「すみません遅れました‼︎」
息を切らしながら部屋に入ってきたのは、扶桑海事変で共に戦い抜いた戦友、竹井醇子その人だった。
「お見合いの時間のことなら問題ないわよ」
「よ、よかった……」
圭子の言葉に醇子は安堵の表情になる。
息を整えながら入室してきた醇子見て、振袖と化粧をした事で凛として咲く一輪の花の如く輝いていると武は思った。
「それじゃあ改めて自己紹介しましょうか?」
「あっ、はい! 竹井醇子少尉であります」
「さっ、榊原武少尉であります」
「ちょっと、今日はお見合いなんだから硬い挨拶はダメよ」
「「すっ、すみません」」
軍人らしく固い挨拶をする武と醇子に、圭子はダメ出しをする。
「挨拶が一応終わったし、何か気になることがあればどんどん聞いてみなさい」
「そう言われましても……」
醇子とは講導館の門下生時代からの友人の為、ある程度お互いの事を知っている関係である。
武は頬をポリポリと掻いて少し悩む素振りをした後、覚悟を決めて口を開いた。
「醇ちゃんあのさ、このお見合いなんだけど……」
「お見合いがどうかしたの?」
「……いや何でもないよ。醇ちゃんはどうしてこのお見合いに参加してくれたの?」
「お父さんやお祖父ちゃんの薦めもあったけど、本当の動機は武ちゃんを支えたいって思ったから」
「え」
「お父さんから聞いたの。武ちゃんの人生は周りの人に監視され続ける人生だって」
「監視……」
醇子の言葉に武は押し黙った。
陛下の御言葉がなければ、武は軍人として生きてはいないだろう。
おそらく日常生活を国に監視され、多くの女性と強制的に娶らされて扶桑から動けなくされたかも知れない。
「きっと武ちゃんは優しいから、お見合いに参加した女性が好きでもない自分と夫婦になるのは可愛そうだと絶対断るだろうって分かってるから……」
「……」
「武、本当なの?」
圭子は真相を知るべく、武に問いかける。
「はい、今日のお見合いは全部お断りするつもりでした」
「理由聞いても良い?」
「……好きな人達がいるんです」
「【好きな人達】ね……、 その人達は扶桑の人? それともスオムスの人?」
「スオムスで待っているんです。それに個人的にハーレムは扶桑男子としてどうなのかと考えた末に分かったのが、僕にはハーレムの主になるのは無理だと……」
「なるほど、それで見合いを断ることに至ったのね」
「……はい」
「武君、悪いけど今回のお見合いで最低1人は婚約者を決めてもらうわ」
「どうしてですか」
「それは武君、貴方が一番知ってるんじゃないの? 気付いていない振りをしてもダメよ。貴方は受け入れなければいけないの」
その言葉に武は右手で握り拳をつくると、左手で包み込み目を伏せる。
自分が男のウィッチである事がこんなにも生きづらいものなのかと拳に力が入る。
「軍部上層部は今まで陛下の御言葉に従って来たけど、今回ばかりは他の国に貴方を取られる心配をしているの。分かるでしょ?」
「どうしても婚約者を決めなきゃダメですか?」
「絶対決めなきゃ駄目。じゃないと強制的に扶桑へ帰国してもらうわ」
「そんな……」
「武ちゃん、提案があるんだけど」
「醇ちゃん?」
武に提案があると言った醇子は覚悟を決めた真剣な表情だった。
「私を武ちゃんのお嫁さんにして‼︎」
「だっ、駄目だよ醇ちゃん‼︎ もっと自分を大切に……」
「私は本気だよ‼︎ 本気で武ちゃんを支えたいって思ったから此処にいるの‼︎」
「その気持ちは凄く嬉しいよ、でも僕は智子さんとエルマ中尉と添い遂げたいんだ」
「ハーレム無理って言った割に2人もお嫁さん候補いるのね」
「うっ」
圭子の指摘に喉を詰まらせた武は言葉を失った。
「武君、貴方を本気で貴方を好きでいてくれる子を大事にして」
「そんな事分かってます‼︎ でも自分の人生を政府と軍部に握られていることに苛立ちが湧いてくるんです」
その時だった。
そっと武の両手を包むように差し出された手の存在に気づいたのは。
醇子が圭子と話してる間に隣に移動していたのだ。
醇子は両手で武の左手を包み込むと、自分の胸に引き寄せた。
「私は何番目でも良いよ、無理に愛してと言わない。その代わり側に居させて」
「どうして醇ちゃんはそんな事言えるんだよ‼︎ 誰だって一番になりたいって思うのが普通だよ‼︎ どうして……」
「何度でも言うよ武ちゃん。 私、竹井醇子は貴方の事が好きです。講導館で一緒に鍛錬してた時からずっと貴方のことが好きです」
「醇ちゃん……」
醇子は満面の笑顔だった。
武は思わず抱きしめた。
「ごめん、醇ちゃん。僕は……」
「これから時間をかけて好きになってくれたら私はそれで幸せだから、だから私を選んで」
武は更に強く抱きしめた。
暫くの抱擁の後、武は圭子の方を向いて宣言した。
「僕は竹井醇子さんを婚約者に指名します‼︎」