箒と共に教室へと向かった一夏。大体の生徒は席に着いているが、数人は席を立って他の生徒と雑談中だ。箒以外に雑談をする相手のいない一夏は大人しく席に座ることにした。席は教卓のすぐ目の前の席だ。箒の席は一夏の二つ左隣の窓際に位置している。
「それではな、一夏」
一夏へと軽く告げ、箒は自席に座る。一夏は先の出来事のせいで箒に対して自然に対応することができず、その後姿を目で見送ることしかできなかった。
しかし、席に座って一夏を見た箒と目が合ってしまい、一夏は目を逸らした。
こんなことでこれからやっていけるのだろうか。もはや難易度はベリーハードだ。しかもクリア条件はまるでわからない。Lv.100チンポを完全に制御することか? しかし、神と名乗る少女は股間の代物に完全には抗えないと言っていた。それが真実だとすると、これからの学校生活で暴走しそうになったら全て箒や千冬に性欲処理してもらう必要があるのだが、それは現実的なのだろうか。
たとえば、授業中に暴走しそうになったら、その度にトイレに駆け込むのか? 箒と一緒に? 無理だ。
「どうしてこんなことに……」
全て、自分の体を奪って良からぬことを企てた愚かな男のせいだ。温厚な一夏はらしくもなく他人を心の中で強く糾弾し、机に出した参考書を読むふりをして片手で抱えた頭を悩ませた。
横目に映る窓の外に広がる空は、一夏の心境とは逆に晴れ上がっていた。
「諸君、おはよう。授業を始める。早く席に着け」
と、教室の前の扉が開き、二人の女が姿を現す。よく通る声を教室に響かせ、その一言で生徒全員を着席させた一年一組の担任、千冬。首の後ろでまとめた黒髪を揺らし、教壇の前に立つ。黒いレディーススーツに身を包んだ姿が魅力的で、千冬専用に仕立てたかのようだ。箒以上に意志の強い顔は美麗で、生徒から人気が出るのも頷けた。
「皆さん、おはようございます」
後に続いて入って来たのは、副担任の
「やっぱり大きい……」
「何故、我が身は貧乳であるのか……」
同級生の呟くような声が聞こえた後、授業が始まった。
だが、ここでも問題が生じている。最初の授業は高等学校の一般的な科目ではなく、ISに関する座学授業だった。元々一夏はIS学園に入る予定はなく、ISに関する知識は乏しい。本当は別の高校への入学試験を受けるはずだった。それが、誤ってIS学園の試験会場に入って近くにあったISに触れ、あまつさえ起動に成功させてしまったことをきっかけにIS学園へ強制入学させられたのだ。IS学園への入学を目指すために何年も前から勉学に励んでいた生徒達とは違い、下地が足らない。入学初日の授業でも一夏は思ってはいたが、やはり基礎的な知識が抜けているために、専門用語を並べられても理解が追いつかないのだった。
勉強も頑張らないと。
やることは山積みだった。必死に追いすがろうと、授業を進める真耶の声と教科書の内容を頭に入れていく。この時の一夏は一時的にでも自身の体のことを忘れ、授業に取り組むことができた。
本日最初の授業が終わり、休み時間に入ってなお一夏は教科書に目を通していた。
「国家代表IS操縦者。ISの実戦データの収集を主な目的として、代表として国から専用機を与えられた者。……これは昨日学んだばかりだ。候補生、っていうのもいるんだよな。それがうちのクラスで言うと」
「ちょっと、よろしいかしら?」
「……え」
一夏は掛けられた声に反応して、横を見た。
視界に入ったのは、長い金色の髪の毛先を軽くロールさせた少女。色白の肌と澄んだ青色の瞳。大人びた色香と高貴な雰囲気を漂わせる彼女の名前は、セシリア・オルコット。たった今復習したばかりの、国家代表IS操縦者の候補生に該当する人物だ。ただし、日本のではなくイギリスの代表候補生。
セシリアを見て、一夏は少し困惑した。
というのも、一夏は昨日セシリアに喧嘩を売られたのだ。一年一組のクラス代表を決めることになった際に、他の生徒から推薦された一夏のクラス代表就任を唯一セシリアだけが拒んだ。自分こそがクラスの長に相応しいと主張し、一夏へと敵対してきたのだ。
