「武さん、なんでそんなに智子さんと仲が良いんですか?」
「ん? 気になるの?」
ハルカの問いに聞き返す。
「はい、気になります」
「と言われても、自然に仲が良くなったとしか言えないんだけど?」
そういえば、初めて顔合わせした時は武の顔が中性的だった為、女の子と間違われてショックだったんだよなぁと武はあの頃を思い出した。
それ以降会話するのを避けていたが、その後も根気強く話しかけてくる智子に根負けして少しずつ親交を深めていき、いつしか側から見れば仲の良い姉弟の様だと言われるくらいの仲になったのだと懐かしんでいると、ハルカが武を見つめて溜息を吐いた。
「良いなぁ、武さんは智子さんと仲良く出来て。 私はお近付きになりたい気持ちが溢れて思わず智子さんの臀部を撫でたら拳骨が……」
「何やってんの⁉︎」
思わぬカミングアウトに武はツッコミを入れた。
最近智子がハルカを避けているなと武は薄々気づいてはいたが、その理由が分かり軽く目頭を押さえた。
「その行き過ぎたスキンシップは嫌われても仕方ないと思うよ、常識的に考えて」
「そんな!? じゃああのたわわに実った胸を後ろから触るのも……」
「駄目だよ」
「そんな⁉︎ お慕いしている思いが溢れただけなのに‼︎」
慕っていることは輸送船で欧州に向かう間、智子を見つめている姿を度々目撃していたので武も気づいていたが、知らぬ間にハルカがスケベジジイの如く智子のお尻をお触りしていたとは思ってもみなかった。
「兎も角智子さんと仲良くなりたいなら、まずそのスケベ行為をやめたr「無理です」」
「えぇ……」
「あぁ智子さん……。 智子さんのあの美しい肢体を隅々まで舐め回したいですぅ」
「うわぁ……」
武は思わず一歩引いた。
恐らくハルカの口から出た言葉は冗談ではなく本音であるのは間違いない。
これは智子がハルカから距離を置くのも頷ける。
武がハルカにドン引きしている一方で、ハルカは悶えながら妄想の世界に飛び立っていた。
もう関わらずにそっとして置こうと武が自室に移動しようとした時だった。
「あっ、いたいた。武、今暇?」
「智子さ「智子さん‼︎ベッド行きましょうベッド‼︎」」
「ヒィ⁉︎ はっ、ハルカ⁉︎」
ハルカに気付いた智子は一目散に食堂から走り去る。
それを見て、逃しはしないとハルカは智子を追いかけて食堂から走り去った。
「……智子さん、ご愁傷様です」
そう言って武は代用コーヒーを飲み干して自室に戻った。
-その日の夜-
武が父から渡された辞書片手に独学で他国語の勉強をしていると、慌ただしく自室のドアをノックされた。
武がドアを開けるとノックの主である智子が立っていた。
「武、悪いけど今夜は貴方の部屋にお邪魔して良いかしら?」
「泊まるのは別に構いませんが、何かあったんですか?」
武は服が乱れ息も少し荒い智子を部屋に招き入れた。
武のベッドに座って呼吸を整えた智子は武の部屋に来た理由を包み隠さず打ち明けた。
「さっきまで自室のベッドで寝てたら、ハルカに襲われそうになったから逃げてきたの」
「え、ちょ、本当ですか?」
自室に来た理由を聞き、耳を疑った。
ハルカに夜這いする度胸があるとは武は思わなかったからである。
「本当よ。もう少し起きるのが遅かったら身体の隅々まで犯されるとこだったわ」
「それは危なかったですね。でもなんで僕の部屋に来たんですか?」
智子は枕を抱きしめながら、武の問いに答えた。
「他のメンバーの部屋に逃げ込もうと思ったんだけど、それだとすぐにバレると思ったのよ」
「他のメンバーの部屋にいないと判断したら、俺の部屋にも探しに来ると思いますよ?」
「たぶんだけど、私が男性の部屋に逃げ込むとは思ってないはずよ」
「そうとは限らないんじゃないですか?」
するとドアをノックする音が聞こえた。
咄嗟にベッドの下に逃げ込んだ智子を確認してから、武はドアを開けた。
ノックした人物は誰だろうと確認すると、息の荒いハルカが立っていた。
「武さん、智子さんが来ませんでしたか?」
