「本当!?おじさん、どこで見たんですか!?」
喧騒に包まれた繁華街の一角で、一人の少女が怪しげなスーツを着込んだ壮年男性に問いかける。
パイロンは共に修行を積んできた幼馴染のリュウガの凶行を食い止めようと様々な場所へ出向き、リュウガの居場所を探すべく、奔走していた。
「教えてあげても良いんだけどなぁ~、ちょっと困ってる事があってね」
男は難しそうな表情をしながらパイロンの方をちらりと見遣る。
「お姉ちゃん、情報を教える見返り…といっちゃなんだが、ちと人助けをしてくれねぇか?」
「人助け?」
「アンタ、『翔龍寺』の王白龍だろ?この辺りじゃちょっとした有名人だぜ」
「えっ」
驚くパイロンに男が耳打ちするように顔を寄せる。
「そんなアンタにしかお願いできない事があるんだ、実はな…」
「レディーーーーース!アァンド、ジェントルメーーーーーーーーン!!!」
真っ暗なコロシアムの中央で、ぽつんとスポットライトを浴びたリングアナウンサーが叫ぶ。
そのコールが鳴り響いた途端、観衆の怒号が堰を切ったように溢れ出し、真っ暗だったコロシアムは極彩色のライトで彩られ、今日のメインイベントの始まりを告げる。
(凄い歓声ね…)
観客数は1万人以上にも及ぶという。
割れんばかりに鳴り響く歓声は地響きのようにコロシアム全体を震わせ、控室のパイロンの体をも震わす。
―――「今日の興行のメインイベントに出る奴が急に欠場しちまってさ!だから、頼むよ姉ちゃん!」
「そ、そんな事急に言われても…」
リュウガの居場所を知っているという男に言い寄られるパイロン。
どうやら、この街でやっている地下格闘技の興行で欠場者が出たらしく、その代役としてパイロンに出てくれないか、という話であった。
しかし、パイロンからしたら、あまりにも突然すぎるオファーである。
「た、頼むよぉー、試合に出てくれたら情報教えてあげるからさぁ~」
顔を皺くちゃにしながら媚びへつらうように頭を下げ、年下の少女に懇願する男。
その様子を見て、パイロンは断り辛くなってしまう。
「うーん、じゃあ、少しなら…良いですよ!」
「本当!?やった!」
男は強引にパイロンの手を手繰り寄せ、無理やり握手を交わす。
「別にサインとか契約とかいらないからね。ほんじゃあ、今日の20時までにここの控室に来てくれよ」
その手に控室の場所が書かれた地図を握らせると男は足早に立ち去ってしまった。
(試合かぁ、あまりこういう他流試合には出るなって言われてるけど…でも、リュウガの居場所が分かるなら…!)
その手に渡された地図をぐっと握り締めて、幼き日々を共に過ごした同門へ思いを馳せた。
「それではぁ、本日のチャレンジャー!青コーナー!翔龍寺から天才拳士がやってきたぁ!!王白龍!!!」
コロシアムの方でウオオッという歓声が湧き上がると同時に、控室にいた係員がパイロンに入場を促す。
(入場ね…!)
パイロンはパイプ椅子から立ち上がると、頬を両手でバシバシと叩き、気合いを入れる。
(今日は翔龍寺の名に恥じない試合をするまで…)
白いチャイナドレス風衣装に身を包んだ一人の少女がコロシアムの闇に身を投じる。
その様は陽光の下で羽ばたく蝶が漆黒の宵闇に飛び立つ瞬間のようであった。
青コーナー側の花道のライトが点灯されると、けたたましい音を立てて水蒸気が噴き上がる。
鳴りしきる歓声の中、一人の少女が花道に姿を現した。
コロシアムに設置されている大型の液晶に一人の美少女の姿が映し出されると、歓声は急に野卑な野次へと変わった。
「パイロンちゃん俺と結婚しよおおおお」
「おぱんちゅ見えてるぞぉ~!」
「試合が終わったら俺とホテル行こうな!」
男達の生々しい劣情がその純真な体に浴びせられる。
あまりの下品さに思わずたじろぐパイロン。
今まで親善試合や他流試合で幾度も試合をこなしてきたパイロンであったが、野次を飛ばされた事は一度もなかった。
(なんて下品な人達なの!?)
