クレマンティーヌと言う女がいる。
スレイン法国に存在する漆黒聖典に所属していた、《ユグドラシル》で言うところの30~40程度の、この世界では上位に位置する実力者。
最も、そんな彼女と同等以上の強さを持つ魔物を使役する兄に比べられ無能扱いされるが…。
そんな彼女は弱者をいたぶることが大好きだ。愛して、恋している。特に幸せそうな奴は良い。こんなくそったれな世界、結局最後は力がものを言う。それを知らない弱い奴の幸せを力で踏みにじるのは絶頂すら覚える。
今回の標的は街で見かけた少年。身形の良い、貴族か商人の子だと思われる少年。気配を消していた自分に気づいたのは驚いたが、それでも法国でもない国の、こんな片田舎で出会う少年など簡単に殺せる。そう思い───
「んっん~……どーしよっかな。殺さないと言ったばかりだけど、ビキニアーマーの女犯罪者と言えばオーク貴族?辺りにヤらせるのが常識ってペロロン兄ちゃん言ってたし」
「か、ぐ………あが───!」
メキメキと背骨に圧力がかかる。自分より背の小さいガキに背を踏まれ、潰されそうになっている。
おかしい!おかしい!おかしい!
武技を使った。魔法が放てるスティレットを使った。培った技術を使った。何一つ通じなかった。
あり得ない。なんだ此奴は、法国の隠し玉、神人か?あるいは、まさかぷれいやーそのもの?
「お、おま……貴方、ざまは……ぷれいやー………?」
「ん?」
「─────!!」
足から力が抜けた。その一瞬で、クレマンティーヌは足の下から抜け出し、駆ける。振り返らない。気配を探らない。ただ少しでも遠くへと逃げる。そして気付く。
「え?あれ、どこ……?此処」
そこはエ・ランテルの町並みではない。王都など、国の首都を連想させる豪華な作りの建物が並び、しかし人っ子一人居ない。空は星も月も太陽もない漆黒の布を覆ったようで、光源らしきものは一つもないのに町並みを遠くまで見晴らせる。
「『民亡き王朝』は設定的には影に宿るんだよ」
「────!?」
聞こえてきた声に再び走ろうとするも視界が回転し、地面に背中から叩きつけられ腹を踏まれる。
「この世界で何気なく配下を新規で創ってみたけど、その後気になって調べてみたら影の中に入れるようになってることが解った。いやいや中々面白いよな」
「………?」
「それと、あんまり勝手に動かない方がいいぜ?此処にはせっかく創ったのに使うことなく封印したイベント用ボスとかいるから」
と、その言葉と同時に建物に手をかけ、巨大な何かがのぞき込んでくる。
一体、二体ではない。もっとだ。ギョロリと巨大な瞳に見据えられるだけで心臓が止まりそうになる。明らかにあのくそったれな兄の使役するモンスター達より遥かに格上で、しかも身につけている腕輪や首輪は法国でも上位の戦士しかつけられない神器を越えている。
「な、なん……何なんだ!あんたいったい、何なんだよぉぉ!?」
「質問ばっか。いただけないなぁ。俺に質問したければ俺がする質問に答えてくれ。そしたら何でも教えてあげよう。約束は守るんよん?俺ってば契約はしっかりする性格だからさぁ」
「し、質問?」
「お前さぁ、何で狂ったふりなんてしてるの?」
「──────」
呼吸が止まる。思わず目をそらしたくなるが、しかし目を逸らすのは怖い。此方をのぞき込む目を隠す黒い眼帯が、薄暗い今この場所では全てを飲み込む闇に見えて仕方がない。
「俺も同じ奴にあったのは一回だけだから詳しくいえないんだけどさ、知識として狂人に含まれると理解できる俺や俺の友達の目と、お前の目はまるで違う。お前の目は一般人のそれと同じ。世に悪とされることを感覚として知っている。俺達は知識としてだけなのにね………」
んー、と首を傾げながらクレマンティーヌの周りをぐるぐる回り見つめる少年。一周し、再び口を開く。
「貴族どもだってそうさ。家族が殺されたら泣くし怒る。自分が悪いことをしている自覚が本当はあるから、護衛を雇う。知識としてしか理解できない俺らとは大違い。んでね、君の目もそうだ。お前は死を恐れてる。死の後にあるかもしれない地獄を恐れている。それも俺達とは違う。俺達は悪いことしてるなら地獄に堕ちるのも仕方ないと思ってるからな。あったらだけど」
