エ・ランテルの冒険者組合。
今月生きていけるだけのノルマも稼ぎ終えた冒険者チーム『漆黒の剣』は後は楽な仕事で私用のための金を集めるだけなので、朝からのんびりしていた。
「どうせなら今月はもう仕事しなくて良いんじゃね?俺は何もしたくねーな」
「貴方は本当に怠け者ですね。せっかく仕事があるんですから受けるべきでしょう」
チャラついた男、ルクルットの言葉にチームの頭脳である中性的な容姿のニニャが呆れたように言う。そんなニニャをまあまあと諫めるのはリーダーのペテル。そして
「まあ今月はだいぶ稼いでいるし、たまにはのんびりするのも良いものである」
「誰かさんが本欲しがって大急ぎで金稼いだからな。結局売れちまってたが」
「まあそういうこともあるさ」
ルクルットの言葉にニニャが流石に悪いと思ったのか顔をしかめ、ペテルが窘める。このチームではよくある光景だ。と、その時冒険者組合の扉が開く。
入ってきたのは十五ほどの少年。この世界では成人扱いされる年齢だ。何故か顔の上半分を隠すような大きな眼帯をつけている。あれでは何も見えなそうだが、と困惑する一同の心配を余所に人をよけながら受付まで歩いていく。
「あの眼帯、向こうが透けて見えるマジックアイテムかね?」
「どうであろうな……しかしあの服、かなり上等なもの。そのようなマジックアイテムを集めている好事家かもしれないである」
「好事家……マジックアイテム散策の依頼かな?そういう好事家なら、魔剣の情報を持ってたり……」
ルクルット、ペテル、ダインは興味深そうに少年を見て、ニニャは目を細める。
「止めておいた方がいいですよ。貴族の依頼なんて………此方を下に見てどんな無理難題を安値でやらされるのか解ったものじゃありませんから……」
ふん、と鼻を鳴らし敵意を隠そうとしないニニャ。下手をすれば無礼討ちされても可笑しくない態度。ペテルは慌てて止める。
「まあまあ金に糸目をつけない貴族かもしれないし」
「だとしても国民の血税を趣味に使うなんて……」
と、貴族に対する嫌悪感を隠せないニニャ。上質な服を着た少年は受付の元にたどり着く。
「冒険者登録したいんだけど、良いかな?」
「………へ?あ、は、はい!ただいま!」
どうみても依頼する側の見た目の少年の言葉に一瞬惚けて、しかし直ぐに平静を取り戻し己の仕事を行う受付。そのまま羊皮紙を二つ渡す。
「───え!?あ……し、失礼しました!しょ、少々お待ちを!」
と、奥へとかけていく受付。当然そんな様子を見せられれば注目を集める。少年は全く気にしていないが。
しばらくして組合長のプルトンが出てきた。組合長の登場にますます蒼然とする一同。
「……………拝見しました。確かにラナー王女及び『蒼の薔薇』の推薦状ですな。貴方をミスリル級への特別昇級での登録を認めましょう…………」
ざわっ!と辺りが騒がしくなる。アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』に『黄金姫』の推薦。アダマンタイトではないとは言え、この街では最高のミスリル。
「うむ、この推薦状は本物なのは疑っていませんが………その、本当に?」
「うん本物。さっさとミスリルの冒険者プレートちょーだいな♪」
ハリーハリーと聞き覚えのない言葉で催促する少年に、近付く影があった。ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』のリーダーイグヴァルジだ。
「おい」
「ん?」
「お前みたいなガキがいきなりミスリル級冒険者だと?俺達が努力したってのに、コネで?随分ふざけてくれるじゃねーか!!」
「おおテンプレテンプレ。うんうん、こういうのが面白いんだよ。ペロロン兄ちゃんなら大喜び間違いなしだよねん。ルシーも喜びそう」
大声を出し顔を近づけ威圧したつもりが何やら寧ろ嬉しそうな少年。イグヴァルジが頬をひきつらせる。
「てめぇ!人の話聞いてやがんのか!」
「ん?おい止めろよ唾がつくだろ。何?なんか文句あるのか?」
胸ぐらを掴み叫ぶイグヴァルジの服をつかんでゴシゴシ顔をこする少年。直ぐにうえ、くさ!と放して何処からか取り出したタオルで改めて拭う。イグヴァルジの額に青筋が浮かぶ。
「はん、どうせ貴族のコネか、『蒼の薔薇』の女どもを体で誑かして手に入れた推薦状だろ!?」
「失礼な。ティアとティナしか抱いてないし、俺は貴族じゃねーぞ?それに、だとしても何の問題がある」
「ああ!?」
「だってお前程度がミスリルなんだろ?なら、俺がミスリルやっても何の問題もなかろうさ」
「──────!!」
ブチンとイグヴァルジから何かが切れるような音が聞こえた気がする。
「死ねやぁぁぁぁっ!!」
「あぶねえ──!!」
剣を抜き振り下ろすイグヴァルジ。事態を見守っていたルクルットが思わず叫んだ瞬間、血が飛び散る。
「────あ?」
少年の血ではない。イグヴァルジの血だ。
少年が振り抜いた剣で、イグヴァルジの身体が左右に倒れる。
「───し」
「漆黒の、剣?」
血を振り払うために振るった剣は、夜空の星を思わせる輝きが存在する漆黒の剣。それは噂に聞く『蒼の薔薇』ラキュースが持つとされる魔剣キリネイラムによく似ている。
「ウ、ウネさん!その、このようなことは──」
プルトンの言葉にウネというらしい少年は剣を何処かに消して、イグヴァルジの死体に手を向ける。
「〈
短くつぶやいた魔法名。しかしその魔法名に誰もが目を見開く。イグヴァルジの死体がくっつき、ぐったりとした状態で生き返る。
「まー実験結果としては上々かしらん。お前等それの連れ?持ってっといて」
「ウネ殿……さ、先程の剣……それに今のは?」
「ああ、魔剣キリネイラムの偽物。ラキュースちゃん曰く本物は持ってると闇の人格が生まれちゃうらしいからね。だからこっちが偽物。ラキュースちゃんが今持ってるのが本物なんだろうね」
「魔剣キリネイラムにそんな副作用が」
「魔法に関してはほら。俺ってば推薦受けれる程度には強いですしおすし?まーそういうわけで、俺がミスリルで文句ある奴は居ないよね?」
眼帯に隠れて見えないが、その目は全てを確かに周囲を見つめる。ゾクリと背中に氷柱でも差し込まれたかのような恐怖を覚えた者達は黙り込む。うんうん満足そうにうなずいたウネは冒険者組合から出て行った。
「な、なんだあのやべーの」
「ニニャではないけど、関わらない方がいいのは確かだね」
「同意である」
「そう、ですね……」
『漆黒の剣』の言葉は、少なくともこの場にいる全員の思いを代弁していた。
ふんふんと楽しそうに歩くウネ。ペロロンチーノやるし★ふぁー、などに詰め込まれた余計な知識を思い出し、本当にその通りになったと喜んでいるのだ。だんだんと人気のない方向に進んでいったウネは不意に振り返る。
「それで俺に何か用かな?俺は今機嫌がいいんだ。今なら殺しに来ても殺されずにすむぜ?」
「んふふ、気付かれてたんだぁ。いやね、あんまり幸せそうに笑ってるじゃない?ちょ~っとお姉さんに殺されてみてくれないかな~」
次回「クレマンティーヌ死す!!」デュエルスタンバイ!