下品な野次を浴びると同時に1万人以上にも及ぶ観衆から熱い視線を注がれている事を鮮明に認識させられる。
花道と観客席との間は鉄の柵で隔てられていたが、距離が近いため、観客一人一人の顔はすぐに見えた。
自身をその野卑な視線や野次から守るように両腕を交叉させ、胸をかばうようにしながら、リングへ向かう。
急に自分の服装が恥ずかしくなってくる。
下着がすぐに見えそうになるほど短いスカートは艶やかな太ももを覗かせ、上半身にぴっちりとフィットしたチャイナドレス風衣装はその肢体の若々しさや健康美を強調する。
それに加え、まばゆいほどの可憐な顔は男達の本能をくすぐり、蒼く澄んだ相眸は男達の劣情で包まれたこのコロシアムには不相応な希望や活力を感じさせた。
リングロープの間をくぐり抜ける際に最も野次が大きくなる。
パイロンは下着が見えないようにスカートの裾を掴みながら、慎重にリングへ入った。
「続きましてぇ、赤コーナー!チャンピオンッッ!!反逆の変態教師!猿股――――――――助兵衛――――――ッ!!!!」
その名が叫ばれるとパイロンの美貌に湧いていた野次は一気にブーイングへ変わる。
赤コーナー側の花道から現れたのはいかにも風采の上がらない、小太りな中年男性であった。
焼きたてのパンのように膨れ上がった丸顔には微笑をたたえ、意気揚々とした風にステップしながら入場する。
緩みきったその肥満体に褌を締めた姿は紐で縛られたボンレスハムのように見えた。
だらしなく垂れ下がった腹を揺らしながら、パイロンの待つリングへと上がる。
「これより、メインイベントを開始します!!!まずは青コーナー!翔龍寺の拳聖!王!白龍!!!」
リングアナがパイロンの名を叫ぶと、再び観客からは熱い野次が飛ぶ。
パイロンの右手は恥ずかしさから自ずとスカートの裾を掴んでいた。
「続きましてぇ、赤コーナー!チャンピオンッッ!!猿股ぁ、助兵衛!!!」
助兵衛の名が呼ばれるとまたも激しいブーイングにコロシアムが包まれる。
そんなブーイングを気にも留めない様子で助兵衛は両手を掲げた。
どうやら彼がブーイングを浴びるのは恒例のようであった。
「両者中央へ」
痩身長躯のどことなく骨ばった男性レフェリーが両者を招くような仕草を見せ、二人をリングの中央に呼ぶと、機械的にルールの説明を始める。
対峙してみると助兵衛はパイロンよりも背が低い事が分かる。
さらに、パイロンの余分な脂肪の無いしなやかな肢体と助兵衛の短躯肥満とが並び、美と醜のコントラストが浮き彫りになる。
(相手は男だって聞いたからどんな大男が出てくるのかと思いきや…)
熊のような豪傑が出てくると思っていたパイロンは少し拍子抜けしていた。
目の前にいる男は格闘技とは全く無縁の、ただの中年男にしか見えないからだ。
一方の助兵衛はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらパイロンの肢体を眺める。
天井に備え付けられた照明に禿げ上がった頭頂部が照らされると、頭の上から光線が発射されているかのように反射していた。
しばらく惚けるような視線でパイロンを眺めていたかと思うと、レフェリーがルール説明をしているのにも関わらず、ずいと一歩前に出て、口を開く。
「くひひっ、今日の対戦相手は随分お若いお嬢さんだねぇ~」
「…」
助兵衛の舐めるような粘っこい視線を向けられ、パイロンの背筋にぞくりと悪寒が走る。
「その歳で拳聖なんて呼ばれてるんだって?」
「…」
パイロンは口をつぐんで助兵衛と目を合わせないようにする。
内心は目の前にいる男の得体の知れなさに、不安で一杯だった。
「ほひひ!緊張して硬くなっちゃってるのかな?どれ、おじさんが軽くほぐしてあげよう」
いきなり両手がパイロンの両乳に迫った。
「!?」
バシィッ!
危険を察知したパイロンの手が反射的に助兵衛の手を弾く。
「な、何するんですか!?」
自分の胸をかばうように腕で覆うパイロン。
観衆からは「うおーい」と小さな歓声が起こる。
助兵衛は叩かれた手を宙で振りながら、依然としてニヤつく。
「残念だなぁ~ おじさんの気持ちを無駄にするなんて…」
「ちょっと…レフェリー!?」
パイロンはレフェリーの方を見遣ると、何事もなかったかのようにルールを詠唱している。
観衆の様子も見るに、こういった女性選手へのセクハラ行為は日常茶飯事のようだった。
「両者コーナーへ」
ルール説明が終わり、レフェリーからの指示が出ると、二人はコーナーへと下がっていく。
(本気でやるしかないのね…)
心の中で少し申し訳ない気分になってしまうパイロン。
相手がしがない中年男とはいえ、本気で戦わないのは翔龍寺の流儀に反している。
常に相手に本気で臨む事が相手に対しての最大の礼儀だとパイロンは幼少の頃から仕込まれていた。
それに、相手は先程自分の胸を触ろうとしてきた男だ。
セクハラ男を叩きのめすのであれば、全力を出す事にあまり抵抗はない。
(その歪みきった精神、叩き直してあげます!!)
