺を睨んでいた。

 

 …状況が、サスペンス・ホラーですよね。

 

《 南無… 》

 

「酔っ払い共ッ! 手を合わせるな!!」

 

「ほら…タカ坊」

 

「お…女将さん?」

 

「これが、責任って奴だ。骨は拾ってやるから、ちゃんと刺さ……話してきな」

 

「言い直しましたね…」

 

 何故女将さんは、嬉しそうな顔をしているんだろう…。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 その街灯の下から動かないノンナさん。

 そろそろ夏とはいえ、冷え込む夜中。特に今日は、非常に寒い。

 ノンナさんからは、白い息が…口から何度も吐かれている。

 

 ……。

 

 店先から溢れてくる明かりから体を出し…彼女の元へと駆け寄る。

 近づく度に、周りが暗くなる為、明るい街灯の下にいるノンナさんの周りが、ハッキリと分かってきた。

 お陰で、その周りは黒一色。

 コントラストのお陰で、はっきりと彼女だけが見える。

 

 …カチューシャは……いないな。

 

 こんな夜道だ。

 流石に危ないだろう…と、先に帰ったのか?

 いや…そもそも、ノンナさん一人でも、夜道を歩くなんて危なすぎるだろう。

 

 あぁ…それで、走ってきたのか?

 

「ノンナさ……?」

 

 ん…?

 

 ハッキリと、彼女の顔が分かる距離にまで来ると、腕を伸ばし、手の平をこちらに突き出した。

 止まれ…と、いった意味だろうか?

 反射的に脚を止めると…それであっていたのだろう。

 すぐに、スッ…と、腕を下ろした。

 

「……」

 

 すでに息は整ったのか、何時もの落ち着いたノンナさんへと戻っていた。……と、思いたい。

 俺との間には、まだ少し距離がある…。

 どうしたのだろう…。

 

 俺と目が合うのを確認すると、彼女が口を開いく。

 波の音しか聞こえないほど…人気もなく静かな場所。

 ある程度距離が離れていても、その言葉が、はっきりと聞こえた。

 

「…忘れ物をしました」

 

 ん? …忘れ物?

 

 さっき何か持っていたか? いや…何か、落としたのだろうか?

 

「では…」

 

 パサッ…と、左腕で髪を横へ払うと…細い髪が、街灯の光を細かく反射した。

 

 輝くその仕草に、少し目を奪われた…瞬間。

 

 動く、体。

 

 体を低くし、ジャリッと地面を擦る音。

 いや…蹴る音だ。

 …スタートダッシュの様に、こちらに急に走り出した!?

 

「ちょっ!? えっ!!??」

 

 驚く俺を真っ直ぐに見ながら、駆け寄る…とか…ではなく、全速力。

 地面を蹴る音が、更に響き…フッ…と、一瞬、彼女が黒い影の塊となった。

 様は彼女は…宙に浮いたんだ。

 

 そう認識した瞬間…腹部上付近に掛かる、衝撃。

 

 

 

 捻りを加えた…見事なドロップキックでした。

 

 

 ……。

 

 

 

 地面に腰を突き…肘だけで、上半身だけ起こしながら、取り敢えず叫ぶ。

 痛くは、なかったのだが、それでも流石に不意を突かれてしまった。

 全体重を乗せた、更には捻りを加えて破壊力を増したその飛び蹴りに、情けなくも吹っ飛んでしまった…。

 

《おー…》

 

 少し離れた場所から、パチパチとした手を叩く音。

 

「拍手してんじゃねぇっ!!」

 

 そして訪れる、酔っ払い共の喝采…。

 くっそっ!! あの酔っ払い共っ!! 絶対、楽しんで見てやがるなっ!!

 

「…どうですか? 懐かしいですか?」

 

 酔っ払い共に投げた視線を、彼女の足が遮った。

 

 暗い中、こちらを見下ろす彼女の目だけ…妙に輝いているのが、何故かわかった。

 懐かしい?

 あぁ…しょ…初対面の時…人攫いと間違えて、いきなりコレを喰らいましたね。

 はい…ノンナさん。つか…怖いんですけど…。

 

「少しは、驚いてくれましたか?」

 

 素直な感想。

 

 いきなりの事だったので、情けない姿で、無意識に顔を縦に振る事しか出来なかった。

 俺を見下ろしながら、バッ…と、また、髪を横に払いながら一言。

 

「そうですか。私は、とてもスッキリしました」

 

 あ…はい。

 

 冷たく言い放つ彼女は真顔っ!!

 …そのまま、静かに俺を見下ろしていた……たっ!?

 

「あの!? はいっ!?」

 

 脚を上げ、肘だけで体を起こしていた俺の上に…彼女は跨った。

 

「そんなに痛くは、なかったと思いますが…こうでもしないと、貴方を押し倒す事なんて出来ませんからね」

 

 確かに蹴られたというよりも、倒すために両足で押す…といった感じだっな。

 

「物理的に、女の私では不意打ちでもしないと、こうはできなかったと思いますので。…まぁ9割方は、鬱憤晴らしでしたが」

 

 …なにを言っているのでしょう? 理解が及ばなのですが…。

 はっ!? というか、押し倒すっ!?

 

「…な…にを…? ぶっっ!?」

 

 即座に両手で、俺の顔を、パンッと、音が出るほど強く挟んだ。

 冷たいその手が、ノンナさんの存在感を表している。

 少し震えている、その手。

 

「ふぶっ!?」

 

 そのまま、ストン…と、俺の腹の上に腰を下ろした。

 押された腹から変な声と共に、空気が押し出されてしまった。

 

「おっもっ!!」

 

「………………重?」

 

「いやいやいやっ!! 変な声が出ただけですッ!! 重くないですっっ!! 鍛えてま…」

 

「そうですか…鍛えてないと、私は重いですか…そうですか…」

 

 痛だだだぁあっ!! 爪を立てないでっ!!

 ギリギリと聞こえそうなほどに、両手に力が入ってますよっ!!

 

「…ま。事実、私は? 一般女性に比べれば、肉付きが良いので…それなりの体重ですが…」

 

「……………………」

 

 …あぁ、納得………ぅぃぃいいい痛い痛い痛いっ!!

 目線でバレた…。

 

「………」

 

「えっと…え?」

 

 スッ…と、すぐにその手の力が弱まった。

 

「……」

 

「ノ…ノンナさ~ん?」

 

「…………」

 

 その代わり、なにをする訳でもなく…そのまま、ジー…と、真っ直ぐに俺の目を見てくる。

 ただ…黙って。

 一言も発する事なく。

 

「…隆史……さん」

 

 ボソッ…と、俺の名を呼んだ。

 どのくらい経ったか分からないが、少なくともノンナさんの冷たい手が、俺の体温で温め終えたのが分かる位の時間は経過しただろう。

 

「は…はい?」

 

 と…思ったら、何か一気に吃り始めた…。

 何なのだろう…。

 

「す…すみません…」

 

 何故か、いきなり謝られた。

 明らかに、取り敢えず謝ってみた…と言った感じだな…。

 謝罪なのか、喋りだしの挨拶なのかは、分からないけど…。

 

「くっ…。こ…ここまで来て…躊躇してしまうとは…」

 

 …?

 

 何か、呟いたな。

 

「あ…あの? 先程の見事なドロップキックでの、蹴りの事でしたら…」

 

「あ、いえ。それは一切、微塵も、絶対に、謝罪する気は、ありません」

 

「…………」

 

 …冷たく淡々と、早口で言い捨てられました。

 

「ある意味で、隆史さんの自業自得です」

 

《 ウンウン 》

 

「……」

 

 絶対、酔っ払い共…腕組んで頷いてやがるな…。

 

「あの…では、せめて…退いてくれませんか? 流石にこの格好は…『 嫌 で す 』」

 

 …即答…。

 

「貴方、すぐに逃げますから」

 

「……逃げるって…」

 

「この卑怯者」

 

「 」

 

『 あ、テーブル、外に運ぶか!? 』

『 酒持って来い、酒っ!! 』

 

 あの……野郎共ぉぉ…。

 

「先程も言いましたが、全ては、この体勢にする為にした事…。退くはずがないでしょう? …と言いますか」

 

 っっ!?

 

 首がゴキッて言ったっ!! ゴキッ! って!!

 

「先程から…どこを見ようと、していのですか」

 

 なんかハシャギ始めた酔っ払い共を、睨めつけようと思ったら、力ずくでまた正面に顔を向けさせらたね…。

 そのまま…って、おいおいおいっ!

 

「ノンナさんっ!?」

 

 自分の額…おでこを、俺の額に合わせてきた。

 熱を計るように、コツンと、優しく…。

 

「…そうですよ。卑怯ですよ。貴女は卑怯者です」

 

「…いや…あの…」

 

「さ…最低ですね」

 

 彼女の顔の色が、少しずつ…徐々に赤みを含めていった。

 それでも目だけは逸らさないで…睨みつけてくる。

 その睨んだ目が、少しづつ潤み始めた…。

 そのまま独り言の様に、俺に…囁き掛けてきた。

 

「…人の気持ちも知らないで…電話口だけで、さっさとお別れを済ませて去ろうとしますし…」

 

「いや…それは…」

 

「の…を……ここまで変えておい……て…気持ちに、させておい…て…」

 

 先程から呟くノンナさんが、わからない。

 赤くなったり、青くなったり…。

 

 そして今は…

 

「そこまでしておいて…最後、人の唇奪っておいて…逃げ出すとか…」

 

 侮蔑の表情だと、はっきりと分かる顔で…。

 

「трус」

 

 上目使いで睨んでくる…。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「どうせ、ヘリを私達から借りて…出向いた先も、例の姉妹の為でしょう?」

 

 自然と口にでる、そんな言葉。

 

 例の姉妹の為。

 

 あの姉妹の為。

 

「転校先が黒森峰ならば、すぐに私達には分かります…。教えて頂けない転校先……という事は…」

 

 西住姉妹の為…。

 

「…妹の方でしょうか?」

 

「っっ!」

 

 はっきりと彼の目が見開きました。

 

「…正解っぽいですね」

 

 自然と合わせた額が、コツコツと音を立て始めました。

 離しては、引っ付け……を、繰り返し、繰り返し…。

 

「ノンナさんっ!? 近い近いっ!!」

 

 隆史さんより、小さな悲鳴が聞こえました。

 

 近い? ですからなんでしょう?

 

 一回…少々強めに、額へと額を打ち付け…そのまま離しません。

 強く押し付ける様にしながら、囁く声を続けましょう。

 

「…今の…貴方のその目で、覚悟ができ…ました」

 

 額に広がる、少しピリピリとした痛み。

 少し、隆史さんの様な、気合の入れ方…。

 なる程、余計な考えが飛びますね…。

 

 彼の顔を手に挟んだまま…額を離し、真正面から彼の顔を眺め…その疑問しか無いような目を、睨みつけます。

 えぇ、睨みます。

 

 腹立たしい事、この上無い…憎らしい、顔。

 

 相変わらず何を考えているか、よくわからない、顔。

 

 眉の傷…。

 

 硬い…頬…。

 

 親指でなぞる様にしても、彼は何も言わない。

 

 ……。

 

 言わなければ……。

 

 私は、言わなければ…。

 スッ…と、鼻で息を吸い……吐く。

 

「転校…。ここ青森にご実家があるとしても…連絡をしてくれるとしても…学生である以上、転校をしてしまえば、顔を合わせる事が難しくなります」

 

 恨み言…それも山の様にあります。

 ありますが…それよりも、伝えたい事があります。

 

「…特に、貴方の場合…。余程の事がなければ、本気で私に会いに来てくれはしないでしょう」

 

 私に…と。

 

 不思議ですが、しっかりと…本音を口にできました。

 

 逃がさない様に、マウントポジションを取り、自分を含め…彼を追い詰める。

 もう、下手な言い訳はいりません。

 

「私も戦車道があります。こちらも疎かになど、出来るはずもない。更に私は3年生…あと…一年…。進学も考えれば、私が此処に来られる回数も少なくなっていく…」

 

「加えて、聖グロリアーナ…黒森峰……いえ…転校先の…西住姉妹」

 

 逃がさない…逃したくない。

 

「…不安な要素…しかない。楽観的な考えができない。無理ですよ、無理」

 

 できる筈が、ないじゃないですか。

 

