※この作品はR-18です。

転生者は平穏を望む ~ルートPINK~   作:白山葵

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はい。かなり間が空きました。そしてアンケ回、ちょっと待って…。
暫く書いていなかった為、今回はリハリビさせて…。
挿絵も前編か後編で描きますから…。

人妻編が殆どで、しほさんメインでしたので、千代さんメインで書いてみたく…。
前回のアンケ以外での話を模索して書いてみました。



※ルート壊 【人妻・宴編】※ 夢の後遺症 前編

 

 

 

 書類を手にまとめ、机の上へとトントンと軽い音を立てる。

 

 我ながら随分とまぁ溜め込んでしまいましたねぇ。手の中の紙の厚みでその数を実感させられます。

 思わず今のこのご時世で、まだ紙媒体なのかと思わず毒づきたくなるもなりますよね…。ある意味で時代の流れと言いますか…戦車道会ではまだまだ頭の古い人種と言いますか…。

 重要案件は形に残すとか、なんやかんや…古臭い考え方が蔓延している。書類仕事が主に今回は溜まってしまいましたが、おかげ様でソレを思い知らされましたね。

 その頭が古い人種が、この書類の数と比例されているのではないかと思うとため息の一つも出ようものです。

 データで管理運営すれば、ここまでの作業はかなり短縮できるというのに…。今回の事に関しても、殆どが書類に目を通しサイン捺印する事。

 

 後はコレら一式、まとめて回収してもらえばデスクワークでのお仕事はこれでお終い。

 ここから次は視察…会議…会食…。家元を襲名した後の方が、襲名の前に比べて当然増える。特に増えたのがこの会食。

 本当に時間の無駄と思わせるこの「仕事」が、私のストレスの元…癌だと言っても申し分ないでしょう。…いえ、確かに大切だとは思います。

 顔を広め、横の繋がりを確保し、円滑に戦車道発展を促すには必要な事……。全国の戦車道履修者…愛里寿の為には必要…。

 

 …それでも遠慮したい気持ちは生まれてしまいますし、溜まるモノは溜まる。

 

「ふぅー…」

 

 …疲れる…の一言ですね。

 

 机の端の受話器を取り、内線のボタンを押す。

 受話器の向こう側から聞きなれた声がし、特に他に伝える事もなく、ただ事務的に書類一式を取りに来るよう伝えるとそのまま受話器を下ろす。

 

 一つの仕事が終わった…と言う小さな解放感…。

 それと同時に、次に訪れるストレスの元を憂鬱に感じてしまう。まぁ私の仕事など、殆どがソレの繰り返しでしょうし…今更ですね。

 とてもではアリマセンが、こんな本音は誰にでも言える訳ではありませんけどね。

 

 会議…兼、会食。

 

 大体これのセット。

 

 せめて今回は、内容の有る集まりだと良いのですが…。毎回毎回、唯意義とは程遠い内容で頭が痛い。

 最近はどうにも血の気が多い連中が多くて余計に疲労を感じてしまいます。

 

 私はその一部の過激派…とも言われ始めている「戦車道は女性のみで管理運営されるべき」と謳っている連中とは違う。

 その連中は性別で限定してしまっているが、全体的に見てもその「限定」という、一部の者のみにしてしまっては徐々に衰退していくだけですのに…。

 前回はそんな彼女達が主張する場…の様な不毛な集まりでしたね。どうにも彼女達は、私としほさんを取り込みたくて仕方がないようですが…。

 特にしほさんへのラブコールが凄まじかったですねぇ~。連中が勧誘する度に彼女の青筋が浮かぶのを見るのが唯一の癒しでした。

 

 さて…問題は会食の方ですか…。あの旅館で行われた打ち上げと、なんら変わらない内容になると解ってしまうのが憂鬱の元ですよねぇ。

 お酒の入る場…だからでしょうけど、遠慮が徐々に薄れていくのが目に見えて分かりますから余計に…。

 

 一言で言ってしまえば、戦車道会での男性の立ち位置。

 

 …戦車道会へ関わる男性はその評判・評価が極端に分かれてしまっているのも要因でしょうね。

 

 男性が戦車道に関わっていても私は何ら問題ないと思う。戦車へ理解ある男性や聡明な方も何人も存じ上げています。

 私のストレスの元の様に、癌だと言われる人間はその二極の片方。昔からよ~く沸いて出てくる。

 その癌が重要なポストに就いているだけで大幅にその発展は遅れてしまいます。特にその悪評が集まる者達が、最近妙に会議や会食に毎回顔を出し始めている。

 まぁ今回も当然の様にしゃしゃり出てくるでしょうね…。

 

 はぁ~……特にあの髭。

 

 何を企てているかは分かりませんが…今後の子供達の為にも、ただただアレが来るから嫌…なんて私が駄々を捏ねて出席しない訳にもいけませんしね…。

 その過激派とは別に、あの髭は管理、運営こそ男性が指揮をするべきだと暗に謳っている。…しほさんは当然それに気が付いている。

 セクハラ紛いを続ける男が更に戦車道会の上層部へと介入でき、意見が押し通る様にでもなったら…どうなる事でしょうか…。

 しぽりん、今回の会食来てくれませんかねぇ~。ちょっと誘ってみましょうか? 今度は指とは言わず、首でも背骨でも好きな様にへし折ってくれませんかねぇ~♪

 

 …。

 

 仕事からの解放感が、一気に憂鬱に塗りつぶされていく。

 

 机の上に鎮座している書類の束を遠めに見ながら椅子の背もたれへと体を預けると、溜まりに溜まった疲れを吐き出すように、また一つ大きなため息が漏れる。

 とても人様にこんな姿見せられませんねぇ…。

 家元として「体裁」というモノはとても大事。…それはプライベートにおいてもそう。そもそもこんな姿、あの髭にでも見られようモノなら、そこからまた何をしてくるか分かったものじゃない。

 

 う゛っ…。

 

 親切そうに心配する振りをしながら、手でも触れて来そうだと即座に想像してしまい、鳥肌が起ちそうになった。

 ここ暫く、愛里寿の事で忙しくはあったのですが、上手くやってこれたと思っていたのですが…気が抜けてしまったのでしょうか? その皺寄せが一気に押し寄せてきたかの様に感じますねぇ。

 私も、もう若くないですからねぇ~…。

 

 …いえ? 

 

 定期的にストレスの解消が、とても上手くできていた…からでしょう。

 

 ……。

 

 ストレス解消…。

 

 ………。

 

「さ、て…」

 

 そのストレスの元は、明日から…。自分に残ったプライベートな時間を部屋の時計で確認すると、その針は5の数字を少し超えた辺り…。

 …良かった。彼との約束には間にあった。

 この溜まりに溜まったものは、この後に来る予定のあの子に解消してもらいましょうかね♪

 

 …。

 

 

 尾形 隆史君。

 

 まぁ…彼のお陰でしょうね。初めは、ただ揶揄い甲斐がある子だと思って…いえ、実際あったのですけど♪

 愛里寿との関係も良好。彼からすればとても大変だったと思いますが…私と愛里寿にとってはどれだけ気がまぎれたか。…そして実際に救われたか。

 …あのガマガエルの件は、概ね解決と言っても良いでしょう。

 

 後は………。

 

「……っ」

 

 自然と少し顔を顰めてしまった。それは嫌悪感から来るものではないのですが…一瞬。

 えぇ、嫌悪感というよりも罪悪感。一人になると余計に冷静に考えてしまいますからね。

 しほさんがや、彼がいると不思議と素が表に現れてくる。それもまた含め…順々に想い返していけば、必然的にアレに当たる。

 

 からかい行為から始まった肉体関係。

 

 この歳で今さらどうこうなろうとは思いませんが、愛里寿の事を考えてしまえばその罪悪感が更に強まる。

 

 …。

 

 ………。

 

 ………罪悪感?

 

 

【   】

 

 

 …あっ。

 

 

 その一言で納得がいった。

 

 あっさりと…そしてとても簡単に。

 

 今まで何度も感じていた事ですが、なぜ今になって…とも思いますが、閃きにも似た何かでしょうか?

 一瞬、頭を過った冷たい感覚が、その答えをいとも簡単に導きだした。

 

 …。

 

 取り合えづ、しほさんという「共犯者」。

 

 はい、共犯者です。間違えではありません。彼女は共犯者です♪

 この「歳」…で、女として扱われ、あまり考えたくはありませんが、その「歳」の為に長くはないこの関係性。

 それは共犯者さんにも言える事で、彼と娘達との事を考えれば…その先の男女としての発展はありえません。…その「歳」も含めて。

 

 そしてその「娘達」の存在。既婚者とという立場とそれが、行為を重ねる度に「罪悪感」と…信じられない程に強烈な「背徳感」を生む。

 昔の私達からすれば、そんな俗っぽいこんな関係なんて、もうフィクションの様な出来事…。それが私自身にへと現在進行形で続いてしまっている。

 考え始めると、不思議と体の奥の方が徐々に熱くなっていくのが解る。

 

 何度か行った「行為」も、私が体験して来たモノとは比較にならない程に濃く…熱い。状況、内容、全てが全く違いすぎていた。

 初めは彼自身が、私達に遠慮しがちなのも含め…徐々に彼から発せられる言葉も強くなり、そして酷く、醜くなっていく。

 あの様に罵る様な言葉……しかも歳下の…男の子から言われているのに、憤慨する所かむしろ更に身体の熱を強めていく。それが演出であるかの様に。

 

 当然、彼は私達の「立場」というのを理解している。理解しているからこそ…なのでしょうか?