カンッ!ファイッ!
試合開始のゴングが打ち鳴らされると同時に助兵衛の身体が宙に舞う。
どさっ、と重たげな音がリングに地響きを打つと、その肥満体は無様に倒れていた。
「…え?」
「な、何があったんだ!?」
何が起きたのか分からない観衆はどよめく。
いつの間にか、パイロンが相手のコーナーである、赤コーナーで軽やかなステップを踏んでいた。
それは一瞬の出来事であった。
ゴングが鳴ったと同時にパイロンは助兵衛の間合いに踏み込み、上段蹴りを顔面に喰らわせたのである。
あまりにもそれが迅すぎたせいで常人の肉眼では捉えられなかったのだ。
(少しやりすぎたかしら…)
死んだようにリングに寝そべる助兵衛を見下ろして、少し心配してしまう。
しかし、その心配は無用だという事はすぐに分かった。
「うく…なかなか、やるじゃないか…」
ピクリとも動かなかった助兵衛の体がわなわなと震え出し、苦しそうな声で呻く。
(完全にクリーンヒットした感触はあったけど…)
常人ならまともに喰らって立ち上がれる者はいない。
それほど強い蹴りを受けて意識を取り留めている事にパイロンは少し驚く。
ゆっくりと助兵衛は立ち上がる。
「さぁ、仕切り直しだ」
大きく腕を広げて、ダメージが回復した事をアピールするも、その目は焦点を失っていた。
(今度は下段で…!)
「はぁっ!」
パイロンの脚が鞭のようにしなり、助兵衛の脚を襲う。
「ゥおぉオッ!」
バシィィンッ!と何かが弾けるような音が響く。
助兵衛は獣のような悲鳴を上げたかと思うと、たちまちリングに跪いた。
蹴られた部分が赤く腫れ上がり、脚をかばうように四つん這いになる。
「…追撃…しないのかい…?」
この試合ではグラウンドでの攻防、つまり寝技や組技、寝技における打撃などが認められている。
四つん這いになった助兵衛はパイロンにとって格好の的であった。
ガードの空いている脇腹に数発蹴り込めば試合は終わるはずである。
しかし、パイロンにそれはできなかった。
倒れている相手に攻撃を加える事は翔龍寺の流儀に反しているからである。
それに、パイロンは寝技の攻防などやった事がなく、四つん這いになった相手をどう攻めれば良いのかを心得ていなかった。
(もうこれ以上やるのは…)
自分のやっている事が弱い者いじめのように思えて、助兵衛がギブアップしてくれるのを祈るパイロン。
しかし、その考えが油断になるとは思いもしなかった。
「ほれぇぇっ!」
「えっ!?」
四つん這いで蹲っていたはずの助兵衛がパイロンの下半身にタックルを仕掛ける。
「きゃっ!」
呆気なく両脚を束ねられ、リングに背を付けられる。
翔龍寺は打撃が専門で組技や寝技については専門外であった。
容易く助兵衛にのしかかられ、マウントポジションを許してしまう。
「ウオオオオオオーーーーーーッ」
先程まで水を打ったかのように静まっていたコロシアムの観衆が急に湧き立つ。
どうやらこのコロシアムは男が女を嬲るのを見世物にする、悪趣味な興行のようであった。
「くひひっ、あっさりマウント取られちゃったね~ それじゃっさっき揉めなかったオッパイを頂いちゃおうかな?」
腹の上に乗った助兵衛の手が容赦なくパイロンの豊かな乳房に迫る。
「何をっ!?やめてっ!」
必死に両腕で自らの乳房を守るパイロン。
しかし、その抵抗もむなしく、腕をどかされ、乳房を揉まれる。
「おほっ!この感触…想像以上ですなぁ」
たわわに実った乳房が欲望のままに揉みくちゃにされる。
その柔かな乳房に節くれ立った指が呑み込まれる様がコロシアムのモニターに映されると、観衆の雄叫びが轟いた。
「いやっ!やめてっ」
屈辱と羞恥に頬を紅潮させながらパイロンは助兵衛の両手首を掴み、必死に引き剥がそうとする。
しかし、組み敷かれた姿勢では本来の力が発揮できず、なされるがままにされる。
(お、重たくて…動けない…)
巨体に圧し掛かられ、華奢な肢体が軋む。
男に圧し掛かられるだけで、これほどまでに自分の動きが制約されるとは思わなかった。
「ほひひ!まだお若いのに立派なオッパイですなぁ…おじさん嬉しいですぞぉ~」
荒くなった鼻息が美しい乳房に吹きかかる。
豊かで滑らかな一対の乳房は均整美を保ち、大きいながらも弾力性を持ったその姿は若々しさの象徴であった。
「くっ…このっ!」
バシッ!