 唇を噛み締める。

 少し、刺すような痛みが走る。

 

「…我ながら、打算的で…嫌になります」

 

 彼を縛りたい…独占したい。それだけの為だけに漸く、決心ができた。

 

 打算…的…。

 

 彼は、そんな私の一人言を、黙って聞いている。

 思わず溢れてしまった、そんな言葉まで…。

 

「ですが、ここ…今この時だけ…ここが、最後の…」

 

 胸の鼓動が…脈を打つ心音が、いやにはっきりと聞こえてきます。

 

 止まらない…止められない…。

 

 止めたくない…。

 

「あ…貴方が、他県にまで…あの姉妹の為だけに、赴いたと後で聞いた時…ヘリを貸すべきでは無かったと…本気で悔やみました」

 

 本音。

 

「そして、その考えに至る自分が、恥ずかしくも思います。情けなくも思いました」

 

 これも本音。

 

「…貴方に、カチューシャの事で、詰め寄った時以上…体中が熱くなり…どうしようもなく…どうしたらいいか……」

 

 …全てが、本音。

 

「えぇ…私は、嫉妬…しました。あの時と同じ…いえ、あの時なんて、可愛く思えるほど…」

 

 はっきりと自覚している、あの時と同じ…それ以上に強い感情。

 目が熱く…喉が熱く……。

 

「で…ですが、貴方は…ここを離れ…その私の嫉妬する……その相手の所へと、行ってしまう…」

 

 そう…これが、本音。

 

「行ってしまえば……何もなく……行ってしまうと…」

 

 必死に…ただ必死に。

 

 ここで本当に…ただ何もなく分かれてしまえば…私は彼にとって、ただの…。

 

「 …私は、ただの過去になる 」

 

 彼に話し掛けている…はずなのに…自分自身に言い聞かせる様に呟いている。

 何度も何度も、先程からループする感情。

 

 …恐怖。

 

 合わせた額が、少しずつ下へズレながら…その声も段々と、声色が変わっていく。

 溢れる…熱い何もかも全てが、溢れくる。

 

 

「私は貴方の…ただの思い出……な…なんかに、されたくありません」

 

 

 鼻が触れ合う程の距離。

 彼の顔を挟んだ手の力が、どんどんと抜けていき…撫でるように、軽く摩る。

 ザラッとした、手触り…。

 何度も触り、何度も摩る。

 

 触っていたい。離したくない…触れて…ずっと…触れていたい…。

 

 散々、悩み…躊躇し…今まで、声にも…伝える事もできなかった言葉。

 

 周りの音が、全て消えた。

 

 自分の心音すらも、聞こえない。

 

 

 そして…自然と口に…できた。

 

 

 

 

「 貴方が好きです 」

 

 

 

 自然と…。

 

 ヨウヤク…。

 

 

 …はっきりと。

 

 

 

「…繋がりが欲しい。…作りたい。貴方から、会いに来てくれる程の…絆が欲しい」

 

 

 

 繋がる言葉…。

 

 それが全て…。

 

 離れていても、一緒にいたい。

 

 繋がり…絆……。

 

 連絡する…きっとまた会える。

 そういった有耶無耶な事ではなく…はっきりとした関係。

 

 手と額を通して、火傷してしまうのではないかと、思える程の体温…。

 

 ……。

 

 口にしてしまった。

 

 後は…怖い。

 

 怖い。

 

 返事が怖い。

 

 口にしてしまった事で、別の恐怖が訪れてしまった。

 

 顔が…見れない。

 

 視界が…彼の首元しか見えない。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 …………。

 

 

 

「ノンナさん」

 

 

 名前を呼ばれた。

 

 どれほどの無言の時間が過ぎたか分かりません。

 

 …それも一瞬に感じる時間だったと思います。

 

 跳ね上がる肩…体……心臓。

 

 

「俺もノンナさんは、好きですよ」

 

「…っっ!!」

 

 その言葉に…跳ね上がる。

 

 

 ですが…すぐに気付かされた。

 

 ……。

 

 そう…同じだと気づかなかった事を…すぐに気づかされた…。

 

 

 

「ですけど…」

 

 

 

 その一言で。

 

 それは一度……あの時のお茶会の時と、同じ言い方…同じ好き……だったと。

 言われた言葉と気付かない程…心が浮ついてしまった。

 手が震え…目を見開き…その言葉を噛み締めた。

 

「あの姉妹……いや…。みほと、連絡が漸く取れたんです」

 

 視界が…歪む。

 

 世界が歪む。

 

 みほ…西住姉妹の妹。

 

 その彼女の名前が出た時点で…理解した。

 

 額が、彼の胸へと落ちていく。

 

 彼の…言い方…。

 

 希に…言ってくれた…その時と同じ……好き。

 

 

「前にも言いましたが、彼女達姉妹は…俺とって大切な恩人です。…ずっと、探してきた」

 

 

 手にまた…力が込められていく。

 

 暗い視界が、更に暗くなった気がした。

 

 そう…ですか……やはり…そうですか。

 

 貴方の「好き」は……私に対する…「好き」……は……。

 

「ですから…俺は、転校を取り消す気はありません」

 

 暗い。

 

 歪んだ視界が…また深く…暗くなった。

 

 彼の胸に当てた額から…一気に遠くなってしまったと実感してしまう…彼の体温。

 

「っっぅ……」

 

 漏れてしまう。

 

 情けなくも、女々しくも…口から…漏れ…。

 

 

「だから…」

 

 

 ……。

 

 自分勝手に告白をし…。

 

 自分勝手に………。

 

 彼の言葉を聞きたくない…と。

 

 身勝手な…拒否…。

 

 

 ……。

 

 

 

「遠距離恋愛…って、奴になりますが…良いですか?」

 

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

「…Да?」

 

 

 …り……理解が……え?

 

 

 え?

 

 

 あまりに軽く言われた、そのセリフ…。

 

 遠距…離……?

 

 

「それに俺は、恋愛というのが、良くわからない馬鹿ですよ?」

 

 

 ……。

 

 

 

 何故でしょう?

 

 隆史さんの顔しか…見えない。

 

 色も白…。

 

 

 白…………一色。

 

 

「ただ…それが、先程言っていた俺の責任とか? そういった所から来る気持ちだとかは、思われたく無いのですけど…」

 

 顔…。

 

 あの時と、同じ顔…。

 

 困った様な……。

 

 

「俺は…ノンナさんの気持ちに応えたい…。そう思います」

 

 

 

 そんな……笑い顔。

 

 

 

「…何で俺? …だとか言うのは、貴女に失礼だと思いますが…。まぁ? 正直に言えばその気持ちだけですけどね」

 

 

 

 

 全身の毛が逆立つ…という表現は、今…この私の状態を言うのでしょうね。

 

 

 

「ですから、まぁ…色々と有りま…うっむぅっっ!!??」

 

 

 

 全てが…何もかも全てが…。

 

 

「ちょっ!! 待っんんっ!? ぷぁっ! 外っ! ここ外っ!!」

 

「ノンナさん、聞いてますかっ!? 見てるっ!! よっぱらムグッ!! 」

 

「んんんっっ!!??」

 

 

 

 

 真っ白になっていく…。

 

 

 

 世界が…純白に……。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「タカ坊」

 

「…ヘい」

 

「あんた、店先…いや、店前で何をしてんだい」

 

「…………」

 

 脚が痛い…。

 

 店の玄関先で、まさかの正座…。

 その正面には、仁王立ちになった女将さん。

 暗い外を照らすように、玄関から溢れる光が、女将さんのバックライトとして機能していて…はい。

 

「…アンタら、酔っ払い共もっ!! 何をまた、おっぱじめようとしてんだいっ!!」

 

《 …… 》

 

 そして俺の左右後方に、おやっさん含めて、全ての酔っ払い共も正座をさせられています。

 はい。悪乗りしすぎだと、ついには女将さんもブチギレました。

 

「タカ坊…。漸く一人に絞ったってのは、まぁ良しとしようかい?」

 

「……ハイ」

 

 まさかの告白。

 

 再来店さら、ドロップキックで押し倒されて…。

 店の前…いや、ギャラリーすらいる前で…告白された。

 

 ある程度、好意的に見てくれてはいたと、思っていたが…。

 ダージリン達にも気を使い、我慢に我慢を重ね…更には、俺の性格も相まってか、漸く口に出来たと…泣いて言ってくれました。

 なぜ、そこでダージリン達と、名前が出たのか訪ねてみたら…。

 

「…まったく。年寄りに無茶させんじゃないよっ!!」

 

 横から、助走を付けて、素晴らしく早く走ってきた女将さんに、ドロップキックをされました。

 いやぁ…積まれた木材に駆け上がり、高所からの落ちる様な。全体重を乗せに乗せた、威力特化の大変強力な良い一撃でしたね。

 …まぁ、避けるわけにもいかず、甘んじて受けました。

 

 はい。んで、現在に至るわけですね。

 

 …。

 

 俺は、誰に言っているんだろう…。

 

 いやいや、俺が正座させられる前の、ノンナさんが凄かった。

 想いとやらが…ダムが決壊するかの如く、その後はもう…なんか…大胆っすね、ノンナさん? 

 …っと、思わず言ってしまう程だった。

 余程我慢していた…と、言ってはいたが、あの冷静沈着。あの視線で人を殺せそうな目をした彼女が、まさかアソコまで…。

 

 いやぁ………口を…吸われる、吸われる…。

 

 

 ……店前で。

 

 

「…女将さん」

 

「おぉっと、来たかい」

 

 店内から出てきた、ノンナさん。

 

 女将さんは、特に強くノンナさんには、言う事がなかったらしく…俺の荷物を持ってくるように彼女に頼んでいた。

 言われた通り、俺のこの店に置いてある、最後のハンドバックを持って来てくれた。

 

 先程までの彼女は何処へやら…。

 体が少し小さいと錯覚するほど、肩が落ちている。

 

 …顔は、真っ赤だけど。

 

「…お…お恥ずかしい所を…ご迷惑おかけしました…」

 

「まったくだよ! 流石にもう少し、場所を考えておくれ」

 

「……ハイ」

 

 パンッと、音を立てて、そんなノンナさんの肩に手を置いた。

 言葉とは裏腹に、女将さんはノンナさんにだけは、めちゃくちゃ良い笑顔だった…。

 

「あの…私がした事…ですから、隆史さんは、特に怒られる様な事は…」

 

「んっ? いいんだよぉ! こういったのは、男が代わりに、責任取るべきなんだ」

 

 じ…時代錯誤…。

 と、言葉にしないで、思っていよう。

 …こうさせられている責任はあると…流石に思う訳で…。

 

「わかってるじゃないか、タカ坊。アンタが散々、誤魔化し逃げ回ってきたからの状況だろう? 自業自得さねっ!」

 

 く…口に出てた…。

 

 そんな俺を見下ろし、手をパタパタさせて、非常に上機嫌になっている女将さん。

 怒るのか、喜ぶか、どちらかにしてほしい…。

 

「隆史さんは、ミニマリスト…なのですか?」

 

「え…なんで? んな事、ないと思うけど…」

 

「…しかし、隆史さんの荷物…。これしか無かったのですけど…これで全部ですか?」

 

 腕に持っている一つのハンドバックを掲げ、少し意外そうな顔をしていた。

 

「えぇ。他の荷物は、ほとんど運んじゃって、後は俺の身一つだけでしたから」

 

「そうですか。まぁ…お陰で、手間が省けるのですが…良しとしましょう」

 

「………………ハイ」

 

 ソウデスネ。

 

『 隆史さんは、いつ青森を離れるのでしょうか? 』

『 えっと…日付変わってるから……あぁ、3日後ですね 』

『 3日後… 』

『 えぇ、ですから、久しぶりにそれまでの間、連休だと思って…最後に筋トレ三昧をしようと思って…い…た… 』

『 要は暇だと。ならば問題ありませんね。行きましょう 』

『 近い近いっ! っと…行く? えっと…何処に? 』

 

 うん…まぁ、ノンナさんと話さなくてはいけない事が、多いと思う。

 

『 あら…こんな真っ暗な夜道。…………こ……恋人を一人で、帰すのですか? 』

『 …… 』

『 で…ですから? しっかりと送って頂かないと 』

『 …まさか 』

『 隆史さんの入艦許可は下りているので、問題ありません 』

『 ………… 』

『 ………… 』

 

『 も…問題は…ありませんよ? 』

 

 

 ……。

 

 不安気に…すがるような目で言われたら、何も言えないでしょうが。

 全ては、計算…という、訳でもないのだろうな…。

 俺が彼女を拒否したら、ソレまでだったのだから。

 

 ……。

 

 いつの間にか、女将さんと談笑を始めたノンナさん。

 

 ……。

 

 すでに普段の彼女に、表面上は戻っている。

 いつもの様に振る舞い…たまに見せる小さな笑顔。

 

 …そんな彼女を、見つめながら思う………気がついた。

 

 何かが…無くなった…と。

 

 心から? 体から…? 

