十二月に入った。
世間では『師走』なんて言われていて忙しい月らしいが、鳥白島はそうでもない。
あたしと、あたしを取り巻く環境は、日々平穏。相変わらずゆっくりしていた。
『いつも通り』藍や一学年上になってしまった皆と一緒に学校に行き。
授業が終わると、特に本土でやることもないので、連絡船に乗り込む。
冬の透き通った、冷たい風が当たる。
晴れた空には鳥たちが舞っている。
見慣れた風景でしかないため、すぐに見るのをやめて視線を動かす。
離れたところに、島の方角を向いて、髪を靡かせるしろはが居た。
お互いに学校が終わった後には、本土ですることもないため、大体いつも一緒だ。
『あの夏休み』以降、しろはは少しだけだが、あたし達と喋ることが増えたと思う。
明るさを多少ではあるが、取り戻せたのは、羽依里の影響なのかな。
最近は、少しでも時間が空くとすぐに彼のことを考えてしまう。
鷹原羽依里。
あたしの大好きな、大好きな人。
本土から離れた鳥白島まで、毎週末になると必ず来てくれる。
それがどれだけ大変なことか…。
往復の交通費だって、学生の身には中々厳しい金額になる。
それを稼ぐため、平日はアルバイトをしているらしい。
疲れているはずなのに、島に来たときは、そんな素振りもみせずに、あたしをギュっと抱き締めて、甘い言葉を囁いてくれる。
休日には、よくデートに連れ出してくれる。
最初の頃は、島内をよく歩き回った。
慣れ親しんだ島でも、彼と一緒だと何もかもが新鮮な景色になる。
今度の週末には、何をしてくれるだろう。
またエッチな服を買って、持ってくるかもしれない…。
お陰さまで、加藤家にあるクローゼットには、外には着て歩けないような露出の激しい服だとか、間違いなくマニアック路線の服等々が収納されている。
このままだといずれ第二の蔵が出来上がってしまうかも。
加藤のお婆ちゃんの蔵が、素敵な骨董品の山だったのに比べると、中身は全て、羽依里の変態趣味の結晶という違いはあるが。
まったく、いつも何処で買ってくるのよ…。
今度、購入元を問い質そう。
それから、それから……
「降りないの?」
ふと、しろはの声が聴こえた。
現実に戻り、気付けば、既に船は鳥白島に到着していて、声の主は降りていた。
「え? あ、ああー! 降りる! 降りますー!」
「? じゃあね」
ぼんやりと、彼氏のことを考え続けていて、間抜けな姿を見せてしまった…。
これも全てあいつが悪い。
あたしの心をこんなにも締め付けてくるあいつが悪い。
嬉しいけど!
港に降りてそのまま、家に一直線。
駄菓子屋のバイトもお休み。
バイトがないと、実はやることが無くて平日はとても暇になる。
うーん、今日は何をしようかな。
家に着いたが、母も父も不在。
藍は学校の図書館に篭って勉強をしている。
何の勉強をしているかは知らない、というか教えてくれない。
藍には藍なりの目標があるらしい。
そういう目標があること自体が、あたしにとっても嬉しい。
自分の部屋に鞄を置いて、制服のまま傍らのベッドに沈み込む。
枕に頭を預け、横向きになり、脚を手で抱えて赤子のような体勢に。
瞳を閉じると、視覚情報が遮断されて、他の感覚が鋭くなる。
平日の島には、音がほとんど存在せず、静寂が漂っている。
枕の感触は…ふかふかだ。
自分が安眠できるように、枕の素材や、高さ、柔らかさ、形などは拘っている。
そしてそんな枕からは、自分の匂いと…彼の匂いがする。
もう、すっかり慣れ親しんだ、男性の匂い。
男の少し汗臭いこの感じが、あたしは大好きだ。
平日は一緒に居られない今も、こうやって隣に羽依里を感じられる幸せ。
鼻いっぱいで枕の匂いを嗅ぎ、肺の中で、血液中に酸素として取り込む。
これって、あたしの中に、羽依里を取り込んでいるってことにならないだろうか。
なる気がする…。
えへへ…ふふ。
思考がまどろむ。
先週は、この部屋で、羽依里に抱いてもらった。
他に誰もいない、二人きりの一瞬の間にするえっちは、普段と比べて緊張感とスリルが合わさり、余計に興奮した。
この匂いは、そのときにガッツリとついたのかな。
あのときは、羽依里が下で、あたしが上で、所謂騎乗位だった。
ベッドのスプリングの跳ね具合も良かったのか、行為を加速させるアクセントになり、すごい気持ち良かった。また、ここでしてみたい。
「羽依里…」
口から彼の音が零れる。
最初から、遠距離恋愛になるってことは分かっていた。
一夏の恋物語で終わらなかったのは、羽依里からの猛烈なアタックがあったから。