一夏とあまり関係がよろしいとは言えないセシリアが改めて何の用なのか。それは他の生徒達も思っているようで、セシリアと一夏に視線が集まっていた。妙な静けさが教室内を包み込む。
また喧嘩を売られないといいな、と一夏が多少面倒臭そうに思っていると、セシリアが一夏へと無遠慮に顔を近づけた。そして、何かを嗅ぐような仕草を見せ、不思議そうに小首を傾げている。その様子は、高慢な態度さえ改めれば魅力的な美少女だった。
一夏の肉棒がピクリと反応を示すほどに。
「あなた、いい匂いがしますわね? もしかして、香水をつけているのかしら?」
「へ、香水……?」
香水をつけたことなんて一度もない。そう答えようとして、一夏は口を噤んだ。
フェロモンだ。千冬も箒も、一夏から漂う匂いを察知していた。しかし、今は一応フェロモンを抑えることに成功している。余程近くに寄られなければ気づくはずがないと思っていただけに、一夏は極度の不安を覚えた。
目を閉じて、すんすん、鼻を鳴らすセシリア。
「なんと表現すればよいのでしょうか。とても、いい匂いですわ……」
目を開いたセシリアは、青い瞳を少し潤ませていた。ただ事ではない様子。たとえるならば、危ない薬を使ったばかりでテンションの高い中毒者、一歩手前の状態だった。一夏の机に手を突いて、顔を近づけてくる。
これはまずい。一夏はどうしようかと悩んでいると、セシリアが食い下がってきた。
「いったいどちらのブランドの香水ですの? 教えていただけませんこと?」
「いや、違っ、香水じゃなくて、その」
異様に迫って来るセシリアとの距離をどうにか離そうと、一夏は椅子ごと距離を取ろうとする。
「香水でないのならなんですの? シャンプー? ボディソープ?」
「えっと、ち、近いって」
もはや吐息が頬に当たる距離まで近づいたとき、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。同時に扉が開き、廊下から教室へと千冬が足を踏み入れる。セシリアを除く生徒全員が千冬のエントリーに気がつき、未着席の者は慌てて席に着いた。
セシリアだけが座らない中、歩み寄って来る千冬を見て一夏は表情を青ざめさせた。
「先ほどから何を見て――」
一向に答えずに一夏へと食って掛かるセシリアは、一夏の視線の先を辿った。
「おい」
そこには黒髪の修羅がいた。
「教室で盛るな、餓鬼ども」
手に持った黒い出席簿が掲げられたかと思えば、残像を残して振り下ろされた。千冬を見ていた一夏ですら目で追うことのできなかった速度。その速度から放たれた一撃はどれほどの威力を発揮するのだろうか。
直後、パンッと高い音が教室内に響く。それを食らったセシリアは頭を両手で押さえ、言葉にならない悶絶の声を漏らして床にしゃがみ込む。
「……あと少しで一夏に忠実な母胎が増えたのだが。この力の扱い方は難しいな……」
一年一組の絶対君主である千冬に対して誰もが恐怖を抱く中、誰にも聞こえない小さな呟きが窓際からこぼれた。
次の授業が始まり、再び知識の習熟に励む一夏。今は一般的な授業。IS学園は入学希望者数が多いため倍率が高く、在籍する生徒はエリートの中のエリートだ。必然的に普通の授業もレベルが高く、ISの座学でなくとも一夏はついていけない時があった。
だが、そんな余裕がないときでも、一夏の脳内にはふと別の考えが過ぎった。
そう言えば、どうしてオルコットさんは近づいてきたんだろうか。
一夏は授業に耳を傾け、ノートに内容を書き込みながら疑問を抱く。昨日、面と向かって喧嘩を売ったセシリア。しかもただの喧嘩ではなく、決闘を申し込まれてもいる。今朝の騒動で頭から吹き飛んでいたが、一夏は思い出した。
来週の月曜日、一夏はセシリアとISで勝負をすることになっている。それに勝利した者がクラス代表の座を勝ち取ることができるのだが、正直今となっては一夏はどうでもいいと思っていた。ゲームでたとえるならば、ただのサブイベントに近い感覚だった。
喧嘩を売られたのは癪だけど、それよりももっと大変なことがあるんだよ……!
