※この作品はR-18です。

「無」のマフラーを身に纏う   作:モブ猿

13 / 31
第13話

 激しさを増す前線の攻防は泥沼の如く扶桑軍の兵士達を呑み込んでいく。

 

 “アホウドリ”

 

 軍部が新たに遭遇した爆撃機型怪異につけた名称である。

 この大型怪異は無数の航空機型怪異を率いて、前線基地及び周辺の民間施設を次々と焼き払っていった。

 ズルズルと後退していく前線の空で、空の魔女たちは必死に引き金を引いていた。

 

「くそッ、速すぎる‼︎」

「若退がれ‼︎ それ以上アホウドリを追いかければ敵に囲まれるぞ‼︎」

 

 章香の指示に従い、群がってきた敵を交わしつつ仕方なく退がる徹子。

 アホウドリは規格外の強さを有していた。

 扶桑の戦闘脚よりも速く、強く、しぶとい再生能力を有していた。

 アホウドリは多くの命を奪い、扶桑軍の士気をゆっくりと削いでいったーー。

 

「また一つ落ちた……」

「くそっ‼︎」

「……」

 

 結果は散々であった。

 アホウドリの出現以降、前線は大きく後退し、扶桑は多くの前線基地を失なっていた。。

 そんな現状を皆が嘆いている中、黙々と自分に与えられた任務をこなす者がいた。

 武である。

 章香の命令で、武は治癒魔法を扱える者達に魔力を供給していた。

 これは武が治療を施している魔女の予備の魔力タンクになることで、少しでも兵士達の死亡率を下げるための苦肉の策であった。

 

「……負傷兵は何人前線に復帰できる?」

「それよりも榊原一飛曹に一度休みを与えなければ、彼が潰れる可能性があります」

 

 章香の問いに、治療を施している魔女の一人が答えた。

 飛行場の医務室は既に許容量の限界を超えていた。

 だが限界を超えても医療施設として前線を支えることが出来たのは、武による魔力供給によって一日の使用限界を超えた魔法の行使が行えたからである。

 故に武は現在基地で待機し、飛行場で負傷兵の命を救うべく奮戦していた。

 

「武に休みは与えられない。今は一人でも多く兵が戻らなければ前線は崩壊する」

「ですが彼が倒れた場合、此処の医療施設としての機能は麻痺します」

「あのアホウドリさえどうにか出来れば……」

 

 だが、皆が現状の打開策を探し悩み続けている最中に最悪の事態が起きた。

 

「榊原一飛曹⁉︎ 気を確かに‼︎」

 

 ついに武が倒れたのだ。

 青ざめた顔で床に倒れている武の側に、他の兵士の治療を行っていた者が駆け寄る。

 そして武の頬を軽く叩き、意識があるかを確認する。武は呼吸はしているものの、呼びかけに反応しない。

 武は完全に気を失っていた。

 

 

 

「……あれ?」

 

 重い瞼を開いて、武が起きる。

 周囲を見渡せば、自室のベッドの上であった。

 

「そっか、僕あれから気を失ってたのか……」

 

 武はすぐに自分に与えられた任務に戻るべく、ベッドから出ようとした時だった。

 ドアが開き、少女が一人入室してきた。

 

「まだ動ける状態じゃないんだから、大人しく自室待機しときなさい」

「智子さん?」

 

 武は久々に彼女の姿を見た。

 それも無理もない。

 雪解けと共に、前線に新たに航空魔女が増員が送られて来たことによる人員の再編成が行われた結果、智子達陸の四人はバラバラになった。

 対して海は奇跡的に再編成でバラバラになることなく今までの面子に数人程増員が送られて来ただけであった。

 再編成によって別の飛行場へ異動した筈の智子がなぜ此処にいるのか?

 答えは一つだった。

 

「まさか今回失った基地って……」

「私が新たに配属された基地よ。アホウドリの爆撃で生き残れたのは私を含めて少数、此処に来れたのは本当に運が良かったわ」

 

 智子は握りこぶしが震えるほどに怒りを露わにしながらも、声音は優しかった。

 そして起き上がろうとしていた武の側まで来ると、大人しく眠るように促した。

 

「みんなはどうしてますか?」

「手の空いてるのは全員で負傷兵の看護をしているけど、ダメ。医療物資が不足してるし、治癒魔法を扱える子達もみんな限界で休んでいるわ」

 

 そうですかと一言言って武はベッドに横になる。

 恐らく智子はがこの部屋に来たのは、武がこれ以上無理をしない為に章香が監視役を頼んだのだろう。

 本音を語るなら、武はとっくの昔に限界だった。

 だが決して口には出さず、今まで無理をして来た。

 自分の魔法が人を救う手伝いができることを知って以来、多少の無理で根を上げるのは嫌だったのだ。

 

「正直前線の状況が気になって、寝れる気がしません」

 

 今も前線でアホウドリと戦っている者達がいる。

 そんな中で自分だけ休むのは心が痛むが、智子が監視役として此処にいる以上大人しくするしかない。

 すると智子が思わぬ一言を発した。

 

「じゃあ一緒に寝る?」

「えっ⁉︎」

 

 流石にそれはやばいんじゃと抗議の声を出す前に、智子はするっとベッドに入り込み、武の頭を胸元でガッチリとホールドした状態に持ち込んだ。

 

「大丈夫、大丈夫。あんたが寝たらすぐに抜け出すから」

「……誰かに見つかっても知りませんからね」

 

 そう言って仕方なく武は目を瞑る。

 すると彼女の鼓動と香りが不思議と武の心に安らぎを与え、いつのまにか武を深い眠りへと導き始めた。

 戦況は悪化の一歩を辿っていたが、必ず打開策があると信じ、武は英気を養う為に深く深く眠りについた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。