『ガアァァァァァッ!!』
クロウの咆哮に地面がひび割れ木々が小枝のように吹き飛び近場のモンスター達が発狂死する。クロウが張った結界の中にいるクレマンティーヌであったが音は防げないので耳を押さえる。
その咆哮には第一席次たる隊長すら吹き飛ばされそうになり、しかし番外席次はやはり楽しそうに笑う。
「感じる。感じる……!これが恐怖?これが死?」
ああ、成る程。自分以外の者達は、こんなものを感じていたのか。こんな風に恐れていたのか。
大嫌いなクソ親父、出会ったら殺してやりたい顔も知らぬ男が最強の子を残そうと思うわけだ、生物の本能として、必ず生き残れる強者であることを子孫に望むのも、頷ける。
「ああ、死ぬのかしら?死んだらどうなるのかしら?怖いわね、凄く怖い………だけど、貴方との戦いは、とても楽しそう!」
少女がウォーサイズを振るうとクロウも巨体からは想像できぬ速度で剣を振るう。自分より巨大な相手すら力でねじ伏せた彼女だが、その攻撃は防ぎきれないと判断。
「『疾風加速』『疾風走破』『流水加速』『能力向上』『能力超向上』『可能性知覚』───『超回避』」
瞬間、少女の速度はユグドラシルカンストプレイヤーの中でもトップクラスのものとなる。爪を、剣を、避けて避けて避けて避けて──僅かな隙に鎌を振り落とす。
『ガア!』
僅かに傷ついただけ。物凄く硬い。クロウが翼を大きく広げ羽ばたく。ゴゥ!という嵐さえ微風と思えるほどの暴風が吹き荒れ辺り一帯を吹き飛ばす。残ったのは結界に守られたクレマンティーヌと、同じく結界に守られた一軒家。
土煙の中から少女が飛び出して来る。
「『能力向上』『能力超向上』『限界突破』『剛腕豪撃』────『斬撃』」
『ガアアアアアッ!!』
手首の骨の隙間を狙った一撃は見事にクロウから握力をほんの一瞬奪う。大剣の柄を蹴りつけ、大剣がクロウの手から放れる。
『グアアァ!』
が、それだけだ。大剣がすっぽ抜けた手をそのまま振るう。すぐ側にいた少女に避ける術はなく直撃する。ミシミシと全身に圧力がかかり、次の瞬間少女の体は空気の壁をぶち破る。
レベル100の彼女の身体は音速を超えた程度ではびくともしないが勢いそのまま地面に叩きつけられればダメージを負う。
「ッ!番外席次───!」
「ん?ああ、貴方か───いたっ……ふぅん、これが骨が折れる痛みって奴か」
吹っ飛ばされた方向にちょうどいた隊長をチラリとだけ見て直ぐに立ち上がろうとする少女。が、右足があらぬ方向に曲がっており立ち上がれない。
「背負います。捕まってください!」
「いやよ。まだ終わってないもの」
「貴方を此処で失えば、それは人類の大きな損失です!どうかこの場は引いて、戦力を立て直し今一度!」
「法国が、全人類が手を組もうとあれに勝てるはずないでしょう?なら、私は最後まで楽しむわ」
と、その時無数の黒い何かが飛来する。少女の前に立ち何とか弾く隊長。弾ききれなかったものが鎧ごと肉を切り裂く。
「これは、奴の羽か!?」
黒い大剣にも見える巨大で硬質な翼。それを飛ばしてきたのだろう。そして、上から来た。それが意味することは……
バサリと絶望の気配が上からやってくる。隊長は槍を構え、彼等の部隊の名を関する漆黒のカラスは傷を癒やし戻した握力で再び握った大剣を構える。片方が離れていても熱さを感じるほどの炎を放ち、片方は可視化出来るほどの暴風を纏う。
『ガアァァァァァッ!!』
「槍よ───!」
「仮にも俺が救った国で何暴れてんだクロウ」
お互いの一撃が放たれようとした瞬間、そんな声が響く。途端にクロウはビクリと身を震わせる。
声変わりをする少し前の少年の声。それに、先程まで圧倒的な破壊能力を見せたカラスが怯えている光景に隊長は大きく目を見開く。
声のした方向を見れば気まずそうな顔をするクレマンティーヌの入った結界の上に座った少年が居た。あの結界、どうやら移動も出来たらしい。
「───たく、好き勝手壊しやがって。『
軽く呟くと一瞬にして森が復活した。いや、植生が異なる。新しい森を生み出したと言うべきだろう。
「ほー、自由度が増してるな。砂漠を豊沃な地に変えてみたら神として崇められそうだ………それはそれとして、クレマンティーヌ」