 私達の普段とはかけ離れた姿。彼の下に敷かれている淫らな姿を罵り、煽る。その言葉には強制的な力でもあるかと疑う程に素直に納得させられて…いえ、解らされるとでも言うのでしょうか?

 彼のモノが私の最奥を刺し潰す度に焼き印の様に、刻み込まれる。

 

 俗っぽい言葉ですが「割り切った関係」というのが、ここまで……。

 

 

 …。

 

 思わず出そうになった別の感情…ソレを表す言葉を飲み込んだ。

 

 そう、アレ…。

 アレがすごかった…。

 

 その「言葉」がはっきりと出てくる前に、一番強烈に感じた「快楽」を思い出す。

 

 えぇ…もう…何も考えられない程に強烈な「快感」を。

 

 …そこになぜか思考が誘導されていると思える程に鮮明に、記憶を探り…一気に思い出す。

 

 あっ…あの温泉旅館での出来事とは…何でしたのでしょうか? 夢…では片づけ枯れない程に強烈な「快楽」。

 朝、気が付いたら彼としほさん以外誰もいなかった。…でもあの隆史君が他の男を私に宛がう…なんて事っ…まぁ…ないでしょう…。

 やっ…まぁ、夢で間違いないのでしょうけど……だからと言って、私が…。

 

 …全ての男性が彼。それは不思議と認識し、疑いもしないで受け入れてしまっていた。

 複数の男性に一斉に求められて…女性を抱く…のではなく、完全に使われる…。それを悦んで受け入れ、ただただ快楽を貪る浅ましい自身。

 ど…どうなのでしょう? 隆史君、催眠術でも使えるのでしょうかねぇ? …なにか似たような事を聞いたことがあった気が……。

 何故か、しほさんも同じような夢を見ていたようで…まぁ…さすがに事細かく詳細には吐かせられ……いえ、聞けませんでしたが。

 何と言いますか……私はそこまで欲求不満だったんでしょうか? とても催眠術とは思えない程、今でも鮮明に残ったアレらの感覚…

 

 …変わる変わる「彼」に求められる様な感覚。

 普段、彼はどこかで私達に気を使う。言ってしまえば、私達の為に私達を抱く…様な感覚があり…どこか遠慮がちにも感じていました。

 それが複数の隆史君全員に感じ取れてしまったから…でしょうか?

 しかしソレも徐々に変わっていった。

 

「…………」

 

 遠慮の無い彼は…ある意味ではとてつもない。

 

 そういえば…一彼は酔うと変わる。実際に初めて関係を持った時がそうでしたね。

 アレ以降、あの旅館での夢らしきモノ以外では、なかったので…余計にその日は…。

 

 …。

 

 大洗学園の準決勝戦の時…。西住 まほさんが言っていた彼の情報…。

 

 日本酒が彼…とても相性が悪いとか言っていましたね…。

 

 ……。

 

 ……………。

 

 それと撮影会時…隆史君が友人同しでの会話をしていた時の…あの時の…。

 

「……」

 

 アレには時間が掛かりそうですが…。

 いや、でも、しかし…。

 

 

「っっ!」

 

 

 突然のノックの音、で思考が一気に現実へと引き戻された。

 思わず鳴り続いている扉へと顔を向けてしまった。

 

 いえ、多分少し前から扉を叩いていたのでしょうが…随分と我ながら卑猥な思考に囚われてしまっていました…。

 夢中になって思い出してしまっていた自分が少し情けないですね…。

 最初は仕事の事を考えていたはずですが…彼の事が挟まった瞬間、コレですからね…。何と言いますか…俗っぽい言い方をしてしまえば、見事に「彼にハマっている」…と、言うのでしょう。

 

 あの温泉旅館では最初から敢えて、できるだけ積極的に…と、今まで以上に開き直っている感じで誘ってみましたが…あからさまに思いっきり引かれてましたね…。

 私自身から唇を合わせに…なんて、夫にもした事なかったのですが…照れてくれてはいましたが………引かれてましたね…。

 

 

「……」

 

 …。

 

 んんっ!

 

 少し、体裁を取り繕う様に咳ばらいをし…いつもの自分を取り戻どそうと…静かに返事をした。

 

「…はい」

 

 返事の後、ワンクッションを置いてゆっくりと扉が開いた。

 そこには書類を取りに来てくれた家の者と…しっかりとアポイントメント取って、戦車道全国大会の折のお礼…という名目で来た彼。

 その手には手土産でしょう。…熨斗紙を巻いた一升瓶が。

 

 

【    】

 

 

 

 ……。

 

 …一瞬…別の込み上げるものを強引に飲み込むと同時に…頭の中で何かが切り替わった気がした。

 

 相も変わらず、歳に似つかわしくない愛想笑い。

 しかし、嫌という程見てきた厭らし笑いではなく、不思議とその愛想笑いには嫌味がない。

 

 どうしましょうか…。しほさんがいないこの珍しい状況。

 今までは諸々の事情で、彼としほさんがセット。それはあの温泉旅館でもそうでしたね…。

 それは仕方がないとはいえ、私としほさんを相手にしていた彼。まぁ…大変そうではありますが…いえ、実際に大変でしょうね。

 ほぼ同時に二人の女性相手にアソコいぢめられるのですから…。

 

 でも、今日は一人。私一人。

 

 その現状を確認すると…ゾクッと背筋に何かが走った。

 

 高校生とはとても思えない身体…。

 

 服の上からでも、その凹凸が確認できてしまう彼の身体を…その服の下を無意識に思い出してしまう。

 

 ゾクゾクと続けて背中の中心に何かが走り続ける。

 

 だってそうでしょう?

 

 今日は、しほさんは居ないのですから。

 

 私だけ…。

 

 私にだけ…。

 

 体力的にも意識的にも、今日だけは彼を私一人に集中させられる。

 

 …彼を独占できる。

 

 何度も何度も思い出し、しつこい位に走る背中の感覚がまた気持ちよく、徐々に気分を高揚させてくれる。

 それで…そして…とても良い考えが浮かんだ。

 

「あ~…こんにちは、千代さん。お邪魔します」

 

 慣れない営業マンの様に、中途半端に頭を下げながら挨拶をしてくる彼を見て…。

 

「こんにちは、隆史君」

 

 独占できると思うと、さらに欲がでてしまう。そう…事が上手く進めば…と考えると…思わず舌で唇を濡らしてしまった。

 

「あれ? まだ仕事中でした?」

 

 普段、完全な受け身でスロースターターな彼が、最初から全力で来たら…求めてくれたら…。

 

 応接ソファへと勧め、静かに私の中で決心をした。

 

「いえ、大丈夫ですよ? …取り合えず、そちらに掛けになられて」

 

 

 …どんな手を使ってでも、彼に私を襲わせようと。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「どうぞ…お納め下さい」

 

 最初、お手伝いさん? とでもいうのか…。島田邸の方に渡そうとしたらば、直接奥様に~…と言われてしまったので、今のこの違和感のある状況。

 何度か千代さんのお宅には伺った事があるのと…愛里寿との事で流石に顔を覚えられたのか、直に千代さんの仕事部屋へと通されてしまった。

 相変わらず洋風でかなり豪奢な造りの邸宅。それでも成金感のない…上品とでもいうのか? どこぞの観光施設じゃないかと疑う程のお宅なんですけど…正直俺は落ち着かない。

 まぁ…落ち着かない理由はそれだけじゃないんだけどなぁ…。

 

 机の手前、あからさまに良い値段しそうな応接用セット。千代さんと俺はテーブルを挟んで向かい合わせに座っている。そしてそのテーブルの上に鎮座している熨斗付き一升瓶。

 コレを持参した理由はもちろんあるのだけど、こうして見るとやはり思う。

 

 合わねぇ…。

 

 この部屋にはとても似つかわしくない。超洋風の部屋のテーブル。その上に鎮座する超和風な一升瓶…やはり違和感しかねぇ。

 まぁそれでも、そんな違和感を誤魔化すように、軽く冗談めかした挨拶と共に持参したこの手土産を差し出した。

 

「あら、ご丁寧に。…ん? 少し言い回しが違いません?」

 

 そんな冗談に軽く笑顔で返してくれた。

 …相変わらず柔らかい笑顔をする人だ。そしてその笑顔で確信した。

 

 よしっ! 今の千代さんなら大丈夫だとっ!!

 

 ここっ! この部屋っ! 完全な彼女のパーソナルエリア! 更にこれから夜に差し掛かる時間帯を指定したきたっ!

 …そして何より…あの旅館での彼女を鑑みると…正直不安でしかなかった。

 しかし大量の書類を手に取り、先ほど退室したお手伝いさん。今まで仕事をしていた事が簡単に伺えるから、この考えも邪推だったのだろう。

 そしてあの普通の顔っ! 自宅とはいえ、千代さんは理性を持って会話を俺としてくれそうだっ!