「…………」
「総合的に見てお前は普通の人間だよ。他人を不幸にして相対的に自分が幸せになろうとする、っていうのも俺が友達と一緒に作ったNPCの設定にあるから知識として理解している。けどお前はやっぱり感覚として解ってるんだろう?ならお前はありふれた人間だ。なのに何でおちゃらけたり、狂っているふりをする?お前は普通の人間だろうに」
「……………」
少なくとも、此奴から見ればそうなのだろう。普通から
「あんたじゃ、理解できないよ」
「ふーん。そっか……あ、そうだ。俺は至極当然な質問をお前にしてなかったな。俺はウネ、よろしくねん。お姉さんのお名前なぁに?」
「…………クレマンティーヌ」
「んじゃクレちゃんだ。クレちゃんの質問、何だったけ?プレイヤーなのか、だっけ?そだよ。俺はプレイヤー………で、クレちゃん何処でその単語を知ったのかにゃ?」
ぷれいやーである事を肯定された。本国の連中なら喜ぶだろうか?少なくとも、伝説に残る英雄なんて比べ物にならないほど力を有していると思える。いや、絶望しそうだ。
「………話せない」
「……せない?さない、ではなく?」
「私達って呪われてるからさぁ、質問に答えたら死んじゃうんだよねぇ」
「………ふぅん、なら血に聞くか」
「は?」
ウネが口を大きく開ける。そこから覗く白い歯に混じった、鋭い犬歯。あ、此奴吸血鬼だ。人類の味方なんかしないわ、ざまーみろ法国。そんなことを考えながら牙が喉に突き刺さった。
「なる程ねぇ、ぷれいやーに神、神人………それに
「………何がそんなに楽しいのか私にはさっぱりなんだけど」
首筋を押さえながらクレマンティーヌはウネをジト目で見る。
「クレちゃんのお陰だよ。色々ありがとう」
「────!」
頭を撫でられ、どうしようもない多幸感を感じ、頬を染めその手を振り払うクレマンティーヌ。その姿は親に褒められなれていない子供のそれ。ウネはケラケラと笑う。
「んじゃークレちゃん、おとーさんの実験につき合ってくれるか~い?」
「誰が親父だ誰が────!」
「よしよし反抗期か?うんうん、おとーさんからすれば知ったこっちゃないな」
とん、と腹を押されバランスを崩し後ろに倒れる。その先に待っていたのは、無数の触手を持った何か。一本一本の先端が男性器を思わせる形をしたそれが手足に絡みつき嫌悪感から叫ぼうとした瞬間口の中に入り込み前後する。
「んぐぅ!?ごぼぉ!」
ゴポリと溢れ出た液体を飲み込んだ瞬間、クレマンティーヌの瞳がトロンととろける。口から触手が引き抜かれると名残惜しそうに舌を延ばし足に巻き付きながら秘裂と尻穴に向かう二本の触手に気付くと誘うように腰を振る。
「この見た目と言い、媚薬効果の体液と言い───運営は完全に機能してないと見ていいな」
普通なら運営に速攻消される異形のNPCに能力。ウネは楽しそうにケタケタ笑う。
アイテムを造る際、組み合わせて
この世界に位階魔法があるのはその昔《八欲王》と呼ばれる存在が世界の法則を歪めたかららしい。つまり、ゲームバランス、この世界は現実のため世界のバランス、法則さえ書き換える事は可能であるという事。
「
蘇生と言ってもデスペナルティは発現するようにしよう。そうすれば命の残機を増やそうとレベルをあげる者が増えるだろう。目に見えて己の職業が解ればその道を極めようとするだろう。レベルと言う概念を知れば、強くなろうとレベルをあげようとするだろう。
「楽しみだな。《ユグドラシルⅡ》とでも名付けようか?他にもプレイヤー来てるみたいだし、楽しんでくれると良いなあ。そうすればお前達にも出番がやってくる。嬉しいか?」
と、のぞき込んでいる巨獣達に尋ねるウネ。
「………まあ───」
アイテムを生み出して、繋ぎ合わせてみる。満足のいくほどの威力はない。
「時間かかりそうだし、取り敢えず後回しでいっか!」