 何か、どこからか…と、上手く言い様が…確かに無くなった。

 スッ…と、ゆっくりと消えた。

 突然に…唐突に…消えた。

 

 言い方が、しっくりこない。

 

 

「…隆史さん?」

 

 俺に目線に気がついたのか。

 店の外へと漏れる光に照らされた、彼女の顔が、俺に向けられる。

 

 無表情に見える程…小さく微笑んでいる彼女。

 

 …。

 

 彼女は、俺なんかを選んでくれた。

 

 だから、俺もその気持ちに応えて…えら……ん……。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

 はぁ…。

 

 ……もういい。

 

 …こんな気持ちで、考え込んでいたら彼女に失礼だ。

 脚を上げ、立ち上がる。

 彼女の事だけ…見ていよう。

 

 …付き合う。

 

 交際。

 

 恋人関係…。

 

 そういった関係に、なったんだ。

 選択した、決断した…。

 

 彼女に応えようと…決めたんだ。

 

 そんな関係で。ここにいられる時間…。

 

 その残された時間が…短いんだ。

 

「…ところでアンタ達」

 

 女将さんの声が、俺の思考を中断させた。

 そちらを向けば、すでにノンナさんは、帰り支度が完了しており…女将さんは見送る気満々だった。

 腰に手を置き、どうしたらいいか分からないという顔の酔っ払い共に一言。

 

 

「いつまで地面に座ってんだい。みっともないから早く立ちなっ!」

 

 

 ……。

 

 …女将さん。

 

 色々とヒドイっす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度、引っ越す前に、店に顔出さないと…」

「そうですね。私のせいで…お別れの邪魔をしてしまった様なものですからね」

「いや、邪魔って訳ではないですけど…。あ、カチューシャは…」

「はい。問題ありません。すでに時間も時間でしたしね…部屋に送り届けて来ました。今はもう夢の中でしょう」

「…まさか、ヘリでずっと、待たせてるとは思いませんでしたよ…。ドア開けたら、すっごい涙目で、抱きつかれましたし…」

「そうですね…。毛布、飲み物、食べ物…メディア機器……お眠の際のヌイグルミまで完備しましたが……少し…怖い思いをさせてしまったでしょうか?」

「完全完備…。いや、それ以前に、あんな真っ暗な場所で、一人で待たされれば、そりゃ怖いでしょうよ…」ナントモイエネェ

「明日…謝りましょう」

 

「……」

 

「……」

 

「……で、ノンナさん」

「はい?」

「そろそろ、夜中の2時を回りますですね」

「日本語変ですよ?」

「散々、普通に話してきてなんですが…」

「あ、無視は傷つきます」

「…取り敢えず、一度俺は帰りますから…」

 

「え?」

 

「…何言ってんだ? って、顔はやめて下さい」

 

「?」

 

「可愛らしく首を傾げないでくださいっ! というか、出入り口に立ち塞がらないで!」

 

「あら…こんな大きいだけの女に、可愛いらしいとは…」

 

「会話して!?」

 

 

 はい、ノンナさん達が乗ってきたヘリに乗せられ…ここにきました、プラウダ高校、学園艦。

 残り短い、3日間…それを一緒に過ごしたいと…そう言われてしまえば、聞かない訳にはいかない。

 まぁ実際は、明後日…いや、日付が変わっているから、明日には青森に一度戻んないといけない。

 

 いや…そこまではいい。

 

 寝てしまったカチューシャを、部屋に送り届けるという名目で、ここ…よりにもよって…女子寮へと連れてこられました。

 

 夜の…女子寮…。

 

 …こんな女子寮をウロウロしている男なんて、不審者以外の言葉が見つからない。

 

 

 いやいやいや、百歩譲って…そこまでも、良しとしよう…。

 本当は、良くはないが、良しとしよう…あえてっ!!

 

 しかし…。

 

 そんな訳ですから? 私の部屋で隠れて待っていてください…って、カチューシャ運んで到着した早々に、ここへと押し込められた。

 軽々とカチューシャを、お姫様だっこの要領で抱き上げて、運んでいくノンナさんを、そこから見送った…。

 

 …俺、必要だったか?

 

 つか俺、見つかったら…即、御用だろ…。

 

「男性を…自室に…」

 

 ……。

 

 なんか、すっごい嬉しそうに笑ってらっしゃるけど…。

 部屋の出入り口に立ち、俺を含めて部屋全体を視界に入れているのだろうか?

 まぁ…ある意味で、昨日までは想像もしていなかったと思いますけど…。

 

 確かに彼女は、すぐに戻ってきましたよ?

 だからといって、女性の部屋に、夜中に一人で残される俺の身にもなってください。

 

「漁りましたか?」

 

「何を!?」

 

「下着はそちらの…」

 

「漁ってませんよっ!!」

 

 部屋から出ていく前に、箪笥に関してだけ、変に詳しく説明していったな…。

 どうぞ? って、何か薦めてきたけど…。

 

 …………あ。

 

 そういえば中学生の時…。

 まほちゃんも同じように、俺を待たせる部屋の…「何か……他の女性の事でも、考えてますか?」

 

「いっ!! いいえっ!!」

 

 な…なに!? 今、すげぇ目で睨まれたけど!!

 

「……ま。良しとしましょう」

 

 …だ…黙ってよう…。

 

 しかし、なにもない部屋だなぁ…。

 

 シングルのベットに…机…。

 後、衣装箪笥と本棚くらいか…。

 シンプルだけども、ちゃんと掃除されていて、非常に綺麗だ…。

 女性の部屋を余り、マジマジと見るのも何か、申し訳なく…取り敢えず、目の前のノンナさんしか、視界に入れない様にしよう…。

 

 そして、その彼女から…淡々と棒読みで始まる説明…。

 

 いや…カチューシャの事はいい…それよりも、その他に説明…。

 

 こういった寮で個室を与えられるのは珍しいらしく、しかもここは、2階の角部屋。

 隣部屋の生徒は、土日を利用し、急遽帰省し……た?

 

「えぇ、先程」

 

「先程っ!?」

 

 怖っ!!

 

 なんか知らんが、得体のしれない恐怖に襲われる!!

 

「では、隆史さん」

 

 っっ!?

 

 急に真面目な顔して、名前を呼ばれた…。

 なんだろう…。

 ノンナさんの私室で、こんな時間に対面しているという…すっごい状況。

 

「御存知だとは、思いますが…」

 

「は…はい?」

 

 覚悟…とでも、言うのだろうか?

 キッと目を細め…睨みつける様な目で俺を見る。

 そして…。

 

「私は…思いの外……嫉妬…と、いう感情が、深く…強いのです」

 

「……」

 

「…ですから、今回の行動に踏切ました…」

 

「あ…ぅ?」

 

 あ…そうか。

 みほの為に、転校をする…それに気づいたからこそ…の。

 

「貴方は、そちら方面の事は、非常に…本当に………怒りすら覚える程に鈍いので…分からないかもしれませんが」

 

 す…すみません。

 というか、なぜ今その話…。

 

「それを、私とお………お付き合い…を、する上で…覚えておいて欲しいのです」

 

 ……。

 

「先程…私が、想いを伝えた時…私は特に、貴方に転校を取りやめて欲しい……とは、一言も言いませんでした。えぇ、無理だと分かっていますから」

 

「あ…そうか、俺が…」

 

「はい。私は言いませんでしたが、貴方から切り出した。それが余計に、貴方にとって「西住姉妹」が、特別だと実感させられ…私は…あき……ら…」

 

 顔が前に少し傾き…横髪が前に垂れ下がる。

 顔の半分が隠れ…表情が…。

 

「ですが、あの姉妹よりも、私を選んでくれました」

 

 ……。

 

 まただ…先程の…変な喪失感が、また襲った。

 

「それが…どれだけ…嬉しかったか…」

 

「……」

 

「ですから、特に…あの姉妹と完全に縁を切って欲しいとか…そういった事を、私は言いません……なぜなら…」

 

 

 …少し、また笑って…言い切った。

 

 

「あの姉妹との関係…それを含めての、今の貴方。その全てが、私は好きになったのですから…」

 

 

 そう…笑った。

 

 本当に…嬉しそうに…。

 

 あ…ぁ…。

 

 ここまで…楽しそうに…嬉しそうに笑った彼女を見たのは…初めてだ。

 

 

「あ、ですが、嫉妬はしますよ? えぇ、遠慮なく。浮気をされた場合の処理も、48手程考え抜いています」

 

 

「…………」

 

 あっさりと…顔色を変えた…。

 あの表情のノンナさんって、すっごい珍しいのに…。

 

 …………ま。

 

 その内にまた…見せて貰えるように頑張れば良いか…。

 

「…隆史さんからは、何かありますか?」

 

 ……。

 

「う…そ…その。なんていうか…」

 

 また、楽しそうに小首を傾げた。

 同じ様な大きな笑みで…。

 

「多分…その…俺も男ですので? その…しかも……」

 

 そんな彼女に対して…言えねぇ…。

 

 

 

「あぁ…隆史さんの特殊性癖の事ですか?」

 

 

「なぁぁっ!!??」

 

 

 な…えっ!? はいっ!?

 

「まぁ? 隆史さんも男性ですので…仕方がないと思いますが…」

 

「特殊ではないですっ! そりゃ、人より多少? 性欲は強いと思いますが…って、何言ってんだ俺はっ!!」

 

「メガネ…」

 

「 」

 

 変な言い訳を叫ぶ俺に対して、一言呟いた…。

 しかも…ソレデスカ。

 

「…掛けなくてよろしいですか?」

 

「がっ!! …ぐっ!!」

 

 掛けて欲しいに決まってんでしょうがっ!

 黒フチっ!! もしくは、彼女も黒髪ロングだから、フチ無しが、すっげぇ良く似合いそうっ!!

 いやいやいやっ! それ以前に、メガネとか好きなの言ったっけ!?

 

「…ちょっと、待ってくださいっ? なんでんな事、知ってんですかっ!? つか、えっ!? はっ!?」

 

「隆史さんの秘蔵コレクションとやらを、拝見したからです」

 

「  」

 

「出処は内緒です」

 

「    」

 

 出処…って、え?

 アレって…実家に置きっぱなしにしていたノーパソにしか…しかもネットに繋がってない奴…。

 どうい……いや、どのフォルダのっ!?

 

「…色々と勉強になりました」

 

「何がですかっ!!」 

 

 ノンナさんは、表情を変えないで、淡々と言って来るから、余計に堪えるっ!

 寧ろ、軽蔑の眼差しをされる方が、まだ良いよっ!!

 …そして、その無表情のまま、本当に疑問というか、不思議そうな顔で…。

 

「何故隆史さんは、掛けた顔に、掛けたがるのでしょう?」

 

 …やべぇ方のファイルでした…。

 

「勘弁してくださいっ!! つか、意味分かって言ってます!? つか、俺じゃねぇっ!!」

 

「…十分、特殊性癖だと思いますが?」

 

「  」

 

 し…死にたくなってきた…。

 

 混乱した頭の中が、さらに色々とゴチャゴッチャに…。

 なんつー事を…暴露されているんだろう…。

 

「何でまた、今…このタイミングで言うのですか…」

 

 そりゃ…まぁ、その内に言わなきゃいけない事かも、しれませんけどねっ!?

