「無茶したな、武」
軽傷を負いながらも無事に生き残り帰還した武に対して、章香はそう言って拳骨を落とした。
あの後、敵機3機と交戦することになった武は必死に時間稼ぎに専念した。
章香の教えを守り、ひたすら敵機の弾丸を避け続けた。
すると運が武に向いたのか、それとも偶然か、3機の内1機の後ろを取ったのだ。
そのチャンスを無駄にしないためにも、武は必死の思いで機関銃の引き金を引いた。
背後を取られた敵機も必死に逃げるが、遂に弾丸の雨に撃ち抜かれ落ちていった。
初めての撃墜に一瞬喜んだ瞬間、後方にいる2機の集中砲火が武を襲った。
間一髪障壁を張って事なきを得た武は、その後章香が来るまでの間必死に逃げ続けたのだった。
そのおかげで舞鶴の空は守られたのだが、終わりよければ全て良しとはいかず、単独での怪異との戦闘という自殺行為に等しい行為も行った武には章香の愛のムチの拳骨が下されたのであった。
舞鶴での一件を受け、扶桑皇国は緊急の動員令を発令。
それにより武を含めた航空魔女候補生は、全て軍に籍を置くことになった。
道場の先生から軍の上官になった章香の指揮下の元でウラル方面の防衛へ出発するする前日、武は母から出兵の贈り物を貰った。
「わぁ、マフラーだ‼︎」
ウラルは扶桑よりも冬は凄く冷えると誰かから聞いていたのか、寝食を削って編んでくれた大事な一品だった。
「ねえ、武。 なんで“無”って字がマフラーに縫ってあるの?」
「『ご先祖様のご加護がありますように』だって」
美緒の問いに母の手紙に書かれていた内容を話す。
どうやら榊原家のご先祖は“無”という旗を掲げて戦国乱世を駆け抜けたらしい。
その例に習い、空の騎兵として戦場を駆ける武に先祖のご加護がありますようにと母が祈りを込めてマフラーにこの字を縫ってくれたのだ。
このマフラーこそ、後に武に“【無】の榊原“の異名にが付くことになったマフラーであった。
空母鳳翔に乗り込み、扶桑皇国の大陸における一大拠点である浦塩《ウラジオ》から荒廃地域を陸路で抜けて、武達はウラル方面の防衛拠点にある飛行場に着いた。
「長かったぁ……」
「若、今日からは陸の先任の方々と一緒に行動をする事になるから、言葉に気をつけるんだよ」
「はい、先生」
2人の言葉を聞き流しつつ、トラックから降りた武は周囲を見渡した。
浦塩から此方へ向かう途中からわかっていたことではあったが、口から思わず溢れた。
「浦塩は凄く賑わってたけど、前線は空と大地だけなんだ……」
これからここで戦いに身を投じて行くんだと、気を引き締めるために頬を両手で叩いた時だった。
「気合い入っているわね、“魔術師君“」
聞き覚えのない単語が聞こえた武が後ろを振り向くと、陸指定の巫女服型の軍服を着た少女達がいた。
これが長い付き合いになる“巴御前“との初めての出会いであったーー。