夢から覚める。
どんな夢を見ていたかは覚えていないけれど、幸せな夢だったのは間違いない。
瞼を開くと、そこは羽依里の腕の中だった。
大好きな彼の腕の中は暖かい。
水泳と日々の筋トレにて、存分に鍛えられた筋肉が、私の背中に回されている。
腕から伝わる温もりが、目覚めたばかりのあたしの体全身を駆け巡り、体温を上げていく。
「ん……ぁ……」
「蒼?」
広い胸板に預けていた顔を起こすと、ちょうど首を曲げこちらを見つめる彼と視線が交錯した。
その眼差しは、朝の優しい日差しみたいで、とても暖かくて眩しくて、つい恥ずかしくなり、また彼の胸に顔を押し付ける。
そのままぐりぐりと鼻、頬、髪をたっぷりと擦り付けるあたしの姿は、羽依里から見たら甘えたがりの子猫のように映ってるだろう。
「…まだ起きてな~い…」
「そうなの」
「うん……」
「外は肌寒いから、もう少し俺の腕の中に居て」
「うん、居る…」
もう起きてるけど、まだこの温もりを味わっていたい。
寝たふりを続ける。
外から聴こえてくる音は、今日も雨音。
六月。梅雨の時期に入ったみたいで、島では連日のように雨が降り続けている。
外に出かけることもなく、休日はこうしてダラダラと朝を過ごすことが多い。
「羽依里の腕の中、あったかい…」
「お互い裸だから余計に体温が伝わってくるんだよね」
「えっ……あー……」
幸せな夢というかなんというか。
寝る直前まで、激しく致していたことを思い出した。
そして、なるほど。妙に体が気だるい原因が判明した。
体の奥底には、未だに彼の精液が留まっている気がする。
「昨日はそのまま寝たんだっけ…」
「蒼の乱れる姿、可愛かったよ」
「っ! っー! 思い出させんなー!」
「蒼、可愛い…」
背中に回っている手が、あたしの髪に触れる。
まるで一本一本に挨拶するかのように、丁寧に優しく撫でられる。
如何なるときも、あたしのことを考えてくれている大好きな手。
「顔見せて」
前髪を掻き分けられ、隠れていた額を露にされる。
「な…なにされちゃうの、あたし…」
「こうされちゃうの」
普段は見せないおでこへ、彼の唇の感触。
過剰なぐらいに体温は上がっていく。
朝から外は激しい雨、ちょっと肌寒い気温にも関わらず――
――あたしと羽依里と、お布団はすっかり夏だった。
「お目覚め?」
「はい……」
「キスしてもいい?」
「もうしたじゃない」
「唇にはしてないから」
返事はせず、あたしはそのまま目を瞑り、自らの唇を突き出す。
数秒待ち、唇が甘い一時に奪われる。
接吻は続く。
羽依里の唇で、あたしの唇が広げられるような感覚。
まさかディープでくるとは。
挨拶程度の接吻を予想していた唇の奥は、全く出迎えの準備が出来ておらず、生まれたままの姿でいる舌に、羽依里の舌がねっとりと絡みついてくる。
「んんっ………ちゅ………れろ………」
恋人の訪問に、嬉々と分泌された唾液が次々と羽依里に掠め取られていく。
まだまだ、起動しきっていない状態のあたしの脳では、それに一切抵抗できず、なすがまま。
「んっ! んっ! っー!」
あたしの舌ごと咥内を連れまわされる。
羽依里の舌は前歯、奥歯、歯茎、あらゆる所を蹂躙していく。
「…………っ」
頬の内側にベロが伸びてくる。粘膜を抉り、削り取るような強い意志。容器に付いたクリームを舐め取るかのように、じっくりと、確実に、僅かでも残さず滑っていく。
朝のまどろみ、幸せの中、あたしの体が咥内を巡る快楽に震え上がっている。
「…っ…はぁ………っぷ」
唇を離すと、あたし達の間に、練りに練られた、唾液と唾液の混合物が、長く脆い銀の糸を引く。
「蒼の口の中、美味しい…」
「……ぁ……ばかぁ……」
短い感想を呟くと、息つく間もなく、再び羽依里の唇が迫ってくる。
「ちゅ………ぅ……ん……」
今度は唇を唇で挟まれる。コリコリと何度も何度も挟んだり離したりのキス。
鷹が激しく餌を啄ばむ。餌はあたしの唇。
止まる事を知らない攻めに耐え切れなくなり、思わず口を大きく開き、舌を露出してしまう。
その一瞬の隙を突き、上下の唇に舌が捕らえられる。羽依里の領域にそのまま引っ張られ、奥の羽依里に深く口付けをされる。
「…っ!」
ディープディープキス。
二人の唇の性行為と、さらにその中で行われる、舌同士の性行為はさらに白熱していく。
あたしの頭はとっくにくらくらしてて、大好きな羽依里に沢山攻められることにドキドキしてる。
もっとされちゃったらやばいかも…。
「はぁ……だめ………」
