太陽の日差し。駆け抜ける風。蝉の鳴き声。
鳥白島に再び夏がやってきた。
大学生になった俺は既に夏休み。
同じく、絶賛夏休みを満喫中の蒼と一緒に、日中は駄菓子屋のバイトを手伝っているところだ。
因みにさっきまで蒼は駄菓子屋の奥で寝てた。
「かき氷は100万円よ」
「………」
財布から百円玉を取り出して手渡す。
「99万9千900円足りないわよ」
変わらない台詞。
『あの夏』からちょうど二年。変わったのは俺と蒼の関係、かな。
「お約束のネタ、ありがとう」
「どういたしまして。味はどれにする? って、今更訊く必要もないみたいね」
ブルーハワイシロップが入った容器を見つめる。
蒼に出会わなければ、シロップの味がどれも一緒だなんて、識ることもなかった。
「ブルーハワイで」
「了解。いま作るわね」
それ以外選ばないのは、蒼も分かっているのだろう。
蒼は氷の塊を置き、かき氷器を回し始める。
氷の削れる音が、涼しさを演出する。
容器に積もっていく氷たち。
夏の暑さを吹き飛ばす、圧倒的な『涼』がそこにあった。
他のお店では味わえないような、まさしく山盛り。
ブルーハワイシロップの容器を傾け、丁寧に降りかけていく。
尖った頂点はそのままに。
螺旋を描くように、慣れた手つきで、均等に青色の軌跡が刻まれていく。
「羽依里、店番ありがと。はい、これ。お礼ね」
さらにその線を添うようにして練乳のオプションも追加された。
「ありがたくいただくよ」
受け取ろうとした、その時。
「あっ…」
「っ…」
かき氷がどっさりと詰まったカップを持つ蒼の指先に、俺の指先が触れた。
極低温で感覚が鈍った状態でも、びくっと反応する蒼は可愛いな、と思った矢先。
その僅かな震えにより、かき氷の山が雪崩のように俺のズボンに降りかかった。
「つめたっ」
「あ~! 羽依里ごめん! 拭くわね」
蒼は本当に申し訳なさそうな表情をしてハンカチを取り出す。
「すぐ乾くから大丈夫だから」
「ううん。ベタつくし拭くわ! 足広げて」
「あ、あぁ…ありがとう」
よく履いている茶色のズボンの股間部分には綺麗なブルーハワイが広がっていた。
熱せられた衣類にあっという間に染み込み、ちょっと…いや、かなり恥ずかしい見た目になっている。
蒼はベンチに座る俺の広げた足の間に陣取り、かき氷に濡れたズボンが拭かれていく。
薄手の繊維越しに感じる蒼のか細い指が、下半身の筋肉を意図せず刺激してくる。
「シロップと練乳もかかっちゃってるからベトベトするわね…」
「これ、誰かに見られたら勘違いされそうだな…」
おそらく、反対側から見たら、蒼が俺の股間に顔を埋めているようにしか見えないはずだ。
そしてここは駄菓子屋の店先。
何時誰が訪れてもおかしくない状況である。
さらに、今日の蒼が着ているニットワンピースと、双乳により出来た魅惑の隙間が、この体勢だと見放題である。
思わず手を突っ込みたくなる衝動に駆られるのと同時に、下半身は親切丁寧にズボンを労わる蒼の指が這い回る。
不意に触れられた性器が即時起動し、もっと刺激が欲しいと雄叫びを上げ勃ちあがる。
「え、ちょ…大きくなってきてる!? あたしのせい?」
「蒼のせいだな…うん」
俺の足の間で思考がフリーズする蒼。
内心興奮しつつも、俺もこの状況にどうしたらいいか悩んでいると、少し離れたところからかすれた声が聴こえてきた。
「二人とも…こ、こんな所でな、なにしてるの…? へ…ヘンタイ?」
絶対に見てはいけない場面を目撃してしまった、そんな表情をしているしろはが居た。
「あ、えっと…これはだな」
「やっ、こ…来ないで」
「しろはさん!? 待って! 最後まで話を聞いてくれ!」
しろはが全速力の変なフォームで走り去った後に残ったのは、ズボン越しに多大なる誤解を与えた逸物とシロップの甘い香りだった。