 付き合いだしたその日に、んな事を…バレてるって事を、言われなきゃ…。

 

「…このタイミングだからですよ」

 

「はい?」

 

「……」

 

 カチャリと、良く聞く音がした。

 

 部屋の鍵を閉めたのだろう…って、今までは開いていたんすね…。

 すでにその場所には、用がないと…出入り口から、ゆっくりとした足取りで、近づいてくる…。

 一直線に…俺に……。

 

「あの…ちょっと…ノンナさんっ!?」

 

 そのまま、俺の胸に顔を付けた。

 

 すっ…と、服を擦る音…腕を開き、抱きついてきた…。

 甘い匂い…目の前の彼女の髪の匂いが、鼻をくすぐる。

 グイッと、強く…密着させてくる体。

 

「……」

 

 腕を背中に回し…また、俺を逃がさない様に隙間なく、体を合わせる。

 本日…2度目の心音が聞こえてくる…。

 

「いつもみたいに、胸が当たってるとか、言わないのですね? まぁ、当てていたのですが…」

 

「っっ!?」

 

 冗談粧した言葉を言いながら…少し冷たい手が、背中に添えられた感触。

 Tシャツの下へと手を潜らせ…ゆっくりと上へと…。

 彼女の腕が、俺のシャツの中に全て収まり、強く抱きしめられた。

 それと同時に、胸へと顎を乗せ…俺を見上げてくる…。

 

「…分かりませんか?」

 

 しばらくそのまま見つめ合い…背中をたまに摩る手の感触…。

 摩るだけで、服を脱がしに掛かるとか、それ以上の事は一切しない。

 視線だけが交差し、静かな時間…。

 

「一度別れた後、あの場所に戻ると決めた時から…全ての覚悟は、決めています」

 

「……」

 

 覚悟…。

 

 時間が経つに連れ、彼女の目が段々と充血し…潤み始めた。

 頬に薄く赤みさし…そして…。

 

 

「…こ…この後…どうすれば…???」

 

 

 ……。

 

 本気で泣きそうな顔で、呟いていますね…。

 いや…どうすればって…。

 

「……ぅ…ぅう…」

 

 分かる…分かるさ。

 ここまで、お膳立てされて…部屋にまで招かれて、この状況。

 流石に付き合うと決めた、その日に…ってのは、どうかと思ったので、変に誤魔化そうとした。

 彼女がその気になる前に、今日はこのまま…本当に、どこぞのホテルにでも泊まろうと思っていた。

 

 だけど…その気になった。

 

 ここまでされた。

 

 …してくれた。

 

 顔を真っ赤にして、狼狽し始めた彼女。

 

 …俺との時間が、余り無いのは、重々承知してるのだろう。

 だからこそ…なのだろうか? 覚悟…とも言っていたし、ここまでしてきたという事は、この事を含めての事だろう。

 

 余り知識もないのだろうに、出来うる限りをして、迫ってくれているのだろうな。

 体を合わせ…密着しているこの状況。

 どうにかしようと、困りあぐねいている彼女。

 体の震えから、焦りだけは伝わってくる。

 

 

「と…歳上……私は、歳上…」

 

 

 …聞こえてますけど。

 

 必死になって、自分に言い聞かせる様に呟き続けている…。

 歳上…ね。

 先程まで、ある程度は余裕を見せようとしてくれていたのだろう。

 変な会話も…冗談粧したセリフも…ある意味で平静を保とうとしていたんだな…。

 いつもの雰囲気…。余裕を持った彼女は…そこにいなかった。

 

「私はオネエサン…トシウエ……オネエサン……」

 

 余り表情に変化はないが…逆にソレが、彼女らしく感じ…。

 

 非常に…可愛らしく…。

 

「…な…何を笑っているんですか」

 

 黙って見ていたのが、バレてしまった…。

 自然と出てしまった…苦笑にも似た笑い。

 

 自分の状況がわかっているのか、頬の赤い色が、一瞬にして顔全体に広がっていった。

 顎を引いていたので、恨みがましそうな上目使いが、完成している。

 

 …ノンナさんは覚悟を決めたと言っていた。

 

 本当に一度、お別れとやらが済んだと思っていたので、正直驚いてた。

 あの場に戻ってきた時もそうだけど…彼女の気持ちが、ハッキリとしていた事に。

 

 変に誤魔化さないで、濁さないで…。

 ハッキリと伝えられた事と…俺もその彼女に、応えると決めた以上……。

 

 宙に浮かせていた腕を下ろし、そのまま下へ…。

 彼女の腰に手を回す…と、一瞬、驚く様に体が反応した。

 

「あ…」

 

 抱く。

 

 腰を抱き…こちらに引く…。

 密着した体と体の間が、隙間なく…強く合わさる。

 硬直していた彼女の体から…力が抜けていった。

 

 自然と…だろう。

 

 抱いていたノンナさんの腰の位置が……上がった。

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 一度、口が合わさると…我慢していたモノが壊れた気がする。

 音を立てて…脆く崩れる様に。

 

 口を吸う音だけが、部屋に響く。

 

 …初めは、触れるだけ。

 

 当たる体温。

 

 すぐに離し、至近距離から見つめ合う。

 …なんだろうか…物凄く…恥ずかしい。

 

 これは、なんか…いや…もう…恥ずかしがる様な年でもないのだろうが、な…んか、こういったのは初めてだった。

 

 それは、ノンナさんも同じな様で…眼だけを逸らすと…。

 すぐに2度目が…。

 

 また触れるだけ…だったのだが、すぐに彼女の下唇を唇で挟む。

 ヌルッとした感触と、暖かさ。

 それに合わせ、彼女が俺の上唇を…舐めるように舌と一緒に何度も何度も…。

 

 そのまま離す事なく…三度目…。

 

 お互いの舌を絡めあう。

 

 息継ぎを何度か繰り返しながらも、顔を傾けできるだけ奥へ、奥へと。

 絡め…吸い合う。

 

 その音だけ。

 

 無言で…お互いを貪り合う様な…口付け。

 

 彼女の腕は、すでに背中には無く、首に回され…俺の後頭部へと手を添えている。

 頭を抱き抱えられる様に、離れない様に…。

 

「…んっ…ヂュ…んっ…んっっ!?」

 

 

 大人しい彼女の見た目とは違い…とても激しく…情熱的に求められている。

 彼女も彼女で、夢中になっていたのだろう。ハッと、我に返る様に、目を開いた。

 彼女が舌を抜き…少し顔を離すと、また恨みがましい目で見られてしまった。

 腕は離していいないので、先程よりも至近距離から…。

 

「は…初めてが、アレだけ刺激が強かったのですから…こうなるのは、当たり前です」

 

「……」

 

「大分…我慢していましたし…」

 

 あ…はい。

 お茶会の時のお話だよな…。

 

 やっぱり、初めてだったのですね…アレ。

 拗ねるような言い方で、言い訳をしてきたね…。

 

「で…ですから…。もっと…んっ」

 

 またすぐに口を吸われ…体重を掛けらた。

 

 脚の裏に、少し固く…柔らかい感触。

 

 …ベットへと誘導された気がする。

 足関節が折れ、自然に腰を下ろすと…口を合わせながらも…膝の上に彼女が跨ってきた。

 

 …やっぱり誘導されたな。

 

 跨りながらも、肩に手を置き、体を離すと、彼女の上半身全体が視界にはいる。

 

 目の前には…。

 

 

「……」

 

 

 いや…するよね。

 

 

「……………」

 

 

 して…しまいますよね。

 

 

「……………………」

 

 

 しないはずがない。

 

 

 

 

「見すぎです」

 

「 はっ!! 」

 

 いかんっ! 今までの雰囲気が、全て飛んだ気がするっ!

 すっごい、呆れられた目で見られているっ! …気がするっ!! しかし、目が離せられないっ!!

 

「はぁ……どうしてこう、男性というのは…」

 

 すっごい呆れられた声が響く…。

 いや…でも、ですね? こんなに立派なモノが、目の前に…少し手を伸ばせば届く距離にあれば、見ない方が、不自然というものだと…。

 

「…言い訳が長いです」

 

「 」

 

 あ…はい。

 

 素直に謝っておこうか…。

 

「す…すいません」

 

「……はぁぁぁー…」

 

 なっがい、ため息…。

 

「でも…何故でしょう?」

 

 そう言うと…制服のボタンを目の前で、外していく。

 白い指が、更に白く見える…。

 その指で、上から順に外されると…床に落ちる、衣服の音…。

 

 赤い、インナーシャツ一枚のノンナさん。

 

「…貴方になら、ずっと見ていて欲しいと思えるのは…」

 

 今度はインナーシャツのボタンへと、その白い指が…。

 

 …止まった。

 

 しかし、すぐにその…止まっていた指が動き出した。

 ポチッと音がして、その白い肌が…面積が広がってゆく。

 

 また、上から順に開かれている…赤い扉。

 

 …余り…躊躇がない、その行動…。

 全ての鍵が外された時、シュルッと音を立てながら…真っ白な肩が現れた。

 

 腕の関節まで、下げられた赤い…ベール。

 それと同じくして、赤い…大きな華の刺繍の下着…。

 

 肌との…紅白のコントラスト…。

 

「……」

 

「…ぶふっ!!??」

 

 そのコントラストが、襲ってきた。

 目の前が真っ暗となり…眉間辺りに少し、硬い感触。

 頭に思いっきり抱きつかれた。

 ザラザラとした下着の感触と…その後ろから来る、大きな圧力…。

 

 い…息ができん…。

 

「…いえ…ずっとは、嫌ですね。却下です。…なぜか…腹が立ちます」

 

 俺の頭に腕を回した彼女が、更に強くその腕の力を強めた。

 力を込めている為…と、いうだけではないだろう。

 少し…小刻みに震えている。

 

 顔が近づき…また視界が真っ暗となった。

 

「…経験なんてないですし…こんな事くらいしか…」

 

 ほぼ躊躇なく、服を脱ぎ出したり…したのは、それしか方法が分からない…とでも、言っている様だった。

 先程、歳上、歳上と呟き続けていたのは、本当にそのプライドもあったのだろう。

 だから…できるだけ…と、リードをしようと思い、肌を晒してくれた…と。

 

「…お…思いの外……恥ずかしい。顔から火が出る様です…」

 

 が、すぐにソレらを、羞恥心を上回り…俺の頭を抱きしめる事で、視界を奪った…と、いう訳ですかね。

 

 お陰で、下着はしているが、あの…あのっ! 谷間にっ!!

 …顔が収められているという事だね。

 

 下着の生地を通して、体温が伝わってくる程に…熱い。

 

 …。

 

 …………。

 

 

「んっ!?」

 

 

 そこまでされては、俺も本当に…本気で…応えるしかないじゃないか。

 徐に両手で、顕になっている、横腹の肌に触れる。

 

「ふっ……んっ…」

 

 くすぐったいのか、顎を俺の頭に付け…更にその頭を強く抱き抱えてきた。

 スー…と、優しく肌の上を、横腹から背中に掛けて、ゆっくりと移動させる。

 見なくとも、その手触りだけで、ものすごくきめ細かい肌だと分かる…。

 

 背骨横をなぞり…摩り…彼女の細いウエストを抱きしめる。

 そのまま、尻部の上に手を置くと、ビクッと体が反応した。

 

 シュッ…と、たまに小さな音が鳴るくらいに、手の平で彼女の後部全体を温める様に撫で続ける。

 肌の方から、手の平へと吸い付くように流れる感触…。

 ずっと…いつまでも触っていた程だった…。

 撫でる程、彼女の体温が上がっていくようだった…小さな吐息を何度も上げている。

 

「んっ…ぁはっ…」

 

 気が付けば、彼女の体は少し離れ、またお互いに唇を吸い合っている。

 

 言葉は無く、ただお互いの唾液を交えるだけの…音。

 

 こうしているだけでも、満足してしまいそうだけど…段々と俺自身に別の感覚が芽生えてくる。

 もう…いいだろうか? と、摩りながらも…彼女の背中に、まだ存在している物を除去したかった。

 片手で、彼女の背中を摩り…もう一つの手の指で、その中心を摘む。

 

 硬い感触が、小さな音を立てて離れた。

 解放された乳房が…重力に引かれ…俺の胸の上に……

 

 

 

 って…。

 

 

 あれ…?

 

 

 顔をいきなり離された。

 

 

 

「……」

 

 

 

 な…んだ?

 

 部屋の明かりの逆光で、彼女の顔が暗く見えるが…その目には光が見えない。

 黙って口を結び…それでも真っ直ぐと俺を見下ろしている。

 上がった熱が、一気に氷点下にまで落ちたような…そんな雰囲気…。

 

 

「…隆史さん」

 

 はい?

