一夏は静寂と暗闇に満ちた夜の校舎を一人歩いていた。今は夏季休暇中で、さらに時刻は午後十時を回っていた。生徒はおろか教師もいるはずがなく、足音を響かせて階段を一段一段上っていく。
「ぁ……くっ……!」
屋上まであと少しというところで、一夏は股間に異変を覚えて動きを止めた。肉棒が熱い。先ほどからじわじわと生じていた熱が、無視できないほどにまで高まった。苦痛は一切なく、非常に心地がいい。だが、逆にそれが一夏の不安を駆り立てた。
Lv.100チンポに何かが起ころうとしている。ただでさえ人の手に余るものだというのに、これ以上の変化が起こるなど堪ったものではない。
理由はなんだ。大勢の女を食らったことか?
一夏は巡らせようとした思案を放棄することにした。ここは夢の中で現実に起こっている出来事ではない。きっと、LV.100チンポに対して一夏が抱く恐怖が、夢の中にまで影響を与えているに違いない。
これ以上の進化なんて、あるものか。
嫌な予想を振り払い、一夏は止めていた足を前に動かして屋上前まで到着した。
扉を開き、屋上に出る。屋上の出入りが制限された普通の学校とは違い、IS学園では開放されている。夏休み前の平日ではここで箒たちと昼食などを取ったものだ。女神の世界再構築によって得た一時的な平穏の日々が遠い昔のように思えてしまう。
石畳で舗装された道を歩き、花々が咲き誇る花壇や整えられた芝生の横を通り抜ける。
既に一夏の視界では、二人の人影を捉えており、その二人もまた一夏の接近に気がついていた。余所見をする暇もなく、屋上の端にて一夏を正面から待ち受ける者たちの前に歩み寄り、ある程度の距離感を確保して立ち止まった。
「箒……。それと、束さ――」
「やっほー、いっくん。臨海学校ぶりだね! そんなに経ってないけど、元気だった? うんうん、元気そうだね。聞いたよ。手当たり次第に交尾しまくって、自分の子供を仕込んでいるんでしょ? 立派に成長したね!」
一夏の呼び掛けに食い気味に応じ、束がまくし立てた。
篠ノ之束。ISの産みの親である天才科学者にして、箒の姉。不思議の国のアリスを連想される青と白のワンピースに身を包み、ロングストレートの髪が伸びる頭部には更識姉妹がつけていた機械仕掛けのウサ耳のオリジナルを装着している。どこから見ても奇妙なコスプレだが、柔和な笑顔の似合う端麗な容姿と開かれた胸の谷間から覗く母性の象徴によって、美女という枠組みからは決して逸してはいない。
この人が、餌なのだろうか。いきなり種馬のように言われて戸惑いつつも、一夏は唾を抑えられなかった。この天才にまともに触れられたであろう男はおそらくはおらず、その体を汚せることへの興奮が高まっていく。
一夏は束を見つつ、箒にも目を配る。満面の笑みを浮かべる姉よりも控えめではあるが、箒も面白いものを見るような目で一夏を見つめていた。まるで、自分の思い通りに動く道化を見て満足感に浸っているかのような。そんな、舐めるような視線だった。
そんな中、一夏は箒の姿に着目する。
箒は束とは違って、清楚な私服姿だった。白いサマーセーターと青いフレアスカート。
違うのは服装だけでなく、性格もそうだ。破天荒な姉と真面目な妹。あまり似ていない姉妹だと一夏は昔から思っていたが、ここに来て二人はやはり姉妹なのだと思い知る。先天的と後天的という違いはあれども、共に人の理解を超えた力を有してしまった二人。自分の思うことをなそうとし、目的達成までの過程を楽しもうとする二人はよく似ている。
「よく来てくれた、一夏。では、そろそろ目を覚ましてもらおうか」
箒が口を開き、右手を掲げた。
何を、と一夏が思うよりも先に、一夏の見ている前で箒は指を鳴らした。
途端に、頭にかかっていた靄のようなものが消え、思考が晴れる。それは夢から現実へと目覚める感覚に似ているような。否、比喩ではなかった。一夏の脳が理解する。眼前の光景と先ほどの更識姉妹との交わり、それらが全て夢ではなく現実であったと、シームレスに思考が移行し、一夏は思わず口元を手で覆った。
「あ、ああっ……」
漏れる声を抑えようとしたが、無理だった。一夏は体を支える力を失い、石畳の上に膝を突く。嫌な汗が全身から吹き出し、瞳は動揺に揺れていた。
やられた。今度は夢を見せるという形で良いように操られ、更識姉妹を食った。いや、認識や肉体の操作はされたが、完全には操られていたわけではない。後半は一夏の意志で姉妹を犯していた。夢ならば大丈夫と思いこんで。
夢じゃなかった。
「どうだった? 一夏。自分の意志で女を犯して、気持ちよかっただろう。それが本当のセックスだ」
箒が言う。楽しそうに。暗い空と遠くに見える月を背に、嗤う。
「だが、まだ満たされてはいないはずだ。そこで、こちらで催しものを用意した。姉さん」
「はいはーい!」
待っていましたと言わんばかりに、束が正面に右手を伸ばした。