* * * * *
「それでさ、これどうしよう」
ある程度拭き終わった後。
それでも未だに鎮まらない肉棒が、服の中で張っていて正直かなり苦しい。
「どうもしないわよ!」
「………蒼」
「な、なによ」
「お願いします!」
下半身を勃起させながらも手を合わせて彼女に頼み込む。
「うぅ…まあ、かき氷かけちゃったのはあたしだし、そうさせちゃったのもあたしだし…」
「うんうん」
「で、でもこんなところでしてたら、それこそ他の人に見つかっちゃうと思うし…」
その言葉に閃いた俺は、素早く羽織っている上着を脱ぎ、風に靡かせる。
「これで隠しながらならいけそうじゃないか?」
「…本当に大丈夫かしら、これ」
「大丈夫、大丈夫。ほら、ベンチに横になってもらって俺が膝枕する感じで」
蒼もこういうシチュエーションで興奮するタイプなので、内心ワクワクしているだろう。
「って…マジで? するの?」
「蒼だって、ちょっと憧れてただろう。今がチャンスだからさ」
「え、チャンス…うん、そうね…うん!」
空門蒼はよく分からない押しにとても弱い。
本人曰く「羽依里限定よ」との事。ちょっとした独占欲が満たされるそんな蒼の一面。その優しい想いを大事にしていきたいと思う。
だが、今は快楽だ。
「ほら、おいで」
自分の太腿を手で叩いて合図をすると、伝わった力が筋肉と触れ合い振動して、軽快な音が鳴る。
「えへへ…」
大好きな匂いが染み付いた枕を見つけた時の子供のような表情を浮かべながら、まずは仰向けで頭を預けてくる。
後ろで纏めた髪の毛が筋肉に沈んでくると、布越しでも妙にくすぐったさを感じる。
その蒼の頭に優しく手を添えて、こちら側に振り向かせる。
布越しに最接近する、女性の唇と男性器。吐き出される生温い二酸化炭素が細かい繊維の間を縫い、勃起している肉棒に当たっているかのように感じる。
「目の前で見るとすっごいわね。張ってて痛そう…いま出してあげるわね」
金属の擦れる音。
何度も行い手馴れた結果の動きでズボンのジッパーを開けれてしまう。
社会の窓が開かれた瞬間に、待ってましたと言わんばかりの勢いで、ボクサーパンツから、そしてズボンから飛び出る逸物。
駄菓子屋の軒先、青空の下、圧倒的開放感。
しかし、それも一瞬のこと。こんな状態を世間に晒していたら、それこそ勘違いどころじゃ済まなくなる。
いつも着ている通気性に優れた薄手の上着を、今度こそ本当に股間に顔を埋める蒼の頭ごと漆黒で隠す。
「まぁ…変な見た目だけど、外からは分からないな。中はどうなの?」
「暗いけど、するのには問題ないわね…すぐ気持ちよくしてあげる」
もぞもぞ、と服に隠れて見えない空間で、蒼の顔が動き、すぐさま亀頭の先端に、唇の熱が触れた感触が発生した。
「んっ…」
蒼は口奉仕をする際に、必ず最初に接吻から始める。
それはきっと、蒼なりの愛の表現手段なんだろう。これがただ気持ちよくするだけの行為ではなく、貴方が好きだからなのよ、と言葉はなくても心に伝わってくる。
舌の感触。ざらざらとした猫のような舌が大好物に接するが如く、丁寧に一箇所一箇所を確かめるかのように、肉棒を這い始める。
その光景自体は見えないために、一体次に何処が舐められるのか、どのような刺激がくるのかまったく予想が付かない事が、逆に性感覚を鋭敏にさせる。
まずは亀頭の円を一周。そのまま傘の裏側の窪みをちろちろ、と焦らすかのように舌の先端だけで攻められる。
「……れぅ……ん……ふふっ………ちゅ……ぅ」
黒の向こうから空気を伝ってくる微かな笑い声。悪戯心が勝った子供のようだ。
今度は、その先っぽが肉棒の裏筋をなぞるように一直線に根元まで降りてくる。
絶妙な力加減と進行速度に、脊髄反射でゾクゾクと肉棒が震える。
「次はどこにしようかしら…」
