人が死ぬ。亜人の群が人を襲う。
戦っても戦っても、それの繰り返し。亜人が死に、人が死ぬ。屍が積まれ、血が大地に染み込む。
「………何時まで続けるんだろう、これ」
先日の戦い思い返しため息を吐く目つきの悪い少女の名はネイア・バラハ。ビクリと周囲の人間が震えるのは何時もの事だ。と、その時──
「そこ、相席良いかな?」
「………へ?」
不意に声をかけられる。ネイアが居た場所はカフェだ。この時間は人で込むし、相席を頼むのは可笑しくないが初めての経験だ。目つきのせいで遠縁されるし……。
(わ、綺麗な子………)
現れたのは黒髪と銀髪に左右で分かれ、瞳も同じく漆黒と白銀というオッドアイ。珍しい外見だがその美しい容姿をむしろ引き立てている。
「ありがとう。あ、私このミルクコーヒーとサンドイッチ」
と、注文する少女。
店員が震えながら持ってきたサンドイッチを手に取り食べる。
「…………ん」
一口口に含み、僅かに目を見開き口元を押さえる。美味しそうに食べる人だな、と見とれる。少女がん?と視線に気づき慌てて目をそらそうとするも少女の持つ不思議な魅力に目を離すことが出来ない。
「どうかした?」
「え?あ、その……美味しそうに食べるなぁ、って……」
「今まで大しておいしくないものばっかり食べてたからね。外にも滅多に出れなかったし、新鮮なんだ………まあ旦那様のコックには劣るけど」
「は、はぁ……」
どこかの箱入りお嬢様だろうか?しかしご飯はあまりおいしくないらしい。
しかし改めて見ても綺麗な人だ。
「お、おいあの子大丈夫か?」
「こ、殺されるんじゃ……」
ジッと顔を見つめていると周囲からそんな声が聞こえてきた。睨んでいるとでも思われたんだろう。と、少女が思わず呟いた男性達を見る。
「………あの子って私のことかな?殺されるって、誰に?」
「え、いや……その、ほらその女が、殺気立った目で」
「………目?………殺気とかそういうのは特に感じないけどな」
「いや、だから……今にも殺してやるって顔を──」
「───?」
心底不思議そうな顔をする少女とこちらを睨みつけてくる(ような目つきな)ネイアに居心地が悪くなったのか逃げるように立ち去る男達。少女は変なの、と呟いて視線を食事に戻した。
「あの……私の目、怖くないですか?」
「何で?」
「へ?あの、私の目って……目つき悪くて、何時もみんな怖がらせて」
「目つきじゃ人は死なないよ。殺気があるかどうかは対面しなくても近づけば解るし、私は強いから。貴方が殺しにきたとしても勝てるよ」
「…………」
クスクス笑う彼女の背を見れば巨大なウォーサイズ。あれで戦うのだろうか?仮にも聖騎士を目指す訓練兵として言外にお前は弱いと言われればむっとするが、初めて自分の目を恐れないでくれた人だ。溜飲は直ぐ下がった。それにしてもあの大鎌、何だろうか、上司の持つ聖剣とはまた違った凄みを感じる。見た目のせい?