今では、あたしを寂しくさせないように、いつも気遣ってくれる。
それでも、会えない平日にはどうしても寂しくなってしまうのは仕方が無いと思う。
「寂しいよ…」
心の底から漏れ出た言の葉。
会いたい。今は会えない。
頭の中の記憶を探り、寂しさを紛らわす。
自分の意思とは裏腹に、右手が下半身に伸びる。
制服のスカートの中に手を潜り込ませ、下着の上から、外陰部に触れる。
女性の性器は男性のそれよりも、若干複雑だ。
羽依里と始めてえっちしたときも、膣の場所が良く分からない、と言っていたので導いてあげたのを覚えている。
あの時は、いきなり尿道を攻められそうになったのでびっくりした。
まあ、最初から何もかも上手だったら、それこそ嫌だったから、安心した。
人差し指で、亀裂を下方向からなぞると、刺激すると一番気持ち良い陰核に当たる。
「んっ…」
微弱な快楽の電流が脳に流れ、人間の仕組み上、仕方なく、喘ぎ声が洩れる。
指の動きは、止まる事を知らず、しかしゆったりと、亀裂を往復する。
「はぁー…ん…」
羽依里がたっぷりと実戦で教え込んでくれたから、指の動かし方は、熟知している。
今まで知識だけだったものが、彼氏との性行為により、次々と経験に変わっていく。
女性の陰核も、意外なことに男の人の陰茎と同じように出来ているらしい。
形は違えど、皮もあるし、海綿体で出来て、男の人のそれよりも、快感に敏感な場所が集中している分、軽い刺激でも、それこそ、あっという間にイってしまいそうになるほどに気持ち良い。
陰核の周りを焦らすように、撫でる。
前庭の辺りから、膣を円を描くように、ゆるりと一周。
本命にあえて触れないことで、自分の脳を騙し騙し、自慰に耽る。
体の奥底からゾクゾクくる快感は、何度目かの行為でもまだ慣れない感覚だ。
羽依里に会う前にも、何度か自慰に挑戦してみたことはあったが、そのときは何が気持ち良いのか良く分からず、達することもできないまま終わっていた。
付き合ってからは…あっ…。
羽依里と付き合ってから、二人の間で、ルールを決めていたのだ。
その中の一つに『自慰行為の禁止』があった。
これはそもそも、あたしから言い出したことで、羽依里があたしをオカズに…その…一人でするのはまあ許せなくも無い。
ただ、週末には必ず本物のあたしが相手してあげられるのだから、そこでたっぷりと気持ち良くなって欲しい。
その想いから取り決めたルール。
当然、お互いに、ということになったので、あたしにも適用されるのだが…
「ぅ…んっ…」
声が洩れ出るのと同時に、下着が湿りだしてきたのを、人差し指の腹で感じる。
濡れてきてしまった。
羽依里との約束がある手前、これ以上するのは我慢しないと…。
「はぁ……」
強い意志で、性欲をなんとか抑える。
手は名残惜しむようにしつつも、下半身から戻ってくる。
良く我慢した! あたし!
自分に打ち勝った後、すぐに思考は次にシフト。
あたしがこんな想いをしている一方で、羽依里はどうなのだろうか。
ちゃんと我慢してる?
それとも、我慢できずに一人でしちゃってる?
一つ確かなのは、週末の彼は、毎回、尋常じゃない量の精液を放出していることだ。
ということは白か…。
そもそも、羽依里ならあたしに正直に打ち明けてきそうなものであるから、つまり、しっかりとルールを守って我慢してくれている、ということだろう。
ならば、あたしも我慢しなくてはいけない…。
この溜まりに溜まった性欲の発散方法を考えるが、思い付かない。
何か別のことをして紛らわせるのが得策…うーん。
ベッドの上を、左右にゴロゴロと転がっていたら、名案が浮かんだ。
傍らに置いてある携帯電話を手に取る。
そう、携帯電話だ。
技術の発達に伴いさらに小型化し、個人個人で携帯できるようになった。
最近では、メールやカメラ機能など、通話以外の機能も充実している。
あたしは、島民の中でも数少ない携帯電話所持者だろう。
先月に、羽依里と藍と、両親と一緒に本土にて携帯電話の契約をした。
羽依里も、その少し前に携帯電話を買ったらしく、遠距離恋愛で離れていても、連絡が取れるように、と購入を勧められた。
当然、携帯電話のアドレス帳には『鷹原羽依里』の文字が。
というか、羽依里しか登録されていない。
藍もその際、一緒に、と思っていたが「まだ必要ないから」と一蹴されてしまった。
その代わりに、ちょっとお高いデジタルカメラを買ってもらっていたが。
まだ必要ないって何だろう? さらに多機能になったら欲しくなる、ってこと?