 清楚を地で行っていた彼女が、どうにもその本性はガッチガチの肉食系だったのではないかと疑ってしまう程の変化を最近されましたしね…。

 まぁ…俺がしてしまったんですけど…。

 

 …。

 

 ………一瞬、彼女の眉が動いた。

 

「何か……とてつもなく失礼な事を考えていませんか?」

 

「滅相もないっ!!!」

 

 あ…相変わらず滅茶苦茶、勘の良い人だ…。

 全力で顔が取れるんじゃないかと思う程に左右へと振る。

 

「まっ……良いですけどぉ」

 

 そう許容したかのような事を言いつつ、いつもの何処から取り出したかわからない扇子で口を隠す。

 別の意味でその口元が緩んでいる。完全に挙動不審になっている俺を見て、目が柔らかくなった。

 

 ……相変わらず俺が慌てる姿を見るのが好きな人だな…。

 

「えっと…」

 

 そのまま社交辞令を述べ、これまでの事に関してのお礼を述べる。有難うございました…と。

 愛里寿の時の事で返され、また彼女からもお礼の言葉を貰う。お互いに他人行儀にも感じる挨拶が少し続くも、この固っ苦しくも思えるが事は、俺が一度しておかなくてはならないと思いこうして参じた。

 それは彼女も理解している事で、それに素直に応じてくれた。いつものワインレッドの服で、いつもの笑顔で。

 

 親しい中にも礼儀あり…ってね。

 

 …。

 

 ………。

 

 普通だ…。

 

 とてつもなく普通だ…。

 

 場に変化あったのは、先ほど退室したお手伝いさんがお茶を持ってきてくれた事くらいで、お礼の後に続く他愛の無い会話。

 まぁ…そのお手伝いさんに千代さんが耳打ちしていたのが、少し気になったけど、まぁ仕事の話だろう。それっぽい会話が少し聞こえたしな。

 あ、そういえばこの部屋に入るのって、俺一人だけってのは初めてではなかろうか?

 大体ここに来ていた用事って、どれも大変な時だけだったしなぁ~…。あの時とは違って、こんなかなり落ち着いた状況でってのはちょっと逆に新鮮だ。

 

 …。

 

 何気なく部屋を見渡していると、先程からだま~……って、俺を見つめていた千代さんと目が合った。

 それは先程から変わらず…の、いつも通りの笑顔だったんですけどね? …今気が付いた。

 

 …ギッッッラギラにその瞳が…なんつーか…薄紅色に輝いているんすけど…。

 

 ぉあ?

 

 …視線が合ったなと思ったら…スッ…とその輝きが隠す様に収まった。…気がする。

 いつもと変わらない顔に戻ったんの良いんですけど…逆になんか不気味なんですが…?

 そういえば、あのお手伝いさんが退室してから、ろくに話していない気が…。

 

「隆史君」

 

「は…はい?」

 

 そんな事を直感的に感じ取ってしまったいたので、一瞬身構えてしまったけど…。

 意外な言葉を口にだした。

 

「涼香さん、ご結婚されるそうで…おめでとうございます」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 お…よかった…まだ普通の話題だ。

 一瞬見せたあの目のギラつきは、やはり気のせいだったのだろう。

 

 …多分。

 

 千代さんが姉さんの話題を出すのが非常に珍しい。

 

「あの子…どうにも私の事を目の敵にしているみたいですので…直接ご本人には、どうにも言い辛くて…」

 

「あ…あぁ…」

 

 苦笑をしながらってのも非常に解るので…此方も思わず苦笑しながら相槌を打つ。

 

 そうだよなぁ~…。

 

 小さい頃からすごかったからなぁ~。理由は解りきってるけど…。

 姉さんと俺。二人揃って島田家へ遊びに行った事ももちろんあった。あったけど……途中からまぁ…姉さんの事知っている人なら、誰でも察することができる事態になったからなぁ…。

 だから愛里寿と姉さんは会った事はない。ただ姉さんの趣味からすれば、愛里寿ってドストライクだから逆の意味で怖いな…。

 

「えぇと、それでですね? …コレは、そのお相手先の…」

 

「このお酒?」

 

「えぇ、実家で酒蔵を営んでいるようで…姉さんのお相手の弟が、俺の悪友でして…」

 

「あぁ、なるほど」

 

 そこまで言うと、ある程度察してくれた。

 それと日本酒を選んだのは、しほさんの所にも手土産で持って行った事があり、その事を彼女も知っていたから…というのしかない。

 変に違うの選んだりしたら、へそ曲げそうだからな…。まぁしほさん時は、千鶴の所の酒だったけど…。

 

「ではさっそく…グラスでも持ってきましょうかね」

 

「あ、はい。…じゃないっ!」

 

「はい?」

 

 なに普通に飲もうとしてんだろう、この人…。

 いや違う、そうじゃない。飲んで貰う為に持ってきてのだから、それはそれで良い。

 ただ…流れ的に俺でも流石に気付くよ!? 

 

 絶対……俺に飲ませる気だ。

 

「さ…流石にお手伝いさん、グラスを二つ持ってこさせたら何かと思いますよ…」

 

「お手伝いさ…ふふっ。隆史君は少し古い呼び方をしますねぇ」

 

 お手伝いさん、ハウスキーパー、メイド…とか呼び方色々あるけど、今はソコじゃねぇ。

 敢えて俺が言葉にした…「グラス二つ」に対して何も言わねぇよ、この人…。

 千代さんが、ゆっくりと立ち上がりながら…。

 

「一応彼女達の勤務時間は、9時~17時です。先ほどの彼女には少し残業してもらいましたが…基本的にその残業はさせませんからねぇ…」

 

「え…なにその、くっそホワイト」

 

 あ、思わず突っ込んでしまった…。

 

 愛里寿の時は、むしろ彼女達が率先して協力してくれたようで、夜中までいたようだ。シフト制で早朝班みたいな人もいるらしいが、昼食の用意をして業務は終了だという事。

 あ、はい。一応状況に応じて夜勤班もいるんですね? …というか、ツラツラと説明してくれたのですけど…なぜその説明を今するのでしょうか…?。

 

「まぁ…本家には、住み込みも…あっ」

 

 あと、福利厚生付いて…めっちゃ給料が良い…。

 

「聞けば隆史君」

 

「え? あ、はい」

 

「隆史君は、家事、掃除…それこそ料理まで何でもできるそうね?」

 

「まぁ…一通りは…」

 

「就し…いえ、残り夏休み中でも構いませんから、アルバイトとかしてみません?」

 

「  」

 

 ズイッ…と顔近づけて勧誘されたんですけど…。

 眼ぇ見開いてすっげぇ真顔なんですけど!? 

 

 あの…何で横に座ってんでしょう? 

 

 そのまま顔の軸をほっとんで動かさないでゆっくりと…。

 柔らかい髪が少し頬を掠めると、何度か感じた事の有る…すこし甘い匂いした。ソファの手摺に肘を乗せ、さらに顔を近づかせ耳元に唇を寄せてきた。

 

「お給金……ハズミマスヨ?」

 

 み…耳に息を吹きかける様に囁いた。

 

 あ、これヤベェ。

 

 一気に彼女の雰囲気が変化したのが解ったので、反射的に少し首を動かし逃げる様に顔を少し離した。

 …離したら、彼女は手を俺の顎から頬を摩る様にに手を添えて「逃げるな」と言わんばかりに、優しく強制的に止められた。

 

「…あの…千代さん!?」

 

 彼女の眼を見ると…。

 

「…夜勤専属…が、一番良いかしら?」

 

 いつもの柔らかい笑顔は変わらないのですが、眼…がもう、ギッラギラに輝いていた…。

 俺の頬に手を添えているので、その腕の肘が必然的に彼女の胸を寄せている。貴女の服…体のラインが結構でるから、かなり目の毒…なんですが…。

 

「…と、一瞬。とてもとても良い考えが浮かびましたが…はぁ~…しほさんが怒り狂いそうですので、断念しておきましょう」

 

「……」

 

 俺に接近してくるのはソコまでで、スッ…と体を離してくれた。思わずそこで解放された手で、囁かれた側の耳を押さえた。

 こ…こそばゆい。

 

 そんな俺を見て、また千代さんは解りやすく笑った。

 そしてまた隠す様に、ギラついた眼を細めていた。

 

 …。

 

 ……よし。

 

 

 

 

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 逃げました。

 

 はいはい、逃げましたヨ。

 

 まず最初に…不穏な空気を感じ取り「じゃぁ僕、そろそろ御暇しようかと…」と、口にしましたら「はい?」とか…笑顔で僕の言葉を遮られてしまったので、本気で断念…。

 

 はい、もう何を言っても無駄だと。

 

 千代さん、色々と何かを隠そうとしてますけど、全然隠せていません。

 人間、目を見れば大体の事は解るものですよ?

 

 ぶっちゃけ千代さんの策略に乗り、俺も酔ってしまえば酒のせいにしてどうとでもなったとも思いますが…。

 それでも大洗が優勝し、ある意味でその戦後処理の最中…俺が何か問題起こしてしまえば何もかもが無駄になってしまう。

 

 島田さん家での事で、外にバレるはずがないとも思うだろう? でもな? 温泉宿の時とか鑑みると、千代さん…俺に何してくるかわからんだろう?

 そんな中で…ぶっちゃけてしまえば、彼女に襲われる。結果、流されて間違いなく俺も俺で、変なスイッチ入ってやる事やっちゃうでしょう?

 抱く、寝る、SEX。はっきりとは言わなかったけど…遠回しにもハッキリと牽制してくる千代さんでしょう?

