「うわぁ……」
朝一番にスオムスの高官からの命令で執務室に呼ばれた武は、思わず顔を引きつらせた。
来客用のテーブルに山のように積み上がった【ソレ】の中から適当に抜いたモノの中身を確認する。
武が見ている【ソレ】の正体は、各国の美女・美少女の写真が貼られている所謂お見合い写真であった。
積まれている冊子の中からいくつか見てみると、航空魔女で現役の少女や上がりを迎えた女性、更には陸戦魔女などバリエーションに富んでいる。
「沢山届いていますが、全員とお見合いするんでしょうか?」
「それは榊原少尉の軍務に支障が出るので、榊原少尉が気に入った方とだけお見合いする事になる」
「もう一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「何かね?」
「扶桑に居る方とお見合いする事になると、自分は扶桑に帰還する事になるんですか?」
「そうなるな」
武はその言葉を聞いて頭を抱えた。
恐らく扶桑に戻れば二度とスオムスに戻れないだろう。
つい最近までスオムスはネウロイと交戦することは無かった。だが今は小規模であるが既にネウロイと交戦し戦場となった。
武は男でありながら魔法を扱える貴重な存在。
扶桑は戦死や他国に引き抜かれない様にお見合いを口実に武を自国に戻し、そのまま武を囲っておきたいだろう。
それに対して欧州の国々は、武を自国に迎える事は無理でも武の子種で生まれた子が母と共に故郷に帰ってきてくればいいと考えているのかもしれない。
「分かりました、これ全部持っていきます」
既に智子とエルマという存在が自分の恋人みたいな存在な為、お見合い写真は暖炉に投げ込んで薪代わりにしようかと一瞬頭に浮かんだが、それは送ってきた人達に失礼という思いが浮かび、取り敢えず食堂に持っていくことにした。
「よいしょっ、と」
「武、その山の様に積んだソレは一体何だ?」
声の主はビューリングだ。
煙草を吸いながら興味有りげに武に話しかけてきた。
「僕宛に送られたお見合い写真です」
「……多くないか?」
実際多い。
数えてはいないが、取り敢えず見合い写真をテーブルに置いて、武は椅子に座った。
「ビューリング」
「何だ?」
「これ全部目を通したほうがいいのかな?」
「知らん」
ビューリングにバッサリとあしらわれた武は適当に一冊抜き取り写真を見た瞬間思わず声を上げた。
「江藤中佐⁉︎」
正確には扶桑海事変の後、陸軍を辞めたと耳にしたので元中佐なのだが、まさか彼女がお見合い写真を提出していたとは寝耳に水だ。
「もしかして……」
扶桑から送られてきたお見合い写真を見ていくと、とある共通点があった。
「扶桑のお見合い候補は扶桑海事変に参戦したウィッチが選ばれているのか?」
忘れもしない、武が初めて本当の戦争を味わった戦いに参戦していたウィッチ達だ。
恐らく陸戦ウィッチも、陸主導で行われた大反攻作戦に参加していたウィッチ達だろう。見たことのある人達の写真が幾つかあった。
「どうかしたか?」
「いや、ちょっとね。知人の写真があったから驚いただけだよ」
「ふーん……」
武の返事で興味を無くしたのか、ビューリング再び煙草を咥えて雪降る外の景色を眺めた。
武は数冊見てみたが、戦地から離れる意思はないので、取り敢えず軍部になにか適当な理由をつけてお見合いを断れないか考えている時だった。
「あれ? 江藤中佐じゃない」
いつの間にか智子が来ていた。
興味有りげに江藤元中佐の写真が貼られた冊子を見ている。
「智子さん、江藤さんは軍を辞めたんで元中佐ですよ」
「え? 初耳なんだけど⁉︎」
「僕は北郷先生の手紙で知りました。 明野の飛行場の近くで喫茶店経営してるらしいですよ」
「手紙? 文通でもしてるの?」
「はい。智子さんが北郷先生と連絡を取り合ってると聞いて、僕も最近始めました」
「へー、そうなんだ……。相手は誰?」
「父です」
「ん? お母さんとは連絡取らないの?」
「手紙に書く内容が必然的にスオムスの戦況について書くことになるので、検閲を避けるために父宛に書いているんです」
「今さらっと捕まりそうなこと言わなかった?」
「バレなきゃ問題ないんですよ。バレても証拠になりそうな物は全部灰になってますから」
「なるほど、私の過去を知っていたのは親の力を使ったからか」