相変わらず、藍は何を考えているのか読めない。
その携帯電話だが、基本はメール、もちろん電話もする。
毎晩、寝る前に、その日あったことをお互いに報告し合う。
場所が離れていても、彼の声が聴けるのは大きな安心感を生み出す。
さて、とりあえず、メールを新規作成。
送信先を設定し、本文を考える。
どうしよう…。
そもそも彼は平日、学校が終わった後、バイトをしているはずだ。
今の時間に送っても、返事が来るのは、バイトが終わってからになりそう。
悩むこと数分。
結局、未だに本文に文字を打ち込めないままでいる。
恋する乙女の悩みは尽きることが無い。
一旦、携帯を傍に置いて、考えようとしたその瞬間。
軽快なメロディが鳴り出す。
羽依里からメールが来た!
素早く、メールを開封。
件名はなし。
本文は…『今、電話してもいいか?』と。
あれ? 今日はバイトお休みなのかな。
心の中を占めていた彼からのアプローチに、あたしの気分も盛り上がる。
即座に返信、『おっけー』とだけ。
何の用かは分からないが、羽依里の声が聴きたくてウズウズしていたところだ。
メールの送信にかかる時間がもどかしい。
画面に映る、手紙のイラストが数秒ごとに動いて、通信していることを示している。
送信完了。
今の今でのやりとりのため、もうおそらくすぐ…。
電話が鳴り出した。
光り輝くディスプレイには『鷹原羽依里』の文字。
あたしは、心躍る気分で、通話開始のボタンを押す。
「羽依里~」
『よっ、蒼。元気にしてたか?』
「げ、元気よ~! 今日はバイトお休みなの?」
『ああ、今日はたまたま休みだった』
「ふ~ん。それで暇だから、あたしの声が聴きたくなっちゃった…とか?」
『大体そんなところ』
「え、そ、そう……そうなんだ、聴きたくなっちゃったんだ…へー」
『うん』
そこで一瞬無言になる。
なんという以心伝心だろう。
お互いに声が聴きたかっただけとは…嬉しくなる。
耳に当たる羽依里の声、息遣いが心地良い。
中断していた、陰核弄りも、羽依里の声をオカズに気持ち良くイケそうだ。
『蒼はバイト中か?』
「ううん、あたしも今日はバイトなしー。今は自分の部屋に居るわ」
出来ることならこのままずっと電話していたい。
空いた左手を再びスカートに侵入させながら答える。
電話をしながら自分で慰める行為に、羽依里の声が良いアクセントになる。
先ほどよりも圧倒的に、気持ち良い。
声は洩れでていない。羽依里にはバレないはずだ…。
『………今、家には蒼しか居ない?』
「…? あたししか居ないけど、どうしたの?」
不思議な問いだ。用はないと思っていたけど、本当は藍に用でもあったのだろうか。
『居ないか。よし……』
擬似的に耳を攻められているような、そんな感じ。
左手は人差し指と中指で、亀裂に触れ、そっと筆で字を書くように一本の線を辿る。
指を進めるたびに、下着と外陰部との間から、淫猥な音を立てて、分泌液が滲む。
大好きな彼氏の声を聴いて、あたしの体の内側も大喜びのようだ。
一人でしていたときと比べて、濡れだすスピードも速い。
『蒼…蒼…』
「んっ…なあに、羽依里」
『今度の週末は、制服着てシたいなぁって』
「汚しちゃダメよ…?」
冬休みまで、まだ二週はある。ここで精子をかけられでもしたら大惨事だ。
『かけたりしないように、絶対に中に出すから』
「中出し………」
その単語だけが脳内に響く。
『後ろからさ、スカートはそのままで、下着をちょっとずらして、そのまま挿れたい…』
羽依里の陰茎があたしの膣内に入って…。
言葉を真似するように、下着をずらし、人差し指をするっと埋没させる。
グショグショの内部は、愛液で暖かく迎えてくれた。
『俺も制服きてくるからさ、校舎の中で隠れてシてるみたいに…』
勿論、本当に校舎でこっそりするわけにはいかないが、想像だけなら…。
『突くたびに、蒼は可愛い声聴かせてくれるんだよな』
「うん、んっ、声でちゃう…」
