いきなりだが、講導館の門下生の中で武は友人がいない所謂ぼっちであった。
それもその筈、何せ男の子は1人で他は少女。
鍛錬の話ばかりではなく他の話になるとついていけなくなり、自然と孤立していたのだ。
別に誰が悪い訳でもない、男女の違いによるものゆえ仕方なかった。
そんなある日転機が訪れる。
とある少女が講導館に門下生として加わったのだ。
その少女の名は竹井 醇子。
元々気弱で偶然魔力が発現したという理由で門下生になった醇子は、中々皆の輪に入れなかったのだ。
独りぼっち同士気があったのか、武と醇子は意気投合することになった。
「醇ちゃん、軸がブレてるよ」
「え? んっと、こう?」
お互いの自己鍛錬を見せ合い、気づいたところがあれば話し合うという感じで2人は交流を深めていった。
次第にその様子に口を挟むようになった若本 徹子、その友人の坂本美緒とも交流を持つ様になり、いつしか4人で切磋琢磨する事が多くなっていった。
「せいっ!!」
「痛っ!?」
現在行われていたのは立ち合いである。
結果は徹子の見事な竹刀裁きで、武がもう何度目かわからない黒星を更新したところであった。
「どうする? 醇子と交代しても良いぜ?」
「今日こそは徹っちゃんから一本取るよ!!」
「上等!!」
若本 徹子は実に強かった。
まともに勝負出来る者は友人兼ライバルの坂本 美緒ぐらいであったが、親しくなってからは毎日何度も武は挑んだ。
鍛錬で敗北することは別に恥ではない、大事なのはそれをどのように糧にするかである。
負けるたびに少しずつ強くなっていく武の姿は他の少女達を奮起させるものであった。
「ねぇ、武ちゃん」
「ん? どうしたの醇ちゃん?」
そしてある日、醇子が武に質問を投げかけてきた。
「何で武ちゃんはそんなに頑張れるの?」
「? 戦闘脚で空飛びたいからだけど?」
「そ、そうなんだ……」
醇子がなぜ質問してきたのか分からなかった武は、醇子に聞き返した。
「醇ちゃんはどうなの?」
「私は……」
そこまで言って、醇子は黙って俯いてしまった。
何か不味いことを言ってしまったのかと不安になった武は咄嗟に醇子の顔を覗こうとした。
だが醇子は自分の顔を見られたくないのか、そっぽを向いてしまう。
「むぅ……」
完全に背中を向けられてしまった武はさてどうしたものかと考えた。
何故醇子は自分に頑張るのかを聞いてきたのか?
ウンウンと悩んだ末に、1つの答えに辿り着いた。
「……醇ちゃん。 もしかして道場やめたいの?」
その言葉にビクッと醇子は反応し、泣き出しそうな顔で醇子が振り返った。
まさか醇子が泣きそうになっているとは思いもしない武が硬直していると、醇子がポツリポツリと話し始めた。
「……あのね、私元々道場通いたくなかったんだけど、家族のみんなが立派な魔女になれって。 だから、頑張ってみたんだけど、でも上手く行かなくて……。 それに武ちゃん達はどんどん強くなってくし、私このまま置いていかれちゃうのかなって考えたら、私独りぼっちになっちゃうの……」
そこまで言って、醇子は武の胸の中に飛び込んだ。
武は一瞬驚いて醇子から離れようとするも、醇子が泣き出したので咄嗟に抱きしめた。
すると醇子はぎゅっと武の服の胸元を握りしめて泣き続けた。
醇子は気弱ゆえに不安だったのだ。
講導館の友人達が強くなっていくにつれて自分と疎遠となってしまうのが。
幸い本日の鍛錬は終わっており、醇子が相談したこの時は道場に門下生は誰もいなかった。
故に武は誰かにこの状況を打開する助けを求めたかったが、どうすることもできず途方に暮れながら醇子を抱きしめ続けることになった。
実はこの時、武達のことを1人だけ見ていた者がいた。
北郷 章香である。
彼女は道場の鍵を閉め忘れていたことを思い出し、丁度戻った時に2人の話を見聞きしてしまったのだ。
(これって、私の指導不足だよなぁ……)
2人に気づかれない場所で、頭を掻く。
薄々気づいていたことではあったが、他の門下生の指導に忙しく中々醇子に切り出す機会がなかったのである。
そのツケを門下生の1人であり、醇子と最初に親しくなった武が背負うことになってしまった。
今すぐ醇子の相談には乗りたい気持ちはあるが、今醇子に話しかけるのはかえって醇子が自分に相談を持ちかけてこなくなるのではと考えが浮かび、武にもう暫く頑張ってもらう事にしてその場をそっと離れた。
「……ごめん、武ちゃん」
「う、うん」
このような状況にを経験したことのない2人は暫く黙り込んだ。
何を話しかければ位良いのか、武が悩んでる内に醇子が口を開いた。
「武ちゃん…?」
「なっ、何?」
「また泣きたくなったら、武ちゃんに泣きついても良い……?」
「じゅっ、醇ちゃんがそれで良いなら、僕は良いよ……?」
すると小さな声で良かったと醇子は呟くと、涙を拭いて武にまた明日と言って道場を出て行った。
1人取り残された武は醇子の涙で濡れた服を見て、家に帰るまでに乾かなかったら母にどう説明すべきか悩むこととなった。