 俺も腹括っているから、今さらもう酒なんて使わなくても…とも思うし、彼女も解っているだろうに…何故今さら執拗に飲ませようとしているんでしょうか?

 

 よって。

 

「フラグって言葉をご存じでしょうか?」

 

 もう一度言う。アソコ、島田さんのお宅。

 旦那さんが帰ってくる可能性が全くない訳じゃない。千代さん曰く、海外出張中で帰ってくる事もない。…と、めちゃくちゃはっきりと暗に説明してくれましたね。

 言っていて妙ですが、その表現がしっくりとくるのですよ。

 

 …そして一番最悪なのが愛里寿。

 

 戦車道乙女の隊長各。その方達は本当に訳がわからないステルス能力を保有しているのですよ? それも有り、いつ実家帰りしてもおかしくない。それこそ現時刻の為あり得ないとも言っていましたが、怖くて仕方ありません。

 一瞬、愛里寿の名前を出した時、彼女にしては言い淀んだのだけど…先ほど見せた薄紅色の眼光がでましたので…あ、コレマジでヤベェ。…とも思いましたので…。

 温泉宿での事で、完全に堕としてしまっていると確認が取れているので余計に…洒落にならん。

 なぜか分からないけど、俺に酒飲ませようしていると確信が取れた時点で、いつの間にやら、いつもの千代さんではないと分かってしまったからな。

 

 更に愛里寿の名前で、彼女の中のスイッチが完全ON。

 

 スキルで色々と分かっちゃいたけど、しほさん含め、完全に彼女達は「背徳感」に酔っている。程度は不明だったけど、完全に沼に沈んでいると…確信した。

 ある意味では危険でしたが、ソコを刺激し…現実感を改めて認識させてもらいました。シラフに戻ってください。死にますよ? …と。

 別に俺が致したくない訳ではありません。この関係を作ってしまった責任を取らないとも思います。

 ですが不思議と、追われれば逃げたくなるのも人情と言うモノでございます。

 

 よって…何を企んでいたか知りませんけど…旦那様と愛里寿の事を口に出して、フラグ構築を敢えてさせて頂きました。はい。

 

 

 ある事を代償にして…。

 

 

「たぁかしくぅん? 聞いてますぅ?」

 

「はいはい、聞いてますよ」

 

 …返事しながら皿の上の大根をお箸で割る。

 

 千代さんの風貌を見れば場違いと言って間違いないだろう。

 島田さん家よりだいぶ離れた繁華街。…その裏路地。

 人気の少ない繁華街から少々ずれたこの場所にある、屋台の暖簾を今潜っています。

 

 つまり…酔わされる前に酔わせてしまおう…と、そういう訳です、はい。

 

 19時を回る辺りで、晩飯もお互いに食っていなかったので、下手に島田家にいるよりかはと思い、飯を食いに外へ…と、手土産から彼女を遠ざけた。

 というかね? 食事時にお伺いするのも失礼かと思って、日中時間があれば…と、最初提案していたのだけど、この夕方時に指定してきたのは彼女だった。

 やはり彼女は今日の食事を用意させていなかったようだ。…まぁそういう事なんだろうなぁとは、聞かされてすぐにわかったけどね…。俺との時間を作ってくれていた。

 そこまで俺の事で予定を開け、調整してくれているのだったらば逃げ回っているのも申し訳がない。

 だから俺から食事へ誘うと、一瞬顔が正気に戻ったようにも感じた。当初の目的を思い出したかのように、この案には乗っていただき…ここに来た訳です。

 

 しかし…あかん。

 

 色々と予想外で、俺が参り始めた…。

 

 車の中。

 車なんて乗って走りゃ良いやって考えなんで、興味がまったく無い。無いので車種なんて知らねぇんすけどね? さすが島田家、あからさまに高級車。

 走り出した後、その車内で何処かに電話を掛けようとしたのだろう。携帯を取り出した。

 

 はい…行先決めてないんですね…それでその電話って事は…。

 

 食事の時に何処に行くかは任せますと言ってしまった事を、ある事を思い出し…ひどく後悔した。はい、思い出したんですよ、あの彼女が家元就任した後に行った打ち上げを。

 即座に「金掛かんない所でお願いしますっ!!」…と、すぐに言い直すと…「遠慮しなくても…ある程度融通が利きますよ?」とか返されたのでその発言は間違いではなかったんでしょう。

 よし、俺の直感は間違いなかった。その「融通」が何を指すかわからないが、絶対洒落にならない店へ連れていかれると思った! 

 

 金額とか! 

 

 金額っ!!

 

 

「なら…」と、余程面白かったのか…少し必死の形相だったであろう俺の顔を笑い…ここに連れてこられた。

 

 …いやまぁ…全然俺としては良いのですが、あまりにも予想外すぎて驚きました。

 それでもある程度は納得はした。どうにも、しほさんが来た時とか、あの大学生のお姉様方と率先してここに来ているお店だそうです。

 

 …しかし真夏におでん出してんのか…。

 

「さぁいきん、また愛里寿が私の事、母って呼ぶんですよぉ~…」

 

「あ、はい。そうですねぇ~何度も聞いてますよ…ソレもう68回目ですねぇ~」

 

「でっっ…しょぉぉ?」

 

 まぁ回数は適当だけど、それに似た回数を聞いた気にはさせられてます。

 すでに真面に会話が成立するとは思っておりませんので? …空返事をしながら、グラスに入ったウーロン茶に口をつけた。

 席に座った直後、俺こんな見てくれですが未成年ですから…と、店のおっちゃんに言っておいた。何を言いたいかすぐに理解してくれたのだろう。

 返事は無かったが、コレを俺の前にコトンと、置いてくれた。千代さんが一瞬泣きそうな顔したので、本気で俺に酒を飲まそうと画策してたんだな…。

 …そしてその千代さんの前には、解っているとばかりに一升瓶と安っぽいコップを置いた。…その一升瓶に「しぽりん」と、マジックで殴り書きしてあるのがすっげぇ気になる…。

 

 店主…慣れてますね…。

 

 躊躇なく出された他人のキープボトル…。

 余程の常連なんでしょうね…ある意味で二人の人間関係知らんと、このヤベェ空気の読み方はできませんよ?

 

 …後でしほさんに何言われるか…。

 

 すげぇ幸せそうな顔して人の酒飲む千代さん…。

 

 はぁ…。まぁ…ある意味で愛里寿の事を話に出してくるという事は、背徳感からは抜け出していると思うから少し安心していた。

 

 良しっ! 忘れようっ!!

 

 あ、この大根ウメェ!!

 

「それでね? さいきんね? せんしゃどーれんめーの糞ヒゲがね?」

 

「…それ外で言っちゃ不味くないですか?」

 

「セクハラがひどくてぇ~んっっとにひどくてぇ~…………もはやアレが息をしている事すら殺意を覚えるわ」

 

「最後はとても流暢ですね…」

 

「そうよねぇ~隆史君は人の事いえないわよねぇ~♪」

 

「…………」

 

 余程疲れを溜め込んでいるのか…2、3杯で直ぐに酔い始めましたネ…。いや、もはや泥酔っすね。まぁ…ほぼ間髪入れずに飲み続けてますけど…。

 そして相も変わらずハシャグタイプですね。…ちょっと貴女とコンビニ行った時の事思い出しました。

 軽く周りを見渡したけど、マジで人が通らない路地。それとこの超寡黙なおっちゃん。不愛想と言えばそうなんだろうけど、こういう店員さんの店というのも需要があるのだろう。

 特に彼女達みたく立場のある人間からすると…ね。「魚の目」はこの店とは、全くの逆な雰囲気だったからコレもまた新鮮。

 

「…千代さん」

 

「なぁにぃ?」

 

 カウンターに突っ伏した状態で俺に顔を向けてきた。

 

「頼みますから、ラッパ飲みはやめてくださいね?」

 

「しぽりんみたくぅ…しないわよぉ? 私あんなに、はしたなくなぁーい」

 

「いや…そうじゃなく…」

 

 …いやもう…誰だよこの人。

 

 数時間前とは別人だよ…。

 

「無茶な飲み方して…大丈夫ですか?」

 

「あたしのお酒は飲めないのに!?」

 

「会話してくださいねぇ~…」

 

 しほさんいなくて、ある意味で良かったよ…。

 二人が泥酔した時に挟まれたらと思うと頭痛くなってくる…。千代さん一人だから何とかなっているようなモンだなコリャ。

 亜美姉ちゃんにシラフで接待させたけど…何かもう、今さら申し訳ない気持ちになるな…。

 

 なるだけだけどなっ!!!

 

 

「…キープボトル…空になっとる…」

 

 3升なっ!!

 

 あと今気づいたっ!

 

 コレ日本酒じゃねぇっ! 焼酎だっ!!

 

 ろくに食わずに…割らずに飲んでたよなこの人…。

 

「ふぅ~…」

 

 店主のオッチャンが、少し深い息を吐いた。

 

「んっ」

 

 その無口な店主の顔を見ると、俺の顔が向いたのに気が付いたのか、すぐに指を握った手から親指だけ出して屋台の隅を指していた。

 …そういやこのオッチャンが、相槌以外で喋ってるの一回も聞いてねぇな。

 今のため息も、暗にこっちを見ろって事だろう。…どんだけ喋りたくねぇんだこの人…。

 

 客商売として…とか人様に言える立場でもないし、コレがこの人のスタイルなんだろうな…まぁ、それはそれとして、その指された先を見た。

 先ほどから静かに流れるラジオの下にある時計…を指したんだろう。あと15分程で、短い針が9の数字の上に差し掛かる所だった。

 

 …?

