飛行する剣が、槍が、斧が──無数の武器が空中でぶつかり合い火花を散らす。
その武器を追うように空中を物凄い早さで駆け抜けるのは二つの影。白銀のドラゴンメイルと金色の髪をした少年。
「そういやお前、名前なんてーの?」
と、数10本の槍を放ちながら少年、ウネが白銀の鎧に尋ねる。白銀の鎧は武器を眼前で円を書くように回転させ槍を弾き、ウネから攻撃がやんだのに気付く。名を名乗れ、そういう意味だろう。
『──ツァインドルクス=ヴァイシオン』
「へぇ、ツアーって呼んで良いか?」
『それは親しい友人にだけ言わせてるんだよ───ねっ!』
切りかかる。が、虚空から現れた無数の武器に防がれる。クン、と指を動かせば縛り上げようと鎖が延びてきた。距離を取り、この世界における真の魔法を発動するツアー。
『燃え尽きるといい』
「──────!!」
ドォォォォンッ!!
巨大な炎が降り注ぐ。木々が触れる前に燃え大地が溶け出し着弾と同時に蒸発し膨張し大爆発を起こす。巨大なキノコ雲が発生し、それを確認しつつも油断しないツアー。大抵のプレイヤーならこれでカタがつくが、先日戦った吸血鬼のように大抵ではない相手は生き残るだろうと確信しているから。
「あはははは!初めてだ、こんな感覚!熱いでいいのか?痛いでいいのか?新鮮だなぁ!」
高熱の蒸気の中から現れたのは左腕が消滅し本人自身も半身以上が炭化したウネ。だというのに楽しそうに笑っている。
『思ったより効いたね。少し意外だ……この前の吸血鬼はそれほど食らっていなかったけど』
「まあ俺はアンデッドで、神族だから環境ダメージは無いしな。無効化系も耐性系ももってねーのよ。その辺のリソース全部ステータスアップに振った。怪力とか、そういうスキルにな」
と、ウネの火傷が一瞬で修復される。なくなった左腕も戻っていた。
『……それもスキルかな?』
「種族スキルだよ。『完全不滅』………HPの自動大回復および出欠、火傷、氷結、酸などの継続ダメージ、欠損の無効化……んで、これが俺が求めた部分なんだが、俺にはデスペナが無いんだよ。あ、意味分かる?」
『………過去のぷれいやー達は、弱くなって復活した。そういうことだろう?』
「その通り。俺ってば手持ちのアイテムないとイベント起こせないからさぁ、奪わせないために
異形種の、その種類の一人だけが成れる種族。
「さて話に付き合ってくれてありがとなツアー。おかげでだいぶ回復できた」
『攻撃しかけようとすれば即座に強めの反撃をするつもりだったくせに、よく言うよ……それと、そう呼んでいいのは友だけだ』
「じゃあ俺達今日から友達だな。ツアーの好きな食い物何?好きな奴とかいる?」
『少なくとも、君は嫌いだよ』
と、ツアーが腕を向けてくれば力の波動を周囲に複数感じる。
「
その全てを吸い込むウネ。お返しとばかりに
(………遊んでいるのか)
とはいえ、それだけの実力差があるのだから仕方がない。本気になれば自分など簡単に殺される。つまりは本気になる前に終わらせなければならない。
『せあああ!』
「ははっ!良い武器だなツアー!」
『嘗ての仲間が残してくれた逸品だよ!』
へぇ、とウネが笑う。同時に、飛来する武器の雨が止み、その隙に大剣をウネに向かって放つ。ウネはそれを片手で受け止める。刃が手のひらを貫き血を流すが気にせず掴み、止めた。ウネの手首についていた腕輪がピキリと音を立てる。
「『
大剣は砕けず、しかし腕輪が砕け散る。ウネは、動かない。地面に向かって落ちていった。
『君たち絶対的強者は、相手の心をおろうと色々するよね。とはいえ武器破壊は覚悟していたけど、間に合ってよかったよ──』
「………………」
あの程度の高さから落下したところでカンストプレイヤーであるウネは傷つかない。しかしウネはツアーの言葉に反応することはなかった。
『「魂の牢獄」………君たちぷれいやーの為に用意した魔法さ。油断したね、剣を浮かせていたのは此方の魔法。君は、此方の魂で動いている物に己を傷つけさせたんだ……』
その隙をつき干渉した。肉体から魂を隔離した。とはいえ非常に繊細な魔法だ。一度肉体を死に至らしめれば解けてしまう。レベルダウンが起こる相手ならともかく嘘か誠かそれが起きないと言った相手に行うほど馬鹿ではない。嘘でなかったしても、多少レベルが下がったところでまだ格上。今度は油断することなく、殺される。
『これは単なる八つ当たりになるんだろうけど……「怨恨の慟哭」』
ツアーが次に施したのは、嘗て八欲王が暴れ回っていた時代、苦しみ、嘆き、絶望した者達の声を送り込むというもの。始原の魔法を手にした彼なら或いは牢獄から抜け出すかもしれない。ならば抜け出そうとも思えぬように、精神を破壊するために行った。と、その時何かが飛来する。剣で払うと鳶が切り裂かれた。
