「お母様、何処に連れてくの?」
「お父様の働いている場所よ」
「じゃあ軍人さんが沢山働いてたり、お船観れるの?」
「さぁどうでしょうね?」
その日、榊原 武は母に連れられ、己が父の勤める鎮守府へと足を運んでいた。
榊原 武
夫、榊原 平蔵とその妻の久江の間に生まれた嫡男である。
彼の父、榊原 平蔵は扶桑皇国海軍の軍人であり、武も生まれた時から両親に軍人の道を期待されていた。
しかし、期待していた息子が予想の斜め上を遥かに超えた道を行くと誰が想像できただろうか……?
この世界で古より人間は、後にネウロイと呼称される怪異と矛を交えてきた。
その戦場の先頭に立ち、人類を勝利へと導いてきたのは魔力を宿したうら若き乙女達。
人々は彼女達に敬意を持って『魔女』と呼んだ。
武の故郷である扶桑もまた古より、怪異との戦いや乱れた人の世を鎮めた戦いに魔女は深く関わっていた。
だが少女のみが魔力を宿せたわけではない。
何事にも例外は存在し、武もまた例外であった。
「お母様、早く早く!!」
「待ちなさい、武っ!!」
父の元へ一刻も早くと心躍らせた武は、つい母の手を離れ駆け出す。
その行動が彼の運命を決めた。
武は誤って車の前に飛び出してしまったのだ。
これには母の久江も堪らず、
「嫌ぁぁぁっ!!」
周囲が思わず振り向く程の悲痛な声を上げ、無残な姿にあるであろう息子の未来が浮かんだ。
だが、現実は違った。
武は生きていた、しかも無傷で。
誰が助けたのでもない。
己が力で自らの命を守ったのだ。
車は何かに弾き飛ばされるように道を外れて木にぶつかり大破。
そして武の目の前には……、
「……何、これ?」
武自身が無意識に発現させた魔法障壁がそこにあった。
さて魔力が発現した武がどうなったかを語ろう。
希少な男子の魔力保持者。
当初軍部や政府は国から一歩も出さず監視の付いた生活をさせて、いずれ優秀な魔女を嫁入りさせる予定であった。
だが皇国の臣民である武の意思を第一にという陛下の一声によって武の自由は保証されることとなり、予定は未定になった。
一方の武は軍と政府による待遇の予定が未定になった後は何をしていたかというと、軍属の魔女の元で魔力制御などの修行を行っていた。
その際に武の指導者に抜擢されたのは、海軍所属で“軍神”の異名を持ち後に武の上官になる
武の修行は舞鶴近郊にある北郷が師範代を務める講導館道場で行われた。
ここには戦闘脚乗りを目指す少女達も通っており、少女達に混じって男1人鍛錬に励む姿は周囲に住む者達が後々まで語るとても珍しい光景であった。
「じゃあ昨日教えた事をやってもらえるかな?」
「はい、先生!!」
元気よく返事を返し、武は魔法障壁を展開する。
既に自分の意志で魔法障壁を展開できる武は、長時間魔法を扱う為の魔力放出量の調整の修行を行っていた。
初めて魔力が発現した場合、魔女は自然と自分がどの程度魔法を展開できるか理解出来るのだが、武は平均よりも大幅に魔力量が多い為、放出量を細かく調整出来る様になった方が何かと都合が良かったのだ。
その都合とは……、
(僕も早く戦闘脚で空を飛びたいなぁ……)
そう、少女達と同様に戦闘脚で航空戦闘が出来る男性軍人になる事である。
実は武は一度戦闘脚で飛んだことがある。
それは陸と空のどちらに適性があるかを診断する際に、北郷と共に教導隊の練習機に搭乗したのだ。
その時の風と一体になる感覚が忘れられず、両親に熱心に戦闘脚の搭乗員に志願したいと語ったのだ。
その熱意を平蔵が上司に話したところ、あれよあれよと上層部へと伝わっていき、武は十にも満たない内から軍人になる為の教育を受けることとなった。
だが講導館に通う少女達も才ある者は十に満たずとも教育を受けている者もおり、別段珍しいことではない。
両親から自分で道を決めた以上は扶桑男子として恥ずかしくない軍人になる様一心不乱に修行に励みなさいと喝を入れられている武は、講導館でも優秀な門下生になろうとしていた。
「よし、魔法障壁が以前より安定しているね。これなら鍛錬を欠かさなければもう特に問題はないだろう」
「!? 有難うございます!!」
「いい返事だ。みんなの中に入って素振りの鍛錬をしなさい」
「はい!!」
武の修行は順調であったが、時同じく世界の情勢が目紛しく変化しようとしていた。