主に自分の股間との戦い。それに比べれば、ISの勝負などどうでもよかった。クラス代表は言ってしまえばクラスの雑用を熟す役職であるし、時間的な拘束を受ける。勝ってクラス代表になっても利点は少ないだろう。本気で取り組んで勝ちを狙うほどでもない。
一夏は決闘のことは一時的に忘れ、自分の股間への対策を悶々と考え続けた。
「大変なのはわかってはいるが、今は授業に集中しろ」
「はい……」
別の考え事をしていることを千冬に悟られ、出席簿で凄まじく優しく頭を叩かれた。
時折千冬に窘められながらも授業を受ける一夏。あっという間に午前の授業が終わり、昼食の時間。一夏は校内にある学食へと向かおうと箒を見た。
箒は既に席を立ち、一夏の方へと近づいてきていた。
「箒。その、学食に行かないか……?」
箒とはいろいろあったが、それで行動を共にしないということにはならない。責任を取ると箒に言った身であるため、たとえ箒とどれだけ気まずい関係になろうとも、箒を突き放すことはしない。
これからも、きっとそうだろう。
「あぁ、行こうか。一夏」
快く了承した箒を連れて、一夏は教室を出た。
学生食堂は込み合っていた。そこへ、学園内で唯一の男子生徒である一夏の登場。ミーハーな女子達が色めき立ち、一夏の話題一色に染まる。
「あの子でしょ。織斑君」
「テレビで見るよりイケメン!」
「千冬様の弟君なのよね」
「いいなぁ」
聞こえない程度の声もあれば、はっきりと耳に入る声もある。一夏は苦笑しながらも食券を買い、箒と配膳の列に並ぶ。
「やっぱり落ち着かない……」
「こればかりは慣れるしかないと思うぞ?」
「そう、なんだよなぁ……」
昨日と今日で随分とため息が増えたと感じる一夏だった。悩みの一つでも解消されれば心に余裕ができるのだが、望んだところで状況は変わらない。
未来は自分で切り開くしかないのだ。
「よしっ……」
気合いを入れ、一夏はこれからに臨むことにした。
しかし、心機一転した心持ちはまたしても箒に崩されることになった。
「一夏、口を開けろ。……一夏?」
「……いやいや」
一夏は首を横に振った。
一夏と同じテーブルに座った箒が、おかずを掴んだ箸先を一夏の口許に向けてくる。おかしい。箒は一夏と同じ和食のメニューを頼んだのだ。食べさせ合う理由もない。それに、箒の座っている場所もおかしかった。
「箒、向こうに座ってくれないか……?」
一夏は箸の元へと視線を辿らせる。
すぐ横に、箸を持った箒がいた。楽しそうだ。可愛い笑顔に一夏の股間が熱くなる。
「あと、ズボンから手を離してくれ……」
そしてその股間はと言うと、テーブルに隠れる形で伸びた箒の手に握られている。学食内には他に生徒がいるというのに、その大胆な行動に一夏は気が気でなかった。
「何あれ、完全に彼女じゃない!」
「ブラックコーヒーが甘く感じる……!」
「本国の情報と違う……」
周りの生徒達も動揺しているようだ。今まで女子生徒しかいなかった学園内に現れた初めての男子生徒が、黒髪の和風美少女とイチャイチャしていれば仕方のないことだろう。
もっとも、一夏自身も望んでやっていることではないのだが、端からはそうは見えていないのだろう。
「あーん」
「箒……」
「食べなければ、股間から手を離してやらないぞ?」
「わかったよ、食べるから……」
抵抗を示しても意味はない、と一夏は箒の箸を口に咥えた。温かい熱を内包した魚の白身を受け取り、白身の塊が解れるとともに軽い塩気のある深い味が口内に広がる。白米が欲しくなる味だった。
