多くの同胞が散った大地の上を、兵士達は撤退していた。
それをチラリと眺め、再度自分のやるべき事を思い出しながら武は巨大な影に向かって引き金を引く。
全ては一人でも多くの兵士を守る為、撤退を促す智子達の声を置き去りにして空を舞うーー。
「アホウドリに弱点があったんですか⁉︎」
「あぁ、そうだ。美緒が見つけてくれた」
遡ること数週間前、智子に抱きしめて貰いながら眠りについたことで英気を養うことが出来た武は、日々増えていく負傷者を名も知らぬ魔女達と共に救っていた。
そんな最中に吉報が届いた。
扶桑軍が遂にアホウドリを堕とすことに成功したのだ。
堕とすキッカケを生み出したのは、美緒の魔眼。
美緒の瞳に映った怪異の体内に存在していた核、それを徹子が撃ち抜いたことでアホウドリを堕とすことに成功したのだ。
この貴重な情報を元に報告書が纏められて上層部に届いた結果、陸軍主導の大規模な攻勢作戦が決定された。
その中に何故か武も加わることになった。
「僕も出撃ですか⁉︎」
「上の命令でね。心配しなくても大丈夫。武を預かる部隊はあの時の面子だから」
所謂神輿だ。
軍上層部は武を攻勢作戦に参加させる事で、兵士達の士気を高める算段であった。
言われるがままに武は井上真改を帯刀し、白地に『無』と一文字刺繍されたマフラーを首に巻いて大規模攻勢作戦に参加した。
「まさか本当に海が寄越してくれるとは思わなかったわ」
「お久しぶりです、中佐」
武の臨時の上司となったのは、敏子であった。
更に部隊の面子は春に行われた再編成以来、顔を合わせることがなかった武子、綾香、圭子にアホウドリとの攻防戦で一度再会した智子がいた。
この武を含めて6人だけの小隊は、初日から息の合った動きで空を舞い続け、現場の士気を高める神輿としての役割を見事にこなしていた。
しかし大規模攻勢作戦はこのまま上手くと誰もが思い始めた時、《ソレ》は姿をを見せた。
「山だ、山が動いてる……」
誰かがが呟いた一言は、正しくその怪異の特徴を捉えていた。
ピラミッド型の外見に無数の脚が付いた怪異は本当に山のように巨大で、《アホウドリ》が可愛く思えるほどの強さを秘めていたのだ。
「武、撤退だ‼︎ 戻りなさい‼︎」
「駄目です‼︎ あの子無線を切ってる‼︎」
ピラミッド型の怪異の前に陸上部隊は一瞬で瓦解し、大本営より撤退の指示が即座に出されたが既に遅く、怪異の猛攻によって戦場は阿鼻叫喚の地獄を生み出していた。
ならば海から派遣された自分はどうすべきかが正解なのかと武は悩み、そして必死に仲間を庇いながら撤退する陸戦魔女を見た瞬間、答えを見つけた。
智子達の静止を振り切り、武は山のような巨大な怪異の前に立ちはだかる。
巨大な怪異の撃ち出す光は、並みの障壁では一瞬で破られてしまったが、魔力量が並ではない武は唯一正面切って受け止められる存在であった。
故に武は巨大な怪異の意識を自分に集中させて、兵士を逃す時間を稼ぐことを思いついた。
だがこの思いつきに自分が無事に撤退するという考えは無かった。
燃料をしっかり補充して挑んだ戦いではあったが、既に撤退するには少なすぎる量まで減っていた。
だが時間稼ぎは成功しているらしく、既にこの巨大怪異周辺には亡骸以外で残っているの兵士は武のみとなっていた。
「まだだ。みんなが逃げ切るまで頑張らないと……‼︎」
「もう十分頑張ったわ‼︎ 逃げるわよ‼︎」
既に燃料切れになった戦闘脚を捨て、乗り手を失った戦闘脚を無断で拝借してその場に留まり、障壁を貼り続けて殿を担っていた武の頭上から声が聞こえた。
「智子さん⁉︎」
智子が手を伸ばして急降下してきたのだ。
武は首根っこを掴まれた猫の如く、素早く智子に拘束されてその場から撤退した。
幸いにも巨大怪異の侵攻速度は遅く、航空機型の怪異も巨大怪異を守るように周囲を旋回するだけで、二人は撤退中に襲われることなく無事に帰還出来たのだった。
こうして攻勢作戦の失敗によって多くの人命を失った扶桑皇国軍は、逆に怪異の侵攻を止めることができなくなり、皇国の大陸領土を全て失う結果になった。