指を動かす。愛液の海の中を機用に泳ぐようにくねらせて刺激を発生させる。
『…蒼、今一人でしてるだろ』
「へ? し、してるわけないでしょ!」
『じゃあ、その指は何なんだ?』
快楽を生み出していた指を、引き抜いて眼前に持っていく。
ぬめっとした液体に包まれた人差し指は、軽く糸を引いていた。
「こ、これは…その…っ!」
今、羽依里は目の前には居ない。
電話越しなんだから、あたしの指の状態なんて分かる訳が無い。
「引っ掛けたわね!!」
『はは、蒼は可愛いなあ。俺の声を聴いてオナニーしちゃってたんだ?』
見事に見抜かれてしまった。
観念して正直に話す。
「だって…週末まで我慢できなくて…」
『それで、それで?』
「あんたの声聴きたいな~って思ったときに電話がかかってるんだもん…」
『可愛い』
「うぅ……仕方ないじゃない…」
『じゃあさ、俺が声で手伝うからさ、続き、しようか』
短く、囁くように、彼は提案してきた。
それはとても魅力的な提案だった。
羽依里が耳元で優しい言葉を囁きながら自慰が出来る。
夢のような時間じゃないか。
「その、いいの…? 約束…」
『あれは一人でするの禁止、だろ? 二人ですればセーフだよ』
まさか電話越しに性行為をする日がくるとは思わなかった。
少し屁理屈のようにも聞こえるが、細かいことは良いだろう。
体の疼きを解消するため、想い人へ了承を伝える。
「わかったわ…お願い」
『携帯は耳の近くに置いてみて。それで通話ができるか?』
両手でするってことか。耳の横に携帯を置く。
向こうからの音はしっかりと届く。
「置いたわよ。聴こえる?」
『蒼の可愛い声が聴こえるぜ』
「うん、ありがと」
やたらキザったらしく聴こえる彼の声。
いつもはカッコいい台詞を言おうとして空回りしてるが、今は問題ないようだ。
『さて、俺が指示を出すから、蒼はその通りに、ね? 返事はしなくてもいいから』
「うん…」
全てを彼に委ねる。
『今はどんな服着てる?』
「学校から帰ってきて、制服のまま…」
『蒼の学校の制服、いいよなあ。同じ学校に通いたかったよ』
「あたしも、同じこと考えたことある」
『まずはリボンを外してみて』
可愛い、と評判の真っ黒のリボンを解き、床に置く。
『次は制服のボタンを』
やや複雑な構造の冬服のボタンをいくつも外し、前を開く。
『ワイシャツは着てるよな? 上のほうだけ開けてみて』
真っ白のシャツも小さなボタンを外して、左右に開き、胸の部分だけ曝け出す。
あとはブラジャーだけだ。
『ちなみに今日のブラはどんなデザイン?』
「薄桃色で、淵に蝶のデザインが入ったやつ…」
『へえ、アレか…』
"アレ"で伝わる程度には、見せ付けた下着だ。
上にずらすと、反動で胸がぷるん、と揺れる。我ながら誇れるサイズの胸だ。
「準備…できたわ、お願い」
寝転がり、制服の胸元だけを開くあたしは、今とても扇情的な姿をしていると思う。
彼の声が一段と低くなり、雰囲気が出てくる。
『両手を胸に持っていって、下から覆い持ち上げるように軽く揉んで見て』
言われたとおりに揉む。
乳のサイズに対して、小さいあたしの手では、いつものように覆うことは出来ない。
胸には性感帯は無いはずなのに、彼の声に従ってするだけで、まったく違った。
『自分の手じゃなくて、触ってるのは俺の手だと思って』
羽依里の手…。思い出す。その大きさを、堅さを、指の感触を。
『力は入れないで、指を小指から順番に、沈ませる感じで』
あたしと比べて、ゴツゴツして大きな指が乳房に圧力をかけてくる。
段々と、指が埋まるにつれて、乳房が変形する。
『こうやって後ろから包むように触るのが好きなんだ』
あたしに触れた羽依里が感想を言う。
『今度は、手を交差させて、胸の付け根の辺りを意識して、指先で触ってみて』
手を交差させて…こうかな…。
脇にも近い、その部位を、指の腹でさりげなく弄る。
「…っ! はぁ!」
ここで思わず声が出た。
こんな気持ちよかったのか…自分では全然気付かなかった。
