「ねぇクライム、ラキュースが私に会わせたい人ってどんな人かしらね?」
黄金と称される輝くような美貌を持ったリ・エステリーゼ王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。彼女は好奇心を抑えきれないと言った顔で側付きの騎士であるクライムに話しかける。
「は。聞いた話によると、八本指の麻薬の栽培場を見つけ放火したとか……正義感に溢れる御仁かと愚考します」
「そうね。それに、村にいたせいで八本指と勘違いして襲ってしまった『蒼の薔薇』を無償で許したそうだし、優しい人だと思うわ」
「ええ、間違いなく」
と、噂をすれば何とやら。ノックの音と聞き覚えのある入室の許可を求める声が聞こえてくる。ラナーが「どうぞ……」と言うと扉が開き貴族令嬢らしい格好をしたラキュースと、見たこともないほどの美貌を持つ少年が入ってきた。
少年は先にクライムを見る。へぇ、と感心したように思わず声を漏らした後、笑う。次にラナーを見て、首を傾げる。その反応にクライムがラナーを見るとラナーも不思議そうな顔をして首を傾げていた。
「ど、どうしたのラナー」
と、そんなラナーの反応に何処か慌てたようなラキュース。ラキュースの言葉に「いえ……」と顎に手を当てるラナーはジッと少年を見つめる。
「あの、変なことを聞いてごめんなさい。貴方、何処かで私とお会いしませんでしたか?何というか、見覚えが」
「んー、俺も見覚えがあるような気がするが、初対面のはずだぜ?」
「そう……ですよね。では改めまして。リ・エステリーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフと申します」
「俺は……と、私はウネ。ただのしがない旅人です」
「ふふ。さっきの口調で良いわ。ここには私とクライム、ラキュースと貴方しかいないのだもの」
「そう?なら楽にさせてもらうわ。あ、そっちは……」
「クライムと申します」
「クライム君、ね………うん。覚えた……なかなか良い目をしてるな。子犬の目だ」
「こ、子犬ですか?誉められているんでしょうか……」
戦士の目だ、とか兵士の目だ、なら素直に受け取れたのだがまさかの子犬とは。せめて狼にしてもらえないだろうかと引きつった顔になるクライム。それを見てラナーはクスクス笑う。そんなラナーの笑顔と笑われたという事実に頬を赤く染めるクライム。それを見たウネはケラケラ笑う。
「……………」
子犬扱いされても、それほど苛立ちを感じなかったクライムはその二人を眺め何処か納得する。具体的にはいえないが、この二人は似ているのだ。性格も、性別も、容姿も異なるが、そう感じる。きっと彼もラナー同様心優しい人なのだろう。クライムの中でウネに対する好感度が上がる。
「うふふ……ごめんなさい。それで、どんな用事なのでしょうか?」
「まあ意図せず『蒼の薔薇』と交流をもてたからね。『黄金』と名高きラナー姫を一目見てみたくなった」
「『黄金』だなんて、照れてしまいます。実物は
「まさか。会えて良かった。君とは
本当に楽しそうに話す二人。ラキュースは取り敢えずホッとして、クライムはどこかモヤモヤしたモノを感じつつ自分はただの従者であると首を振る。そんなクライムを面白そうに見つめる四つの瞳はクライムが振り返る頃にはそらされていた。
「まあ頼みたいことがないわけではないけど」
「あら、なんでしょう?八本指の件もありますし出来る限りの望みは叶えますが」
「ミスリル冒険者への推薦状書いてくれないか?実力証明を蒼の薔薇が、推薦をあんたがやった方が早そうだ」
「冒険者?ティアさんとティナさんの二人を相手して倒したと聞いてますし、実力的には問題ないでしょうが……ミスリルでよろしいのですか?」
「そこそこ目立つぐらいがちょうど良い。アダマンタイトだと、それはそれで動きにくそうだからな」
「まあ、そうですね………解りました。推薦状を書いておきます。また後日」
「ああ、また後で」
「~~♪」
「楽しそうですね、姫様」
珍しく鼻歌など歌うラナーを見て側付きのメイドが尋ねる。ラナーは『黄金』の二つ名に恥じぬ輝くような笑みを浮かべた。
「そうなの!聞いて、今日とっても素敵な男性にあったのよ。彼とは良い友達になれそうなの」
「ラキュース様が連れてきたという方ですか?どこかの貴族でしょうか」
「せいを持ってないそうだから、多分市井の出だと思うわ。あ、でも歩き方に気品もあったし、身分を隠したどこかの貴族なのかも」
市井の出と聞いてメイドの瞳に蔑みが現れる。王女に仕えるメイドだ、その身に流れる血は貴族のもの。特に王国では貴族が平民を見下すなんてザラ。彼女もその一人。クライムを見れば鼻で笑い聞こえるように嫌味を言う。
「だからね、友好の証としておやつも用意してみたの。食べる?」
「……はい?」
突然何を?と首を傾げるメイド。その背後から白い手が伸びてきてメイドの口を塞ぎ腹に腕を回し引き寄せる。首筋に痛みが走った瞬間、ジュルルという音が聞こえてくる。その音を聞きながら、メイドの意識は闇に沈んでいった。
「ラキュースちゃんったら俺のことラナー姫に話してたのかよ」
「ラキュースを責めないであげて。仕方のないことなのよ。あの子、友達思いですもの」
カラカラに乾いた死体をポイッと床に捨て影に飲み込ませながら口元を拭うのはウネ。目の前で確かに人を殺したというのにラナーは慌てることなく笑みを浮かべる。先程までとは異なる、ドロリとした笑みを。
「なる程なる程見覚えがあるわけだ」
「毎朝、髪を整える時、お風呂に入る時、着替えをする時、良く目にする顔ですもの。当然です」
ウネは楽しそうにケラケラ笑う。その笑みは一見して笑みであるという事以外は何の共通点もない。無邪気な笑みと、不気味な笑み。しかし本人達はお互いその笑みの奥に眠る本質は、同じものだと理解している。
「残念だなぁ。その聖女にもなれる愛を一個人に向けるなんて……まあ、それはそれで面白いな」
「ふふ。残念なのは私もですよ。クライムに出会う前に私達があっていれば、きっととても深く愛し合えたでしょうに」
「ま、それはそれとしてさ。クライムくん
「ええ、貴方と遊ぶのは楽しそうね」
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