 

 本当になんだ?

 少し、怒ったような…顔?

 肩に掛かっている、紐が…スッ…と外れて落ちると…。

 

 

「………随分と…手馴れてますね」

 

「  」

 

 

 

 し…。

 

 

 しまったぁぁーーーっっ!!!!

 

 

 自然にやりすぎたッ!!

 

 

「ホックを…見もしないで……。しかも片手で、あっさりと外すなんて…」

 

「   」

 

 目がすっごい、細くなったっ!!

 こ…こっわっ!!

 

 

「まぁ…? 所詮…過去の事ですので? 深く追求なんて、野暮な真似は致しません…が。ダレ? デショウ?」

 

「   」

 

「…誰……でしょう? ダージリン…さん? いえ…まさか……アッサムさん…?」

 

「     」

 

 野暮な真似してますよ!?

 オペ子が候補に挙げられないのが、若干引っかかるが…って、近ッ!?

 先程とは違う距離の縮め方が、非常に怖いっ!!

 目の色が、明らかに先程とは違いますよっ!!??

 

「い…いえっ!? こんな事するのは、ノンナさんが初めてですよっ!!」

 

「……」

 

「…………」

 

 

「 ふーーーーー…………ん 」

 

 

 あのノンナさんが…「ふーん」って言った。ふーんって…。

 それにまた…すげぇ長い、フーンだな。

 

 うっわ…顔が全然、信じてねぇ…。

 

「ほ…ほらっ!! 俺、姉さんいますしっ!!」

 

「……」

 

 く…苦しい…。

 

 非常に苦しい言い訳っ!!

 咄嗟にでた言葉が、こんな事かっ!!

 

「…………」

 

 あ…あれ?

 

 目力が、消えた…え? 閉じた…。

 信じた? え? 信じたの!?

 

「…なる程…あの姉なら…」

 

「……………………」

 

 ちょっと待って。

 

 逆に、俺が気になる。

 

 明らかに、アノ特殊な姉を、知っている様な口ぶりですね?

 

「いや? しかし…それとは別として、隆史さんの手の動きが………まさか…」

 

 いかん…別の疑問を持たれる。

 というか、最悪な誤解をされそうだ!

 

 今は、取り敢えず、変な誤解をさせない事を優先させようっ!!

 

「お…男はですねッ!?」

 

「…なんでしょう?」

 

 ギロッと、眼球だけで睨まれた…。

 ひ…引くなっ!!

 

 

「普段からですね!? イメージトレーニングってのを、欠かさないモノなんですよっ!!」

 

 

「…………」

 

 

 あ…。

 

 すっげぇ、呆れれた顔をされた。

 

「それは、普段から如何わしい事を考えていると…そういう事ですか?」

 

「……」

 

 ソレを淡々と言われると、非常に辛い…。

 

「ふむ…しかし、以外ですね」

 

「ん? あれ?」

 

「あのフォルダの中身を、拝見した時も、思いましたが…少し、安心しました」

 

「…………」

 

 何故、アレを見て安心できた。

 

「隆史さんは皆さんから、女性に興味がないのでは? …と、疑われていた程ですのに」

 

「  」

 

 こ…言葉がない…。

 

「そ…そんな事ないですよ。結構…俺って、そっち方面、酷いですよ?」

 

「でしょうね」

 

 …………。

 

 もう…黙ってよう。

 

 どんな顔を、今俺はしているか分からんが…そんな俺の顔をノンナさんが、楽しそうに見つめだした。

 

 何故か知らんが、俺の困った顔というのを見るのが、みんな好きらしい…。

 なんか、前にも言われた気がする。

 ものすっごい冷たいオーラが、すでに無くなっているから…よ…よかった……のか?

 

 小さな顔の変化が、はっきりと分かる。

 

 だから、余計に今…彼女が楽しんでいるというのが、変に…嬉しい。

 その表情のまま、両腕を曲げ…親指を両肩の赤い紐に掛けた。

 

 少し、また頬を赤く染め…

 

 一言呟いた。

 

 

「…では…どうぞ」

 

 

 何かが落ちた音がした。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ですから…見すぎです」

 

「…スイマセン」

 

 先程から、本当に顔に火がついたのではないのかと、錯覚する程に熱いです。

 

 外されてしまった物は仕方ありません。

 どうせ…脱ぐつもりではありましたし…何より、見たそうでしたしね。

 

 自分から露出した胸を、張ると…また、ジー…と見てくる隆史さん。

 自然に、顔をこちらから背けてしまう程に…穴が開くほど見てきますね…。

 

 そんなに好きですか…。

 

 服を着ていたとしても、男性からの視線が嫌という程に集中する胸。

 本当に、無駄に成長したというか…なんというか…。

 ただ、不快なだけでしたのに、何故か彼の視線を釘付けにできる…できている…というのが…嬉しい。

 

「んっ!?」

 

 突然、胸の形が変わった。

 

 下から持ち上げるように…彼の閉じるように縮まる手の形に。

 

 強く…でもなく弱くもなく。

 

 乳房の形を変える指が、何度も何度も、揉みしだく。

 端から先端に掛けて、寄せて来るように前後に動く。

 

 かと、思えば…先端…乳首を押し込める様に動く。

 親指が、擦るように左右に…。

 

 優しく、マッサージをするかの様に、何度も動きを変え…乳房の肉を、先端に集める様に…。

 

「はっ…はっ…」

 

 背筋に、何かが走る。

 

 呼吸が段々と…自然と早くなる…。

 喉から、自分でも分かる程に、熱い温度に温められた様な息…呼吸…。

 両肩が開き、胸を前に出してしまった。

 出してしまった胸を、また…優しく……。

 

「んっ…あ…あの、余り…」

 

 私の言葉が聞こえないのか…気にする事もなく、執拗に胸の形を…線を曲げる事に夢中になっている。

 

 …何故、彼は目を輝かせているのでしょうか?

 

 何かに感動するかの様な…。

 

 ま…まぁ、喜んでもらっている様で、良いのですが…。

 

「…余り、人の胸をおもちゃにされては、困るのですが……はぅっ!? んんっ!!」

 

 思わず唇を噛んでしまいました…。

 変な声を出してしまう所でした。

 

 先端…その…乳首を回りごと吸うように、口に含まれましたね…。

 あの…。

 

「はっ…ふぅっ!? …ぁ…」

 

 転がす様に、舌を転がして…。

 

 左右に顔を離しては着けて…離れた空いた胸を、手先で揉まれる…。

 感覚が徐々に、敏感になっていく気がします。

 触られ…吸われ……舐められていく度に…。

 

 目の前の彼の頭が……それこそ、赤ちゃんの様に、夢中になって胸を吸っている…。

 

「んぐっ!?」

 

 思わず、その頭を抱きしめてしまった。

 胸の間に、彼の顔が押し込めて…。

 

 少し、苦しそうな声がしましたが…何故でしょう? 離す気には、なれません。

 

「……?」

 

 が…そのまま、体を抱きしめられ、彼の体温を感じようとしたら、すぐ横に体をどかされ中断されてしまいました。

 ベットの上に座らせられ…先程まで対面で抱き合う…という、姿勢を崩されて…?

 

 彼は立ち上がると、少し荒い呼吸に変わっていますね…。

 やはり、少し苦しかったのでしょうか? はぁはぁと、はっきりと聞こえる程の…呼吸。

 

「もう、無理です」

 

「…え」

 

 私に言ったのかどうなのか、分からない程小さな呟き。

 

 その一言で、隆史さんが上を脱ぎ捨て…カチャカチャと、ベルトを鳴らし始めました。

 

 ……。

 

 そうですね。

 

 流石に分かります。

 

 膨れ上がった筋肉。

 そこには、所々…まだ完治していないのでしょうか? 

 …赤く、腫れた線がいくつも引かれていました。

 

 ……。

 

 そして…。

 

 彼が私の頭を撫でる。

 

 髪の間に手を入れて…髪の感触を楽しむように…。

 

 ただ…少し。

 

「どうしました? 恥ずかしそうですね。髪に触れる事が…でしょうか?」

 

 それとも…。

 

「いや、それも少々照れますけど……この状態を見せるのが、恥かしいに決まってるじゃないですか…」

 

「そうですか」

 

 初めて…生まれて初めて見る…。

 …男性自身。

 

 ……。

 

 …………。

 

「…ノンナさん。見すぎです」

 

 …仕返しをされてしまいましたね。

 でも、見入ってしまいました。

 半円を描く様に反り、脈を打つようにビクビクと、動いている。

 見た目…正直、グロテクスと言えるのですが…。

 

「隆史さんのフォルダの中のは、モザイク処理がされていたのですが…なる程。これが…」

 

「……………」

 

 何故か、手の甲を額に当てて目元を隠しましたね。

 何を嘆いているのか知りませんが…少し、楽しく思います。

 

「……」

 

 また、顔の温度が上がった気がします。

 

 この少し…ほんの少し…ピクピクと動くのが…また……。

 

 ……。

 

 根本的な問題に気がつきました。

 雄々しく…とでも言える程に大きい…のでしょう。

 一般男性のなんて、知るわけがありませんが…そうです。

 

「…………」

 

 コレ……本当に、私の中に入るのでしょうか?

 

 少し…血の気が下がった気がします。

 いえ…? 上がった?

 

 なんとも言えない、感覚…。

 

 目の前に突き出されている、その…なんて言えば良いのか…。

 

 その赤黒い先端…。

 少し、部屋の明かりを反射し、テラテラと光るその…先端。

 これは…私を見て…こうなっていると、思って良いのでしょう。

 少し、嬉しいと感じるのが、変に恥ずかしいです。

 

「…………」

 

 たしか…。

 

 取り敢えずと、邪魔にならない様、髪を指で耳に掛け…えぇ…と。

 次に…と、腰を前に出すと…。

 

「っ!?」

 

 隆史さんが、何か驚いていますね。

 

 …多分、あの隆史さんファイルの動画とかと同じ事をするのが、正解だとは思うのですが…。

 何度か拝見し、やり方…は、なんとなく分かるのですが…。

 実際に、いざやるとなると…少し、怖いとです。

 

 えぇ…と。

 これは…口を思いきり開けないと…ダメでしょうか?

 

「…」

 

 考え出してしまうと、動けなくなりそうですね。

 とにかく行動に移した方が、良さそうです。

 

 ……では。

 

「…はっ…」

 

 口を開ける時に、少し声が出てしまいました。

 

 ……。

 

 はい、ですから考え込むと何もできなくなりそうです。

 取り敢えず、あの動画と同じ様に…。

 

 

 恐る恐る伸ばした…舌先から、少し痺れる感覚…。

 

 

 舌を、その先端の下部へと添える様に這わせると、彼の体が少しビクンと、跳ねた気がします。

 少し、舌先だけで動かすと、更に跳ねる。

 

 …少し楽しい…。

 

 ゆっくりととそのまま、上顎を開く。

 …ソレを口に入れる事に、特に抵抗はなく…何故か、興味が沸いていました。

 舌から…肌を舐める様な…少し、塩辛い味。

 そして、少し苦味を感じました。

 

「んあっ…」

 

 ヌルッとした舌触りと一緒に、顔を前に押し込め…。

 唾液を絡めながら…ゆっくりと…。

 

「んっ」

 

 良くわかりませんが…これで良いのでしょうか?

 たまに痙攣するかの様に、口の中の彼が、跳ねる。

 口の中が、物凄く熱い…。

 

「……くっ」

 

 彼の声が漏れる…。

 閉じていた目を開け…彼を見上げると、少し苦しそうな顔をしていました。

 何か…違いましたか?

 

「…っぷ。痛かったですか?」

 

 一度、口から抜き…彼に訪ねると…。

 どうやら、躊躇をせず、口に含めたのに驚いた様でした。

 

「誰かさんの秘蔵ファイルの中に、多数ありましたので? 参考にしました」

 

 …何を今更、驚いているのでしょうか?

 それに、先程から何故、血の気が引いた様な顔をしているのですか?

 まぁ…間違えていないのでしたら、また…。

 あの動画やら画像では、口に入れるだけではなく、顔を前後に動かしていましたね。

 後は…あれは、女性が吸っていたのでしょうか?

 

 では…。

 

 すぐにまた腰を動かし…体を倒す。

 

 また口の中に、奇妙な味…感触と感覚。

 大きく動かした方が、良いのでしょうか?

