武が散々な1日を過ごした一方で、智子は絶好調だった。
いつもよりも魔力の減りが遅く、身体も羽が生えたかのように軽やかだった。
「今日はやけに調子が良いみたいだな、穴拭」
「はい!! 絶好調です!!」
「ならもっとキツイの行くか?」
「やります!!」
上司である江藤 敏子の厳しい訓練にも難なく耐えうるだけの余裕があった。
それを見て仲間たちは訝しむ。
「はぁ、はぁ……。 なんか今日の智子、おかしくない?」
「なんかいつもより元気が有り余ってるみたいだね……」
「つ、疲れた……」
上から順に加藤 武子、黒江 綾香、加東 圭子の3人である。
3人はヒソヒソとその場で会議を始め、1つの答えに辿り着いた。
榊原 武 一飛曹。
昨晩彼の固有魔法を体験してくると言って、消灯ギリギリ戻って来た時少し様子が違った。
猪突猛進元気娘な彼女が、やけに艶めかしい女性に見えたのだ。
榊原 武の固有魔法は魔力供給なるものだと、自己紹介では聞いていた。
と言うことは、昨晩智子は武から魔力供給を受けたのだろう。
3人は智子の異変について、武に直接聞く事にした。
ヤバいことになった。
武は目の前にいる陸の3人の少女を前にして浮かんだのは、その言葉であった。
「昨晩君の固有魔法を受けてから智子の様子がおかしいの。何かあったの?」
「僕は約束通り魔力供給を行っただけですが……?」
「だがそれは、消灯ギリギリまで使用しないと効果が無い魔法なのかい?」
「それは……」
さて、どうしたものだろうか?
昨晩の内容をそのまま話すわけにはいかない。
武自身と何よりも智子の為である。
詳しく軍規を覚えていなかった為再度何気なく調べたところ、どうやら男性軍人は魔女との接触はなるべく控えるようにと記してあった。
昨夜の事が広まったら、最悪厳罰に処されるかもしれない。
適当にはぐらかそうにも、良い案が浮かんで来ない。
どうしたものかと悩んでいた時だった。
「それは温泉に浸かってる感じで気持ちよかったからよ」
「智子」
たまたま4人が昨晩の話をしているところを目撃にした智子が、駆け寄って来て助け舟を出してくれた。
その様子に怪しいなと言わんばかりに3人は智子に詰め寄る。
「それ本当?」
「本当よ、嘘じゃないわ」
「じゃあ、なんで戻ったのが消灯ギリギリだったんだ?」
「いや、あまりにも気持ち良すぎて寝ちゃって……
、あははは」
「怪しいなぁ……」
この最前線の飛行場は周りは見渡す限り、空と大地しかない。
故にこのようなネタには敏感になるものだ。
「本当、本当だってば!!」
「榊原一飛曹、智子の言ってることは本当?」
「はっ、はい!! 本当です!!」
確かに嘘は言っていない。
就寝時間まで、確かに気持ち良くベッドに寝ていた。
ただし“2人で”がベッドの前に付くのがより正しい答えではあるが。
「むぅ……、榊原一飛曹がそう言うなら本当か……?」
「でも供給しただけであんな元気一杯になるものなの?」
「えっと、先生……、北郷少佐に詳しく聞いた方が良いかと思います。僕がある程度制御出来るようになったのは少佐のご指導の賜物なので……」
「なるほど、それは良い案ね。少佐なら詳しく教えてくれるかもしれないわ」
善は急げと言わんばかりに、ありがとうと一言言って章香の元へと駆けて行った。
その場に残った者が智子と武の2人だけになったとき、智子が武に尋ねた。
「ねぇ、もしかして北郷少佐もあんな風になっちゃたの?」
「……はい」
「へぇ、へぇ……」
「倍以上の出力差はありましたが……」
「へ……?」
智子は武の言葉に固まる。
自分よりも倍以上の差があった?
つまり、北郷少佐は昨晩よりも何倍も出力の高い供給を受けた経験があると武は答えたのだ。
もしも、もしもだ。
もしも自分が、その何倍も出力の高い供給を受けたらどうなるだろうか……。
ぞくぞくと昨晩の感覚が身体中を駆け巡った。
その時、智子は決意した。
ーーもう私は逃げられないし、逃がさないーー
きっとこの場に誰かがいたらこう指摘していただろう。
智子は獲物を目に前にした捕食者の目をしていたと。