 

 一体何の事だ?

 

 ……。

 

 あ…あぁっ!!

 

「さっ…さぁ、千代さん」

 

「なんですぅかぁ? 漸くその気にないまりたぁ?」

 

「噛み、かっみじゃないですか…つか、なんの事っすか…はぁ…」

 

「あ、隆史君。今、私の事めんどくさいと思ったでしょ」」

 

「はい、くっそ面倒くさいっす」

 

「そーーーよねぇ~…めんどくさいわよねぇ、こんなおばさん~…んっふっふっふっ~♪」

 

 隠す事もなくドストレートに本心を喋ると、千代さんがブーブーとぶー垂れた…。

 …いや、だから誰ですか貴女。

 例の打ち上げん時は、そこまでオカシクなかったでしょ…。

 

 はぁ…。

 

「もうすぐ21時ですから…ね? 俺、未成年。条例、ヤバイ、補導、サレマス」

 

「え~」

 

 カタコトの様に、さっさと帰りますよと訴えながら、ポケットから財布を取り出す。

 こんな状態の彼女だし…まぁいつもお世話になっておりますからねぇ…良いんだけど…。

 財布を取り出した俺を見て店主のオッチャンが察してくれたのか、マジックで料金だけ書きこんだ古い紙の領収書をカウンターの上にスッ…と置いた。

 すぐに書かれていた料金を支払い、お釣をもらう。

 ある意味ですっげぇ空気が読め、気がきいているんだけどなぁ…本当に一言も喋らないなこの人。

 

「ほらっ! 千代さん」

 

「んぇ~? …まだ飲むぅ」

 

「……はぁ」

 

 あかん。ダメだコレ。

 

 強引に彼女の腕に腕を入れ、脇を持ち上げる様に立たせ、そのまま少し引きずる様に屋台の暖簾を出る。

 

 女性を酔わせてどうの…ってからかい半分の言葉が今回出てこなかったから良しとしよう。いつのも千代さんなら平気で言ってきそうだしな。

 後、こんな裏路地に連れ込んで~とかは、言ってきたけど、割と真顔で睨んだら目を逸らしたのでコレも良しとしよう。

 

「…ふぅ」

 

 今までオレンジ色の屋台光に包まれていたから、思いの外にこの裏路地の暗さが引き立っている様に感じた。

 …しほさんと、大学生のお姉様方なら大丈夫だとは思うけど…女性だけでくる場所じゃねぇな~…。

 

「…隆史君」

 

「なんすか千代さん」

 

「相変わらず、私の扱いが酷く雑な時があるって思うのだけど…」

 

 屋台を出た瞬間…スッ…と背筋を伸ばし…いつもの千代さんに戻った。

 その変わり様に半場あきれて眺めてると、口元を扇子で隠して目を逸らした。

 

「いつもの大人な千代さんなら丁寧に扱いますよぉ?」

 

「あら、なんら今も変わらないと思うのだけれど…?」

 

 …この人も世間体ってのを気にしているんだろうなぁ…。

 確かに誰に見られても、いい大人の女性が裏路地でへべれけになっていたら引くわぁ…。

 ON・OFFがハッキリとしすぎていて、ちょっと怖いっす。屋台の中ならOKって訳だったんすね。

 …まぁ今の状態も本人は聞けば否定するだろうけど…絶対に気合だけで「いつもの千代さん」を演出・キープしてんだろうなぁ…。

 

 でもまぁ…一応。

 歩き出す前に聞いておかないと後で大変そうだ。

 

「大丈夫ですか? 歩けます?」

 

「えぇ、もちろんです」

 

 ……。

 

 いや。貴女顔真っ赤ですやん。取り繕っても、フラフラ小刻みに揺れてるやないですか。

 

「…」

 

「……」

 

 思いっきりジト目で見てやると、だんだんと目線が泳ぎだしましたね。

 

「…」

 

 こりゃあかん…と、タクシーを呼ぼうと、おもむろに無言で携帯を取り出す。

 

「ちょっ! ちょっと待ってください!」

 

「なんでしょう?」

 

 思いっきり輝く笑顔…というのを意識して返すとあからさまに焦っていた。

 俺が何をしようかとわかったんでしょうね。もはや無理。強引に自宅へと帰宅させます。を、敢えて露骨に演出しましたからネェ。

 

「えぇと…その…宜しいのでしょうか?」

 

「はい。露骨に何か企んでいそうで恐ろしいので」

 

「 」

 

 分らぬとでも思っていたのだろうか…むしろ、すでに俺にバレて諦めていたと此方は思っていたんですけど…。

 何が宜しいか…は、お互いに流石に言葉にしない。

 

 …お外ですしね。

 

 まぁ…アレです。騙されるってのが、俺が嫌いなのを知っている彼女だ。

 何か策略があったのだろうけど、その事で少々俺は怒っている。…とでも思ったのか、目に見えて狼狽えたな。

 

「……ぅ」

 

 俺が黙っていると、更に狼狽え始めたな…。

 この人の酔い方からもそうだけど…アルコールが入ると千代さんって、少々子供っぽくなるよなぁ…。

 意外っちゃ、意外ですけどね。

 

「わかりましたぁ~もういいですぅ~」

 

 …すねた。

 

 とても分かりやすく拗ねましたね…。

 

 プライペート時間の、しほさんと話している時みたいになっとるな…。

 

「私が帰る…のは良いとしましてもねぇ? 隆史君はどうするんですか? 明日はお休みですよね?」

 

「適当に帰りますよ。車で来ましたし」

 

「……そうですか。ならもう少し時間ありますよ…ね?」

 

「まぁ…」

 

 一応明日まで、レンタカー借りといてよかったわ。

 あ…でも千代さん家に駐車させて貰ってるから、結局一緒に帰らないといけないのか。

 

「なら少し寄りたい場所があるのですが…歩いて行ける場所ですよ?」

 

「…寄りたい場所?」

 

「…普段、私だけですと入り辛くて…。せっかく隆史君がいますので、ついでと言っては何ですがお願いしたく…」

 

 …?

 

 ……あぁ、なるほど。

 前回と一緒か。随分とはしゃいでいたし、やはり物珍しかったのだろうか。

 

「いいですよ? またコンビニですか?」

 

「えぇ! 似たような場所です」

 

 俺がそれ位ならと軽く返事をすると、俺の機嫌がよくなったと思ったのか? それとも純粋にあの彼女とは場違いな場所へ行ける事ができるのか?

 やはりアルコールが入っているってのもあるのだろうが…なんだろう? 純粋に無邪気に喜んでいるような笑顔をしてくれた。

 まぁコンビニならそっこら辺にあるし…この前とは違う店舗…ってところだろうか?

 

 …。

 

 

 …ん?

 

 

 似たような場所?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---

 

 ----

 

 -----

 

 

 

 

 

「はっはー…」

 

 

 出ない…乾いた笑いしかさっきから出ない…。さっきから何度も何度も喉を通る…。

 

 なんて言いますか…。

 

 ある意味スタンダードと言えば、そうなんすけど…。

 横目で辺りを見渡すと、ピンクの派手々しいライトが壁や天井を照らしている。

 ムードも何もあったもんじゃない。こういう施設って、ある意味でアミューズメント…の、一面もあるのだろうが…なんというか…。

 

 

 

 ラブホじゃねぇか…。

 

 

 

 部屋に入るなり、すぐ近くのソファに腰を掛けると一気によくわからない疲れがでてきた…。

 そりゃ一人じゃ無理でしょうよっ!!! ラブホ街に来た瞬間、ぶっちゃけ度肝抜かれて硬直しましたよ!

 それに気が付いたのか、即座に強引に力づくで、目の前のホテルへ連れ込まれましてね!? そんなホテルの前やら、中やらで誰かに見られて御覧なさいよっ!

 というかっ! 千代さんとホテル街にいたら、しかもそれが月刊戦車道の記者にでもパパラッチされてみなさいよっ!! 洒落にならん程の事態になるでしょうよっ!!!

 

 

 はぁ…。

 

 誰に向かって言い訳してんだ俺は……。

 

 

「思っていたよりも綺麗ですねぇ~♪」

 

「 」

 

 言っていた通りに、初めて入ったんだろうけどさ…。

 かなりモノ珍しそうに、先ほどから部屋を散策してた千代さんが、バスルームから出てきた。

 といっても、シャワーを浴びたとかではなく、本当にただの探索。ガラス越しに随分と燥いでいたのが見ていたので良くわかっとります。

 鼻歌交じりで、風呂場の壁がガラスという造りになっている為、ベッドルームからも丸見えですからね…何故それをとても楽しそうに見て回っていらっしゃるんでしょうか?