「何がだめなの?」
「…………っ…やぁ……あ……」
言葉を発する前に塞がれる。
「言わなきゃわからないよ?」
「羽依里が言わせ……んっ……ちゅ……ゅる……ぷはっ……」
あたしの体の奥底から、快楽の炎が燃え上がってくる。炎は渦を巻き、火柱となって感覚神経を焼き尽くす。
もう限界だ。意識をそっと手放してあとは羽依里に任せる。
「んんんんーーーーっ!!!」
最後に、言葉にならない叫びをあげて、あたしは暗闇に落ちた。
* * * * *
覚醒したらまた羽依里の腕の中だった。
「お目覚め?」
「はい……」
「キスしてもいい?」
「繰り返すなーー!!」
「キスだけでイっちゃう蒼可愛かったよ」
頬を撫でられる。その頬は、自分の痴態の影響で真っ赤に染まっているだろう。
「と、とりあえず! もう起きましたからー!」
「おはよう、蒼」
「おはよう、羽依里」
あたし達にとっての一番大事な大事な言葉。
たった四文字に込められた思い出は、とてつもなく膨大だ。
その言葉を毎日のように交わせる喜び。
彼が齎してくれた『今』に感謝だ。
「今日はバイト?」
「うん。いつも通り午後からだけど、雨降ってるし誰も来ないかもね」
「梅雨だもんなあ」
「羽依里もバイト?」
「同じく午後から、帰りもいつも通りだから、それまで寂しい思いさせちゃうな」
「なんとか我慢するわよ」
「寂しい、ってのは否定しないんだ?」
「うん…」
大好きな人とは常に一緒に居たいぐらい。寂しくないわけがない。
「それなら午前中は散歩しようぜ」
「雨降ってるけど、良いの?」
「そういうのも良いじゃん、たまには」
「そうね…いいかも…」
未だに抱きしめられている腕の中。
ちょっとのサービス精神を発揮し、自慢の乳房をより強く、羽依里の体に押し付ける。
乳首が肌に食い込んでいくのを感じる。胸の形が、そのまま羽依里の割れた腹筋の形に変形する。
絶頂に達した後の体は敏感になっていて、これだけでも気持ち良くなってしまうみたい。
「お、おお……」
「どうしたのよ?」
「そんなことすると、『我慢』できなくなるよ」
「別に…いいわよ……我慢しなくても。好きなだけ気持ち良くなっていいんだから…」
下半身に手を伸ばし、立派に起立している羽依里の肉棒に触れる。
「ぁっ………」
「さっきまでの格好良い羽依里はどこいったのかしら…」
亀頭をぐるりと周回するように、人差し指の腹で撫でてあげるとなんとも言えない情けない声を上げる羽依里。
先っぽの鈴口からは、既に先走りした体液が滲み出している。
少し粘り気のあるそれを、親指も使い摘んで引き伸ばすと、これまた綺麗な銀色の糸が引かれる。
練った体液を肉棒の全体に塗りたくり、コーティング。
指で輪を作り、最適な刺激を与える為、上下に強弱をつけながら扱く。
「あっ……きもち…良い…ぐあぁ……」
「このまま出しちゃう?」
「出しちゃう…」
「いつでも出して…」
その後、当然のように本番まで致したのは言うまでもない。
* * * * *
身支度などを済ませた後、玄関にて。
「ねえ、本当に傘一本で行くの?」
「相合傘って憧れてたし…」
「確かに今までしたこと無かったけど」
「とりあえず行ってみようぜ」
「はいはい」
戸を開けて外へ。
羽依里が傘を持ちあたしが雨に濡れない様、頭上をカバーする。
傘に打ち付ける雨の音。
隣に立つ羽依里を見ると、傘から殆ど体がはみ出している。
あたしが大丈夫でも、彼が風邪をひいてしまう。
「じゃあ、いきますか…蒼ー?」
「やっぱり傘はそれぞれで差しましょ。あんた、思いっきり濡れちゃってるじゃない」
「でも…」
「『でも…』じゃないー! あんたの体のほうが大事よ!」
相合傘で歩きたかった羽依里の気持ちも分かるが、健康第一だ。
「…その優しさが嬉しいよ」
「当然の優しさよ…」
「今度、相合傘用に大きい傘を買うとするかな」
「それがいいわね」
一度、中へ戻りあたしも傘を手に取る。
「あらためて、いきますか」
「いきますか、ってそういえば何処へいくの?」
二人で傘をそれぞれ差し、並んで歩き出す。
「ん~、特に考えてないけど、せっかくだから、灯台の方とか行ってみる?」
「何処でも良いんだけどね」
二人の傘に降り注ぐ雨。奏でる音楽は軽快なリズムに聴こえる。
何時、如何なるときも、羽依里と一緒なら楽しめる。
しとしとと降る雨音は止まず。
いつも気遣ってくれる彼の優しさがくすぐったい。
そんな恋人の日だった。
【雨音、止まず-恋人の日- 終わり】