いらん子中隊が一丸となって訓練を行う様になって一週間、ビューリングが日を追うごとに険しい顔をしている日が多くなってきた。
「マズイな……」
「何が不味いんですか?」
食堂でスオムス発行の新聞を読んでいるビューリングに、代用コーヒーを淹れたコップを渡した武はビューリングの発言が気になり尋ねた。
「あくまでも私の予想でしかないんだが、近い内にネウロイが大型の爆撃機を投入してくるかもしれん」
「大型の爆撃機ですか……?」
「そうだ。小型、中型の爆撃機を私達は連日撃退している。となると、ネウロイの次の選択肢は、カールスラントで猛威を振るっている大型をスオムスに投入して均衡を崩すそうとするに違いない」
「成る程」
ビューリングの発言に武は納得した。
現在カールスラントでは、戦闘機型に護衛された新型の大型爆撃機《ディオミディア》による被害が増えていると武は新聞で読んでいた。
激戦区であるカールスラントで猛威を振るうディオミディアがスオムス方面に投入されれば今の均衡は崩れ去り、ネウロイ側に優位が傾くに違いない。
「まぁ私の予想が当たるかどうかはどうでも良い。チームワークで乗り越えれば何も問題ないだろうしな」
「ウィッチに不可能はないでしたっけ?」
「その通り。武もこのことは頭の片隅にでも置いといてくれ。常に最悪を想定するのも軍人だからな」
「了解」
そう言って武はビューリングとの会話を切り上げ、智子の元に向かった。
智子は愛刀の手入れをしている為、真剣そのもの。
その一方では、
「これでチェックねー!!」
「ふえぇ⁉︎」
ハルカとキャサリンはチェスをしており、丁度ハルカが追い込まれたらしく声を上げている。
その横ではウルスラが分厚い本を読みながらコーヒーを飲んでいる。
そしてエルマは涙目になりながら書類と格闘していた。
武はエルマの手伝いをしようかと思ったが、やめた。
エルマの仕事を手伝うのは、エルマと同じ階級になってからの方が問題は起こらないだろうと判断したからである。
「僕も刀の手入れをしようかな?」
愛刀の手入れをするのは日課になってる。
戦闘中に弾切れを起こした際の最終手段は、刀を使用した近接戦闘だ
なので常に切れ味を落とさない様に手入れをするのは当たり前になっていた。
「智子さん、隣失礼しますね」
「良いわよー」
了承を得た武は食堂に持ち込んでいた手入れ道具をテーブルに置き、愛刀の井上真改の手入れを始めた。
それから数十分後──。
「失礼しますわ」
丁度愛刀の手入れも終わり、次は何をしようかと考えていたところに、ミカが食堂に入ってきた。
「アホネン大尉?」
「少しここで暇を潰してもいいかしら?」
「別にいいけど、何かあったの?」
智子の疑問の声にミカは口を開いた。
「ちょっと妹達以外と休息を取りたいと思いましたの」
「もしかして痴情のもつれから逃げてきたの?」
確か部隊の子達に手を出してるらしいじゃないと智子は言ったが、皆んなミカは首を振った。
「そこは上手くやりくりしてますので問題ありませんわ。単に別の部隊はどんな風に休息を取っているか気になっただけです」
そう言って空いている椅子に腰掛ける。
それを見て、武はコーヒーを淹れるとミカに差し出した。
「砂糖とミルクはどうしますか?」
「頂戴するわ」
ミカは武から差し出されたミルクポットとシュガーポットを受け取り、慣れた手つきで砂糖とミルクをコーヒーに入れる
「ふぅ、代用コーヒーは相変わらず美味しくないですわね」
「それには同意見だな」
ミカの一言に、ビューリングが賛同する。
「コーヒー豆は贅沢品ですから仕方ないですよ」
そう言って自分の分のコーヒーをカップに注いだ武は、智子の隣に座る。
「それにしても暇だわ。そろそろネウロイ来ないかしら」
「私は来ない方が嬉しいですわ」
「まぁそうね。来ない方がいいっていうのはわかっているんだけど、軍人としてはネウロイと戦うのが本分だから……」
智子とミカの会話聞きながらコーヒーを飲んで時間を潰していた時だった。
食堂のスピーカーからネウロイ襲来の警報が流れたのだ。
「行きますわよ!!」
「やるわよ皆‼︎」
二人のその言葉に全員格納庫に向かう。
格納庫に辿り着くと、すでに整備されたストライカーユニットが置かれており、各々のストライカーユニットを装着すると次々と空へと駆ける。
今回も小型や中型の爆撃機を中心とした編成だと予想していたが、今日のネウロイは様子が普段と違った。
ビューリングの予想通り、扶桑海事変で戦ったアホウドリよりも大型なディオミディアが現れたのだ。
「こりゃアホウドリとは比べものにならないデカさだ」
実物を見て、武は思わず呟いた。
セオリー通りに、取り巻きのラロスは智子達が注意を引きつけていたが、アホウドリとは違ってハリネズミのように機銃が備わっているディオミディアに、アホネンの率いる部隊はどうすることもできず、困り果てていた。
「ヘルプミー!!」