組み敷かれた姿勢から、助兵衛の頬にビンタを喰らわす。
頬をはたく乾いた音が響くと、ふいに助兵衛の動きが止まった。
(今よっ!)
相手が怯んだ隙を見逃さず、パイロンは体をくねらせ、その拘束から逃れてみせる。
「ブ―――――――――!!!」
パイロンが立ち上がった瞬間、リング上へ手厚いブーイングを送る観衆。
助兵衛ははたかれた頬を手で押さえながらのろのろと立ち上がった。
「酷いじゃないかぁ…おじさんの愛にビンタで応えるなんて…」
涙で潤んだ瞳を見ると、さっきのビンタがよほど精神的に応えたようである。
「他人の想いを踏みにじるような娘にはお仕置きしなきゃね」
紅葉の付いた顔で満面の笑みを送る助兵衛。
(愛とか想いとか…さっきから気持ち悪い…)
パイロンは自分に向けられた助兵衛の一方的な好意に思わず身震いする。
「ほれぇぇっ!」
掛け声と共に助兵衛が迫ってくる。
その動きは緩慢で、いつものパイロンなら余裕で躱せるはずだった。
「…あれっ?」
しかし、躱そうとした所で足元がもたついてしまう。
体が思うように動かなかったのだ。
立ち往生するパイロンは容易く助兵衛に抱き付かれ、胸を合わせた姿勢のままコーナーに押し込まれる。
「むふふっ、また捕まっちゃったね~」
小馬鹿にするような口調でパイロンの耳元に囁きかける。
粘ついた声が鼓膜に絡み付き、パイロンの不快感を喚起した。
(くっ!気持ち悪い!)
熱を帯びた肥満体に密着され、その贅肉を押し付けられる。
すぐさま抜け出そうとするも、助兵衛の両手はパイロンの背中でがっちりとクラッチされており、抜け出すのは困難であった。
ハァハァと吐息を荒げながら、助兵衛は目の前の豊乳に顔を埋める。
柔かな乳房に迎え入れられ、悦に入った表情の助兵衛がモニターに映し出されると、「俺と代われー!」「羨ましいぞ!」などといったブーイング混じりの野次が飛ぶ。
「最悪…この変態っ!」
声を怒りに震わせて叫ぶパイロン。
「良い香りですなぁ…若い娘のオッパイは…」
ブーイングやパイロンの罵声を気にも留めず、その乳を堪能する助兵衛。
パイロンの肉体から放たれる女性特有の甘い香りが鼻腔をつき、助兵衛の生殖本能を刺激する。
「この服が邪魔ですなぁ、ちょいと失礼しますぞぉ~」
ビリッという布が破られた音が響くと、パイロンの素肌が露わになる。
助兵衛の手にはそれまでパイロンが着ていた白い服が布切れと化し、握られていた。
「え…きゃああああ!!!」
すかさず自身の裸体の『大事な部分』を腕で隠しながら、助兵衛から離れるパイロン。
その清らかな裸体が衆目に晒されると、コロシアムは火に油を注いだが如く、歓声で燃え上がった。
「ウオオオオオオオーーーーーーーーッ」
「パイロンちゃん最高おおおおおおおおおお」
「結婚してくれええええええええええええええ」
白磁のように透き通った素肌は光を浴びると神々しささえ感じさせた。
衣類の束縛を受けていた乳房は 、キュッと引き締まった腰回りがそれを強調させる。
その引き上がった腰からはすらりと長い脚がのび、脚線美を描く。
「ほひっ、綺麗なカラダですなぁ…」
涎をぼたぼたと垂らしながら水色のフリルの付いた下着とニーソックス、ブーツのみとなった裸体に見入る助兵衛。
その清純さは見る者全ての目に沁みるほどであった。
半裸に剥かれたパイロンは羞恥と怒りに顔を紅く染めながら、助兵衛を睨みつける。
「許さない…絶対に許さないわ…!」
水色の下着越しに胸と股間を手で隠しながら、鋭い視線で睥睨する。
「クヒッ!パイロンちゃんがあんな格好してるのがいけないんだからね?あんなピチピチの服に超ミニのスカート履いて…エッチな娘にはちゃんとお仕置きをしてあげなきゃね」
睨みつけられて怯むどころか、さらに興奮した様子を見せる助兵衛。
「はぁぁっ!」
片腕で胸を、もう片腕で股間を隠しながら、鋭い掛け声と共に上段蹴りを見せる。
しかし、試合開始直後に見せた、まるでカミソリのような上段蹴りとは打って変わって、至って平凡な蹴りであった。
助兵衛は難なく蹴りをガードし、蹴り終わりを狙って前進してくる。
「ッ!」
相手のプレッシャーを横へサークリングして躱すパイロン。
しかし、その心中は焦りと恥ずかしさで一杯だった。
(体が思ったように動かない…)
組みつかれてコーナーに押し込まれた時もそうだったが、明らかに動きが鈍っていた。
(何かがおかしい…なんで私の体がこんなに重いの?)