『この間してたときに、何処を触ったら蒼が感じるのか見ながらやってたんだ』
「よく、観察してるわね…」
『手の交差を戻して、中指で、脇のラインから、ゆっくりと中心に指を動かして』
指がスーっと乳房を滑っていく。
快楽の虜になってきた脳が、もっと強い刺激が欲しいと、命令を出す。
乳頭も春を迎えた桜のように、大きく隆起して、その存在を強く主張する。
桜の木の下の乳輪まであと少し――
『そこで、ぐるっと円を描くように』
「…ぅぅ………」
焦らされる。脳は本能に従えと指示を出す。
二つの意志が激しく対立する。
『まだ我慢して…』
早く触れたいその気持ちを抑えようとする。
衝動を別の部分で発散させようと、両足の太腿を擦り合わせて我慢。
「んんっ……はぁ…」
『ねえ、蒼…どこを触って欲しいの?』
「おっぱいの…ぁ…真ん中…の…」
ついにいま一番触れたかった頂点に。
『ここかな?』
「やぁぁああ! んんー!」
指先が触れた。
入念な愛撫により高まっていた興奮が、一気に爆発する。
羽依里の触り方はやっぱりえっちだ。
自分で触っているにもかかわらず、味わったことの無いような快感。
腰が跳ね上がるほどの衝撃が走った。
「はぁ…はぁ…」
『気持ち良かったんだ?』
「うん…気持ち良かった…」
『次はもっと気持ち良くさせてあげるよ』
尚も、羽依里の声は続く。
『スカート、捲くって下着が見えるようにしてみて』
「うぅ…こんな格好、恥ずかしいわよ…」
『俺しか見てないから…下はどんなの穿いてるのかな』
「上と同じデザインの…この前、あんたがこっそり頬擦りしてたやつー」
この恥辱の中に、さらに下着の柄を報告するという、恥辱を重ねさせられる。
しかし、そのやり取りですら、今は性的興奮を加速させる要素でしかなかった。
『…下は濡れてる?』
「うん…もう、びしょびしょ…」
『そっか…じゃあ、脱いじゃおうか。左足だけ抜いて、右足には引っ掛けたままで』
「りょーかーい…」
もうすぐ、より気持ちの良いことができる。
それがどんな卑猥な格好になるのかも考えずに、羽依里の指示通りにする。
愛液でぐっしょりと濡れた下着は、相応の重みを感じる。
お尻を浮かせて、両手を掛けて一気に、引き抜く。
太腿と膝を過ぎれば、あとはもう障害物などない。
解き放たれた薄桃色は、上げた右足からロープウェイのように、膝まで戻る。
これで、あたしの陰部を守る布はなくなった。
スカートもお腹まで捲くれているため、部屋の空気に直に晒される。
「脱いだわ…」
『そしたら、左手はさっきみたいに胸を、右手は下を触ってみようか』
右手を既に大洪水となっている、自分の不可侵領域に持っていく。
『割れ目を軽く、押してみて…』
「クリ…触ってもいい?」
『もう少し我慢しようか』
また"焦らし"が入る。
あたしの体が触って欲しい、と泣いて懇願している。
『そのまま、膣内に指を挿れて…』
指があたしの中に飲み込まれていく。
液体の抵抗を難なく押し返し、ズブズブと、第二間接ぐらいまで進めた。
『蒼の気持ち良くなるところは、入ってすぐの脇の部分だよな』
指を少し折り曲げるとそこに、"声"の言う、あたしの快楽の壷があった。
突いてみると、感覚が脳まで伝わってきて、あまりの快楽に瞳も閉じてしまう。
真っ暗な世界に存在するのは、羽依里の声、羽依里の指、羽依里の手…。
愛する人に、全身を愛撫される至福の時間が訪れていた。
『今日も可愛いよ…蒼』
耳元で囁かれ、後ろから、自慢の乳房を、大きな掌で鷲掴みにされる。
たまには少し乱暴な位のほうが嬉しい。
あたしは、箱に大事に保管され続けるような宝石などではなく。
常に身に着けてもらえるような宝石が良い。
『乳首とGスポット、同時に攻められるとどうかな?』
勃起した乳首を、左手の人差し指で往復するように激しく触れながら、陰膣に潜り込んでいる、もう一方の中指でピストンする。
「ああっ…んっんっ……やぁあ!」
官能的な声。
これはあたしの声?