「───ッ!」
少年の言葉にビクリと震えるクレマンティーヌ。少年の表情は顔の上半分を隠す眼帯のせいで読めないが、声からして怒っているわけでもなさそうだが………。
「クロウをやった理由は自衛のためだ。派手にぶち壊しまくりやがって、まだ見ぬ面白い玩具が壊れたらどうする………まあいいや
聞いたことがない魔法名を唱え何かを投げる少年。投げた宝石らしきものは光の粒子に変わり消え去る。まるで魔法を使ったスクロールのように。
「とりあえず今回の死者は生き返らせておいた。多少レベルは下がってるが、まあ許せ」
「え?あ、は……?」
「ああ、お前等も治さんとな。『
と、重傷をあっさり治療する少年。こんな魔法、知らない。いや、魔法自体は知っているが、人間が到達できぬはずの位階第6位階の筈。逸脱者?この見た目で?と、混乱する中背後で殺気が膨れ上がるのを感じた。
「ッ!!番外席次、ま──」
脇腹に衝撃が走り吹き飛ばされる。高速で流れていく視界の奥に移ったのはウォーサイズを恩人たる少年に振り下ろす番外席次。少年は
番外席次は弾かれた勢いそのまま後ろに倒れ込みながら蹴りを放つ。鋼鉄の鎧ごと破壊しかねないそれを掴んで止めると大樹に向かって番外席次を投げつける。
「『不落要塞』」
「お?」
が、思ったよりダメージを与えられなかった。彼女自身の防御力が高いのも合わさり何本もの木がへし折れたが動きに特に影響はなく再び迫る。
神速で迫る鎌を全てかわし、或いは弾きまだ余裕のある少年。しかし余裕なのは番外席次も同じ。徐々に加速していき、少年の頬が僅かに斬れる。
「おっと─」
「あぐ!?」
漸く攻撃が当たったという喜びから一瞬だけ隙を晒した番外席次の腹を蹴りつける少年は血を拭う。傷は既になくなっていた。
「ふむふむ装備はともかく、ステータスだけで見ればペロロン兄ちゃんの創ったあれと互角ってところか?ステータス面で見れば俺は
コキコキと首を鳴らしグッ、パッと手を開閉する。
「とはいえこっちはどんな装備も装備出来るっつーアイテムとプレイヤースキルだけでたっちおじさんとやりあってただぜぃ?体も温まってきたし、次は食らわん」
「へぇ、そう……まだ強くなるの」
「強くなると言うか、勘を取り戻す?」
「………ふぅん」
と、番外席次から殺気が消える。隊長はホッとし、隊長よりもなお弱いクレマンティーヌはそれだけで押しつぶされそうになっていたので思い出したように呼吸をする。そんな周りの反応など気にせずスタスタと少年の前に歩む番外席次。
「結婚しましょう」
「いいよ。神前とチャペル、どっちが良い?」
「しんぜん?ちゃぺる?良く解らないけど、ちゃぺるで……」
「OKチャペルね………となるとやっぱ教会っぽいとこ……聖王国に行くか」
一週間後。
『あ、もしもしラナー?』
「あらウネ。どうしたの?クライムの事なら、今のところなんの問題も無いわ。とても楽しそう……でも、もう少し仲良くさせてからの方が良いと思うわ」
『あー、クライム君での遊びの話じゃなくてさ、実は俺結婚することにした』
「まあおめでとう。残念ね、こんな立場じゃなければお祝いにいくのに」
『それなんだけどさ、俺がやったアイテムの中に自分の分身作る人形があるんだよ……』
その言葉にラナーはウネからもらった指輪の力で生み出した異空間に手を突っ込む。端から見ると空間に突如現れた闇に手を沈めているかのようだ。ゴソゴソ動いた手はデッサン人形のようなものを取り出す。頭の方に棘のようなものがあり、そこに指を押しつけると人形が輝きラナーそっくりな姿を取る。
「あったわ。つい使ってしまったのだけど、使い捨てだったりするの?」
『いんや。幾つかあげたけど回数制限はない。戦闘に使えないしな……つー訳で当日迎えにいくから祝いに来てくれよ。クライム君と一緒に』
「ええ、解ったわ……」
『そうそうクライム君といえば俺も聖王国でペットを見つけたんだよな。俺のことを正義と信じて疑わねえし、お前の気持ちも良く解ったわ。確かにペットって可愛いもんだな』
「ふふ。でしょう?」
ドラちゃんの続きはまた次回
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