「ん?ああ、これ?良いでしょ、旦那様が私のために造ってくれたんだ………幾つか掛け合わせて、そこらのギルド武器を超える逸品なんだって。ギルド武器が何かは知らないけど」
重そうな鎌を軽々持ち上げ愛おしそうに頬摺りする少女。何となく危険な見た目だ。きっと自分の目よりやばそうな光景だ。
「その、旦那様って……?」
「私の旦那様。此処には結婚式を挙げに来たんだ。旦那様の故郷では夫婦の永遠を神に誓うため、神聖な場所で行うからって、此処に」
「へえ、素敵な風習ですね」
永遠の愛を神に誓う。何とも素敵な話だ。彼女の旦那の故郷はきっと信心深い人々に溢れた、幸福な国なのだろう。
「…………………」
「どうしたの?えっと………」
「あ、ネイアです。ネイア・バラハ」
「そう。私は旦那様からモノちゃんと呼ばれているわ。それで、どうしたのネイア?元気ないけど……」
「いえ、そんな信心深い国も負けないほど、この国だって信心深い筈なのに………何時になったら救われるんだろうって思っちゃいまして」
ネイアの言葉にモノは首を傾げる。その様子に慌てて言葉を続けるネイア。
「いや、その……あの!愚痴ではなくですね、正しい行いをしていて、救われないのはおかしいというか──個人的な感想を──!」
「神を信仰すること………祈ることは正しいことなの?」
「へ?えっと、それは………まあ」
「じゃあ正しいことをしたら救われなきゃいけないの?」
「それは………だって、救われたいから善行を───」
「変なの。祈りを受け取って何もしないなら、そんな神に祈るなんて時間の無駄じゃない。それが正しいなんて、私には思えないけど」
「────ッ!!」
と、信仰を真っ向から否定するモノの言葉に何か言いそうになるネイアだが、実際亜人の脅威はどれだけ祈ろうと消えないのだ。テーブルを叩き立ち上がったは良いものの、パクパク口を開くだけ。
「…………じゃあ、何が正しいんでしょう。正義って、何なんですか」
「さあ?私の国も正義正義五月蠅い国ではあったけど……その点から考えると……そうだね、正義は……」
そこまで言い掛けた時、鐘の音がなる。亜人が襲撃してきた際になる鐘だ。ネイアは慌てて立ち上がり財布を机に放る。
「奢ります!」
「ああ、ありがとう──それで正義は───行っちゃった」
走り去っていくネイアを見つめた後、モノはサンドイッチを食べきりペロリと指を舐めた。
長い毛を持つ猿のような亜人、
猿のような見た目だけあり城壁など簡単に上ることが出来る。故に近づけぬように槍衾のような陣形を取っているが向こうは知能も高い亜人。仲間を城壁にぶん投げた。
そのまま城壁を駆け上る
「───あ」
目の前で仲間がひしゃげながら吹き飛ばされたのを見て固まるネイア。慌てて弓を引こうとするが、震える手が矢を落とす。
「───ッ!!……………?」
しかし何時まで経っても衝撃は来ない。思わす閉じてしまった目を恐る恐る開くと、信じられない光景が映った。
「大丈夫?」
「も、モノさん………?」
自分の胴より太い腕から放たれた頭より大きな拳を片手で受け止め此方を見て薄く微笑むモノ。小柄な少女に拳が止められたことが信じられないのか固まっている
「───え!?」
砲弾と化して仲間を巻き込み死んだ。その光景にまたまた目を見開くネイア。
「ねえネイア………正義を成すには力が必要なのは解る?」
「え?あ、はい……力がなければ、何も出来ませんから」
「でもね、それってきっと違うと思うの。だって、例えば彼奴等からしたら狩りをしてるだけ。人間だって鹿や猪を追って殺して、食べても悪じゃないでしょ?だから、結局は言った者勝ち。やった者勝ち……」
異変に気づき襲いかかってくる
クルリと黒い大鎌を回し血を払うモノは鎌の柄に頬摺りして頬を染める。
「ああ、良いねこれ。流石旦那様からのプレゼント」
と、下が何やら騒がしい。見れば
「あ、そうだモノさん!」
「ん?」
「街に進入した何匹か、お願いできませんか!?もう絶対にこれ以上入れな───」
ドチャリと湿った何かが城壁に落ちる。見れば
「……大丈夫かな、旦那様が居たし」
街を見れば城壁を越えた数は不明だが、幾つもの死体が転がっている。
「それでね、ネイア。正義に力は宿らないわ。逆だもの」
「ぎゃ、逆?」
「力があるから、正義をなせる。それを正義だと押し付けることが出来る………だから、正義とは力よ。私や───旦那様みたいに」
と、モノの視線を追うと金髪の少年が
「どう?国を守ってあげたわ。あれこそ、正義でしょう?」
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