※この作品はR-18です。

「無」のマフラーを身に纏う   作:モブ猿

4 / 31
第4話

 修行内容に章香と2人っきりでの固有魔法制御の特秘密訓が追加された武は、遂に空を飛んだ。

 練習機を使用した飛行訓練が開始したのである。

 初めは上手く飛べず失敗も多かった。

 だが自力で空を舞った時、武は深い感動を覚えた。

 誰かの力を借りたものではない、自力での飛行。

 だが、あくまでこれは訓練。

 民間機で自由に飛んでいる訳でない。

 国民の血税で飛んでいるだ、それ故に個々に与えられた時間は短い。

 武は許された時間内で可能な限り濃密な訓練内容にする為、座学や先人であり自分の師でもある章香の教えを確実に実行していった。

 

「武は飲み込みが早いな」

 

 そんな武の成長を章香は嬉しく思った。

 固有魔法も安定した供給が出来るようになってきている。

 あの激しい体験をもう一度と味わいたい気持ちが心の隅にあったが、もし次があれば間違いなく武に依存してしまう確信があった。

 

 アレは危険だ。

 

 恐らくあれは“上がり”が近い者、もしくは上がりを迎えた者にとっては最高の“餌”だ。

 初めての供給を受けた後、自慰行為はしたものの体調が数日すこぶる良かった。

 身体中に魔力が溢れて、発散するには数日かかるほどの好調ぶりに驚かされた。

 故に、武には固有魔法の全力使用は自分の許可なく実行すること禁じた。

 あれを軍上層部に知られれば、きっと武は空を飛べなくなる。

 おそらく上がりを迎えるその瞬間まで、魔女に魔力を供給するだけの“道具”になってしまうだろう。

 心のそこから楽しそうに空を飛んでいる武のあの顔を曇らせたくない。

 

 故に報告書にも人体に対する魔力供給は少量のみと記載し、上に提出した。

 これで本当に良かったのか、章香には分からない。

 章香は今年で19歳。

 来年には上がりを迎える。

 彼は章香の元を巣立ち、自分で立ちはだかる様々な困難に立ち向かうことになる。

 まだ若い彼にそれを乗り越えてもらうのはきっと想像出来ないほど困難なものだろう。

 きっと全力で固有魔法を使う日が来るかもしれない。

 その時彼はどう立ち向かうのか、可能ならば側で見たいと思うのは贅沢な悩みなのだろうか?

 そろそろ次の子との交代の時間が迫っている。

 武に帰還するよう告げるために、章香は無線機に手を取ったーー。

 

 

 

 それはきっと空を飛ぶことが出来たことと引き換えに、自分に与えられた宿命なのだろうと武は思う。

 

 怪異が舞鶴に姿を現したのだ。

 

 多くの者が飛行訓練の習熟度が基準を満たし始めたある日、飛行場にサイレンが鳴り響いた。

 怪異出現を知らせる放送が鳴り響く。

 

「回せー‼︎」

 

 その言葉と共に飛行場は慌ただしくなる。

 現在舞鶴飛行場でネウロイに対抗できるのは、北郷 章香及び航空魔女候補生十数名である。

 数の上では優っていても、候補生は戦闘経験の無い者ばかりである。

 最悪数人は“落ちる”だろう。

 冷静にそして冷徹に北郷は判断を下した。

 

「武、君は待機だ」

「……え?」

 

 既に準備を終えて、あとは離陸するのみの状態の武にとっては寝耳に水である。

 扶桑男子たるもの、この日のために幼いながらも皆と共に心身を鍛えてきたのだ。

 無論抗議の声を上げるが、章香は却下する。

 戦闘脚を扱える唯一の男。

 それは章香達とは比べ物にならないくらい遥かに価値がある人材なのだ。

 ここで死なせるわけには行かない。

 故に僚機に徹子を伴い、無情にも章香は空を舞った。

 

「……くそっ」

「武ちゃん、急いで!!」

「2人とも早く!!」

 

 悔しさを滲ませながらも、醇子に手を引かれるまま武は避難する。

 醇子と美緒も待機組で避難するよう指示されたのだ。

 海が見える飛行場近くの林の中に逃げ込んだ3人は座って身を寄せ合っていた。

 

「みんな大丈夫かな……」

 

 醇子の言葉に2人は返事が出来なかった。

 きっと空の上では激戦が繰り広げられているだろう。

 最悪何人かは……、悪い方向に考えてしまう自分に違うと武は心の中で叱咤する。

 そんな時、美緒が立った。

 右目の魔眼を隠していた眼帯を外し、必死で魔眼で索敵を始めたのだ。

 

「美緒ちゃん……!!」

 

 その必死な姿に感銘を受けた醇子が声援を送る。

 対して自分は何が出来るんだろうか?と自問自答した時だった。

 

「“視えた“……!!」

 

 美緒が別働隊を見つけたと武達に言って、飛行場に戻ろうと駆け出す。

 慌てて後を追うと、止める整備員を無視して美緒が空へ行こうとしている。

 それはとても危険な行為だ。

 まだ不慣れな魔眼制御を行いながら飛行するなど、最悪途中で墜落してしまうかもしれない。

 そう思った瞬間、自然と声が出た。

 

「僕が行く。 美緒ちゃんは飛行場から索敵を続けて欲しい」

 

 でも私が行かないとと引かない美緒を整備兵に任せて、速やかに戦闘準備をする。

 その姿を見て、醇子が声を掛けてきた。

 

「武ちゃん……」

「大丈夫、先生が戻ってくるまでの時間を稼げば良いだけだから……」

「うん」

 

 不安そうな醇子と、飛ぶのを諦め索敵に専念し始めた美緒を残し武始めての戦場の空へと舞った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。