何もなかったはずの束の前に、複数の透明なディスプレイとコンソールが浮かんでいた。以前、臨海学校のときにISの調整をする際に使用したものと同じだが、今回は高速タイプを披露することはなかった。
もう準備はできている。
束は振り下ろした人差し指でコンソールの実行キーを叩き、何かを実行した。
直後、静けさを突き破るように、機械の駆動音が辺り一帯から響いてきた。
音の発信源は、空より舞い降りてきた機体。その数は四機。夜に紛れるような漆黒に濡れた外装と、装甲の細部を彩る紫色の輝き。機械の両翼を大きく広げたそれは竜のようにも、蝙蝠のようにも見える。
その装甲の中心に、四人の少女がいた。装甲以外、全裸だ。
装甲を纏う、というよりは、装甲に拘束されていた。両手足を装甲に空いた穴に埋め込まれ、触手のように伸びた黒いコードが首や腰、太腿に巻き付いている。頭にはバイザーの付いたヘルメット状の機械が嵌められている。両胸は機械の黒く細長い手によって鷲掴みにされ、揉みくちゃにされている。膣内では一夏のLv.100チンポに匹敵するほどの分厚い機械チンポが上下に高速稼働して暴れているようだった。
ヘルメット状の機械で何を見せられて、何を聞かされているのか。開いた口から舌をだらんと伸ばし、喘ぎ声と涎を垂らして裸身を晒す少女たちの目元は隠れているが、一夏にとって特に身近な者たちだとすぐにわかった。
「ひぃぃいいっ!?」
「ぁっ、ゃっ、んんっ!?」
「ああぁあああっ!?」
「くっ……! ぃっ……!? ぉ、ぉおおっ……!」
セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ。囚われた少女たちは、自分の意志で機械に身を委ねているようには見えない。機械の生体ユニットのように扱われて、凄まじいほどの快楽攻めに遭っている。
「な、何してるんだよ!? 箒!」
ただ事ではないと理解し、一夏は慌てて立ち上がって箒に詰め寄ろうとした。
しかし、それを遮る者がいた。
「はい、それじゃあ、楽しいパーティーを始めよう、いっくん」
「束さん……!」
妹を庇うように立ちはだかった束。それを見て、束も操られているのだと一夏は思った。
思ったのだが、何かが違うと即座に判断する。操られた者とそうでない者を外見で見分けられるほど一夏は洞察力に優れておらず、これはあくまで勘だった。しかし、一度思うと、束は操られていないのだという確信が強まっていく。
「束さんは、操られて、いないんですか……?」
「あ、わかっちゃった? そう! なんと、私は操られていないのだ! しっかりバッチリ自分の意志で行動してまーす! 妙なところで鋭いね、いっくんは。女の子の気持ちとかは全然汲み取れないみたいだけど」
操られていない。だったら、どうしてこんなことを。
一夏はその思考を口に出していない。しかし、束は一夏の疑問に答えるように続けた。
「箒ちゃんが、いつか世界を征服したら半分くれるって言うから」
「は……?」
「だから協力しているんだよね。いやー、これまで滞っていた宇宙開発も、ようやく漕ぎ出せそうで何よりだよ。天才な束さんとはいえ、広大な宇宙を一人で開拓するにはさすがに時間が掛かりすぎるからね。大量生産できるけど柔軟性に欠ける機械人形でも、余計な提案をしてくる高度なAIでもなくて、それなりに柔軟な思考と絶対的な忠誠心を持つ手駒が山ほど増えるってなったら、さすがに協力しないわけにはいかないよね? ってことで箒ちゃんに協力しているんだけど、軽くだったらいっくんたちで遊んでもいいって言うから、こうして私主催のパーティーにいっくんを招いてみたわけなのだよ!」
理解できない。したくもない。こんなに身勝手なことを、素面で実行する人がいるなんて。
束の言葉は耳に入っても、頭に浸透しない。一夏の思考が延々と終わらなかった。
「そういうわけで、楽しんでね。女の子を囚えて犯して暴走するIS『ジャバウォック』。囚われているのは、いっくんを異性として好いているのに、当の本人にぜーんぜん気づいてもらえない哀れな少女たち。放っておくと、ジャバウォックに飲まず食わずで死ぬまで犯されるから、早く倒して解放してあげてね?」
束の両手が一夏の肩を突き飛ばし、一夏はよろめくように後退した。束に向けていた恐怖の感情を今は拭い、上空の少女たちに目を向けた。身動きの自由を奪われ、死ぬまで快楽漬けに遭う最悪な宴の催し物に仕立て上げられた被害者たち。過剰な刺激によって脳と肉体を犯され、悲鳴にも等しい声を上げている。
皆を早く助けないと。
自分に好意を寄せているらしい少女たちだから、ではない。目の前で理不尽な目に遭っている仲間を助けられなくて、何が男だ。一夏は自身を鼓舞し、奮い立った想いに突き動かされるようにして白い腕輪を嵌めた右手を掲げた。
「白式!」
自身が保有する専用ISの名を呼び、一夏は武装を展開した。
想定外の事態が一夏の身を襲ったのは、直後のことだった。