 少し、強く体を前に倒すと、その反動で、口全体に広がる味…と、鼻を通して感じる、男性の匂い…。

 これが、隆史さんの匂い…。

 

「ぶゅっ…」

 

 前後をゆっくりと繰り返し始める。

 その味と匂いが、何度も刺激をし始めましたね。

 ……。

 

 …少し…楽しい。

 動かせば、動かすほど、彼が反応してくれるのが、妙に楽しく感じます。

 

 …動かす程、口から音がたまに漏れますが、これは…少々、恥ずかしい。

 隙間なく、私の口内を一杯にさせてしまっている、隆史さんのソレは、動けば動くほど、唾液が音を立てて、溢れる。

 口から、聞こえる音の数が増え…大きくなる。

 

 …繰り返し、繰り返し…何度も。

 

 先端の裏? というのでしょうか? 突起部分に唇が掛かると、彼が少し腰を引く。

 …気持ちが良いのでしょうか? それとも痛かったのでしょうか?

 彼の呼吸が早くなっていくので、多分前者でしょう…か? 何故か…これもまた、楽しい。

 特にこの裏側部分に、唇と舌を引っ掛けると、目に見えて大きく反応してくれるので、執拗にしてしまいそうになりますね。

 

 はい…やはり楽しい。

 

「ノンナさん…ちょっと早く…」

 

 …と、言われましたので、さらに音が出てしまうほど…それも気にしない程に早く…。

 舌を動かして欲しいと言われましたので、できるだけ大きく…奥へ…全体へ…。

 少し喉に当たる時が、咽せそうになってしまいましたが、彼の反応が楽しく…我慢してまで、また大きく頭を動かす…。

 と、いいますか…少し、私の中の気分も高揚している。

 この、喉に少し当たる感覚が…また…いい。

 

 初めてでしたので、あまり上手にできませんが…それでも出来るだけ、彼の要望に応えてあげたかった。

 私の頭に添える手が、たまに撫でてくれる…それを求めて、また何度も何度も…。

 

「んっ…んっ…んっ……ぁはっ…はい?」

 

 と…せっかく思っていましたのに、頭の動きをその手で、止められたました。

 それどころか、彼から私の口の中から出て行ってしまいました。

 引き抜かれたソレは、私の目の前で止まると…そこから垂れている唾液の糸が、私の唇と繋がっていた…。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 

 ……む…夢中になりすぎてました。

 途轍もなく大胆な事を、いきなり…初めてだというのに、してしまったと、今、そこで初めて実感が湧きました。

 それと同時に、途轍もない羞恥心が襲って……。

 

「え…っと、あ……」

 

 彼の両手が、私の肩を後ろへと押す。

 ベットへと、寝かせる為に…。

 押される肩、押し寄せる彼の体重…。

 

 抵抗する事なく…その動きに身を委ね…。

 

「……」

 

 彼の手が、横に仰向けになった私の…下。

 

 最後の下着を撫でるように、下へとずらす…。

 脱がしやすい様に腰を上げると、スッ…とその間を通っていく。

 軽く脚を上げると、そこから完全に取り払ってしまった…。

 

 これで、正真正銘…生まれたままの姿…と、いう状態でしょう。

 

 羞恥心や、疑心暗鬼。不安感や…………罪悪感…。

 色々な思いの中、今日、あそこから覚悟を決めた甲斐がありました…。

 変な小細工や、その場限りの企み。

 全ては、一瞬で吹っ飛んでしまいましたが、ここまで…来れました。

 

 何もかも……

 

 これで…

 

 やっと…

 

 漸く…

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 頭をベットに預け、顔を少し背けている。

 額の上には、折れ曲げた左腕…。

 特に隠すことなく…その真っ白い肢体を、俺にへと顕にしてくれている。

 

 細く引き締まり、無駄に肉もついていない曲線を描くその体。

 …うん。

 極力、見ないようにした方が良いかと思ったけど、無理だな。

 まだ触れないで、ただ見ているだけで満足してしまう程に、形も良く…綺麗な乳房…。

 その上半身から、重力に引かれた形に変わっている…胸…。

 豊満なその乳房が、更に引き締まった体を、強調させてくれている。

 

「…こういう時」

 

「な…なんでしょう?」

 

「綺麗だ…とか、何か…その…言ったほうが良いのでしょうが…」

 

 先程から、変に大胆に…照れ隠しも含んでいるのであろうが、彼女のたまに見せる挙動不審な行動が、変にいじらしく…可愛く感じていた。

 

「…言葉がない…えぇ。…出ない」

 

「……っっ!」

 

 俺が、彼女の一糸纏わぬ姿…と言うモノを、視界全体に捉えるように見ているのが、分かったのだろう。

 一瞬、こちらを向いたその目が、一瞬見開くと、更に顔を赤くして…また背けられてしまった。

 

「…悪い意味じゃないですよ?」

 

「…え…えぇ、わかってます」

 

 どんな顔を、俺はしているのだろうか?

 俺の顔を見た瞬間の、彼女の見開いた目。

 上手く…言い表せない…。

 

 彼女の両膝に手を置くと、ちょっと強引にだが、起こし…開く。

 M字開脚という奴…だな。

 

 …体を落とし、顔を沈める。

 

 目の前には、テラテラと光る…その秘部を目に収める為に。

 グッ…と脚を更に押上げ…ゆっくりと……って。

 

「…ノンナさん? 何で俺の頭を、押さえるのですか」

 

 えぇ、力強く。

 

「なっ…えっ!? なにをっ…っ!?」

 

 俺の頭の上に、押し退けるように彼女の両手が、添えられていた。

 

 …あれ?

 

 非常に不本意だけど、俺のフォルダ見て、ある程度の知識はあるんじゃ…?

 

「恥ずっ…!! ハズかっ…っっ!!!」

 

 ここに来て、秘部をマジマジと見られる…と言う事に直面し、吃る程、恥ずかしがっている彼女。

 先程のいきなりノーハンド・フェラをしてくれた彼女からは、想像が上手くできないね。

 

 あぁ…なる程。

 

 俺にする行為自体は、ある程度、アレを見て…覚悟があり、大丈夫だったのだろう。

 

 ……が、自分が「される」…という事までは、頭が及ばなかったのだろう。

 

 …。

 

「必要な事なんですかっ! それはっ!!」

 

 あ~…。

 

「な…なんでそこを…っ!?」

 

 あー!!

 

 あーーっ!! いいなっ!! 

 

 このノンナさんは、大変良い!!!

 

「なんで、そんなに嬉しそうな顔をしているのですかっ!!」

 

 涙目になりながらも、恥ずかしがるその顔が、何時もの彼女とのギャップ差が一番大きい。

 嫌がる…というよりも、やはり初めてだし…知識も偏っているのだろう。

 混乱してしまっている。

 

 …だから。

 

「…いいですか? ノンナさん」

 

「な…なんですか…っ!」

 

 スッ…と股の上に目だけ出して…下を向く彼女の目を見る。

 すげぇ間抜けな格好をしている俺だろう…なぁ…

 

「…俺は、ノンナさんが好きです」

 

「っっ!!」

 

 あ、固まった。

 口を小さく「への字」にして、目を見開いた。

 いや……本当に、今日は彼女の知らない顔が、たくさん見れるなぁ…。

 

「それが理由です」

 

「い…意味が分かりませんっ!!」

 

 でしょうね。

 

「こ…こんな恥ずかしい事をする理由をっっんんんっ!!!」

 

 即座に秘部へと、舌を這わせる。

 少し、刺激が強いかも知れないけれど、痛みを出来るだけ和らげてやりたい…と…思い。

 

「舌っっがぁ…んんぁっ!!」

 

 後…ちょっと、いや? 物凄く。

 

「人に、触れられるのっ……が…こんなにぃぃっ!」

 

 ノンナさんが、乱れる姿を見たいと思いった。

 舌で、秘部回りを掘る様に回し…。

 

「お…とっ! 恥ずかっっ!! ぁあっ!!」

 

 唇でクリトリスを剥き…。

 全体を掻き回す…。

 啜る音を響かせながら…腰を浮かし、今度は初めから…一気に。

 

「かっ! あぅあl!!!!」

 

 ヌルッと舌を、不意を付くように中に入れると、体を反った。

 内部の上方面…舌で剃るように…。

 下方面…グリっと回すように……。

 

 …何度も。

 

 ずっと…。

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 唾液と愛液にドロドロになっている、その膣口が…パクパクと痙攣する様に動いている。

 強い刺激と、未知の快感を…俺の顔がビチャビチャになる程に、時間を掛け…愛撫した。

 

 目の前が、彼女の秘部だったので、快楽を感じる彼女…というものが見れなかったのが残念でならない。

 …ただ、彼女の体の反応からは、色々と…分かったけどね。

 

 胸を大きく、上下させているノンナさん。

 胸だから胸が、素晴らしく胸。

 

 ……。

 

 良くわからない感想が沸いたけど、まぁいい。

 

 手で顔を覆って顔を隠してしまっていますね…。

 またその仕草が、俺を滾らせてしまうのだけど…。

 

「はぁー…はぁー…」

 

 顔を拭い、彼女のそんな顔の横に、両腕を置く。

 ベットに掛かる体重で分かったのか…漸く、手をどけて顔を見せてくれた。

 羞恥に染まった真っ赤な顔と、少し呆けた様な、そんな……目。

 

 少し、怒ったような、ちょっときつい目を俺に向け…。

 

 

「…У меня есть обида на тебя.」

 

 

 小さく、呟いた…。

 

 はっはー…。

 

 恨みますって…。

 

 苦笑をしていると、更に目を細め…あぁ涙目だ。

 

「…隆史さんが、ここまで意地が悪いなんて、知りませんでした」

 

「…そ…そうですか?」

 

「お…おかしくなりそうでした…」

 

「…………」

 

 い…いかん。

 一々、その仕草が…俺の理性を壊しに掛かる…。

 だけども、今回は違う…出来るだけ、彼女に…。

 

 後、どうにも彼女は、ディープキスが好きらしい…。

 

 ……。

 

 俺のせいだろうなぁ…。

 

 言ったら、絶対に怒るだろうなぁ…。

 

 顔を落とし、上から口を合わせる。

 それに従い、彼女は…やはり、舌を這わせる。

 すぐに舌を口内に入れて、舌を絡ませてくる。

 ニチャニチャと、目の前から音が響く…。

 

「隆史さん…」

 

「はい?」

 

「ほ…本当は、避妊具を…ですが…」

 

 そこまで言うと、首に手を回された。

 良く分かりませんが…と、一言付け加え…耳を少し噛まれた。

 そのまま、更に口を近づけ…。

 

 

「き…今日は…大丈夫な日ですから…そのまま…」

 

 

 ……。

 

 俗にう、安全日だと…言ってくれた。

 …何故、それを知っているのだろう……とか…ありますけど…。

 女性って、そういうのが、普段から分かるモノなのだろうか?

 それに本当は、その場合でも…避妊具を付けたほうが良いのですが。

 

 ここまで、され…弄り合い…。

 

 その言葉に素直に従ってしまった。

 …いや、甘えてしまった。

 

 思いの外…理性って、脆いのだな…と。実感させられた…。

 

 もう、あまり余計な事は、言わない方がいいだろう。

 

 手探りで陰茎に手を添え…自分で誘導する。

 彼女の入口へと亀頭を添えると…その先端から熱い体温がまた感じる。

 

「じゃ…力…抜いて…息を吐いてください」

 

「……」

 

 言われるがまま、彼女が吐く息が耳に掛かる。

 大きく呼吸を繰り返してはいるのだが、それに少し…怯えを感じた。

 出来るだけ…優しく…できるだけ…痛くないように…。

 

 ニチッと…少し音がした。

 

 ゆっくりとそのまま…中へ。

 押し出される感覚…それに逆らいながらもゆっくりと。

 

「ぐっ…!」

 

 首の腕の力が、強まった。

 強く抱きしめられる頭…。

 また、ギチギチと締められる陰茎…痛いくらいだった。

 

 何かを破る感覚…プチッと音が気がした。

 侵入するソレを排除しようと締めて…追い出す。

 その肉壁に逆らい…一気に…。

 

 

「かっっ!!! あっ!!!」

 

 

 一番奥まで、刺し込んだ。

 

 ぎゅうぅぅ…と、抱きしめられる。

 小さな悲鳴にも似た呼吸を、何度も繰り返す音が耳の横から聞こえてくる。

 ゆっくりと入れるよりも、一気に入れてしまった方が、痛みは一瞬だろうと、思ったのだけど…まずかっただろうか?