『………鳥?あの異形の烏のような存在ではないようだけど………まあ、流石にあれが何体もいたら世界が滅びてしまうか。さて、それじゃあ君の身体は精々有効活よ───』
ツアーが伸ばした右手を、ガシリと掴む。グシャリと鎧がひしゃげるが、幸いこの鎧の中身はがらんどう。中身が居たら激痛より驚愕で目を見開いていたことだろう。
「───ヒハ」
『────!!』
視界が大きく流れ、木々をへし折る音と衝撃が遅れて伝わる。投げられたと理解し、即座に敵を睨む。
『馬鹿な、あり得ない。魂は封じたはずだ!』
立っていたのは先程の鳶の血を浴び頭を赤く染めるウネ。カシャンと留め具が外れ眼帯が落ちる。赤い瞳が輝き、ツアー見据える。
『───体を動かしているのは、魂じゃない?スキルかな………ああ、そういえば言っていたね。
少なくとも彼を監視している間、どれだけ血を浴びようと彼は理性を失っていなかった。魂を封じたから?いや、たぶんだが違う───
『破壊したのは、己を押さえる枷か───』
「───キヒ」
恐らくあの腕輪がそうだったのだろう。精神的な攻撃を食らうと予想し、身体が勝手に戦えるように枷を破壊し血を浴びるために敢えて弱い使い魔を出した。しかし魂魄を封印された後、動ける保証もない。魂を破壊する技の可能性だってあったし、使い魔を殺さず捕まえるだけという可能性もあった。それなのに、その可能性にかけて実行するとは───
『普通じゃないな』
「クク、クコカカカ……ケケカカカカ!!ててて、て───き?たたたたたかう──」
『─────ッ!!』
ギョロリと額に第三の瞳が開き、肌が褐色に染まり眼球が暗く染まる。昔出会った吸血鬼達は殆どが怪物然とした姿に変わっていたが、ウネは大して変わらない。始祖を越えた神祖故なのだろう。
地面を蹴り高速で迫る。武器を放てば先程より、此方のものより上等な武装を出現させ振るう。
『ぐっ!』
拮抗する間もなく武器が砕かれ、頭を掴まれ地面に押しつけられながら突き進む。途中幾つもの大樹や大岩を砕き、しかし止まらず鎧が傷ついていく。
こうなれば賭けだ。精神ではなく、魂その物を破壊する。より繊細な魔法だしそれで止まる確証はないが、魂を封じている今しか行えないし、相手も賭に成功した。なら此方も賭けに───
「──カカカ!おはよう、良い夜だなツアー!」
『───な!?』
狂気に染まっているのは確かだ。だが、瞳に光が戻った。いや、そんなものはなくても術者のツアーには解る。牢獄が破壊された。
『早すぎる!いや、それ以前に、どうやってあの慟哭から──!』
「どーこく?あはははは!あれが慟哭か!中々ヨかったぞ。恐怖、怒り、絶望、悲しみ、嘆き、憎しみ、失望………どれも俺が知らず、そしてきっと知ることが出来ナイものだった。勉強になっタ。是非とモお礼が言いたくて、出て来た」
『──────』
あり得ない。あれを、そんな楽しい体験のように語るなど。あれを味わい正気を保つなど。魂に直接干渉した、スキルによる精神安定は効かぬ筈。なら、素で?何千何万という慟哭を受け止めたというのか!?
此奴は、違う。今までのぷれいやー達とは、魔神達とはまるで違う。精神構造が、人間性が、生き方が、生物としての本質が、在り方が、根幹が違う。
『だが、それでも牢獄から簡単に出れるはずが──』
「それはねぇ、これのおかげだよん──んぺ」
と、ウネが口から吐き出して見せたのは宝石のついたチョーカー。
「『贄の首輪』──マネーや経験値を消費する魔法やアイテム効果を無償で使えるっつーもんなんだけど、設定的には数百万の命を儀式に使い無限という概念を与えた首輪。魂で造った無限だからさ、
何時の間にか取り出した腕輪をつけ元の姿に戻るウネ。再びチョーカーを飲み込む。
「さてツアー、お前のおかげで俺はさらに強くなった。流石親友。ありがとう、本当感謝してる───だからさ、もうやめにしない?俺だって友達と殺し合いたくねーよ。そんなの悲しいじゃん」
『嘘だね。さっき解らないと言ったばかりじゃないか──』
「うん。俺がお前を大好きなのは本当だけど、それは殺さない理由にならないからな」
ニッ!と笑顔を浮かべツアーの胸を踏みつけるウネ。鎧が砕かれ破片が飛び散る。
「じゃあな、今度は俺から遊びに行くな!」
『………来ないでほしいね』
それだけ言い残し、鎧から完全にツアーの気配が消えた。ウネは鎧の残骸に興味が失せたのかさっさとその場から去ってしまった。
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