一旦離れた唇からは、狙いを定めるかのような妖艶な言葉。
ふぅふぅと、呼吸をする熱ですら昂ぶりを煽り、中々次の快楽が来ないことに訴え始めたのか、体の奥底から先走り液が駆け上がってきて、いち早く滲み漏れてきたのを感じる。
「蒼…次をはやく…!?」
「くーださーいなー」
「の、のみきか。いらっしゃい」
「鷹原か。蒼は…寝てるのか?」
「ああ。昨日夜遅かったからさ。いつも通りの昼寝だな」
それっぽい理由を伝えながら、膝枕している蒼の頭を服の上から撫でてあげる。
「そうか。じゃあ動けないだろうから、勝手に買わせてもらうぞ」
それだけ言うと、のみきはベンチに座る俺の横を通り抜け、店内へ入り品定めを始める。どうやら今日は純粋に駄菓子を求めて来たようだ。
のみきの視線がこちらに向いていないことを感じ取ったのだろうか、服で隠れている蒼の舌による攻めが再開される。
今度は先端だけでなく、舌全体を押し当ててくるような動き。
そして遂に、唇の入り口を越え、亀頭が呑み込まれた。中はヌメヌメしていて生暖かい粘膜に優しく包み込まれる。
先ほどよりも鋭くなった感覚が、快楽を的確に捉え、それが声へと変換。
「………くぁ……」
我慢できず、洩れ出てしまった。
「鷹原? 呻き声が聴こえたが大丈夫か?」
首を斜め後ろに向けると、ちょうどこちらに振り返って見ていた、のみきと視線が合う。
「だ、大丈夫。ちょっと暑くてさ、はは、買い物を続けてくれ…」
「熱中症には気をつけるんだぞ。さて…何にしようかな」
股間で繰り広げられている痴態には一切気づかれずに乗り切った。
上着をちょっとだけめくり、隠れている蒼の顔を覗き込む。
そこには亀頭を咥えこむ最大級の笑顔があった。
俺が見ている目の前で、はむはむと唇による圧が加えられる。
ぷっくらとした桃色が赤黒い棒を挟む度に、じわっと薄い先走りが飛び出て、咥内の闇へと消えていく。
「ぁ………それ、まず…っ!」
挟み閉じた唇が肉棒の根元へとスライドしてくると、あまりの快楽の強さに腰が動きあがってきてしまう。
「今日はこの梅の煎餅にしようかと思ったが、あんまり美味しくないのか?」
偶然洩れた言葉を否定と捉えたのか、のみきの駄菓子選びが継続される。
この体勢だとさすがに根元までは咥えこめないらしく、しかも強く頭を前後させることもできないという状況ではあるが、バレないように蒼に咥えられているというシチュエーションと、生暖かい咥内の温度、そして呼吸の度にねっとりとした頬の粘膜が肉棒に張り付く感触が性興奮を高めていく。
「決めた。暑いから棒アイスにしよう」
のみきが店先のアイスケースの蓋を開けて、ソーダ棒アイスを取り出す。
一度店内に戻り、吊るしてある代金を入れるザルに硬貨を入れ、戻ってきたようだ。
すると何を思ったのか、その場で袋を開けて、アイスを口にし始めた。
「ここで食べるのか」
「ん? だめなのか? 持って帰るとその間に溶けてしまうだろ」
正論を言われてしまうと、返す言葉がまったく出てこない。
「あ、いや…そうだな、問題ない…」
下半身では大問題が起きているが何とか平然を保つ。
「うむ」
短い言葉で締めると、何故かこちらを向いたまま、のみきが棒アイスにパクりと齧り付く。
それがあたかも自分の肉棒に触れたかのような錯覚を覚え…いや、実際に俺の肉棒には現在も蒼が齧り付いているのだが。
のみきの小さい唇からピンク色のこれまた小さい舌が伸び出してきて、アイスの表面を丁寧に舐めていく。
見えない快楽と、目の前で行われている光景が妙にシンクロしていて、俺の下半身はいよいよ限界が近づいてきたらしい。
「蒼と鷹原は仲が良くて羨ましいな。互いを大事にしていることがよく分かる」
絶賛膝枕中の寝たふりをしている蒼と、その頭を服の上から撫でている俺を見て感想を洩らす。が、実際はそうではないのだ…。