 酒も少し抜けたのか…完全なヘベレケではなく、少しハシャグ程度に落ち着いてたから…まぁ…うん。

 

「まぁ~…何かと思ったら…」

 

 取り合えず次は、ベッド横の壁が何やらスライド式の大きな開き扉っぽくなっていたので興味を引いたらしい。

 ベッドに脚をかけ、四つん這いになりながらも近づいていく。…思わずそのラインがはっきりと出ている綺麗な円を描いているお尻に目が行ってしまう辺り…俺もなんちゅーか…。

 俺の視線を気にすることもなく、躊躇なくそれをゆっくりと開くと…まぁ、そらそうだろう。予想通りのでけぇ鏡。

 

 …挙句。

 

「何かしらこの自販機…このボタン…あ、開いた」

 

「 」

 

 …。

 

 今日一番のアンバランス感がこの上無い…。リゾートホテルのスィートとか…比較的上の階の部屋がディフォルトっぽい彼女。

 その千代さんが、ラブホにいるんだぞ? なんつーか…これも一種の背徳感とでも言うのだろうか?

 なんかこの状況だけでも、すっげぇエロいんすけど…。自販機の前で何かゴソゴソしてるが、何してんだろ…。

 パキパキと何かを鳴らして…。

 

「隆史君? どうかして? あ、動いた。…なんとなくわかりますけど…コレはちょっと…」

 

「なにしてんすか!?」

 

 いつの間にか常設してある自販機から取り出した…まぁ大人の玩具というべき物を透明な箱から取り出して…電池入れてスイッチ入れていた。

 しっかりセッティングしてるし…ウィンウィン音出してるし…。

 

 ラブホでバイブ持ってる千代さん。

 

 …なんだよコノ絵。

 

「あ~…もう、どこから突っ込んで良いのやら…」

 

「あら、えっち♪」

 

「………」

 

 いやもう…。

 

「……でぇ?」

 

「なに?」

 

「どこから計算されてたんですか?」

 

「あらやだ、人聞きの悪い。私が打算的な女に見えます?」

 

 …見えます。

 

 その手の物が五月蠅かったのか、すぐにスイッチを切り、もう興味は失せたとばかりにベッドへと軽く放り捨てた。

 まぁ…はい。

 

「そもそも、此処のどこが…」

 

 コンビニと似たような場所…なんすかね?

 俺が言おうとした事を察してくれたのか…かぶせる様に理由を教えてくれましたね。

 

「え? 此方はお手軽にコンビニ感覚で男女が馬鍬う場所でしょう?」

 

「言い方っ!!」

 

 ぶっちゃけてしまえば、スキル使えば千代さんの所でもどうとでもできた。

 できたんですけど、何か企てていたのを分かっていたので迂闊にできなかったってのが、やはり大きい。

 というか…いつもと行動パターンが違う彼女が、少々気味悪かったってのが…。

 温泉宿ん時とか、すでに割り切って開き直っている様な事を言っていた様に、いきなり舌絡ませてくる様な事してきたのに…今回は変に遠回しというか、回りくどいというか…。

 

「結局、千代さんは今日一日、俺に何をさせたかったんすか?」

 

 まぁ…もういいや。正直に聞いてみよう。

 千代さんと探り合い見たいな事しても勝てそうにないし……ここに来た時点で…まぁそういう事だろうし。

 

「え? 隆史君に本気で私を襲わせたかったんですよ?」

 

「 」

 

 どストレートな答えを頂きました…。

 

「隆史君がお酒もって来てくれた時…鴨がネギ背負ってやって来た…と、私の中で狂喜乱舞したモノです」

 

 どストレートな感想を頂きました…。

 

「しかし、私を襲ってくれる気配どころか? お酒を飲まそうとした時点で気付いてくれも良さそうなモノの、いつもと変わらなすぎなのが非常に腹立たしかったですねぇ」

 

 あ…アレやっぱりワザとか…。千代さんがあんなに分かりやすくアピールしてくるのはおかしいと思っていたからな…合点がいった。

 どーーーして皆して、俺に酒を飲ませようとすんだよ…。変なことになるの解りきってるだろうに…。

 あ、そういやスキルってのを手に入れてから、一切酔わされた事なかったよな…。

 

 ……。

 

 俺でも何するか分らんから怖ぇぇ…。

 

 

「あの…千代さん?」

 

「なんです? ちなみに今、隆史君のお陰で、私のストレスが最高潮ですよ?」

 

「…………」

 

 笑顔だ…。

 

 …めっちゃ笑顔。

 

 下手な事ぬかしたり、日和ってでもしてみろ。何をするか私も分らんぞ…と、暗にでもなんでもなく、ハッキリとその笑顔で仰っていますね。

 

「一応…ですね?」

 

「…はい?」

 

 ……。

 

 あ、うん。その笑顔やめてもらっていっすか?

 

「今回、本当に今までの御礼をしにきたんですよ」

 

「えぇ…まぁ、丁寧なご挨拶でした」

 

 若干テンプレ通りになってしまいましたがね…。

 

「ですから、正直に言いますとね? そういった事を目的だと思われたくなかったってのがありまして…」

 

「……」

 

 ソレはソレ。コレはコレ。

 ある意味でちゃんと境界線を引いておかないと、だらしない関係…どころの話じゃなく、本格的にどこかでぶっ壊れる。

 締める所は締めておかないと、絶対に綻びが発生して、どこかの時点で関係が露呈する可能性が高い。

 今更過ぎるとも思うけど、双方の関係を秘密裏に進めて行く上で、必要な事…。

 

 言い訳がましく淡々と説明するも、彼女も大人だ。黙って聞いていた。

 そこはしっかりと分かっているんだろう…けど、俺がソコの部分をしっかりと考えている旨を伝えておかないと…。

 でもまぁ…ラブホになんぞ入るって危険性は解っていなかったみたいですけど…。

 

「隆史君は真面目ですねぇ~」

 

 茶化す様に…でも何処か、嬉しそうなのは気のせいだろうか…?

 ある程度は納得してくれたんだろうか…?

 

 あ…。

 

「もう一つ聞いていいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「なんで俺に酒を飲まそうとしたんですか? こう言っちゃなんですが…普通に言ってくれれば応えました…よ?」

 

「ん~…それはですねぇ」

 

 これも今聞いておこう。あの温泉宿ん時みたく露骨じゃなくても…普通にしてくれれば…。

 

「隆史君、基本的に受け身だから…最初から全開で迫って欲しくてぇ」

 

 欲しくてぇ…て…

 

 可愛らしく言ってますけど…貴女すげぇ事を仰ってますよ? 要は初っ端から俺の中のスイッチONの…って事?

 俺が一応、考えがあって今日一日拒んでいましたら、もう強く言えないんだろうね。自身の希望を少し言い淀んでいた。

 ま…まぁ…確かに俺って結構エンジン掛かるの遅い方ですけど…う~…ん。女性って30代超えてくると、性欲上がるって聞いたことあるなぁ…そういや。

 後は…まぁ、彼女が先ほど言っていたストレスって奴もあるんだろう…。

 

 ぶっちゃけて言ってしまえば、はっちゃけたいと…俗に言う、滅茶苦茶区にして…って奴でしょうか?

 彼女もそこまで言ってはいないけど…まぁそうなんでしょう。俺が黒いスイッチ入ってる時の彼女達の乱れ方すごかったし…。

 

 ………。

 

 はぁ~…。

 

「千代さん、今何時ですか?」

 

「…は…はい? えぇと…もうすぐ21時半ですね…」

 

「今、21時半か…8時間以上開ければ抜けるか…」

 

 ため息を吐きながら、おもむろに立ち上がと…そのまま部屋備え付けの冷蔵庫を探す。

 確か…クローゼットを開けると、先ほどの大人の玩具の自販機の横にある、小さな冷蔵庫を見つけた。

 クローゼットの扉を閉めていれば、部屋からはある意味で無粋なコレらを見えなくなるって造りだな。

 

「良いですか? 俺でもどうなるか分かりませんから」

 

「あの…隆史君?」

 

「先にも言いましたけど、俺以外に迷惑掛かりますから、朝6時まで出れませんからね?」

 

 認識阻害を使えば安全に出れそうだけど、これに慣れてしまっては今後また、面倒臭くなる。

 …だからあらかじめ言っておく。

 

 

「今回だけですから」

 

 

 そこまで言うと冷蔵庫を開けた。その中はいくつも小窓に分かれている特殊な造り。

 レバーというかボタンというか…その日本酒とワインと書かれたスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 正直に言ってしまえば、少し自暴自棄になっていたと言っても良いでしょう。だから正直に密かに企んでいた事を白状したというのに…。

 未成年に飲酒をさせる。…普通に犯罪です。ですが、そのことから目を逸らし、こんなにも破廉恥な事を企ててしまた。

 ある程度私に気を使ってくれたのでしょう。そこまで必死に見えてしまっていたと思うと、別の意味で恥ずかしい…。

 

 冷蔵庫から取り出した小瓶。コンビニで見かけた気がする、安っぽい日本酒とワインの栓を開け、交互に一気に飲み干した。

 ですが飲んだからすぐに酔うという訳でもない。飲み干した後に脚を少しふらつかせただけ。

 少し時間が欲しいと、すぐにその横にあったベッドへと腰を掛けると、そのまま両ひざに腕を乗せ、頭を下に地面をずっ…と眺め始めた。

 

 正直、とてもとても期待していた自分がいる。夢だったとしても、その前…ホテルでの一室の時の事から…。

 あの温泉旅館の時の様に、トップスピードへとギアを入れている彼は、とてつもなくすごかったのを身体が覚えていた。

 1分、2分…と徐々に時間が経過する毎に、ゾクゾクとまた得体のしれない悪寒にも似た何かが背中を這い上がってきているのが解る。

 アルコールを摂取してから徐々に…変わっていく。彼はとてもアルコールには弱い様で、5分も掛からず変わってしまったのを一度目にしているからその時間経過もまた…。

 

 

「…?」

 

 

 なんでしょう…酷く大人しい。

 静か…余りにも静か。…なので、少し…確認しておきましょう……か?