口からタバコの煙を吐き出し、武を一瞬睨みつけた後タバコの吸い殻
を吸い殻入れに捻じ込んで火を消した。
「ゴメン、ビューリング。勝手に過去を掘り返したこと悪いとは思ってる」
「いいさ、代わりに扶桑の酒かタバコをくれたら許す」
「善処するよ」
「仲が良くなるのは良いことだけど、結局誰とお見合いするの?」
智子は一冊手に取り武に尋ねる。
尋ねられた武は眉間に皺をつくって暫く悩んだ末、智子の問いに答えた。
「どうすれば良いか分かんないです」
「なにそれ、優柔不断? こういうのは何人か選んで全員に御縁がありませんでしたってお断りすれば良いじゃない」
「それで済めば良いんですけど……」
「焦ったいわね、扶桑男子なんだからしっかりしなさい」
「横からすまないが、扶桑の法律では武は結婚する年齢なのか?」
横から口を挟んだビューリングの発言に智子と武は顔を見合わせた。
「違うわ」
「ならそれを理由に断れば良いんじゃないか」
「「成る程」」
早速電報送ってみますと武が部屋から出て行くのを見届けたビューリングは智子見て一言言った。
「結婚が無理なら婚約者だけでも決めろと上の連中に命令されたらおしまいなんだけどな」
「それ早く言いなさいよ‼︎」
武を追って智子も部屋を出て行った事で一人になったビューリングは、やっと静かになると言って新しいタバコに火をつけて咥えた。
「ふふっ、武が淹れたコーヒーは美味しいわね」
「うー、あー」
現在武はミカと一緒に食堂でティータイムに洒落込んでいた。
だが優雅に代用コーヒーを飲んでいるミカとは違い、武はミカの隣でテーブルに突っ伏して唸っていた。
「それで扶桑の軍部にどこまで譲歩してもらったの?」
「リバウにいるウィッチとだけでもお見合いしろと言われました」
「リバウ……。確か扶桑の活動拠点になっている街よね」
「はい。しかも明日輸送機でリバウに移動してお見合いをしろとありがたいお言葉を貰いました」
「あらあら、モテる殿方は大変ね」
「今は婚約者を決める気はないと言ったら泣かれるのではと考えると胃が痛いです」
ちびちびとコーヒーを飲む武を見てミカは微笑えむ。
「ならこれを機にハーレムを作るのはどう?」
「お姉ちゃんみたいに愛が大きくないから無理です」
「でも各国があなたの行動を注視しているのは間違いないわ。 あなたが扶桑のウィッチとお見合いをしたと聞けば、各国からハニートラップが来るでしょうね」
「……むぅ」
唸る武を眺めながらミカは話を続ける。
「知ってる? うちの妹達があなたが毎朝トレーニングしている姿を隠し撮りした写真が高値で売れてること」
「はぁ⁉︎」
「今は私がお灸を据えたから隠し撮り写真は出回ってないけど、既に撮られた写真の焼き回しの一部はカールスラントやブリタニアに流れたらしいわ」
「自分は撮られるほどの価値ってあるんですか?」
「あるわよ」
武の疑問の声に対してミカはキッパリ答えた。
「あなたは自分が何者なのか気づいている?」
「えっと……、男性のウィッチです」
「だからこそあなたはウィッチ達の注目の的なのよ」
「どうしてですか?」
「あなたは唯一ウィッチと肩を並べて空で戦える存在だからよ」
「空で肩を並べて戦えるのは戦闘機乗りも出来ますよ」
「そうね。でも戦闘機乗りは手を取り合って戦うのは限界があるわ」
「限界……」
「もしもの話なんだけど、私が負傷して墜落しているのを見たら武はどうする?」
「助けます」
「でも戦闘機乗りは助けられない。戦闘機は墜落するウィッチを救出する様に設計されていないから」
コーヒーを飲み干すとミカは話を続けた。
「貴方、扶桑のプロパガンダ映画に出演してたでしょ? あの映画は扶桑だけじゃなくて海外でも公開されていたの。その映画のワンシーンで貴方が負傷して気を失い墜落していくウィッチを助ける場面は現役のウィッチには、白馬の王子様に見えたそうよ」
「白馬の王子様……」
武が想像したのは紋付き袴で白馬に乗った自分の姿だった。
「私の妹達も貴方がスオムス来るのが判った時、黄色い歓声を上げていたのよ?」
「初耳です」
「聞かれなかったからよ」
そう言った後、カップに残っていたコーヒーを飲み干したミカは、また時間がある時に話しましょうと言い残して食堂を退出した。
1人残された武は、どうすれば上手く収まるんだろうと頭を抱えてテーブルに突っ伏した。