2人が貴重な逢瀬の時間を過ごしていた頃、対策会議は作戦内容が決まった。
第1段階は、魔眼持ちの美緒が新型怪異を目視で索敵。
第2段階は智子達が囮となって、指定の空域まで敵を誘き出す。
最終段階は、カールスラントから視察に訪れているアドルフィーネ・ガランド大尉が視察用に持ち込んできた急降下爆撃に優れた戦闘脚、bf-109を用いての急降下爆撃で敵を撃滅するという作戦である。
陸・海合同のこの作戦は、第一号作戦と名付けられ、次の怪異出現時に実行に移されることが決まった。
「……暇だ」
「私らは美緒の護衛だからな、暇なのは仕方ないさ」
「美緒ちゃん、見つけた?」
「ううん、まだこの辺りの空域には来てないみたい」
武は徹子、醇子と共に、作戦の要である美緒の護衛に当たっていた。
囮や急降下爆撃に関しては、より確実に作戦を成功させるために武子達が担っている。
「ん? 見えたっ‼︎ 見えました‼︎」
美緒の声と共に武達は銃器を構える。
一方美緒は、敵の位置を武子達に伝えている。
無線の内容を聞く限りでは、どうやら美緒を守っている武達の方向とは別の方向へ飛んでいるようだ。
「……分かりました。作戦の成功を祈ります」
武達は、ほっとした様子で通信を終えた美緒の元に集まる。
労いの言葉を送る為である。
「美緒ちゃん、お疲れ」
「ありがとう、武」
未だ作戦中である為言葉少なめに労い、作戦の行く末を待つ。
しばらくして、爆発音が響いた。
どうやら作戦は成功したらしい。
皆喜び合い、お互いの健闘を讃えた。
しかしながら第一号作戦は成功したが何度も出来る作戦ではなく、各国から送られてきた様々な新兵器を使用するも苦戦は続いた。
故に現場では新型戦闘脚を求む声が何度も上層部に嘆願が送られ、上層部もこの事態に危機感を感じ取り、新型怪異との性能差を埋めるべく新たな新型戦闘脚の試作が作られることとなった。
「……とまぁこういった感じです」
「成る程、新型が来るまではその新手との戦いは厳しいと」
「はい。父上からも出来るだけ早く試作品が完成するよう嘆願書を出して頂けないかお願い出来ますか?」
「それは無理だな。平蔵はあくまで特警隊、技術局に口を出すには畑が違いすぎる」
現在武は、浦塩にいる。
章香の計らいで、海の面子で浦塩へ休暇を満喫する為に来ていたのだ。
だが武は醇子達とは行動を共にせず、浦塩の鎮守府でとある人物と話をしていた。
その人物とは、海軍特別警察隊の浦塩支部を取り仕切っている佐島 忠介である。
父平蔵とは竹馬の友と言える人物で、暇があれば榊原家に遊びに来ていた為、武の数少ない気心知れた人物である。
彼の元に武が来たのは、新型戦闘脚の嘆願に関する話だけではなかった。
父の手紙に浦塩支部にいる忠介の手元に、武に渡す物があると書いてあったからである。
「話は変わりますが、父上の手紙に忠介さんに何かををお預けになったと書かれていましたが……」
「アレのことか。しばし待て」
そう言って忠介は長く細い木の箱を持ってきた。
その箱を開けると、一本の刀が出てきた。
「それは父上の井上真改⁉︎ なぜこれが此処に⁉︎」
「お前に渡してくれと、平蔵が送ってきたのだ」
「父上が……?」
忠介から手渡された井上真改は、不思議なくらい武の手に馴染んだ。
武は鞘から刀を抜き、ジッと眺める。
日の光を浴びて煌めく刀身は、一種の芸術とも思えた。
「お守り代わりにとして送ったのだろう。俺が譲ってくれと頼み込んでも譲ってくれなかった逸品だ。大事に使えよ」
「はい‼︎」
その後、2人は暫く雑談を続けたのち、武は井上真改を携えて自由時間を満喫したであろう皆と合流すべく鎮守府を後にした。
しかし自由時間を過ごしていたであろう皆は、ヘトヘトに疲れており、美緒に至っては酔っ払ったかのように顔を真っ赤にしてケラケラと笑っている。
「何かあったんですか?」
「まぁ、ちょっとね……。 坂本が酔っ払って暴走したんだ。 全く、本当にこの子達は予想外な事をやってくれる」
先に合流していた筈の章香もヘトヘトな様子であった為、武は思わず問いかけた。
章香は一旦呼吸を整えて、より詳しく皆が疲れている原因を教えてくれた。
どうやら途中で買ったリンゴ味のサイダーに微量のアルコールが入っていたらしく、美緒はそのサイダーが原因で酔っ払い、浦塩を彼方此方と走り回ったらしい。
ようやく捕まえたのがつい先程で、美緒を除く皆がヘトヘトに疲れたそうな。
「……ん? それが武のお父さんが友人に預けてた物かい?」
「はい。父の愛刀でした。恐らく新型に苦戦してる事を耳にして、お守り代わりに送ってくれたようです」
「成る程……。 それじゃあ時間もあまり無いから予約してある旅館に行こうか」
そう言って章香は旅館がある方向に歩き始めた。
徹子と醇子は急いで後を追うも、ウトウトと船を漕ぎ始めてきた美緒は動こうとしない。
仕方なく武がおんぶして章香達の後を追う。
だが、寝息を立てながら武に身を預けている美緒の胸の感触が、武の性欲を掻き立てる。
武は股間が勃起しないよう注意しながら、皆を見失わないよう必死に食らいついていった。
「武は疲れ取れたかい?」
「はい、いいお湯でした」
前線へ向かう補給トラックの中、章香と武は旅館で入った温泉について語っていた。
どうやら内地からわざわざ温泉を引いているようで、前線の将兵に大人気の温泉だったらしい。
その温泉の効能のお陰か、知らず知らずのうちに蓄積していた疲れが取れた様子で、身体がだいぶ軽くなったと武は章香に話す。
それは良かったと章香が見つめる先には、ぐっすり眠っている美緒達3人がいた。
美緒を中心に武子と醇子が肩寄せ合っって眠っており、その姿に章香は微笑んでいた。
明日は智子達が休暇を取って浦塩に行くらしい。
それを思い出して、武は1つ忘れていたことがあった事に気がついた。
「あ、智子さん達にお土産買ってくるの忘れた」
尚、お土産よりもずっと価値のある井上真改を見せたことでお土産の件はチャラになるとはまだ知らない武は、どう謝るか悩んで頭抱えていた。