 もうすでに15分は経過したのではないでしょうか? 前回は少なくともそれなりに、可愛らしい酔い方をしてくれていたはずなんですが…。

 な…何故でしょう? …こんな状況ですが、彼は仕方ないと言わんばかりに、今回は自らお酒を煽ってくれた。

 それでも近づく事に少し躊躇してしまっている…。期待半分、警戒半分という所でしょうか? それでも腰をゆっくりと落とし…彼の顔を下から見上げると…。

 

 …信じられない結果となる。

 

 そして…まさかこの歳で、こうも歳下の子に手玉に取られるとは思いもしなかった。

 

 

 

「…………寝てる」

 

 

 

 お…おあずけ…。

 

 まず最初に、そんな言葉が情けなくも私をひどく落胆させた…。

 小さな寝息を立てながら、ゆらゆらと小さく頭を揺らしている隆史君…。

 初めて関係を持った夜は、私から飲ませてしまったのですが、彼がその状態になっているのを一度見ている。

 だから、上手く誘導させることができれば…と、色々と考えていたのですが…っ!! 

 

 普通、寝ますか!?

 

 この状況で!?

 

 …。

 

 はぁ~…。

 

 この無駄に派手な部屋で佇む私の…なんと滑稽な事か…。

 

 一瞬、起こしてしまおうか…と、思いもしましたけど、彼は私に会う為に、長時間運転をしてきた事を思うと…可哀そうな気もします。

 疲れていたんでしょうね…それで私の様な酔っ払い相手にした後なのですから無理もないでしょう…ね。

 

 …はぁ。

 

 彼に背を向け、ここからも内部が丸見えのバスルームに自然に目が行く。

 そういえば…クローゼットの中に、ハンガーが吊るされていましたね。女性が服を脱ぐ仕草も、また彼は好きそうでしたから敢えて脱がなかったというのに…はぁ…。

 かといって、私一人で佇んでいても仕方がない…。落胆のため息が何度もだしてしまいますが…コレは邪な企てをした私への罰なのでしょう。そうとでも思わないと、あまりに惨め…。

 …時間的に少し早めですが…シャワーを浴びて私も寝てしまいましょう。ここから見えてしまいますが、途中で起きてくれれば…。まぁ、それでもダメでしたら本日は諦めましょう。

 しほさんがいない今が、千載一遇のチャンスだと理解してはいますが、私の我儘を通して無茶させてしまうのも、また違うと思いますから。まぁ…この鬱憤は明日彼が起きた時に、何割か増しで返して貰う事にしますか…。

 

 

 

 

「はぁ~~……ひゃぅ!?」

 

 

 …。

 

 お…思わず普段出さない様な声を上げてしまった。

 バスルームへ向かう前に、上着だけでも掛けておこうと先ほど見つけていたハンガーを取ろうとした時…違和感。

 お尻が少し熱い…。

 そしてすぐに理解し、思わず生唾を飲み込むように喉がなった。

 バスルームへ意識が完全に向いてしまっていたので、ほぼ不意を突かれてしまった形になりましたが…コレは行幸。

 ゆっくりとその違和感の原因を確認する様に、首を回し後ろを振り向くと…。

 

「………」

 

 隆史君が、私のお尻に手を伸ばしていた…。

 ベッドへ座っているままですが、そこからその太い腕がまっすぐに。

 

 …落胆からの回帰。

 

 胸が高鳴るとでも言うのでしょうか? まだ顔は下を少し向いていたので表情はよくわかりませんが、その目は特徴的。

 

 きっっ…たぁ…。

 

 意識が少し飛んでいただけだったのでしょう。そしてコレ…そして確信。

 

 …完全に酔っている。

 

 こんな時です。普通ならまず最初に会話から基本切り出す彼が、大洗の準決勝戦の時の様にまず最初に行動をし始めた。

 

「…んっ」

 

 私の右の尻肉を少し指を動かした。

 散々焦らされた為か、こんな簡単な動きでも声が漏れた。

 

 さて…。

 

 あの時の…しほさんの胸を鷲掴みにした場面を思い出すと、更にまた期待が膨らんだ。今の私達の関係なら、彼がどの様に動くか…。

 

 ……。

 

 ………。

 

「………?」

 

 

 す…少し違和感。

 

 

 彼は少し指を動かしただけで、得にそこから動こうとしない。

 ま…まさかまた寝てしまったのでしょうか?

 

「…あ…の? 隆史君?」

 

「はい」

 

 …。

 

 すぐに返事が来たので、寝てしまったという訳ではなかった。ただ…完全に動きが硬直していた…本当に私のお尻を鷲掴みにしているだけ…。

 何をする訳もなく、そこから動こうともせず、ただベッドに腰かけて、掴んだままの私のお尻を映ろな眼で…眺めている。

 

 …。

 

 ………。

 

「えぇと…何をしているのでしょう?」

 

「千代さんの尻を掴んでます」

 

「……でしょうね」

 

 違いますっ! …我ながらとても愚かな質問を投げてしまいました…。

 あぁそうでした…忘れていました。彼、酔うと命令待ちのロボットの様に…取り合えず動きが止まるのでした…。

 まるでスタンバイモードと言うべきなのでしょうか?

 

 ん…?

 

 その割になぜ…。

 

「何故、まず最初に私のお尻を掴んだのでしょう?」

 

「そこに千代さんの尻があったからです」

 

「…しほさんの時は?」

 

「そこにしほさんの胸があったからです」

 

「……………」

 

「俺にとって、しほさんは胸。千代さんは尻。そこに境界線はありません」

 

「………意味が分かりませんし、そこまで聞いていません」

 

「はい」

 

 あ…頭が痛くなりました…。

 隆史君からすれば、私に吐出した魅力的な部分…と、解釈しておけば多少は良いのでしょうが…この子、やはり酔わせると危険かもしれませんね…。

 しかし完全に彼は今、制御下…。今ならば……いえ、ダメですね。

 

【     】

 

 せっかくのこの機会…。今の彼ならば、私の希望を伝えれば素直に聞いてくれるでしょう。それでは意味がありません…。

 思いがけない彼の復活に、危うく最初の計画を忘れてしまう所でした。

 しかし…どうしましょう。自由にしてと、言ったところで逆に今の彼ですと何をしてくるか分かりませんよね…。かと言って…何をどう言えば…。人に対してそれ以上に好き勝手させる命令…というのは、難しいモノですねぇ。

 

 …。

 

「…あの隆史君」

 

「なんでしょう」

 

「何故突然、私のお尻を揉み始めたのでしょうか?」

 

「そこに千代さんの「もういいです」」

 

「はい」

 

 先ほどの質問をしてから、ゆっくりと指が動き出した…。しかし無造作すぎると言いますか、事務的と言いますか…それよりも何故このタイミングで…? 

 特段そういった雰囲気にはなっていませんし…。それでもまだ何も言っていないにも関わらず…。

 

 こ…行動が読めない…。

 

 上手く考えが纏まりません…コレは徐々に命令を小出しにしていった方が良いのでしょうか? 上手く誘導してすれば…?

 あまりに露骨に言ってしまうのは、流石に下品すぎると思いますし…。

 

 しかし隆史君。

 

 いくら酔っているとは言え、今までここまでハッキリと私のお尻とか…しほさんの胸とか露骨に口にしなかったはずよね? た…確かに最中の時には、もっとすごい事を言いますが、まだ何もしていないというのに…。

 前兆…と考えれば良いのでしょうか? 取り合えず…【脱いで】」もらいますか? そうすればこの状態でも、ある程度察してくれるはず…?

 いえ、しかしそれで彼がその場で佇んでしまった場合…なんとも言えない空気になりそうな…。

 

 …。

 

 ……わ…割と面倒臭いですね…。

 

 なにか思っていたのとは違う気がします…。

 

「…ん?」

 

 若干頭を悩ませていると、スッ…と、お尻を撫でる様に手が動き…そのまま彼が立ち上がると、私の左肩の後ろに彼の胸が当たった。

 

「んんっ!?」

 

 ぐっ…っと、掴んでいた手に力が入った。痛みが走る少し手前…絶妙と言いますか…何と言うか…。意識がそちらへ集中してしまう程の圧力。

 

「っっ!」

 

 思わず背筋が伸びてしまった。

 掴んでいたその手を少し撫でる様に移動し、今度はお尻の間に指を這わせ始めた。ゾクッとした感覚が背筋を上り、一瞬また変な声が出てしまそうになる。

 そのまま上下に手が動き始め…まるで服の上からお尻の間に指を擦り込ませる様に優しく動く。

 

「んっ…あの…隆史君…まさかとは思いまっ…んぅ…思いますが…」

 

「…?」

 

「…痴漢の経験とかないですよね…」

 

「ある訳ないです」

 

 それはそうでしょう…けど…触り方が別の意味でイヤラシイ…。

 本音しか話せない状態での返答ですから、間違いがないでしょう。しかし…隆史君の場合、自白剤とか無用ですね…。

 そして余りに突然で驚いてしまいましたが、人のお尻の弾力で遊ぶ様に動くその手から、もう一つの確信を得た。

 

