「くそっ、こんなんじゃ戦果を挙げられない!!」
オンボロな宿舎の中にある自室で、忌々しく智子は独白する。
急遽行われた智子の特訓は散々な結果で終わった。
皆の命を守る戦闘脚、ストライカーユニットは旧型や余り物。最新のユニットを持ってきたのは武だけという状況だった。
そして特訓を始めればビューリングと武以外は実戦経験のある智子にあっさりと撃墜判定をくらってしまう初心者同然の動き。
これではスオムスで戦果を挙げてカールスラントに異動するという智子の計画は破綻してしまう。
智子は簡易的になベッドに置かれた枕に顔を突っ込むと、どうすれば彼女達を一人前に出来るか考え始めた。
「……ハルカちゃん、僕が新しいの買ってあげるから眼鏡掛けよう?」
「……うぅ、わかりました」
智子は散々な結果だと判断した特訓に中で、武は何故ハルカが成績最下位なのか理解できた。
それはハルカは視力が悪いにも関わらず、全く眼鏡をかけないのだ。
ハルカが所有している眼鏡は、所謂瓶底眼鏡。
正直に言えば、ハルカに瓶底眼鏡は似合わないと武は思っている。
だがハルカはれっきとした軍人。
眼鏡をかけずにネウロイと戦う事になれば、命を落とす可能性が大きい。
上官である武はミーティングルームに戻った後に辛抱強く説得を続け、なんとか新品の眼鏡を武が買ってあげる事で話が決まったのである。
「でも良いんですか? 武さんがお金出さなくても、ハルカさんはその内買い換えるんじゃ……」
「今買い換えないと、駄目なんです」
エルマ中尉の指摘に武は断言する。
武とて、伊達に実戦を経験した身ではない。
実戦で味方撃ちなどしてしまったら、即軍法会議である。
しかもハルカは扶桑を代表してきた身なのだ。
国の面子も背負っている身だと理解して欲しいと武は思った時、気づいた。
「成る程、だから父上はわざわざあんなに辞書を用意して手渡してきたのか……」
「……辞書?」
武の独り言が聞こえたのだろう、首を傾げるエルマに気づくとすぐに休暇申請をお願い出来ないかエルマに頼んだ。
「あっ、はい。事情を言えば司令部もすぐに出してくれると思います」
「あっ、あの!! 出来ればエルマ中尉と一緒がいいなって……」
ハルカの意見にエルマと武は疑問符が頭に浮かんだが、すぐに理解した。
「確かにスオムスに来たばかりだし、中尉と一緒なら道に迷わないね」
「そうですね、分かりました。 一緒に取れるように申請してみます」
善は急げと言わんばかりにミーティングルームを出て行くエルマ。
残ったのは武にハルカ、そして智子の特訓に一応参加した残りの面子だけが残った。
「ミーティングの後は歓迎会と聞いていたんだがな、あの扶桑乙女は血気盛んだな」
「でも心強いネ。ミー達が束になっても勝てないヨ」
ビューリングと一緒に智子の事を話しているグラマラスな少女の名はキャサリン・オヘア。
リベリオンから出向してきた軍人で、明るく話しやすい性格の少女だ。
一方ストーブの近くで静かに本を読んでいる少女の名はウルスラ・ハルトマン
自身はカールスラントの軍人であるから、訓練はカールスラントの教本を元にしたいと言ってエルマの頭を悩ませたらしい。
いつのまにかハルカはウルスラの隣にいて、本の内容を訊ねていたが内容がハルカには難解な内容だったらしく、乾いた笑いをしていた。
「それで、タケルは歓迎会やるかやらないかどっちに賭ける?」
「えっ……、たっ、多分今日はやらないと思う。 智子さんは自室に隠っちゃったから……」
結果は武の予想通り歓迎会は流れた。
スオムス料理をご馳走してくれる予定だったらしいが、智子さんの独断に流された結果別の航空魔女の部隊が食べることになったらしい。
だが幸か不幸かそのご馳走の中にあった、くさやよりも刺激臭が強いシュールストレミングを食べずに済んだことに武は知る由もなかった。