「さっきから難しいカオしちゃってぇ、何かあったのかな?」
その焦りを見抜いていたかのように助兵衛が言葉をかけてくる。
「何でもおじさんに相談して良いんだよ?パイロンちゃんの相談だったら何でも聞いてあげるからね」
「ふざけた事をっ!」
パイロンのローキックがヒットし、パシィッと肌と肌がぶつかり合う音が響く。
しかし、それも先程一発でダウンを奪った強烈なローキックとは違い、至って平凡な蹴りであった。
「ほひひっ、さっきの勢いはどこにいっちゃったのかなぁ~?」
太鼓腹を揺らしながら、煽るように助兵衛が語りかけてくる。
それはパイロン自身が一番聞きたい事であった。
(体が重い…一体どうすれば良いの?)
このままだと相手に有効打を与える事ができないどころか、劣勢を強いられてしまう。
さらに、劣勢を強いられるだけでなく、助兵衛の欲望に呑まれてしまう恐れさえあった。
(長期戦は禁物…一気に勝負を決めるしかない…!)
何よりも一番気になるのは観衆の野次と視線であった。
このまま裸体を衆目に晒すのは、一人の女性として恥ずかしくてたまらない。
(この一発に、全てを賭ける!)
助兵衛の懐深くに踏み込んで、近距離で上段蹴りを見せる。
「はぁぁっ!!」
脛の辺りで相手の側頭部を打ち抜くイメージで――――
ズシン!
急に軸足の力が抜ける。
振り上がった左足は天井の照明と重なり、尻もちをついた自分の頭の方へ向かってくる。
背中が完全にリングに落ちてから、パイロンは軸足を掬われた事に気付いた。
(まずいっ!)
すぐさま助兵衛に背を向けて逃れようとするも、反応が遅かった。
立ち上がりかけた所で背後から抱き付かれてしまう。
「つーかまーえーたー!」
「くっ!」
背後から密着してくる肉体は脂汗でまみれており、パイロンの珠の様な肌にべたつく。
パチッと音がしたかと思うと、既にパイロンのブラジャーはリング上に落ちていた。
「いやっ、見ないでっ!」
ブラジャーの拘束から解かれた乳房は、プルンプルンと上下に跳ね、観衆の目を奪う。
「「「「「オッパイ!オッパイ!」」」」」
コロシアムには男達の大合唱が轟いた。
「ほひひ!服の上からでもおっきいのは分かってたけど、やっぱり生は違うねぇ~」
その姿勢から助兵衛はすぐさまパイロンの両乳房に手をかける。
「やめてっ!!!」
パイロンはその手を掴み、必死に乳揉みを拒む。
先程は服の上からであったが、今回は話が違う。
見ず知らずの中年男に生乳を揉まれるなどたまったものではなかった。
「ガードがカタいねぇ…じゃあこっち行っちゃおうかぁ」
汗ばんだその手が胸から離れたかと思うと、いきなり腰を抱き抱えられる。
腕の力で強引に前屈みにさせられると、観客席に向かって尻を突き出すような姿勢にさせられた。
いわゆるレスリングの『がぶり』のような姿勢である。
「プリケツだああああああああああ!」
「水色パンティー丸見えええっ!!」
ホールドされて犬のような体勢を強いられるパイロンに卑猥な声援が送られる。
「やめてっ!!やめてっていってるでしょ!」
火のように顔を真っ赤に染めて、必死に抵抗する。
じたばたともがく様は、腰を振る犬のようなはしたない姿に映った。
「お尻も最高ですなぁ…ぷりぷりで、つやつやで…」
そんな必死の抵抗をよそに、助兵衛は天に向かって突き出された美尻をじっくりと撫でまわす。
「ほひひ、どうですかな?鍛えた肉体をこんな風に弄ばれるのは?」
尻たぶをぺちぺちと軽く叩きながら挑発してみせる。
大衆の前で犬のような体勢をさせられて、尻を弄ばれるのは、人としてこの上ない屈辱である。
(許さない…絶対許さないんだから…!)
心の中で静かに屈辱を燃やすパイロン。
しかし、この体勢からどうやって逃げたら良いのか、全く分からない。
体が重たくなっている上、頭が体より下にあるせいで頭に血が上り、うまく思考が働かないのだ。
「ほひひ…思ったように体が動かないんでしょ?」
抱き付いた姿勢から耳元で囁きかける助兵衛。
(ッ…!やっぱり分かってたのね…)
客観的に見れば、試合開始直後と今とではパイロンの動きに雲泥の差がある事は明白であった。
「控室でおじさんが用意したお茶、飲んでくれたみたいだねぇ」
「お茶…」
助兵衛の言葉で控室に置いてあったお茶を飲んだ事を思い出す。
(あれがどうかしたの?)
