女教師の胸と女子高校生の膣から解放された一夏は、食堂へと向かっていた。千冬と真耶は職員室へと戻ったが、傍らには箒がいる。だが、箒は特に一夏に密着してくることもなく、適切な距離感を守っていた。少し不思議だったが、そういうときもあるかと思って深くは考えなかった。
それよりも、気を付けておくことがある。冷静な態度で周囲に注意を払う。今朝の券売機事件のような目には遭いたくない。意思をしっかりと持ち直すが、これでどうにかできるものではないとわかっている。だが、無意味でも何かをしていたかった。
でないと、何かを期待してズボンの内側で勃起する肉棒の欲望に呑まれそうだった。
「一夏、さっきから挙動不審だぞ? どうした?」
箒は不思議そうに一夏を見つめてくる。妙な感じだった。一夏が何を警戒しているのか本当にわかっていない様子。そんなわけはないのだが、邪気のない眼差しに困惑する。昔の箒と接しているような気分だった。
「何でも、ない……」
言いながら、股間を疼かせる。さっきまで肉棒をガシガシと膣コキして精液をどぴゅどぴゅと吐き出させた張本人がすぐ傍にいる。その温もりと甘い雌の匂いを嗅いでしまい、ズボンに張られたテントが大きくなっていく。
一年一組攻略という経験値を得たことで、肉棒がより欲望に素直になった気がする。それに合わせて異性を見た際の一夏の心境にも影響を与えていた。あの子が可愛い。向こうの子は胸が大きい。あの太股に触りたい。などと、食堂へと向かう女子生徒を見て素直な感想が心に浮かんでしまう。思春期の男子高校生としては正常な域ではあったが、元々それなりに理性的であった一夏からは考えられない。
すっかり精神が毒されてしまったようだ。
追い詰められてばかりだな、と一夏は内心でため息を吐く。
そうこうしているうちに、一夏は箒とともに食堂に足を踏み入れた。注文を待つ列の最後尾に並ぶ。「織斑君だ!」と一夏に気がついた生徒が声を上げ、嫌でも女子生徒の視線に晒される。何を噂しているのか。楽しそうな笑い声が聞こえたかと思えば、「今日も格好いいなぁ」や「本当に素敵ね」などと一夏の容姿を褒める声を耳が拾った。
どのような状況でも、褒められて悪い気はしない。増長する股間をさり気なく手で抑えていると、少しずつ列が進む。今のところはまだ何も起きていない、はず。箒は相変わらず素知らぬふりをして逆に怪しいが、今のところ肉体的接触はない。
箒は何を考えている?
一夏は疑念を腹に抱えたまま、結局何事もなく日替わり定食を注文した。同じく注文を終えた箒を連れ、空いている席を探す。
「一夏さん」
声が聞こえ、声の方向へ目を向けるとセシリアが手を振っていた。テーブル席を確保して待っていてくれたらしい。お言葉に甘えて席に座り、「いただきます」と手を合わせて昼食を取り始めた。
しかし、いつまでも一夏の心は晴れず、ろくに食事を味わうこともできなかった。
おかしい。何もしてこないということはあるのか? 何の利点がある。
期待外れとばかりに肉棒が暴れる。大人しくしてろ、と一夏は押さえつけた。
セシリアと箒と会話を交え、食事が進んだ。会話の内容も平和的だった。卑猥な言葉が飛び交うわけでもなく、二人から邪な視線を向けられることもない。まるで、これまでのことがなかったかのような学園生活の一場面だった。
「どうなっているんだ……」
強まる違和感に一夏がぽつりと声を漏らしたときだった。
『織斑一夏君』
頭の中に声が響いた。
『聞こえるかな?』
それは、女神の声だった。
「聞こえます……」
箒とセシリアが話し合っている横で、一夏が食事を取る振りをしながら呟く。
『声は出さなくていいよ。思うだけで伝わるから』
『こうですか?』
『うん、いい感じ。君、今の状況がどうなっているかわかるかな?』
それを聞いて、一夏は得心がいった。女神が何かをしたのだ、と。
『周りが妙に平和で、箒も大人しくて。全部夢だったみたいな』
『うん、そうだね。でも、夢じゃないよ。あれは実際に起きたことだ』
夢じゃなかった。当たり前か。あんな現実的な夢があるわけもない。