「いや来てないけど、どうかした?」
武は咄嗟に嘘をついた。
するとハルカは顎に手を当てその場で考え始めた。
「うーん。中隊の誰かの部屋に転がり込んでると思ったんですが、もしかしてアホネン大尉のとこに逃げたのかなぁ……?」
「何があったのか知らないけど、今勉強中だから帰ってくれないか?」
「……勉強ですか?」
「そう、勉強。扶桑からスオムスに赴任する前に父親からブリタニア、カールスラント、ガリア、ロマーニャ、オラーシャ、スオムスの辞書を手渡されたんだよ、全部覚えろって」
「そうなんですか⁉︎ すみません、お邪魔しました‼︎」
ぺこりと頭を下げると、ハルカは自室のある方向に去って行った。
どうやら智子を探すのを諦めたらしい。
武は静かにドアを閉めて智子に声かけた。
「どうやら自室に戻ったみたいですよ」
「本当?」
ベッドの下から這い出た智子は溜息を吐いた。
「助かった〜」
ボフンっとベッドに大の字に寝た智子は武に声をかけた
「ありがとう、武。 まさか武の部屋に来るとは予想外だったわ」
「僕が指摘したことが当たりましたね」
「そうね。私の考えが甘かったわ」
胸に手を当て呼吸を整えてる智子を尻目に武はドアの鍵を閉める。
「さてと、智子さんも自室に戻りますか?」
「私の部屋に戻るには、ハルカの部屋の前を通るから、戻るとまた襲ってくると思うの」
「そういえばそうでしたね。じゃあどうします?」
「そうねぇ……、今晩は武の部屋に泊まっても良いかしら?」
「良いですよ」
そう言って武は椅子に座り、辞書片手に勉強を再開する。
四苦八苦しながら勉強をしている姿を見て、智子は武に話しかけた。
「大変そうね」
「実際大変ですよ。6カ国覚えろって辞書渡してきた父親が憎いです」
「じゃあやめたら?」
「一度はやめようと思ったんですが、途中でやめるってのはなんか勿体ないなぁって思ったんで、今も続けてるんです」
「ふーん、そうなんだ。頑張ってね扶桑男子」
「はい、頑張ります」
智子の声援を受け、就寝時間が来るまで武は勉強を続けた。
そして就寝時間になった時、武は気づいた。
「ベッド一つしかないんだった……」
既に夢の中に旅立っている智子が占領しているベッドに添い寝するか、床で寝るかの二択が浮かんだが、冬のスオムスで床で寝るのは自殺行為である。
故に武は智子が眠っているベッドで眠ることにした。
「なんだろうこの感覚。 まるでやっちゃいけないことをやってるみたいでドキドキする」
この状況を男性軍人が見ていたら、命が危ないことになっているだろう。
だが幸いにも武を除いた男性軍人はそもそも宿舎が違うため、見つかることはないのだが、この現状に武は興奮していた。
「智子さん、隣失礼しますね」
そっと智子を起こさないように静かに布団の中に入る。
するとまるで待っていたかの様に智子は武を抱きしめて、自身の胸に埋めた。
「とっ、智子さん⁉︎」
もしや起きているのではと武は声をかけたが返事はない。
がっちりと抱きしめられて逃げ場のない武は、仕方なくその状態のまま眠ることにした。
-翌日-
起床のラッパが鳴る前に武は目覚めた。
隣にはまだ夢の中の住人になっている智子が居た。
「智子さん、朝ですよ」
智子の肩を揺すったが起きる気配がない為、智子の耳元で囁く。
「起きて下さい智子さん。起床のラッパがもうすぐ鳴りますよ」
「うーん……。 あ……れ……? あぁそっか、 昨日は武に泊めて貰ったんだっけ」
ようやく目覚めたのか、智子は目をこすりながらベッドから起き上がる。
「急いで自室に戻ってください。ラッパが鳴る前に戻らないと……」
「わかってる。ありがとう武。この借りはいつか返すわ」
そう言い残して智子は出来るだけ音を立てないようにドアを開けて、自室に戻って行った。
それを見届けるとベッドに横になり、彼女の残り香が残る枕に顔を埋める。
「あ、なんかこの匂い落ち着く……。 って、何やってんだ僕は⁉︎」
まるでハルカじゃないかと、起床のラッパが鳴るまで武は自己嫌悪に陥った。