助兵衛が何を言いたいのかを察せない。
なぜなら、いつだって正々堂々と対戦相手に向かってきたパイロンには、まさか、対戦相手が自分の飲み物に痺れ粉を仕込んでいるとは思いもしなかったから。
「そろそろ技行っちゃおうかぁ」
独り言をぼやいたかと思うと、助兵衛は素早く体勢をチェンジする。
その短い左脚をパイロンの左脚にフックさせると、右腕の下から首の後ろに回した左手と空いた右手をクラッチして頭を引き付けるように力を加える。
コブラツイストの出来上がりだった。
「ぐぅぅっ…!」
ミシミシと、か細い上半身を引き絞られるように極められ、苦しさに呻き声を漏らすパイロン。
呼吸をする事さえ苦しい。
サブミッションがこんなにも苦痛を与えるものだとは初めて知った。
「ホラホラ、苦しかったらタップして良いんだよ?翔龍寺のパイロンちゃん」
わざと『翔龍寺』の名前を出し、パイロンにタップ(降参)させないよう挑発する。
パイロンにとって翔龍寺の名を背負っている以上、負ける事は許されなかった。
身悶えする度に揺れる乳房を見て、観衆は色めく。
彼らにとってはコブラツイストはどうでもよく、パイロンの乳房がよく見える体勢になった事が重要だった。
桜色をした少し小さめの乳首が覗き、体が震える度にぷるぷると揺れる豊乳に観客の視線は釘づけになる。
引き絞られた布のように硬く軋む体とは相反して、乳房だけはプリンのように宙で遊ぶ。
そのギャップが男達の官能に強く訴えかけた。
(く、苦しい…でも、諦めなければ…!)
幼い頃、師に「七転八起、諦めなければ必ず勝機は訪れる」と訓えられた事を思い出す。
そして、今までその訓えを守り、数々の輝かしい成績を残してきた事を思い返していた。
(辛い時も苦しい時もいつも乗り越えてきた、今回だって!)
師の訓えを噛み締めて、勝機を窺う。
急に助兵衛の腕の力が強くなる。
頭が引き付けられ、細い首がねじり切れそうになるほど絞られる。
「うぐぅっ…!」
伸びきった頸筋に小さな咽頭がひくひくと動く様はどこか色っぽさを感じさせた。
「このくらいで良いかなぁ」
助兵衛のぼやく口が見えた。
90°以上横に捻られたパイロンの首は助兵衛の方を向かされていた。
(な、何をする気…?)
痛みと苦しみの最中で、嫌な気配を感じ取る。
ブチュッ!!!
いきなり助兵衛の顔が接近してきたかと思うと、唇に異物感を覚える。
(…え?)
熱を帯びた助兵衛の唇がパイロンの瑞々しい唇に吸い付く。
生温かい、ぬるぬるとした感触が、自身の口唇を侵す、その感触でパイロンは自分のファーストキスが目の前の中年男に奪われた事を悟る。
(うそ…でしょ?こんな…)
拳士である以前に一人のうら若き少女。
人生の多くのその拳に注いできたとはいえ、ファーストキスには他の少女と同じようにロマンチックなシチュエーションを期待していた。
その淡い期待が今、恋人ですらない、目の前で自分の唇を貪る中年男によって、無惨にも打ち砕かれる。
少女の目には涙が光っていた。
ブチュッ!チュウウウウウウ!!ムチュッ、チュバッ!
