遥か遠く扶桑を離れてから5週間、武達はガリアでカールスラント行きの魔女達と別れた。
その後バルトランドのストックホルム行きの輸送船に乗り込み、更にストックホルムで輸送機に乗り換え、出向先であるスオムスのウッティという飛行場にへようやく着いた。
「長かった……」
「何もないわね。まるで北海道の農地じゃない」
「さっ、寒いです!!」
武達3人は迎えが来るまでの間、飛行場の周囲を眺めていた。
「どうやら来月はこれより冷え込むらしいですよ」
「誰から聞いたの?」
「ストックホルムに寄った際に大使館関係者から聞きました」
なるほどねと智子は興味無さげに言い放つと、自身の愛機九七式戦闘脚に触れた。
どうやらこの環境下で九七式が本来の性能を出せるか心配らしい。
「お姉様、見て下さい!! 空が綺麗ですよ!!」
それは任務を完遂して飛び去った輸送機が残したプレゼントだった。プロペラの高速回転による気流の発生によって地面の雪は舞い上がり、太陽の光を反射して綺麗に輝いている。
はしゃぐハルカと対照に、余裕が無いように見える智子の様子を見ながら迎えを待っていた武の背後から一人の女性が現れた。
「ようこそスオムスへ。私はスオムス空軍第28戦隊のハッキネン大尉です」
目の前に立つ女性が自分達より階級が上と知り、3人は敬礼を返す。
その後自己紹介を終わらせると、ハッキネン大尉を先頭に飛行場の施設を目指す。
「皆さんは本日よりスオムス義勇独立飛行中隊の所属となります。他のメンバーも揃っていますので隊長との顔合わせをお願いします」
淡々と話を進めるハッキネン大尉を見た武は、余計な事は話さない厳格な方なのだろうと当たりをつけた。
だが、すぐにそれは本人に訂正された。
「これは私の素です」
「うぇっ!?」
もしかして心を読まれたのかと武は一瞬身構えたが、違うますよとハッキネン大尉に訂正されて、力を抜いた。
おそらく相手に2手、3手先読まれたとはこのことだろう。
初めての経験に驚いたが、それ以上にハッキネン大尉の優秀さに白旗を上げるしかなかった。
「ここがウッティ飛行場に詰めている航空隊の指揮所になります」
案内されたのは、学校のような外見をした年季の入った建物であった。
武達が尋ねるよりも早く、元は民間の会社が所有していたものを再利用したものだとハッキネン大尉は教えてくれた。
「ブリーフィングルームまで案内します」
ハッキネン大尉の後を追って薄暗い廊下を歩いて行くと、一番端の部屋に案内された。
部屋の壁には学校から頂いたと思われる黒板が掲げてあり、ブリタニア語で「スオムス義勇独立飛行中隊詰所」と書かれていた。
「隊長が来ますので、中で待っていて下さい」
そう言い残してハッキネン大尉は去った。
武達が中に入ると、既に3人の少女が待機していた。軍服から判断すると、銀髪の少女がブリタニア、眼鏡をかけて本を熱心に読んでいる少女はカールスラント、そして黒い液体の入った瓶を持っている少女がリベリオンであろう。
中隊長エルマ・レイヴォン中尉がブリーフィングルームに訪れたのは、武達がハッキネン大尉と別れてから20分程経過した時だった。
「あわわわわ!?」
エルマが部屋に入ろうとした時、コケて盛大に書類をばら撒いて涙目で集める様子を見かねて、武は書類集めを手伝うことにした。
すみません、すみませんっと何度も謝るエルマに、武は大丈夫ですよと返した。
書類を全部集め終わると、武は先程まで座っていた椅子の元に戻り、エルマはブリーフィングルーム内にある黒板の前に立った。
「遅れて申し訳ありません。 わ、私はスオムス義勇独立飛行中隊の中隊長エルマ・レイヴォネン中尉です」
プルプルと緊張しながらもエルマは自己紹介を始めた。
どうやらこの部隊を創設した際に、急遽中隊長にエルマは選ばれたらしい。
「そ、それで、えと、何だっけ……。そうだ!! 自己紹介をお願いします!!」
エルマは深々と下げてお願いしてくる。
だが名指しで指名しなかった所為で、誰が先に行くかでその場にいた全員は牽制しあうことになってしまった。
エルマ中尉もそのことに気づいたらしく涙目になってきている。
流石にこの微妙な空気をいつまでも吸いたくない。
武は立ち上がり、エルマや他のメンバーに見える位置に移動し敬礼する。
「扶桑海軍舞鶴飛行隊所属、榊原 武 少尉であります」
「さっきから聞きたいことが一つある。なぜ“お前”はここに居る?」
「貴女は……」
「エリザベス・F・ビューリングだ。階級は少尉」
ビューリングは魔女のみで構成された航空隊にいることに疑問を感じていた。
彼女に問いに応えようとした武よりも早く口を開いたのは、金髪ポニーテールの少女だった。
「そんなこと決まってるネー。武はきっと魔法使えるからここにいるのネ」
「そんなこと有り得ない。男で魔法使える人は伝承でしか存在していない」
ポニーテールの少女を否定したのは、メガネをかけた小柄な少女だ
武はさてどう説明すべきかと悩んだが、結局は論より証拠。
少女達の方向に右手を伸ばし、魔法障壁を展開した。
ーーその時、ブリーフィングルームは時が止まったように静まり返ったーー
ビューリングは咥えていたタバコを落とし、ポニーテールの少女は飲んでいた黒い液体を吹き出し、メガネの少女は本を落とし立ち上がった。
三者三様の反応に対して武は冷静だった。
自身が魔法を扱えることを説明するのも、実際に証拠を見せて驚かれることも、スオムスに来るまでに何度も経験しているからだ。
「特技は一撃離脱戦法で、あと剣術も少々。自分からは以上です。」
こういうのは質問責めされる前に次の人間の自己紹介を割り込ませればうやむやになる。
なのでハルカに自己紹介させようとした時だった。
「時間が勿体無いわ!! 今から実力見るから、ストライカーユニットを装備しなさい!! 」
イラついた様子で智子が吠えた。