「そう見えてるなら嬉しい限りだ」
「ああ。これからも蒼を大事にしてやれよ」
「もちろんだっぁ…!」
最近使い始めた歯を食い込ませるテクニックが下半身で遺憾なく発揮された。
「おいおい。本当に辛そうだが…」
「くっださいなー! あっ」
そこに加わる陽気な声。既にパージ済みの良一が、通りの向こうから元気に走ってきて、のみきの存在に気づき急ブレーキをかけた。
「良い急ブレーキ具合だな。そして服を着ろ」
食べ終わったアイスの棒を最後に一舐めすると、それをゴミ箱に捨て…いつも通りのハイドログラディエーター改を構え。
「ま、待ってくれっ! 俺はまだ何もっ!」
「最後に言い残す言葉はそれだけか?」
狙いを良一へと定めるのきみ。
そして、表で起きている喧騒に驚いたのか、蒼の頭が急に暴れだす。
前後ではなく、縦横の回転運動が発生し、ギリギリまで粘っていた下半身の獣欲が一気に噴射口めがけて駆け上がってくる。
「………はぁっ…っ!」
思わず悶え、表情に力が入ってしまう。
ベンチに後ろ手をつき、乗せている蒼の頭ごと浮かび上がる俺の腰。
それを見逃さなかった蒼が、トドメと言わんばかりに口に含んだ肉棒を一気に吸い上げる。
吸い上げる際に発生する淫猥な音は、銃口を向けられ必死に弁明する良一の大きな声にかき消されて、向こうの二人の耳には届いていないのだろう。
「問答無用。喰らえ」
のみきのトリガーを引くタイミングと、俺が達するタイミングが完全に重なる。
水鉄砲からは冷水が、肉棒からは灼熱の白濁が、それぞれ解き放たれる。
「「うあああっぁ!!」」
良一が悲鳴を上げるのと同時に、俺も耐えられず快楽の唸り声を上げる。
ドクンドクン、と勃起した肉棒から蒼の咥内へ精液が飛び込んでいく。
夏の暑さと、射精の快感に頭が真っ白に染まっていく。
いつもの日常を繰り広げる二人の目の前で行う、背徳的な行為。
普段味わえないシチュエーションから生まれる迸り。
それを出し切る頃には、俺も、そして冷水を浴びきった良一も、力尽きていた。
「これに懲りたら、その手に持っている上着をさっさと着ろ」
のみきの声が頭に響く。
そうだ、今上着は蒼に被せている。着なくては。
真っ白になりかけた脳内から信号が走り、被せてある上着を引き剥がそうとし――
できなかった。
下半身を見ると、精液を口に含んだ蒼が懸命にそれを飲み込もうと奮闘しつつも、剥がされまいと上着を掴み押さえていた。
「な、なんだ!?」
予想してない方向からの叫び声が聞こえ驚き、こちらに振り返ったのみきが、条件反射でハイドログラディエーター改の銃口を瞬時に俺に合わせてくる。
「な、なんでもない…なんでもない…」
あくまで平然を装う。
その平然の裏では蒼が喉を鳴らし、吐き出した白濁を飲みきってしまったようだ。
「蒼が起きたらなるべく早めに帰って休むと良い。きっと疲れているんだろう」
「そうさせてもらうよ」
「今だっ! 俺は逃げるぞー!」
力尽きていたと思われていた良一が突如立ち上がり、全速力で走り去っていく。
「まだ抵抗するのか。待て!」
のきみが後を追って走り去っていく。
今日はよく人が走る姿を見る日だな、とぼんやりと考える。
再び二人きりになった駄菓子屋の軒先。もう大丈夫と、判断したのか上着を退けて蒼が陽の下へ顔を出す。汗をたっぷりとかいた肌、精液の匂いが漂う唇。行為の証拠がしっかりと残っていた。
「もう…出しすぎよ」
「いつも以上に興奮しちゃってさ」
「羽依里ばっかりずるい…帰ったらたっぷりしてね」
「勿論だとも」
「それなら宜しい」
百円玉と引き換えに味わったのは、圧倒的な背徳感。
無茶なお願いもしっかり聞き入れてくれる蒼の愛情。
そして、ズボンにできたブルーハワイの軌跡だった。
【ブルーハワイの軌跡 終わり】