助兵衛の唇がしゃにむにパイロンの唇を吸い上げ、淫媚な音がコロシアムに響く。
コブラツイストを極められながらキスをされるその姿は、格闘家としてだけではなく、一人の女性としても、敗北を象徴していた。
「ぶふぅぅぅっ!むふぅぅぅっ!」
豚のような荒い鼻息が顔に吹きかかる。
コブラツイストを極められていてパイロンの顎に力が入らないのを良い事に、助兵衛は舌を挿し込み、少女の舌を絡め取る。
「んん…!」
顔を顰めながら小さな呻きを上げるパイロン。
しかし、そんな事もお構いなしに、助兵衛は自身の唾液をパイロンの喉へ送り込む。
その小さな喉がコクコクと鳴る事で自分の唾液を飲んでいる事を確認できた。
しばらく、若い唇を堪能していたかと思うと、助兵衛はコブラツイストを解き、唇を離す。
「うっ…!ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ! うぅっ…」
コブラツイストで体の力を、キスで心の力を奪われたパイロンは泥のようにリングに這いつくばる。
もはや、リングがベッドになっているかのようであった。
「ほひっ、そろそろ本番行っちゃおっか~」
呑気な声を出しながら褌を勢い良く下ろす助兵衛。
既に勃ち上がっていたペニスが待ってましたと言わんばかりにボロンと姿を現す。
助兵衛のペニスは、その丸い身体に似合わず、ゴツゴツとした岩のようなモノであった。
「はぁ…はぁ… え?うそ…いやぁぁっ!!!」
助兵衛が嬉々とした表情で自身にガチガチに勃起したペニスを向けているのを見て、思わず背中を向けて逃げようとしてしまう。
しかし、体が重たく、立ち上がってもふらついてしまう。
そんな慌てふためく様子を楽しんでいるかのように見下ろしながら、自身の逸物を揺らして近寄る助兵衛。
「ほひひぃ!パイロンちゃんは男の人のオチ●チ●見るの初めてかなぁ?」
自らの肉棒を手で掴み、腰を突き出すようにしてその先端をパイロンの顔へ向ける。
その手の中でむくむくと成長する肉塊に恐れをなして顔を覆う。
「いやぁぁっ!」
裸でリングを這って逃げ回るその姿はもはや『拳聖』ではなく、一人の少女にしか見えなかった。
試合開始直後に目にも止まらぬ蹴りで助兵衛を倒したその姿は霞のように消え去っていた。
やがて、パイロンはコーナーに追い詰められ、助兵衛に捕まってしまう。
脚を掬われ、仰向けにさせられると、それまで秘所を守り続けてきた水色の下着に手がかけられる。
「クヒヒ!もう逃げられないからねぇ、パイロンちゃん。それじゃっ、脱いじゃおっか?」
「やめてぇぇぇっ!!!」
乙女の悲鳴も虚しく、助兵衛は容赦なく下着を引き摺り下ろす。
「きゃああああっ!」
すぐさま股間を両手で隠すも、どけられ、女性器が露わになる。
モニターにまだ男を知らない、色の淡い花弁がアップで映し出されると、その瑞々しさの前に観衆は盛大な拍手を送った。
「キレイなマ●コだねぇ…」
熱い鼻息を吹きかけながら、女性器を観察する助兵衛。
まだ誰にも見られた事のない所を凝視され、全身が羞恥で焼けるように火照っていく。
「この変態っ!」
仰向けの姿勢から助兵衛の顔面に蹴り上げをお見舞いするパイロン。
普段のパフォーマンスが発揮できないとはいえ、相手を怯ませる程度には効かせられる。
バランスを崩した助兵衛がもんどりうって、後ろへ倒れる。
リングロープを掴んで、なんとか立ち上がるパイロン。
しかし、全裸の助兵衛が発情した猪のように突進してくると、勢いのまま倒される。
「もぉ、おじさんガマンできないよ…パイロンちゃん」
正常位の体勢で覆い被さると、パイロンの手を握手するような形でリングに押し付ける。
観客席から見ると、まるで愛し合う二人の恋人のように見えた。
股間に生暖かい何かが当たっているのを感じる。
それが勃ち上がった男性器だという事は処女のパイロンでも分かった。
「ひ…いやっ、離してっ!」
今から何をされるのか悟ったパイロンは必死にもがく。
しかし、助兵衛の100kg近い肉体に圧し掛かられ、パイロンはまるで身動きが取れない。
助兵衛の腰がゆっくりと押し出されると、パイロンの膣内が生暖かい感触に侵される。
その見るも醜い容貌を眼前に、剛直の先端が入ってくるのを感じた。
「いやぁ!こんなのっ!こんなのってぇぇっ!!!」
信じられなかった。
見ず知らずの中年男に格闘技で負けた挙句、大衆の前で裸体を晒すなんて。
信じたくなかった。
今から目の前にいる中年男に処女を奪われるだなんて。
(師匠…リュウガ…助けて…)
「行きますぞぉ~!!」
助兵衛が声高く叫んだかと思うと、熱くたぎった肉棒がパイロンの処女膜を突き破った。
「んぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!!」
痛みや恥ずかしさ、悔しさの前に少女が啼泣する顔がモニターに映し出されると、コロシアムは歓声と怒号の坩堝と化した。
押し入ってきた剛直が最奥まで達すると、さらにそこからグイグイと押し上げてくる。
ビクビクと脈打つそれが膣の一番深い所まで支配し、その形をパイロンの膣に覚えさせる。
自身の一番敏感な部分でペニスがのたうつ感触にパイロンは悶えた。
(太っ!太すぎるううううううう!)