よく噛んで味わっていると、箒の箸がまたやって来た。今度は白米を掴んでいた。まだまだ続くらしい。ズボンの股間は箒に優しく握られたままだった。
長い長い食事。時間的にはそうでもなかったが、体感的には一夏は長く感じた。箒によって頻繁に箸を向けられて、促されるままに食事を受け取った。
「ご馳走さまでした」
「ご、ご馳走さま……」
長く苦しい戦いだった。股間は無事に箒の手から解放された。途中でズボンのチャックを下ろされそうになったがどうにかそれだけは死守し、事なきを得た。
食事を終え、一夏はお盆を食器受け取り口へと片付ける。その際の動きにも疲労が感じられた。一方で箒は上機嫌だった。学食にいた生徒達の多くはどこか真顔で、「恋人が欲しい……」と呟いていた。
休憩時間にも関わらず、休めた気がしない。そうは思っても次は授業。真面目に取り組まなくてはならず、一夏は午後の授業に必死に食らいついた。
放課後。全ての授業を受け終えた一夏は、青い顔をして机に突っ伏していた。考えすぎて頭を痛めている。その姿を見た同級生達からは温かい視線を向けられている。当然のことながら、一夏とは違って皆余裕があるようだ。
「頭がパンクしそうだ……」
専門用語のオンパレードにお手上げ状態だった。だが、学びを放棄するという選択はないため、わからなくなれば辞書を使ってすぐに調べる。そういった行動を逐一挟んでいるから、授業の流れについていけなくなってしまう。
寮に帰ってからも勉強をしないと、まずいかも。
せめてよく使われる専門用語の意味ぐらいは把握しておきたい。そうと決まれば、一夏は早く寮に帰ろうと教科書を通学鞄の中にしまい始めた。
「先ほどから、随分とお困りのようですわね」
するとそこへ、誰かが一夏へ声を掛けた。
「へ?」
声から何となく察しはついていたが、実際にその姿を見ると一夏は素っ頓狂な声を上げてしまう。何故なら、そこにいたのはセシリアだったからだ。決闘を申し込んだ自覚があるのかやけに接触回数が多い。
それに、これはどういうことだろうか。傷一つない白い頬が紅潮し、一夏を見る目に熱が帯びているようだった。形のいい桃色の唇は柔らかい微笑みを形作っていて、敵対の色は見受けられない。
恋する乙女。その印象を受けた瞬間、一夏は鞄を手にして席から慌てて離れた。
「まさか……!」
一夏の中で警戒レベルが一気に上昇する。念のため教室内を見回し、他に異常が起きていないことを確認する。セシリアを除けば他の生徒達に異変はない。席を立って一夏へと向かってくる箒も普通だ。
「どうした? 一夏」
顔を近づけ、他の誰かに聞こえない程度の声で話しかけてくる箒。
「箒。このオルコットさんの様子がおかしいんだ……」
「そうか? 確かに顔が赤いが、元々こうではなかったか?」
箒の声が一夏の耳に入る。何故だろうか。箒の声が異常に脳へと浸透する。声に意識の全てが引き寄せられ、他に何かを考えている余裕もなくなった。まるで母の胸に抱かれた子供のように不安などの感情がたちまち解消していく。
「……え? あれ……?」
言われてみれば、一夏はそんな気がした。
「そうだ。オルコットは元々こんな感じだ。なぁ、オルコット。そうだよな?」
箒がセシリアへと話しかけると、セシリアは一夏達へと近づいて頷いた。
「そうですわ。今さら何をおっしゃいますの?」
「今さらって、別にそんな、関係が深いわけじゃ……」
箒とセシリア。二人を前にしていた一夏は、徐々に沸き上がった眠気に体を揺らした。机に手を突いてよろめきそうになった体を支えるも力が入らない。水中にいるかのように、箒に掛けられた声が遠くに聞こえる。
何が、起きているんだ……?
