「そんな顔してもダメ。やめてあげないから」
眉を下げつつ頭を振る里緒の跳ねる肩に唇を寄せ、最終的には薄く開いた唇を塞ぐ。舌を絡めながら服を捲り、広がる鬱血の痕にまたキスをしていった。濃くなるであろうキスマークに、里緒は顔を青くするしかない。
嫌だと言うだけの抵抗にはなんの意味もなく、とうとう下着を脱がされてしまう。女性もののそれは、理紅に履いてと言われて履いていた。男物のままでは多少でも萎えるからと。
晒された臀部を撫であげて舌を這わすその行為に悲鳴を上げるが、理紅には抵抗がないようだ。嫌々と頭を振るが、理紅は嬉々としている。
「あ……、や……やぁっ……」
「ここにも付けてあげるね」
「ふ……ぁっ……」
チリと広がる痛みのあと、そこを舐めて口付けるのが解った。
「ほら、付いた。いつ見ても柔らかくておいしそうだよね、りぃちゃんのお尻。ここもひくついてるし、俺がほしいのかな?」
「ひっ! ――や……いらなっ、嫌っ」
指先がそこに触れて躯がびくつくが、理紅は笑うだけだ。余裕たっぷりに。
「嘘吐き。あとでたっぷりのローションで慣らしてあげるからね」
「あとでって――わっ!?」
意味が解らずに頭にクエスチョンマークを浮かべた矢先、躯を反転させられる。目を丸める里緒の額にすぐさま唇が触れれば、また肩が揺れた。
「理紅……?」
「おいで」
理紅は相変わらず口元を緩ませたまま、里緒を起き上がらせて膝の上へと案内する。腰に回される抱きしめた手は、当たり前のようにそこを這っていた。
「顔見ないと落ち着かないから。んー、りぃちゃんの肌はすべすべだね」
「んっ……、バカ……、ふざけ……なっ」
泣きながら眉を吊り上げる里緒にキスをすれば、今度は睨まれてしまう。大した効果はないのに、里緒は睨むことをやめようとはしなかった。その姿が可愛いので、理紅からはなにも言わないけれど。
「ふざけてないよ。愛してる。りぃちゃんを愛してやまない」
「愛してるなら、こんなこと、しないだろっ」
「残念。逆だよ」
愛しているから、したくなる。理紅は口端を上げながら、そう紡いだ。
「優しい優しい俺が、りぃちゃんに選ばせてあげるよ。ここでするか、俺の部屋に行くか。どっちにする?」
「離せよっ!」
「そんな選択肢はない」
「いっ……! 理紅っ」
「怒るよ」と片手で後頭部を掴み、ふたたびキスをする。絡む髪は指通りがよく、いつでも触れたいと思う。こうして無理矢理にでも、里緒の全てに触れたくてしょうがない。
頬に涙を伝わせながら薄く開かれた口に舌を割り入れて先端に触れた。すぐに離したのは、選択肢を与えてやる為だ。
「――ほら、りぃちゃん。どっちか選んで?」
「……や、だ……!」
顔を背けたくともそれができない里緒は唇を噛みしめた。理紅は「りぃちゃん」と目を細め、髪を掴む手に力を込める。里緒の鼻先にあるその整った顔は笑ってはいるが、纏う空気は怖いほどに冷たく歪だ。
「あ……いぅう、へ、や……、り、くの、部屋に、行きたいっ」
「よく言えました」
「んぅ! や、ぅ……も、舐めんなって!」
ペロペロと里緒の唇を舐める理紅は、そこを柔く噛んだあと、一度離す。口端を舐める妖艶な仕草が、里緒の頬を熱くさせた。
「そうだね……。やめてあげてもいいけど、俺から離れないって約束できる?」
「約束、なんかっ、す、るか……っ」
「ならやめてあげない」
上目遣いに放つ理紅に紡げば、また舌を這わし始める。噛まれて痺れるそこを塞がれ、舌先を撫でられれば、里緒は躯を跳ねさせた。
「は、ぅ……ん、嫌だ、りっくん……、や……」
「嫌だって言われても、俺はちゃんと選択肢を与えてあげてるよ。拒むのは勝手だけど、拒めば拒むほど困るのはりぃちゃんの方だから。――解るよね?」
「り、くのバカ……。バカやろ……。や、くそく、する……、理紅、から……、離れないって、約束、するから……も、痛いっ」
「いい子だね、里緒」
唇と手を離した理紅は、里緒の横髪を梳いてから抱き上げる。子供をあやすような向い合わせで。
「たっぷりと愛してあげるよ」
乱れた息で理紅を睨むが、やはり効いてはいないのだろう。笑みを溢しながらキスをしてきたのだから。
◇◆◇◆◇◆
明かりを点けた部屋のベッドに雪崩れ込んでからどれくらいの時間が経ったのか。そんなに長い時間ではないのかもしれないが、熱で麻痺した頭では解らなかった。
運ばれてすぐに拘束は解かれたが、痺れる腕はベッドに縫い付けられてしまう。そうして一度は果てて、また貪られているのだ。
「ふ……ぁ、あ……やだ、理紅ぅ……」
「ん……、ほら、ちゃんと首に腕回して」
「や……」
シーツを掴んでいた手は理紅の手の中だ。首筋にそれを添わせ、「早く」と急かす。
「や、だ」
「爪立てていいって、言ってるよね?」
「でも、痕……、あ……んっ」
「立てて。俺に、里緒の痕を付けて」
「ん……、ん、りっくん……や、うぅっ」
「大丈夫。だから、俺の言うこと聞いてくれるよね?」
「痕が付くから嫌だ」と頭を振る理緒の首筋に歯を立てた理紅は、同時に二の腕を撫でる。震えるそこにも鬱血の痕がみられた。服に隠れるところには、これでもかというほどにキスマークが散っている。
「い、う、ぅ……! や、ぅ……、や、だぁ……!」
「里緒。言うこと、聞いてくれるよね?」
熱に浮かされる頭に響く声に導かれ、里緒はぎゅっと理紅を抱きしめる。湿り気を帯びた肌同士が触れ合うのに、伝う鼓動がそれを嫌とは思わせない。首筋に伝う汗を舐め取られ、里緒は抱きしめる手に力を込めた。
理紅の執着が怖い。あの暗い目が。冷たい空気が。――恐ろしい。けれど、蕩けるように笑む顔に相殺される。いままさに、理紅はその顔をしていたのだ。抗いたいが、その気持ちが薄くなっていくのは必然だろう。