それでは、どうなっているのか。そんな一夏の疑問に、女神は答えた。
『簡単に言うと、君の意識を除く世界全体を再構築してみたんだ』
『再構築……?』
『うん。本来はこうなるべきだった、という私の想像に従って、世界丸ごと作り直したんだ。誤った過去の改竄も、歪められた認識の正常化も含めてね。ただ、これはあくまで一時的なものだ。今回はちょっかいを出せたけど、これでも封印されている身だからね。だいたい四か月後くらいかな? それまでには元に戻ってしまう。観測している邪神にはもうバレているから、多少前倒しになるかもね』
もしかしたら、もう封印が解けたのかと思ったが、そういうわけではないらしい。少しだけ落ち込むが、十分すぎる援助だ。さすがは女神。世界の再構築という途轍もない行為を封印された身で行い、しかもその世界に住む一夏に認識すらさせないとは。頼れる存在だ。
地獄からの一時的な解放によって、一夏の気分は幾分か和らいだ。食事の手を止め、座っていた椅子にもたれかかる。肺の中の空気を全て吐き出す勢いで盛大に安堵の息を吐くと、箒たちが話を中断して不思議そうに一夏を見た。
「一夏? 大丈夫か?」
「一夏さん?」
『今のうちに十分休息を取るといいよ。それじゃあ、私は邪神との戦いに戻るから』
それを最後に、女神との応答は途絶えた。一夏の返事を待つことなく。
一言ありがとうと言いたかった。そして、疑ったことを詫びたかった。邪神に与する者であれば、これほど長期的な施しを与えることはしないはずだ。邪神ならばきっと、一夏の苦しむ顔を見続けたいと思うに違いない。
信じてもいいかもしれない。
「具合でも悪いのですか?」
「全く。腑抜けたものだ。まだ入学して二日だというのに。……本当に無事か?」
「あぁ、ごめん。なんでもない」
笑いながら一夏は思い知る。まだ二日しか経ってないのだと。もう何年もこんな状況下に置かれていたような感じがしてしまうほどに、密度の濃い時間を過ごした。
少しのゆとりを得たが、まだ戦いは終わってはいない。
一夏は緩めすぎた気を引き締めた。
月日は巡る。IS学園での生活は一夏にとって刺激の絶えないものとなった。一夏専用に用意されたISとの出会い。クラス代表者を賭けたセシリアとのIS勝負。第二の幼馴染の襲来。クラス代表者同士の対抗戦。一年一組への転入生。学年別トーナメント。臨海学校。言葉で並べ立てるのは簡単だが、約四か月の期間で起きた出来事とは思えない激動の日々だった。
そんな日常に忙殺され、一夏はいつしか思うようになった。
自分の見えないところで、女神が邪神を倒してくれたのではないか。世界の平穏が取り戻されたのではないか。都合が良すぎる考えだとは思うが、本格的な夏を迎えつつある鮮やかで透き通った青空を見ていると、そう思わずにはいられなかった。
もう無益な争いに苦しむ必要はない。戦いは終わったのかもしれない。
だが、一夏も本心ではわかっていた。女神に言われたことを忘れず、常に覚悟はしていた。
これは一時的な平穏。いずれ悪意がこの世界を覆い、戦いの火蓋が再び切られるのだと。
何かできることはないか、と一夏は思い、箒を始めとした仲間たちとの絆を高めてきた。特に箒とは六年間の空白を埋めるように接してきた。一夏の中でこれまで曖昧で自覚できなかったが、確かに存在していた箒への想いが実像を結びつつあった。二人の間にできたこの特別な感情は、醜い欲望にもきっと耐えてくれるはず。そう信じた。
このまま何事もなければ、二人は本当の恋人として、結ばれていたのかもしれない。
『余計な邪魔が入った。世界の修復完了。さあ、続きを始めよう』
そんなあったかもしれない未来を嘲笑うかのように、歪んだ欲望が目を覚ました。
物語は終盤に突入します。
中弛みを防ぐため、当初のプロットに従い、各種イベントは省略することになりました。
認識改変下でのISバトルなど、あらゆる状況下のプレイは本編とは別に書くことになりそうです。本編として書くとなると膨大な量となり、似たような描写も続いてしまうことから、天国編とは別のIFとして扱うと思います。