大型ネウロイの対空放火に巻き込まれたキャサリンを救う為、武はキャサリンを狙っていた機銃座を破壊して、キャサリンがディオミディアから距離を取る援護をする。
「キャサリン、怪我は⁉︎」
「大丈夫ね、サンキュー武!!」
皆奮戦するが、ディオミディアを結局撃墜させることはできず、取り巻きを減らして撤退させることしか出来なかった。
「──というわけで、大型爆撃機ネウロイ、ディオミディアを撃墜する作戦を練る為、アホネン大尉の部隊と合同でブリーフィングを行う事になりました」
エルマの説明に異議を唱える者は武も含めて誰もいなかった。
アレを野放しには出来ない。
アレは激戦区であるカールスラントでも猛威を振るう大型ネウロイなのだ。
誰もがディオミディア撃墜させなければと心が一つになっていた。
「──それでウルスラ、見せたいものって何?」
合同ブリーフィングが始まる前に武達をウルスラが集めた。
智子が理由を求めると、ウルスラは一つの兵器を持ってきた。
「何ですかコレ?」
「私が試作した空対空ロケット。これならディオミディアを落とせるかもしれない」
ハルカの問いにウルスラは簡潔に答えた。
「毎日ウルスラの部屋で爆発音がするのは、もしかしてこれを作っていたからなの?」
智子の問いに、ウルスラはコクリと頷く。
「なら早速合同ブリーフィングで提案してみるねー」
キャサリンの言葉に全員が頷いた。
「──成る程、確かにそのロケット砲で風穴開けて内部の弾薬庫を撃てばディオミディアも撃墜できますわね」
合同ミーティングに持ってきたロケット砲を見てミカは感心していた。
だが妹達の1人が声を上げた。
「ですがお姉様、あのハリネズミのような機銃座を壊さないと近づけません」
うんうんと他の妹達も頷いている。
その様子を見て、武はアホネンに進言した。
「アホネン大尉、機銃座に関しては俺とハルカで無力化出来るかもしれません」
「武、それは本当?」
「俺とハルカの武装、20ミリなら機銃座を潰せます」
「何故潰せると言えますの?」
「先のディオミディアとの戦闘で、オヘア少尉を助ける際にディオミディアの機銃座に向けて発砲したところ、機銃座の破壊に成功しました。これはオヘア少尉も見ています」
「確かに武が銃座を一つ潰したのを見たねー」
「成る程。そうなるとディオミディアは貴方達に任せた方が良さそうね」
「そうなると、いつもとは逆の立ち回りになるな」
ビューリングの言葉にアホネンは頷き話を進める。
「兎も角空対空ロケットが確実に命中する射程まで貴方達が距離を詰める策を考えないといけませんわね」
「それに関しては私に考えがあるわ」
智子は自信満々に策を皆に説明した。
その内容にエルマやハルカが戸惑っていたが、智子の策以外に代案がない為、智子の策が採用された。
そしてその策を実行する時が来た──。
「本当に大丈夫なのかな?」
皆の先頭を飛ぶ武は呟いた。
智子の策はいたって単純なものだ。
銃座の砲撃に一人では魔法障壁が持たないのなら、一列に並んで魔法障壁を重ねれば良いというものだ。
「行くわよ皆!!」
智子の掛け声と共に、ディオミディア目掛けて武達は一列に並んで飛ぶ。
銃座のによる弾丸の雨を障壁で受け止めながら、ディオミディアに近づいていく。
「武、ハルカ!!」
智子からの合図で、武とハルカはディオミディアの機銃座へ発砲する。
20ミリによって潰れていく機銃座を尻目に次々と二人は機銃座を無力化していく。
「ウルスラ、今よ‼︎」
その言葉と共に、ウルスラはロケット砲の引き金を引いた。
ロケットは白い煙を吐いて、ディオミディアの胴体に当たると赤い爆発を起こして胴体中央に風穴を開けた。
それを見て智子と武は胴体の中に入り、弾丸をばら撒く。
弾丸はディオミディア内の爆弾に当たり、次々と誘爆を引き起こした。
咄嗟に武は智子を抱きしめ魔法障壁を全力で展開すると、ほぼ同時にディオミディアが爆発四散した。
「……成功したのは良いですけど、これ結構無茶な作戦でしたね」
「撃墜することが出来たんだから良いじゃない」
煙の中から出てきた武と智子はお互いの無事を確認してビューリング達の待つ場所まで飛んだ。
「ご苦労さん」
「そっちこそお疲れ様」
ビューリングの労いの言葉に智子は返事を返す。
これで当面の脅威が去ったと言えるだろう。
全員がお互いの無事を確認した後、撤退を始めたネウロイを深追いせず、ミカの部隊と共に基地に戻った。
基地に帰ると歓喜の声に包まれた。
カールスラントでも猛威を振るっているディオミディアを落としたのだ、基地の皆が歓喜の声を上げるのも仕方ないだろう。
「おめでとう、武」
「お姉ちゃんがラロスの注意を引き受けてくれたお陰ですよ」
ミカの言葉に武は謙虚に答えた。
実際ミカの部隊がラロスの注意を引き受けてくれたお陰で成功したのは事実である。
ミカの妹達からも労いの言葉を受け取り、食堂へ戻る。
武が中に入ると、すでに戻っていた皆が歓喜の声を上げていた。
皆で勝ち取った勝利なのだ、嬉しさも倍増だろう。
その日は互いの健闘を称え合い、夜遅くまで武達は勝利の宴を続けた。