いよいよ眠気に耐え切れなくなった一夏が最後に見たのは、箒の微笑みだった。
意識が闇の中に引きずり込まれる。足掻いても意味はない。深い底へと落ちていく。それに連れて周囲の暗闇が少しだけ明るくなり、妖しい紫色が澱む空間へと至った。ゆっくりと床に背を触れて、落下が止まる。
ここは、もしかして。
「いらっしゃい」
聞き覚えのある声。体を起こして視線を正面に向けると、白いワンピースを着た黒髪の清楚な少女が立っていた。
「神、様……?」
神を自称する少女。一夏を悩ませるLv.100チンポの生み出した者。
またここにやって来たのだとわかり、一夏は体を起こして周囲を見渡す。
「また、夢の中なのか……?」
「正確には、ここは心の中。私は君の心に遊びに来ているだけ」
「俺の心……?」
紫色だけが支配する空間。壁や天井のないどこまでも同じ風景が続く場所が俺の世界? 一夏は困惑し、自分の心が理解できなくなった。いったいどういった精神状態であればこのような風景になるのか。
「君に伝えることがあってきた」
「……なんですか?」
疑問点は多いが、とりあえず一夏は少女へと面と向かって話すことにした。
「君には転生特典を三つ与えたと言った。一つは、単独で転生特典三つに相当するLv.100チンポ。残りの二つも君の中に宿っていたわけだけど、実はもう君の中にはその二つはない」
「え……」
「二つの転生特典が、君の体を媒介にして別の者に譲渡されてしまった。その原因を作ったのが、Lv.100チンポのもう一つの特性である『譲渡』。他者へと欲望や力を譲渡する力によって、転生特典は君の体から抜け出た」
少女の言葉に、一夏は声が出なかった。
一夏が翻弄されている転生特典が、別の者に渡った。それを伝えられて、一夏は恐怖を覚えた。Lv.100チンポに並ぶかもしれない恐ろしい特典が、一夏のせいで第三者に与えられたのだ。おそらく学校内の生徒もしくは教師だろう。
自分以外にも苦しんでいる人がいる。
そう思うと、一夏は居ても立っても居られなくなった。
「あのっ、転生特典を消してもらうことは」
「できない」
「どうしてっ!?」
「それをすれば君の心は死ぬ。転生特典を新たに得た者も同様に。もう魂に定着しているから、無理に引き剥がせば心が壊れて廃人になる。それでも良ければ剥がそう。どうする? 死ぬ?」
少女に言われて、一夏は言葉に詰まった。そう言われて、はいと答えられるわけがない。わかっていて問いを投げかけてくる少女の性格は最悪だった。そもそもこの気の狂った転生特典を作った元凶にまともな考えが通じるとは思えなかった。
一夏は歯噛みした。結局のところ、この少女は自分が足掻く様を見て楽しむのが目的なのだ。仮に一夏を自由にできる術があったとして、それを素直に教えてくれるわけがない。
「……その二つの転生特典について教えてもらってもいいですか? それと、誰に渡ったのかも」
一夏が今できるのは情報を集めること。そして、それについて対策を講じることだ。
だが、それをさせてくれるかどうかも、結局は少女次第だった。
「それも含めて、君がどう場当たり的に対処するのか、楽しみにしている」
「そん、な……」
絶望する一夏。それを見て小さく笑む少女。その姿が少しずつ透けていった。一夏が手を伸ばしかけたときにはその姿は完全に透過し、笑い声の反響だけを残して紫色の空間に一夏だけが取り残された。
あの少女は本当に神なのか。邪悪すぎる存在に対して、一夏の中で疑問が募った。