ダメダメな中隊の訓練は、主に智子主導による特訓に変わっていた。
武は主に特訓のサポートをするのではなく、サボって逃げ回るビューリングを探すことを智子に任された。
だが、探知系の固有魔法持ちでない武にその役目は重すぎた。
どうやらビューリングはこの短期間に施設の地理を把握しているらしく、武が必死に探し回っても見つからず、いつも特訓が終わる頃に顔を出してくる。
そして今回もまた見つけることができず、これは参ったなぁ……、っとため息を吐く武の元に一人の少女が現れた。
「また、捕まえることができませんでしたの?」
「アホネン大尉」
武は息を切らしながらも、少女に向かって敬礼をする。
少女の名はミカ・アホネン、階級は大尉だ。
国は違えど上官であるアホネンに武は敬意を払った。
アホネンも武『には』親しくしてくれた。
「大変ですわね、問題児ばかりの隊に配属されるなんて」
「大変……、まぁ一癖も二癖もありまね」
その後アホネン大尉のご厚意で、アホネン大尉の部隊がいる宿舎の談話室の一角を借りて、アホネン大尉と話すことになった。
アホネンの《妹達》によって用意された紅茶を武は有難く頂く
その香りは心を安らげ、疲れも取ってくれそうな香りだった。
用意してくれた妹達の一人に感謝の言葉を述べると、まるで花のような笑顔を返してくれた。
「良い人達ですね」
「自慢の《妹達》よ」
《妹達》とは血縁関係ではなく、アホネンの性的趣向で集められた少女達のことだ。
彼女の指揮する部隊の魔女で構成されており、実際の訓練を見た時の連携も素晴らしいものだった。
エルマも同じ部隊だったが、成績が振るわず、《いらん子》扱いであった。
そう、武達の部隊の構成員は皆、各国から集められた《いらん子》だったのだ。
武の場合は少し様子が違った。
珍獣が来たとかではなく、好意的な歓迎であったのだ。
何故自分だけ違うのかと問うと、どうやら扶桑海事変で自ら危険な任務に名乗りを上げた勇敢な人物だと扶桑の資料に記載してあったという。
どうやらあの時の武子さんに無断で実行した囮役が美談として記載されているらしい。
「そういえばそのマフラーが噂の『無』のマフラーですの?」
「ええ、母が編んでくれた大事な物です」
このマフラーもネウロイの弾が掠めたり海水に落ちたりと散々な目に遭い少しボロボロになってしまったが、逆に歴戦を渡り抜いたという証拠になると思い予備は使わず愛用している。
「貴方が体験した扶桑海事変、可能な範囲で教えてもらえないかしら?」
「たぶん国が公表してるのと一緒ですよ?」
「それでも良いの、貴方が見た戦場を知りたいの。私達はまだ戦争を知らないから」
談話室が静まり返る。
妹達も扶桑海事変での戦争体験を知りたいようだ。
軍人としての覚悟を決めるために。
「……わかりました。僕の知る限りを話します」
武は自分の経験したことを話した。
同胞達の戦死した様も事細かに、残された者の苦しみも。
聴いていた妹達の中には泣き出す子もいたが、構わず続けた。
そして最後は自分も無茶して墜落しマフラーに助けられたことも。
全てを話し終えて冷めきった紅茶を飲む。
気づけば側にアホネン大尉が立っていた。
何故と思った瞬間抱きしめられた。
「頑張ったのね。ごめんない、こんなことしかできなくて」
「いえ、そんなことは……」
きっと慰めてくれているのだろう。
たしかに亡くなった同胞を思い出せば泣きたくなるが、扶桑の桜の下に行けば逢える。
それでもアホネン大尉の優しさが有り難かった。
「榊原 武少尉、今日から貴方は私達の『弟』ですわ!!」
だからといって、なんでこうなった?