男性を誘惑するような、聴くだけで脳が蕩けそうな甘い声を洩らしている。
"幸せ"が局部から発生し、鼓動する心臓から血管を伝って、体中を疾走する。
『そろそろ、イキそう…』
「………はぁはぁ…んんっー!!」
指を掻き回す度に、真っ暗な世界が、白で塗りつぶされていく。
もう何もかも、がむしゃらだった。
口は半開きになり、涎が垂れ流れる。
乳頭をこねくり回す度に、それに連動し、体が激しく揺れる。
ベッドのスプリングが何かの生き物のように、鳴動する。
いつの間にか、局部を攻める指は二本に増えており、愛液をシーツに撒き散らす。
「はい…り……!」
『蒼……中に出すよ……』
ああ、もうすぐ。
もうすぐ、凄いのがくる。
「イク…イっちゃう…!」
『最後はクリトリスをぎゅっと摘んで…!』
外陰部の花園に咲いた、一厘の花。
蕾が捲れ、多くの幸せが詰まった花弁を、人差し指と親指で丁寧に挟む。
「あ………」
張り詰めていた糸が切れたかのように。
真っ白な幸せの頂に、あたしは登りきり。
そこで意識が途切れた。
* * * * *
手に構えたティッシュの束に、精液を吐き出すと、一気に脱力する。
蒼も、自慰行為をしているのだ。
ルールに則るのであれば、こちらも自慰行為を行ってもよい、という解釈になる。
それにしても、電話越しに聴く、蒼の嬌声は格別だった。
週末までの間、学校などでも思い出して、大変な事態に陥るかもしれない。
俺は事後処理を終えたが、蒼はどうだろうか。
ものすごい声を上げたあと、声が聴こえなくなってしまった。
少しすると機械の向こうから、生活音が聴こえた。
携帯を再度耳にあて、話しかける。
「蒼ー…?」
『羽依里さん』
「げ…藍……」
『げ…藍……とはなんですか、人がせっかく後処理をしてあげようというのに』
何故か蒼の携帯電話から、姉である空門藍の声がする。
「えーっと…蒼は?」
まずは蒼がどうなっているのか確認だ。
『家に帰った途端に、蒼ちゃんの部屋からものすごい声がしたので駆けつけました』
「…」
『部屋に来てみると、なんということでしょう! 制服を最高にエロティックに脱ぎ散らかしながら、幸せそうな顔をして気を失ってる蒼ちゃんがいるじゃありませんか!』
やたら興奮気味に話す藍。
『携帯が通話状態で置いてあったので一瞬で悟りました。羽依里さんの仕業だな、と』
良いタイミングで帰ってきてくれて良かったような、良くないような…。
「蒼が寂しいって言うからさ…ちょっと、こう、お手伝いを…したまでです…はい」
正直に白状する。この姉には勝てないし逆らえない。
『まぁ…いいです。美味しい光景が見れましたし、脳内メモリに焼き付けました』
「さようですか」
『このまま放置しておくのもあれなんで、最低限の後処理だけしておきますね』
「お願いします………」
『あと、通話時間、これ大丈夫ですか?』
ディスプレイを見ると既に、通話時間は三十分を経過していた。
今月の携帯電話の利用料金が早速大変なことになるかもしれない…。
「かなりヤバイです…」
『そうですか。それでは切りますよ』
「おう、サンキュー、藍」
『はい。また週末に』
藍のことだから、後のことは任せられるのは間違いない。
その点については安心する。
俺は丸めたティッシュの塊を、部屋の片隅にあるゴミ箱に投げ込む。
蒼とほぼ毎週のように、性行為をするようになってから行った始めての自慰。
彼女の肉体の感触のほうが勝るのは勿論だが、こういうのもたまには良い。
電話が切れたことを示す音が鳴り、通話時間の経過が止まり、消えた。
画面に残ったのは、今日の日時と、通話時間と、通話相手の名前だった。
性行為の記録みたいで、少し恥ずかしいな、と思った。
今度の週末には、今日の感想をたっぷりと訊いてやろう。
【彼の居ない平日 終わり】