「り、く……、理紅ぅ……」
「好きって言える?」
「ん……、き……好き、理紅、が、好き」
「俺もりぃちゃんが好きだよ」
深いキスに溺れるのも、与えられる快楽に身を委ねるのも、理紅だからだ。他の誰でもない弟だからこそ、里緒はその腕の中で涙に濡れた顔で笑う。
「もっと聞かせて」
「好き……、好きっ」
「うん。りぃちゃん」
「あ、あ……っ、り、く、理紅……」
嬌声を響かせる濡れた唇に舌を這わせながら深くまで穿つ理紅に対し、里緒の躯は跳ね上がった。
「んんっ!」
「トロトロだよ、りぃちゃんの中」
「う、あ……あ、やぁ……理紅っ……、そ、こ、嫌っ」
「やめてあげない」
深く唇を重ねて、里緒の言葉を溶かしながら、理紅は静かに目を閉じた。
◇◆◇◆◇◆
「りぃちゃん、お風呂行ける?」
「無理……。少し休んでから、行く……」
横髪を梳く手を寝返りを打ちながら払えば、理紅はすぐにそれを引っ込めてベッドから下りた。素早く着衣を身に付ける理紅に感心したのもつかの間、ふたたび頭を撫でられる里緒の瞼は重そうだ。
「寝たいなら寝ていいよ。お風呂から出たら、起こしに来るね」
「んー……、いってらっしゃい」
ダルい躯にムチを打って手を振れば、理紅は小さく笑い返してドアを閉めた。
硬めの枕に顔を埋めれば、微かに香る香水の匂いが鼻をくすぐる。
「理紅の匂い……がする」
襲う眠気に言葉が小さくなり、さらに瞼が重くなっていく。
「バカ野郎、が」
誰に言うでもない言葉は、静まり返る部屋に滲んで消えた。
きっと明日には、また――謝られるのだ。綺麗な顔を辛そうに歪めながら。
そうしてまた、許してしまう。その手を取りながら。
重ねる情事は、繰り返される謝罪は、同じ数だけ容赦するのは、あと何度続ければいいのか。
「理紅……」
解らないから、怖い。
いくらこれでいいと思おうが、やはり答えがないのは不安だった。
◇◆◇◆◇◆
「ふぃー……」
一眠りしたあとの風呂から出れば、リビングでは理紅がノートパソコンを開いていた。
「ああ、いま兄さんが出てきたから代わるね」
「母さん?」
「うん。お茶淹れてくるから待ってて」
頭を撫でて冷蔵庫へ向かう理紅を一瞥し、里緒は引いてあるイスに腰を下ろした。目の前の液晶には、母が映っている。あっちもリビングなのか、木目の床が見えていた。父は朝が早いらしいので、寝ていることだろう。
『里緒は元気にしてる?』
「ああ」
『理紅も元気そうだし、よかったわ。あ、送った服、さっそく着てくれたのね!』
「うん。どう?」
『かーわーいーいー! やっぱり里緒はフリルが一番似合うわねー』
「一番かは解らねーけどな」
苦笑する里緒に反して、母は興奮気味である。が、画面に近付いてじっと凝視し、一度離れて自身の首筋にとんと指を置く。その動作に、鼓動が速くなった。
いくらタオルで隠そうとしても、隠しきれない部分もあるのかもしれない。浴室にある鏡で確認をしても、広がるそれは数えきれないのだから。
『里緒、アンタ首筋どうしたの?』
「え……?」
やっぱりだ。ギクリとしたことを聞かれ、どうしたものかと黙っていれば、「兄さん、お茶」と理紅の声が響く。と同時に、伸びた手がノートパソコンの隣にカップを置いた。
「あ、ああ……、ありがとう」
「母さん」
「冷たっ!」
背後から首筋に触れられた手は冷たく、撫でられる度に躯が跳ねる。里緒は声を出すまいと、唇を噛みしめながら画面を眺めていた。
「兄さんさっきコンビニに行ったから、虫に刺されたんじゃない? もう遅いから、またね」
『――そうね。またなにかあったら連絡して。じゃあね。ふたりともケンカしちゃダメよ?』
「ケンカなんかしないよ」
呆れるような笑みを浮かべる理紅は、手を振る母にそれを振り返してアプリケーションを閉じた。ついで、ノートパソコンの電源を落としてそれも閉じてしまう。
「うまく誤魔化せたみたいだね」
耳元で囁かれる声に、里緒の顔はカッと熱くなる。未だに撫でられる首筋も熱を持ち、理紅の冷たい掌がもっと冷たいと感じてしまう。
うまく誤魔化せたからよかったものの、もしも誤魔化せなかったらどうなっていただろう。考えたくはないが、そう考えるだけで足元がぐらつくような感じがした。
たとえ親にバレたとしても、理紅は里緒を手離さないことは解りきっているが。
「ん……っ!」
ぐるぐる巡る思考を遮るように、指の腹がうなじをくすぐった。
「ここもいっぱい付けちゃったし、これからは場所を考えた方がいいかなー、なんて……ね」
「そ……んなことしないだろ」
「そうだよ。する気はない。だから諦めて。ほら、髪の毛拭いてあげるからじっとしてね」
肩越しに振り返った里緒はタオルを取られてしまうが、抵抗をすることもなく、そのまま運ばれたカップに口を付けた。もっときっちりと抵抗をしたいのに、理紅の笑みの前ではやはり強くでれない。
「いい匂いがする」
「風呂上がりだからだろ」
「お風呂上がりはヤバイってまだ学ばないの?」
「お前が押し倒さなきゃいいだけの話だし」
「それは無理な話だよ。でも、今日はもうなにもしない。りぃちゃんの体力的にキツいだろうしね」
「そりゃどうも」
「うん」
「自分で拭ける」と言ったことがあるが、理紅は「拭きたい」と引かなかった。だからわしゃわしゃと髪を拭かれることも、もういまさらだ。
「りぃちゃん」
「ん?」
「――はい、終わり」
小さく「ごめんね」と聞こえた声は、理紅の笑みに消されていた。ともすれば、「これ、置いてくるね」とノートパソコンを手に足早にリビングをあとにする。