 何故だか分かりませんけど…彼がその気になりはじめた。

 

 諦めかけた欲望が、また胸の中で徐々に…しかし確実に大きくなり始めた。

 人のお尻を揉んだり、摩ったり…何か玩具にでもされている感じも否めませんが、それはそれでまた…。

 次に腕を私の腰へ廻し、通り過ぎた手で脚の付け根をゆっくりと摩り始めた。このゾクゾクとした、こそばゆい感覚をもう片方の手を使い、太腿を撫でながら…引き延ばす様に下半身全体へと広げて行く。

 この子は歳の割りにがっつかない。…こう秘部を直接触れてこず、マッサージの様に身体全体の感覚を上げるみたく触れてくる。

 

「んぅっ…っ…っ…はっ…」

 

 ここまで長かった…。

 焦らされたと言っても過言ではないでしょう。漸くかと…心底思える程に身体が反応し、彼の動きに応える様に息が漏れてしまう。

 でもまだ。まだ彼が完全にその気になったとは言えない。逆に言ってしまえば、思っていたよりも私のお尻に触れる彼に一切の躊躇が無く、今の彼が【本格的に動き始めた】ら…と考えると…。

 

 ………。

 

 無意識に頬が上がったのが解る。そして期待が願望に変わってきた。

 ならばこそ…ただこちらも受け身だけではなく、少し行動に移した方が一気に波に乗ってくれるかもしれ…な…。

 

「…っ!?」

 

 そう…思ったので、彼の首にでも腕を廻して身体全体を使って抱きつけば察してくれと考えてみました。

 まぁそうなれば必然的に彼に体の方向を向ける事になる。まず彼の様子からどうするか判断しようと顔を向けたのですが…。

 

「たっ…かし君…いつの間に…」

 

「…?」

 

 アルコール摂取状態の彼はとても大人しい。いつもの軽口を出す事も無くなり、基本的に良くも悪くも「待ち」一辺倒。

 しかし…今回はすでに彼から行動を起こしてくれたのですけど…えぇと…。

 

 すでに全裸になっていたんですが…。

 

 本当にいつの間に脱いだのでしょうか? そんな気配など微塵も無かったはずなのですが…。

 会話を続けるよりも、すぐに腰に手をかけられ、そのまま彼の胸へと引き寄せられていた。

 

 …。

 

 嫌でも目に入る。

 

 引き寄せられたお陰で手に少し触れた。

 それは私の思いに応える様に…すでに理解してくれていると分らせてくれる程。すでに大きくそそり起ち、ビクンビクンと小さく脈打つ…彼のモノが。

 

「…っっ」

 

 小指が少しソレに当たると、それだけで動けなくなってしまった。そして頭の中が真っ白になり目が離せない。

 初めて見る訳でもないというのに、とにかく眼が動かない。目を見開いてでもしているのか、眉が上がってしまっている。

 そしてただはしたなく、喉を鳴らす…。

 

「んっ…ちゅ…」

 

 どちらかから…とか分らない。

 

 身体が動かない為か何なのかは解らないが、ただ顎を上げ唇を会わす。

 暖かい体温と共に、彼の舌が口内へ滑り込んできた。いえ、滑り込ませたのかもしれない。

 

 あぁ…もう、本当にどちらでもいい。

 

 当初の計画も忘れ、ただ漸く。待ちに待ったと、ただ貪る様に舌を絡ませる。

 ヌルヌルとした感触がただ気持ちよく、そして心地良い。私の舌の動きに合わせ、コレもいつもの様に小さく絡め返してくる。

 口からだらしなく唾液が溢れ、顎へ伝い…堕ちる。口を吸い、唇を舐め、舌をまた絡ませる。

 

 …手の中も熱い。

 

 気が付けば彼の陰茎が振れていた指は、振れている事にすでに満足できずに…亀頭を撫でている。

 私の脳内とは切り離された様に、細かく指が動く。彼の弱い所をなぞり、手袋の下から少し爪を立て引っ掻く様に刺激すると、時折ビクリと動く反応を楽しんでいた。

 次第に指は添えられ、陰茎を握り、前後に扱く。

 

「んっ…はっ…はっ…んぅぅ…」

 

 何時しかこの部屋は、塞がれている口の隙間から漏れる吐息と舌と絡める音。ビチャクチャと唾液が絡み合う音が響く。

 後は布が擦れる音が彼のモノを扱く手から聞こえる。どんどんとその手の中は熱くなり、その先から滲み出始めた体液と混じる音。

 そろそろ…。

 

「はっ…はっ…んんんっ!?」

 

 突然、揉みしだいていたお尻から手を離し、後頭部に添えられた…と、同時に一気に舌を吸われた。

 彼の舌全体が私の舌を犯す様に弄り舐める。それに呼応する様に手の動きを速めると、その先が少し膨らみ始めたのか引っ掛かる感じがした。

 亀頭に指が掛かる瞬間、手で添える様に被せると…一気に手の中に熱が立ち込めた。

 

 ビクビクとしたその感触と共に、舌が一気に奥へ…。

 

 

 …。

 

 

 顔が異常に熱く感じる。

 ビクビクと波を打っているのは、手の中のモノだけではなかった。それに合わせる様に、私の肩から下、つま先まで脈を大きく打っている。

 

 …まさか、キスだけで果ててしまうなんて。

 

 手の中の熱、今まで散々焦らされた経緯、そして突然始まった行為の少し異常とも感じる空気。

 そのどれもコレもが集まり、舌先で感じていた快楽に突き抜かれてしまった。

 しかもこんな短時間で…あぁ…もう。

 

 裸で肌を何度も重ねたというのに、ただその事実が妙に恥ずかしい。

 顔をゆっくいと離し…顎を引くと、彼の口から私の口へと繋がる唾液の糸が部屋のライトに照らされてピンクに光る。

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

 行為をした訳でもないのに、だらしなく聞こえてきてしまう激しい自身の犬の様な息遣い。

 せめて体裁だけでは…と、小さなプライドで体の痙攣を力で押さえつける。それでもカクカクと膝が笑ってしまいそう。

 

「…あら」

 

 悟られまいといつもの私を演じる為に頭の中を切り替える。

 …彼のモノを握ていた手を上げ…彼に見せる様にゆっくりとその指を開いた。

 

「きょ…今日は随分と早いですね」

 

 黒い手袋を汚した白い精液が、いやらしいコントラストを作り上げていた。

 ニチッ…と鈍い音。精液が手全体に広がっている。指と指の間に糸を引きながら、そのまま手首へと伝っていく。

 妙なプライドと妙な気恥ずかしさから、余裕ぶってしまっている自分をどこかで滑稽に思いながらも、その手から漂う男の匂いに…体がまた震えだしそうになる。

 その匂いにもやられてしまったのか…無意識に舌を伸ばし、ただれ落ちる塊を救い上げて口へ運ぶ。

 

「……」

 

 そんな私を見て隆史君は………無反応。

 

「たっ…隆史君」

 

「はい?」

 

「えっ………と…」

 

「…?」

 

 少しは息が上がっているのか…小さな呼吸を繰り返してはいた。…が、私を見下ろすその目が…全て解かっている。と、私を詰る様に感じた。

 その無表情にも似た顔で見られいると、完全に看破されれていると思え、段々と耳が熱くなってくる。

 人間焦ると饒舌になる方もいますが…私はそれにはあたらないようですね…。会話でごまかそうとするも続かない…。

 …しかし言いあぐねている私の次の発言を待つ彼は…なんともまぁ…純粋な瞳をしているのでしょうか…。この下にぶら下げている凶悪なモノとまるで正反対ですね…。

 

「あの温泉旅館で何度コレで泣かされたか……あっ」

 

「温泉旅館?」

 

「」

 

 泣かされた=あの温泉旅館の夜。

 その構図できてしまった故、焦っていた私は思わず声に出してしまった…。

 

「い…いえ、ちょ~とあの日の夜の夢を思い出してしまして…」

 

「…夢?」

 

「あの夜、かなり隆史君が張り切って私をいぢめてくれたお陰で? いっぱいの隆史君にいぢめられた夢を見てしまいまして~♪」

 

「はい」

 

「…」

 

「……?」

 

「あ…いえ…」

 

 しまった…。

 

 いつものノリでしたら、彼は照れる。照れてながらも返してくれる。

 ですが…この酔っている隆史君に揶揄いは通じない…。全て真に受けてしまう…。

 何を言っているのでしょう私は…先ほどまでの空気がまた一転しました…。

 それもコレも、アノ夢が悪い…あの強烈な感覚を残している為に、妙にリアルな思い出とされてしまっているのですから…。

 み…認めてしまえば、また【体験してみたい】…と、どこかで変な欲があるのまた事実で、コレも私の自己嫌悪をさせ…。

 

「………」

 

 …。

 

 ……今、私はどの様な顔をしていたのでしょうか…? この状態の隆史君ですら、少し訝し気な顔してますね。

 

 なにか迷っているのでしょうか? 今度は彼が言い淀んでいる様に感じます。

 暫く黙っていると…一言だけ感情があまり籠っていない声で呟いた。

 

 

「…わかりました」

 

 

 

 

 …え?

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました。


本編滞りますが、続けて後編を書きたいと思います。


ありがとうございました
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