パンッパンッと小気味良く音を立てて肉棒の抽送を繰り返していたかと思うと、ペースダウンしてパイロンと一つになれている事を再確認するようにその膣を堪能する。
あぁーっと悦に入った声を発すると、生臭い息がパイロンの顔に吐きかけられた。
「はぁ、はぁ、どうだいパイロンちゃん。おじさんと一つになれた気分は?」
吐息を荒げながら、顔を近付けて問いかける助兵衛。
当然、歳の離れた、醜い中年男とのセックスでは、乙女心に愛おしさなど湧かない。
パイロンは呼吸すらもままならない様子で泣きじゃくっていた。
「おじさんはとっても気持ち良いよぉ…なにせパイロンちゃんが毎日鍛えてきたこのカラダを堪能できるんだからねぇ」
そう言うと、助兵衛は泣きじゃくるパイロンに軽くキスをした。
本人の意思に逆らい、女壺はキュウウウッとその肉棒を締め付ける。
皮肉にも毎日鍛錬に励んできたその引き締まった肉体が、男の肉欲を満たすのに利用されていた。
「折角だからみんなに見える姿勢にしよっか」
一瞬、腰の律動が止まったかと思うと、助兵衛は下半身に力を入れ、一気にパイロンの華奢な体を持ち上げる。
まるで父親が娘を抱き上げる時のようなその体位は、いわゆる『駅弁』と呼ばれるものであった。
もっとも、助兵衛よりもパイロンの方が背は高いが。
鳴り響く歓声の中、パイロンを抱え上げた助兵衛はリングの中央に寄ると、腰の律動を再開する。
モニターにパイロンと助兵衛の接合部分がアップで映され、コロシアムは歓喜と興奮に包まれた。
「んっ!あぁっ!あんっ、あはぁっ!!」
スポットライトに妖しく照らされたリングの真ん中で、パイロンは激しく喘ぐ。
艶やかな黒髪を振り乱し、助兵衛に揺さぶられて腰を振らされる、その姿はまるで街外れで男の世話をする娼婦のように見えた。
そう見えさせるだけの不条理さがこの二人の性交にはあった。
「んほぉぉっ…パイロンちゃん、そんなに締め付けられたら…おじさん…」
助兵衛はもう絶頂に達してしまいそうなのか、情けない呻き声を上げる。
しかし、そんな弱音を吐きながらも、腰を小刻みに動かし、パイロンの膣に自らの雄を擦り付けていた。
射精したい気持ちとまだ膣を愉しんでいたい気持ちとが助兵衛の中で相反する。
そのジレンマに答えが出るのも、時間の問題であった。
「くぉぉっ…もうっ、ガマンできないっ!!!」
助兵衛の腰の動きが止まる。
それが何を意味しているのか、パイロンには分からなかった。
「うぉぉぉおおおおおおおおっっ!!!」
いきなり助兵衛が叫ぶ。
腰が跳ねるように、一瞬躍動したかと思うと、熱くてどろどろした『何か』がパイロンの胎内に染みた。
下腹が焼けるような感触で、パイロンはやっと理解できた。
どぶ、どくっ!どびゅるるるるるるるるるる!!!
「…んぁああああああああっ!!!いやぁああああああああああああ!!」
嬌声を上げながら自覚する。
自分は『中出し』されたのだと。
子宮に見ず知らずの中年男の精子を注入されたのだと。
(嫌…だ…そんなの…いやぁ…)
汚辱のあまりに表情が歪む。
しかし、その汚辱ごと、真っ白な感情の雪崩に意識がさらわれる。
観客の怒号が声にならない音へ変わっていき、視界は色彩を持たない靄に包まれた。
「あぁ…最高だったよ、パイロンちゃん」
パイロンを抱き抱えた姿勢のまま、感嘆したような息を漏らす。
二人の接合部分からは少し黄ばんだ白濁液がぼたぼたと流れ落ち、助兵衛の射精量があまりにも多すぎて、パイロンの膣内に収まりきらなかった事を示す。
助兵衛が恍惚とした表情のまま、しばらくぼーっとしていたかと思うと、再び腰の律動が始まった。
汚濁で一杯になった膣内はぐじゅぐじゅと淫らな音を立てて、ペニスの抽動を許す。
一発渾身の射精をしたのにも関わらず、助兵衛の腰はなおもリズミカルに動いていた。
「まだまだですぞぉ…こんな気持ち良いマ●コ一発だけで手放す訳にはいきませんからなぁ…」
子宮口から漏れる精子にふたをするように、自身のペニスを最奥まで押しつける。
助兵衛はパイロンを孕ませるつもりでいた。
「あぁっ、あっ、あああっ」
欲望のままに、揺さぶられるパイロン。
その力なく揺さぶられる姿は、まるで糸の切れた操り人形のようであった。
(あぁ…リュウガ…師匠…たすけて…)
試合が始まる前、希望や夢にときめいていたその蒼い相眸は、いまや腐った魚のように濁っていた。
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その後、パイロンの姿を見た者は誰一人としていなかったという。
余談だがこの試合の映像が「女拳士、堕つ」という題で後にAV界を席巻したのは有名な話である。