「どう調子は」
「あまり芳しくありません、智子さんは最悪一人でなんとかしてやるとやる気満々なんですが、他の皆がやる気がないんです」
「そう、わざと煽った意味はなかったわね」
ミカのいる宿舎で紅茶を頂いている武は、中隊の近況を報告していた。
この前ミカが調子に乗るなと言ったのは、チームワークをおろそかにしている智子に釘を打つつもりで煽ったつもりだったのだが、効果はなかった。
武も皆の練度を上げるために手伝ってはいるのだが、本人達がマイナス思考なため、効果が芳しくない。
「このまま実戦に出すには危険ですわね」
「すみません、負担を減らすために来たはずなのに……」
「別に構いませんわ。自分の国を守るのは本望ですもの。それに可愛い弟は私たちを本気で助けるために来てくれたでしょう?」
「勿論です!!」
「その気持ちを知れただけでも勇気を貰っていますわ。有事は場合によっては共闘するかも知れないからよろしくお願いしますね?」
「はい、お姉ちゃん」
短いティータイムを終えて、午後の訓練に武は向かった。
その後ろ姿を眺めてミカは呟いた。
「なぜあんないい子がいるのに息が合わないのかしらね、あの部隊」
「メガネ買い換えたんだから、いい加減一発でも当てろ!!」
「ひーん、すみませーん!!」
「エルマ中尉も早く機体の癖に慣れてください!! そんなんじゃ実戦で的ですよ!!」
「この子古すぎて癖が強すぎます〜」
今日の武はストライカーユニットを履いて、ハルカとエルマの指導を行っていた。
メガネを買い換えたハルカは少しずつ射撃精度は上がっているが、いつ実戦になるかわからない現状、心を鬼にして怒鳴り散らす。
対してエルマに対しては指導する以前の問題だった。
エルマのストライカーユニットはロマーニャのG50。
既に旧式である機体を押し付けられて使っているため同情はするが、旧式であろうと手足のように扱えなければ、待っているには死だ。
武の怒声は本日の訓練終了まで響いた。
「智子さんがイライラする理由がよく分かりました」
「でしょ?だからもうあの子達は放置して……」
「それはダメです。中隊は家族同然、忘れたんですか?」
「うぅ〜」
性行為が終わった後のトークとは言えない内容の話をしている二人。
扶桑では釘を刺されていたため引き離されていた二人だったが、ここでは監視の目はないので、頻繁に体を重ねていた。
「しかしどうすればみんなのやる気が上がるんですかね」
「知らないわよ」
武の胸に顔を埋めて不満を漏らす。
そんな智子の頭を撫でてあやす武。
最近はこういう構図で眠ることが多くなった。
「一度話し合いの場を作りませんか?」
「話し合いの場?」
「お互いに思っていることを打ち明けることで、もしかしたら改善の糸口が見えるかも知れませんし」
「じゃあ武が責任持ってね。多分私が呼びかけても全員集まるかわからないし」
「わかりました。なんとかしてみます」
そして翌日、訓練を中止し武主催の話し合いの場が設けられることとなった。
「今日みんなに集まって貰ったのは他でもない。今の中隊の現状について話し合いたい」
珍しくビューリングも集まっている。
「みんなに耳にも聞こえてはいると思うが、僕たちは“いらん子中隊“と呼ばれている。それは知っているよね」
全員が頷く。
それに対して武ははっきりと口にした。
「実際その通りだ。正直なことを話せば実戦に出れば死ぬ。智子さんは特にビューリングの友人のように」
「ちょっ、ちょっとどういうことよ!! なんで私まで……」
それ以上は言わせまいと一つの資料を武は取り出した。
「これはとある筋に頭を下げて調べ上げてもらった資料です。ビューリング少尉。貴女は個人プレーに走るあまりに仲間や隊を危険な目に合わせましたね?」
ビクリとビューリングが反応する
その反応にみんなはビューリングに注目する。
「友人は戦死、護衛する隊も危険に晒した。違いますか?」
「……あっている」
「ではなぜ今の部隊を同じ目に合わせないように努力をせず逃げるんですか?」
「それは……」
「ちょっと!! ビューリングの仲間についてはよく知らないから言えないけど、死ぬつもりはないわ!!」
「ビューリングの友人は個人プレーにこだわったビューリングを守るために亡くなっています。まるで今の智子さんと過去のビューリングが似ているとは思いませんか?」
「うっ……」
智子は反論出来なかった。
カールスラントに行きたいが為に、早く実戦でスコアを稼ぎたいと怒っていたからだ。
対してビューリングは内心智子に感じていたことを言い当てられて、動揺していた。
これは一部の人間しか知らないことだ。
なのになぜあの少年は知っている?
上とパイプがあるのか、それとも別のとぐるぐると思考が回転する。
「さて残り4人についてなんですが……」
「「な、なんでしょうか?」」
重わずハモる4人。
一体何を言われるのかと戦々恐々としていると、武はにっこりと笑顔で口を開いた。
「今までの特訓ではみんな本気で取り組んでいないことがよく分かりました。僕の先生、北郷流の厳しい特訓方法に切り替えていきたいと思います」
「ひぃぃ」
エルマとエリザベスは首を傾げたが、海軍で北郷の逸話を知るハルカは戦慄した。
「どうしたんですかハルカさん」
「やばいやばいやばいやばい……」
「なんか自分の世界に入っているネー」
「トリップしてる」
言いたいことを全部言った武は満足そうだ。
それに不満を持った智子が声を上げる。
「そういう武はどうなのよ!! あのアホネン大尉から弟とか呼ばれてるなんて、真面目に任務に当たってるの!!」
「当たってますよ。少なくとあちらとこちらの情報を共有したり、訓練内容についてアドバイス受けたりしています。決して遊んでいるわけではありません」
「じゃああの“弟”って何よ!!」
「なんか親愛の証だそうです。何度もお断りしているんですが聞いてくれないんです。エルマ中尉後の進行はお願いします。」
「えぇ!?」
投げっぱなしにするのもエルマ中尉がここの隊長だからこそである。
仲間を統率できてこその隊長職。
これくらい急に進行を任されたぐらいでうろたえられたら困り者だ。
武がかき回したお陰か、中隊内で今後をどうするかの話し合いは始まった。
後はどうなるかみんな次第だと、椅子に座り白い息を吐きながら武は晴れ渡ったしら空を眺めた。