 ただ黙って、彼女が落ち着くまで動かない。

 

「かっ…ぁ……う……」

 

 抱きしめられた腕の力が、抜けるまで…ただ静かにしておこう。

 ただ…彼女の内部に入り、締められる陰茎からは、彼女の鼓動の音が聴こえてくるようだった。

 脈を打ち、ドクンドクンと…。

 

 その脈が、陰茎の周りを小刻みにする様な動きで…正直…それだけで、危ない。

 ギチギチと隙間なく、中に入ってきた陰茎を締めあげ、押し出すような彼女の中。

 熱い体温と、その小さく動く膣内が、ソレだけで溶けてしまいそうになる。

 

 しかし…この体では、確かにこれが初めて…の性行為。

 慣れていない陰茎は、そんな彼女に……もう、限界が近かった。

 

「た…確かに、聞いてはいたのですが…。これは…痛い……ですね…」

 

 耳元で、彼女の言葉にできた声が、漸く聞こえた。

 少しは落ち着いたのか、ある程度は話せる位にはなっていた。

 

「…大丈夫ですか?」

 

「た…多分…。隆史さんは、痛くないのですか?」

 

「え…えぇ。正直…気持ち良いです…というか、長く持ちそうもない…」

 

「…Хитрый」

 

 いや…ずるいって…。

 

「後…圧迫感が……凄い…ですね…少し……苦しい…」

 

「…す…すいません…」

 

「ただ…」

 

「ただ?」

 

 そこまで言うと、抱きしめていた腕の力を抜き…抱き合う形から、正面を向き合った。

 痛みに顔を顰めていた訳ではなかったのだけど、それでも痛かったのだろう。

 涙目で、俺を見つめてきた。

 

 そして。

 

「えぇ…ただ…嬉しい」

 

「……」

 

「心地良さ…まで感じます…」

 

 それだけ言うと、また首に抱きついてきた。

 顔を見られまいとしているのだろうか? 肩に顎まで乗せる程に密着する。

 胸に当たる、胸の感触を含め…裸で抱き合う、独特な感触。

 スベスベとしたその肌は、少し擦り合うだけでも…気持ちがいい。

 

「も…もう、動いても大丈夫です」

 

 その言葉が、耳に入る。

 ある程度の体と…心の準備が、出来たのだろう。

 だから、止まっていても逆に気を使わせてしまいそうだったので、ゆっくりと…焦らず動き出す。

 ニチャッとした音で、ゆっくりと引き抜く…まだ抱きつかれたままなので、腰だけ浮かせる。

 

 …まずい。

 

 正直、これだけで果てそうになる。

 スローSEX…? とでも言うのだったか? 

 ゆっくりと亀頭まで抜き…また、ゆっくりと、奥まで入れる。

 

 また抜き…入れる。

 

 ニチッとした音と一緒に、少し、苦しそうな声が、また聞こえる…。

 いや…もういっそ、動かないで、このまま繋がっていた方が良いのでは? と、思うのもある。

 …ここは早めに、終わらせた方が良いだろうか?

 

 段々と、心配になってくる…。

 

「ふぐっ…ぅ…」

 

 動かせば、心地よさと気持ちよさが同時に訪れるが、それと同時に彼女の小さな、呻き声も聞こえてくる。

 歯を食いしばる様な声…。

 

「ぐっ……ぅっ…」

 

 体を離し、彼女全体を見たいとも思うのだけど…それも力一杯、抱きしめられている為に叶わず…。

 動かすたびに、心配と罪悪感が襲ってくる…。

 

「あの…一度、やめますか?」

 

 堪らず、休憩しようと打診するも…。

 

「だ…大丈夫です…好きに…動いて…」

 

 …涙声だった。

 

「やっと…やっとなんです。我慢…ではなく…。この痛みも…感じていたいのです…」

 

 ……。

 

 そんな声で、そこまで言われては、もう…なにも言えなかった。

 黙ってゆっくりと…そのまま動き出す…。

 

「はっ…ぅ…」

 

 ヌルヌルとした感触は、陰茎全体を包み…。

 肉圧で扱く…。

 

 ゆっくりと…しかし大きく動くと…それだけで、気持ちがいい。

 彼女の口が、痛みを我慢する声が収まった。

 抱きつきながらも、唇を合わせ…また、強く…とても強く口を、唇を、舌を…舐めあう。

 

「…Любовь」

 

 動くたびに、小さく漏れる…言葉。

「好き」だと何度も何度も、囁かれ…。

 また動く度に、押し上げられる感覚…。

 

「Я тебя люблю…っ! Я…っ!」

 

「好き」という言葉が「愛」に変わり…囁かれる度に、また…昂ぶる。

 

 囁かれれば、囁くほど…。

 言われれば、言われるほど、それに応える様に…。

 ゆっくりと…それでも、着実に…。

 

 気が付けば、俺も彼女の頭に腕を回し…抱き合う様にしていた。

 あまり大きく動けはしないが…逆にこの方がいいのだろう。

 

 ゆっくりと、それでも大きく…。

 お互いの存在を抱きしめ合う。

 

 体液が混ざり合う音…。

 

 ゾクゾクとした感覚と共に、込み上げる。

 

 そのまま、抱きつかれたまま…抱きついたまま。

 顔をずらし…向き合い。

 

 口を合わせ…。

 

 全身を震わせながら、脈を強く打つ。

 

 最後は彼女の最奥へと、腰を打ち付け…。

 

 

 

 彼女の中へと、全てを吐き出した。

 

 

「ぅ…ぁ…」

 

 

 熱いく火照りきった体が、密着している。

 

 脈を打つ体。

 

 二人の乱れる呼吸と…声だけが、聞こえてくる。

 

 脱力し、そのまま彼女の上に覆いかぶさってしまうと…重いだろうと、すぐに横にずり落ちる。

 ノンナさん…彼女はまだ、俺の首に腕を回したままだった。

 …その体の動きの流れに…従う。

 

 動かない。

 

 ただ、今は離れたくなかった。

 

 だから、動かない。

 

 …抱き合い。

 彼女と一つになったまま、ただ抱き合う。

 

 ……。

 …………。

 

 しばらくすると、お互いの荒い呼吸が段々と整い…小さな呼吸に変わった。

 その頃…どのくらいの時間が過ぎたのかという疑問が沸くまで…ただ、抱き合う。

 

 時に、目が合えば…彼女から口を求めてくる。

 

 なにも言わない、喋らない…。

 

 ただそれに応え、唇を合わせる。

 

 軽くも…激しくも…。

 

 時間が流れていく…。

 

 

 ただ、目を合わせ、口を合わせる。

 

 その繰り返し…。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

「Доброе утро」

 

 彼女の顔が、ボヤけて見える…。

 今までに見た事がない、微笑んだ顔でいる。

 窓から差し込む光…朝日だろうか?

 その顔を更に輝かせている。

 

 おはようございます…ね。

 

 そんな普通の挨拶。

 俺の顔でも見ていたのか…目がうっすらと開いた瞬間を見計らって声でも掛けてくれたのだろうか?

 体を横に倒し…裸の……は?

 

「お…おはようございます」

 

 頭がまだ、はっきりとしなかったのだが、肩から上だけ視界に収まっている状態。

 そのまま眼球だけで、下に移せば…シーツで少し隠れてしまっているが、隠しきれないその谷間が、一気に目に飛び込んできた…。

 そこで、すぐに現状を理解。

 …あのまま、寝てしまって…今のこの状況か…。

 

 よって…目が一気に覚めた…。

 

「……ん…?」

 

 よく見ると、彼女の頭が俺の腕の上。

 腕枕…という奴だろう。

 完全に、俺が目を覚ましたと分かったのか、その腕の上の頭をそのままゆっくりとずらして来た。

 そもそも、目の前という程に至近距離だった為に、すぐに俺とぶつかる。

 ちがうな…。

 …彼女は、自身の額を俺の額に、コツンと当てた。

 

「………は…ぁぁ…」

 

 そして何かを噛み締める様に、大きく息を吐いた。

 吐息…といっても良いだろう。

 

「…夢では、なかったですね」

 

「…」

 

 嬉しそうに…ただ、嬉しそうに確認をした。

 そしてまた、首に手を回してきた。

 そのまま、体を伸ばし…唇を…触れる程度に合わせてきた。

 

「…なにを、驚いた顔をしているのですか?」

 

 目を見開いてしまったのが、変に気に触ったのか…少し、拗ねた顔をした…。

 その顔を見て…思う。

 いや…なんか、昨日からの一日で、随分とノンナさんの印象が変わったな。

 

「い…いや、随分と…ノンナさん…甘えるというか、大胆というか…実際、驚いてました」

 

「……」

 

「キス…好きなんですね…」

 

「好きですね。えぇ、大好きです」

 

「…………っ!?」

 

 なんか…照れ隠しに、少し怒られる様な発言をしてみたら、普通に肯定しちゃったよ…。

 ノンナさんは、照れる事をする訳もなく、肯定をしたと同時に、また唇を合わせてきた…。

 後は、ただ真っ直ぐに俺を見つめてくる…。

 

「…そもそも、ソレを教えたのは誰ですか」

 

「…………」

 

 あ…はい。

 

「ですから、ちゃんと責任……は、取ってくれましたね? そういえば…」

 

「…………」

 

 あ……はい。

 もはや、何も言えません…。

 

「…所で、隆史さん」

 

「はい?」

 

「ロシア語…分かるのですね?」

 

「あ…」

 

 あぁ…そういえば…。

 彼女の「おはようございます」に対して、普通に応えてしまった…。

 ならば、白状しよう…と、ロシア語を現在進行形で勉強中だと、経緯を込めて説明しました。

 クラーラさんの事は、流石に今は伏せておこう…。この状態で、他の女性の名前を出すのは、流石にどうかと思った…。

 ノンナさんも、驚かすつもりで勉強中だったから、貴女に教わるって選択しも無かった…というのも一緒にね。

 

「…」

 

「あ~すいません。ちょっと、からかう目的とか、不純な理由でしたし…って……どうしたんすか?」

 

 突然、彼女が手でシーツを持ち、体を隠しながら体を起こした。

 

 …。

 

 そのスタイルの良さとか、そういった事よりも…少し乱れた長い黒髪を垂らしながらも体を起こしたその姿。

 朝日で照らすコンストラストも合いまり…見入ってしまう。

 しかし、無意識に釣られ、腕だけで体を起こそうとする俺の肩を、指で軽く押して制した。

 そして…。

 

「昨晩の事…。何度も…えぇ、飽きる事なく、夢中になって叫んでいた…言葉…」

 

「……」

 

「アレの意味もお分かりになったのですよね?」

 

「あ…はい」

 

 どの事…とは、聞かれないし、敢えて答えない。

 お互い、少々気恥ずかしい…。

 

「そうですか…」

 

 シュッとシーツを擦る音…。

 胸元を更に隠し…。

 

「ここまで、人を好きになるなんて思いませんでした……ですから…あ…あれは…」

 

 シーツを握り締めた手が、口元まで伸びた。

 目元だけ…そう、目元だけが俺を見ている。

 だから、口元は分からない。

 

 分からないが…その、ノンナさんの目は…とても真剣だった。

 

「…わかりますよ……ね?」

 

 ……。

 

 えぇ…分かりますよ。

 

 鈍感な俺でも、全部…。

 

 だから、それに応えようと…全ての決心は、終えている。

 

 ノンナさんの気持ちは…言葉は……何もかもが、嬉しく…心に響く。

 

「はい…分かりますよ。 当然じゃないですか…だから…」

 

 だから、今度は…俺から言葉にしなくては…。

 

 

 

「俺も… 『    ノンナー!! ノンナー!!!      』」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 ドンドンと…ドアを強くノックされているね。

 ぶっ壊す勢いだよね…。

 声だけで、主が即座に分かるね…。

 

 

『 起きてるっ!? 起きてるわよねっ!!?? 起きなさいよっっ!!! 』

 

 

 気持ちの良い三段活用…。

 

