「それじゃあ行ってきます」
「ちゃんと断るのよ」
「……努力します」
「そこはちゃんと全部断りますって言いなさいよ‼︎」
「お土産待ってマース‼︎」
「扶桑の酒も忘れるなよ」
いらん子中隊の面々の見送りに感謝し、武は輸送機に乗り込む。
輸送機のエンジンが動き出したと同時にシートベルトを装着して、気合いを込めて両頬をパンパンと叩く。
遂にリバウへ出発する日が来た。
武はお見合いでお断りの言葉を言う予定だが、相手は美女美少女。
気づいたら婚約者が出来ましたなんて事態にならないように気をつけないといけない。
相手を怒らせる可能性は承知の上だ。
武の愛する人は2人。
これ以上ミカのようにハーレムを築くのは武には無理だ。
だから自分の意思を貫き通す。
そう心に誓って武は眠りについた。
待ってる相手が強敵すぎることを知らずに……
「榊原少尉、リバウに到着しました」
「ふぁあ……、ありがとうございます」
あくびと伸びをして武は目を覚ました。
どうやら何事もなく無事にリバウに着いたようだ。
シートベルト外し、タラップを降りる為にハッチを開けようとした時だった。
「なっ⁉︎ けっ、圭子さん⁉︎」
ドアの窓から見えた人物は圭子だった。
武は慌ててハッチを開けてタラップを降りる。
「うんうん時間通りね」
「なんでここにいるんですか圭子さん‼︎」
「ん? お見合いに保護者は同伴なのは常識よ? 何か間違ってる?」
「いや圭子さんは僕の保護者じゃない、じゃなくて‼︎ 怪我はどうしたんですか⁉︎」
圭子は扶桑海変の後、戦勝パレードで曲芸飛行を披露した際に墜落し重症を負って意識不明だった筈だ。
だが圭子はまるで何事もなかった様に元気な姿でタラップ前で武を待っていた。
「小さな診療所の女医さんが怪我を治してくれてね、この見合いに顔を出すことが出来たのよ」
あっけらかんと武の質問に答えるとついて来いとジェスチャーする。
武は圭子の後ろをついて行くのに不安を感じた。
以前暴走した圭子達に無理矢理女装した姿の写真を撮られた経験が警笛を鳴らしている。
絶対に何か企んでいるはずだと武はゴクリと唾を飲み込み警戒しながら圭子の後ろをついて行く。
「智子さん今何してるんだろう……」
武が思わず小声で漏らした言葉にピクリと圭子が反応したことに気づかず、俯きながら武は圭子の背中を追ってリバウの基地内へと入っていった。
急ごしらえのスオムスの飛行場に比べ、リバウの飛行場はそれなりの規模を誇っていた。
規模が大きいと言う事はウィッチの数も比べられないほど多い。
武がウィッチの横を通りすぎる度に黄色い声が聞こえた。
うんざりして溜息を吐きそうになった時、圭子が口を開いた。
「そういえば見合い写真には全部目を通したの?」
「いいえ、扶桑から送られてきた写真の半分しか見ていません」
「そっかぁ……。まぁ一方的に送りつけたやつだからね、ほら着いたよ」
着いた場所は応接室だった。
失礼しますと一言言って中に入ると、人は1人も居なかった。
ソファーも無くガランとした部屋に首を傾げて振り返ると、圭子がドアを背に立っている。
まさかと思い、武は恐る恐る圭子に聞いてみる。
「圭子さん、なんでドアから離れないんですか?」
「さぁ、どうしてだと思う?」
「圭子さんもしかして……」
その時だった。
コンコンとノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
圭子が了承の声を上げてドアを開けると、ぞろぞろと民間人が女性物の衣装を次々と運んできた。
「お見合いじゃないんですか⁉︎」
「その前にちょっとだけ時間貰えるかしら? 上の命令で貴方の女装写真撮ることになったのよ」
「ぜっ、絶対に嫌です」
「此処では私が貴方の上官なの。 だから命令に従ってもらうわよ」
「ちょっと、うわぁ⁉︎」
圭子が武を拘束した隙に民間人が手早く顔に化粧を施し、女性物の服を着せた。
「これ陸の巫女服じゃないですか‼︎」
「相変わらず中性的な顔つきだからよく似合っているわよ」
「そんなこと言われても嬉しくないです‼︎」
「じゃあカメラで撮るわね」
「やめて‼︎」
着せ替え人形の様に次々と衣装を変えては写真を撮られ、気づけば夕方になった頃撮影は終わった。
「素材が良いと撮影のしがいがあったわ。ありがとね、武君」
「酷いです。無理に抵抗しない様に民間人を応接室に入れるなんて……」
「広報から頼まれちゃったのよ。武君の女装ブロマイドって軍部、民間問わず人気だから……」
「それでも丸一日撮影に使うなんて、お見合いはどうなったんですか‼︎」
「お見合いは明日よ。良家のお嬢さんが相手だから楽しみにしていてね」
「うぅ……」
用意された部屋に入ると武はぐったりとベット倒れ込んだ。
二度と撮らせてなるものかと幼心に決めていた女装写真を再び撮られたショックで、そのまま深い眠りについた。
翌朝、武は女装写真を撮られた応接室で見合い相手が来るのを圭子と共に待っていた。
「……来ませんね」
「……来ないわね、ちょっと様子見てくるわ」
予定の時間をとっくに過ぎているのだが、一向に来る様子がない。
業を煮やした圭子が席を立って呼びに行こうとしたその時だった。
「すみません遅れました‼︎」
ノックをして現れたのは、振袖姿の懐かしい少女だった。