 

「…し…心臓が、止まるかと思いました…」

「……あ、はい。俺もです」

 

 殴るように…ドアの中間位の位置から響く、けたたましい程のノック音の嵐…。

 タイミングがすごい…。

 意気揚々と、楽しそうにドアをぶっ叩くカチューシャが目に浮かぶ様だな。

 

『 行くわよっ!! すぐに行くわよっ!! 準備っ! 準備っっ!! 』

 

 ……。

 

 あ、はい。

 彼女は、俺がどこかのホテルにでも泊まっていると思っている様です。

 当然だよな…まさか、叩いているドアの向こう側にいるなんて、思っちゃいないだろうよ。

 

『 タカーシャのホテル、ノンナしか場所、知らないんだから、早くしてっっ!! 後っ! 朝ご飯っ!!』

 

 ……。

 あ、うん。

 

「…今、何時っすか」

「7時…ですね。カチューシャ…一人で、こんなに朝早く起きられる様になって…」

「…なんでソコで、涙ぐむんですか…。お母さんですか?」

「あら…気が早いですね」

 

「…………………………」

 

「確かに…安全日だと言いましたが…。まぁ私としては、構いませんけど…。しかし、随分とまぁ…たくさん…」

「どこ触って確認してんすかっ!! なに嬉しそうな顔してるんですかっ!」

 

『 …反応がない…。本当に寝てるのかしら…… 』

 

「取り敢えず、服を着まし……………あら、元気」

「生理現象っ!! 男の生理現象っ!! というか、どこ見てるんですかっ!!」

 

 下着を履こうとしている、変に間抜けた格好のポーズの俺を、変に幸せそうな顔で見つめてきた。

 やめてください…。

 

「後…1日は猶予はありますので…せめて夜までは、我慢をして頂けますか?」

「ですから、男はみんなこうなんですってっ!! というか、サラッと何言ってんですか!!??」

 

 ノンナさんは、希に会話をしてくれなくなるなっ!!

 

 凄まじいセリフをバックに、下着姿のまま、急いで脱ぎ散らかした服を手に取り、袖を通しす。

 あぁ…我ながら、人生初の甘い時間と言うもんを体験中だと思ったのに、すぐにそれは別の時間に塗り替えられてしまった…。

 

 しかし夜って……今夜の事を言っているのか?

 確かに、後一日は此処にいるつもりでは、あるが…。

 

「……」

 

 いきなり色々なモノを持て余しそうになるので、考えないようにしないと!!

 

「ノンナさんも、早くっ…て、なにしてんですか?」

 

 ノンナさんが、俺ではなく、見下ろすようにベットに視線を移していた。

 その上の、シーツを動かず、ジー…と、見ている。

 

 あ……あぁ…。

 

「…血…………聞いていたよりも、出ませんでしたね」

 

 こ……個人差が、あるのではナイデショウカ?

 コメントし辛い…。

 

「…あんなに痛かったのに…」

 

 コメントし辛いっっ!!

 

「…Хитрый」

 

 また、ずるいって…って、なんで、こっち見るんですかッ!?

 

 

『 ま、寝ていてもこの際構わないわ。合鍵で入りましょ。…………叩き起こしてやる… 』

 

 

「「!!??」」

 

「…隆史さん。時間がありません。窓から出て行ってください」

「窓!!??」

「私は、カチューシャを誤魔化しますので」

「…え…でも、その格好で…ですか?」

「普段、私は裸で寝ますので、不自然ではありません」

 

「…………」

 

「…なにを納得した顔で、頷いているのですか?」

「いや…イメージ通りだなぁ…と」

「はい?」

 

『 あれ? どこいったかしら…あ、あった 』

 

「よく分かりませんが、取り敢えず行ってください。校門前で落ち合いましょう…後は……」

「あの…考えている所、申し訳ないのですが…ここ2階ですよね? …例え、降りれたとしてもですね? 誰かに見つかれば、俺……不審者以外の、何者でもないのですが?」

「ちゃんと後で、私が弁解しますので問題ありません」

 

 一度、不審者として捕まるの前提ですか?

 

 狭い窓へと脚を掛けると、外が見える。

 目の前を、ここまで伸びてきている木が、少し空の青色を遮っていた。

 雲一つない晴天…うん、いい天気…。

 

 現状の自分を確認してみると、あの言葉が、頭を過ぎった…。

 

「あぁくっそっ!! 間男みたいだ、俺っ!!」

 

 完全に俺の行動って、浮気相手っぽいなっ!!

 色々な現在状況と、俺の行動を改めて思い描いてみると…ソレ以外の言葉が見つからなかった…。

 

「いえいえ。ちゃんと、本命ですよ?」

 

「……」

「……」

 

 ちょっと意味が違うのだけど…まぁ…うん。

 言った直後、目線をずらされた…。

 

「自分で言って、照れないでください」

 

 取り敢えず、自身の言葉で無駄に赤くなっているノンナさんは、頬っておこう。

 キリがないだろうさ…。

 

 勢いよく窓を開けると、それなりの高所だと認識させる、清々しい風が体を包む。

 

 …中途半端に、現実逃避はやめておこう。

 普通に危ない…。

 木を使って……なんとか、なりそうだけど…。

 

 カチ……カチャッ! っと、ドアの鍵が回る音がした。

 

 あぁぁぁ!!

 もう、考えている暇がないッ!

 

 カチューシャに、こんな場面、見られるよりマシだけどっ!!

 

「あぁ、隆史さん。少し、待ってください」

 

 窓枠に脚を掛けると、呼び止められてしまった。

 急ぐ様に言っていたのに…あぁ、なんか忘れ物でもしたか?

 顔を声の方向に向けると…目の前には彼女の顔…。

 

 

「…本当に、好きですね」

 

 

 また…軽く、唇を合わせ…すぐに離した。

 照れ隠しで、んな事を言ってはみたものの、こうも真っ直ぐに来られてしまうと…どうも、対応に困ってしまう。

 

 

「相手が貴方……だからですよ?」

 

 

 ほら…顔が熱くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪を地面に押し込める…その様な足音。

 

 あの人のいるであろう、場所から…少し離れた場所。

 

 車から降り、雪を踏みしめながら、目的の人物の元へと歩く。

 

 音が鳴る間隔が、徐々に短くなっていく。

 

 ……足が、無意識に早くなっている。

 

 

 足が前に出る度に、あの日の事を思い出す。

 段々と、順序よく…一歩一歩、進む度に思い出す。

 

 あの日、あの夜。

 

 あの店前…告白……。

 

 その後…の…事…。

 

 …何度も、何回も。

 

「ノンナ? どうしたの? 顔、真っ赤よ?」

「い…いえ、なんでもありません」

 

 先行して歩いているはずのカチューシャが、こちらを向き、少し訝しげな表情をしていた。

 私を見ている事にも気づかないなんて…。

 

 顔を上げ、もう一度、その先を見つめる。

 

「……」

 

 チラチラと、雪が降る暗い夜……雪が積もる平地。

 そんな視界とは、正反対に、頭の中では、明るく思い出が光り…熱い。

 

 やっと…。

 数ヶ月…たった、数ヶ月だと言うのに、もう…何年も会っていない様な感覚。

 

「…隆史さんが、いるかどうか不安でしたら、さっさと車で行けばよろしいのに」

 

「っっさいわね! 何も言ってないじゃない!!」

 

「顔に出てますから」

 

「ぐっ!!」

 

 指で自分自身の顔を指すと、人の事は言えない自分に気が付く。

 一瞬、顔を顰めたカチューシャ。

 ですが、その顔をニヤッとした、笑い顔に変え、随分と楽しそうに…。

 

「…人の事、言えないじゃない」

 

 ……。

 

 早速、指摘されてしまいましたね。

 少し慌てたような…そして、拗ねたような顔。

 その小さい顔に、自分の指を指しながら言われてしまいました。

 しかし、すぐに腕を下ろし…少し真剣な顔に変わりました。

 

「…まっ。ノンナが、さっさとタカーシャと会いたいのは、分かるけどね」

 

「……」

 

 ですが、その顔も少しだけ。

 また、楽しそうに笑い…いえ、笑ってくれました。

 

「はんっ! 最初、あんなにタカーシャを嫌っていたのにねっ! 分からないものね!」

 

「人生、不思議なモノですね」

 

「人生って…その年で、なにを言ってるのよ…」

 

 そうですね。

 私達の関係は、貴女しか知りません。

 貴女…カチューシャにだけは、この事を報告しない訳には、いきませんでしたから。

 

「でも、なんで内緒にしたのよ。前に雑誌記者のインタビューされた時にも、隠してたし…」

 

「あぁ……ダージリンさんが、隆史さんと濃密な関係? だとか? はっ…そんな妄言を吐いた時のですか?」

 

「…ソ………ソウネ」

 

 なぜ、カチューシャは私の顔を見て、怯えているのでしょう?

 

「……なんで…ですか」

 

 …最後の。

 

 本当に、最後のお別れの日。

 

 彼には私達の関係を、極力、伏せておく様に、言っておきました。

 

「…迷惑になりますから」

 

 そうです。

 

 少なくとも私は、カチューシャと共に有名選手と言われる一人。

 そんな私との関係が、記者と言われる人種に分かってしまえば、必ず彼の元に、その人種共が行くに決まっていますから。

 ハイエナの如く、少しの情報だけでも、あの様な…。

 

「…………」

 

 はっ…。

 

 何が、濃密な関係……。

 

 私と彼の関係をオープンにし…色々と、牽制を仕掛けておきたかった…というのも、もちろんありますが…仕方ありませんね。

 ダージリンさんは、どこかで勘付いているのか…だからでしょうか? あの様な事を宣いたのは。

 大洗学園としての彼と、一度会っている…みたい……ですしぃ?

 勘付いているというのでしたら、あの方が何も仕掛けないとも思いません。

 

 

 まぁ、隆史さんに限って、浮気などは…。

 

 多少? 流されやすいからといって……えぇ、彼に限って…

 

 …限っ…て……。

 

 か……ぎ……。

 

 

「……」

 

 

 …不安になってきました。

 

 

「カチューシャ」

 

「なに?」

 

「肩車しましょう」

 

「…え? …えっ!? なにっ!?」

 

 腰を落とし、彼女の腋に手を差し込む。

 そのまま一気に持ち上げ、肩の上に彼女を乗せた。

 

 隆史さんに一度、合体シークエンスは? だとか…ガチャーンとか、効果音がしそう…だとか?

 そんな、訳の分からない事を言われたので、自分からはカチューシャを乗せようとはしませんでしたけどね。

 今、この場に彼はいませんから、構いません。

 

「では取り敢えず、少し離れた所迄で、よろしいですか?」

 

「……え…えぇ」

 

 

 では……。

 

 急ぎましょう。

 

「ノンナ…? ノッナッッ!?」

 

 ……。

 

「ノーっっ!? っっ!? っ!!??」

 

 ………。

 

「ゆっ! 揺れるッ!! こっ…こわっ! ちょっとっ!!」

 

 …………。

 

「ノンナ!! 肩車しながら、走らないでっっ!!」

 

 

 ……急ぎましょう。

 

 

「怖いっ!! 怖いぃぃっっ!! ノンナァァァ!!」

 

 

 

 走れば、不安感が段々と、薄れていきました。

 

 えぇ…。

 

 不安感とは、別に…他の感情が生まれる。

 

 えぇ…楽しみです。

 

 はい、とても楽しみ…。

 

 会いたい。

 

 …彼に、会いたい。

 

 彼を見たい。

 

 顔が見たい…。

 

 触れたい。

 

 触れて欲しい…。

 

 

 抱きしめたい。

 

 

 抱きしめて…欲しい…。

 

 

 ですから…とても…えぇ…。

 

「楽しみですね? カチューシャ」

 

 

 私を見たら、どんな反応をするだろう…。

 

 私を見たら、どんな顔をするだろう。

 

 …えぇ…。

 

 とても…楽しみ。

 

 

 

 

「 取り敢えず、全速力はやめてぇぇぇ!!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました
いやぁ…過去最高文字数…。

コレ…つづきます。

続きは、残りの2日間の話。
挿絵…ここの時の話だったので…掲載できず…。
描き終わってはいるのですけどね…。

ただ…家元編が書きたい…。どうしよう。

ありがとうございました
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